技術の結晶
俺はラムハザの攻撃に応じるべく、剣を放った。その動きに相手も応じ、再び激突し――今度の余波は、先ほどと比べものにならないほどになる。
ダメージはなかったが、一瞬身動きがとれなくなるほどの力。俺はどうにか体へ魔力を流して踏ん張ることに成功したが、下手するとインパクトの衝撃で吹き飛んでしまうくらいだった。
『これでも、応じることができるのか』
まさか、という表情でラムハザは言う。
『だが、まだだ。この攻撃が直撃すれば――』
「まともに食らったら、人なんて形すらなくなるんじゃないか?」
『だが君なら平然としているだろう』
……ちゃんと魔力障壁が機能しているわけだが、もし旅の途上で完成していなかったらどうなっていたか。魔王と戦っていた時の俺だったら、対抗することはできなかっただろう。
それこそ、圧倒的な力を得た俺ではあるけれど、世界において最強になったという自覚はなかった。人を遙かに超える力を持つ者は、目の前のラムハザを始め多数存在していたはずで……だが今なら、そう名乗っても良いのかもしれない。
すなわち――自分こそが、世界最強だと。
「どうした?」
ラムハザが問う。俺は何も答えなかった。まあ仮に世界最強だとしても、高らかに宣言するつもりはないが……相手の言及に対し、俺は魔力を込めることで応じた。
そして剣を弾き返す。正直、魔力量だけならラムハザの足下にも及んでいないはずだ。けれど俺は対抗できている。それは魔力の質を大きく変えて、単純な物量の勝負に持ち込んでいないから……魔王との戦いや竜との戦い。それらもまた、特定の血筋や能力がなければ対抗できなかったことを踏まえると、今俺がラムハザに対抗できている理由に通じるものがあるはずだ。
質を変化させれば、攻撃そのものを受け流すことができる――星神に対抗できる手段であることは間違いなく、俺は……俺達は、間違っていなかったのだと、目前の相手を前にして確信する。
だから俺は、ラムハザを押し込むべく足を前に出した。相手もいきなり仕掛けてくるとは思わなかったのか、わずかに目が見開くのを俺は見逃さなかった。
よってさらに足を前に出す。強気な攻勢にラムハザは意外そうな目を見せつつも、全力で応じてくる。最初の一撃ほどではないにしろ、剣同士がぶつかれば凄まじい魔力が拡散する。
それと同時に一つ思う。この攻防で決まらなければ……いや、俺が攻勢に出ていればラムハザは最終手段を用いてくるだろう。それを受けきれば実質的に俺の勝ちになる。そして、相手は現状で俺を止める手立てが――
『これは、予測をさらに上回るか』
ラムハザが発言する。同時、魔力をさらに発しつつ俺の剣を真正面から受けた。
『いや、これは霊脈から力を引き出せば勝てると考えた私の驕りだったというわけか』
「……そんな大層な話ではないと思うけど、な」
こちらが応じる間にラムハザは大きく後退した。霊脈から力を引き出してもダメ……となれば、残るは先ほど言っていた最終手段しかないわけだが。
『いいだろう……とはいえ、現状で引き出せる魔力は最高だ。これからやるのは、魔力の質を変化させる行為』
「俺と同じってことか?」
『そこまで複雑かつ緻密なものではないさ……魔力を糸のように束ね強固にする。魔力は粒子一つ一つから強化ができる……これで通用しなければ、私の負けだ』
湧き上がる魔力が、一つに束ねられていく。それは圧倒的な気配とは異なる、感じたことのない魔力。
いや、俺は似たようなケースと遭遇した……魔王や竜といった、あの極めて特殊な能力だ。
『さて、英雄。これを突破することはできるか?』
ラムハザは問い掛け――猛然と仕掛けた。こちらは即応し、まずは剣で受け流す。
先ほどのような火山が噴火するような莫大な魔力ではないのに、一撃は先ほどと同様に重かった。というより、外部に露出していた魔力を束ねて武器にしていると言えばいいだろう。無駄を省き、技術によって制御することで強大な武器とした。それはまさしく人間を始め、この世界に暮らす者達が生み出した魔力に対する技術の結晶。それをラムハザは用いて、俺に挑みかかっている。
それに俺は全力で応じる……わずかでも力が緩めば、それで間違いなく勝負が決まるだろう。集中力を維持し、相手を見極め、戦い続ける……星神との戦いにおいても、これは間違いなく同じだ。ある種、ラムハザは星神に挑む俺に対し予行演習をしてくれているのかもしれない。
『どうした、英雄!』
その中で叫び、挑発するようになおも仕掛けてくる。ラムハザの攻撃速度は少しずつ増していき、こちらも相手に合わせながら反撃の機会を窺う。
それと同時に、俺は魔力による強化をさらに施す……剣に付与する魔力と、魔力障壁は既に完成している。ならば後は、その二つを使う体の部分。
目の前にいるラムハザの強大な力に対抗できるだけの、膂力。それを得なければ、弾き飛ばされて終わるだけだ。
単なる魔力収束ではなく、相手の能力に合わせるように……俺はわずかな隙をついて呼吸を整える。そして、
「いくぞ……!」
声を発すると同時、体に魔力が巡った。質を変えることで、魔力が少なくとも対抗できるように……圧倒的な物量とさらに質まで変化している相手に対し、果たしてそれで通用するのか――普通ならば無理だと断言するに違いない。だが、星神に対抗するために培った技術は……目の前にいる存在に対しても、作用した。
魔力が巡り、それを完全に制御した瞬間、俺はラムハザの剣をしかと受け止めた。鍔迫り合いの様相を呈しながら、相手に主導権を渡さないように魔力をさらに高めていく。
『質の変化だけで……いや、違うな。相手の魔力すら利用するか』
その言葉は正解だった。ラムハザは俺へ剣を差し向け、魔力そのものを叩き込もうとする。だが俺はそれを受け流し、相手にぶつけることで力の少なさを補い、また対抗できるだけの力を生み出している。
故に、力だけで押し込むのは不可能……それはラムハザも理解したか、小さく笑みを浮かべた後、彼は再び後退し、距離を置いた。




