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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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戦況変える一撃

 矢の雨によってテレスはダメージを受けた――しかし、まだ決定打にはなっていない。


『調子に乗るなよ……!』


 矢を受けながら声を放つと同時に漆黒の狼は吠えた。兵である悪魔をすべて失った状況。さらに取り囲まれている。その中でどう対処するのか。


 やがてコボルト達の一斉攻撃が終わる。『影縛り』の効果も終わったのかテレスの足も動く。ここで奴からすれば『影の支配者』を倒したいところだろうけど、隠れたのか気配がない。

 そしてリチャルの策はこれで終わりという雰囲気には見えないが――テレスは真っ直ぐ彼に仕掛ける。一気に飛び込みリチャルの首元にでも食らいつこうとする動き。それを残っていたオーガ達が阻む。


『無駄だ!』


 言葉と共に魔族がオーガ達を吹き飛ばす。体当たりや爪で勢いよく吹き飛ばし、リチャルへの障害を無くす。

 コボルト達はさらなる矢を放とうと準備をするが――魔族がリチャルに到達する方が早い上、近距離であるためこのまま矢を放てばリチャルも攻撃範囲に入る……さすがにこれでは矢を放てないだろう。


 完全な一騎打ち。これは援護に――そう思った矢先だった。

 彼が立つ目の前の地面が、突然隆起する。


『何っ!?』


 テレスも驚く。新たな魔物だ。

 土の中から出てきたのは、大盾と槍を持ったリザードマン二体。それを見たテレスは最初驚いたが、


『その程度の魔物で――!』


 吠えると同時にオーガと同様吹き飛ばそうとする。しかし、


「こいつらは、特別だよ」


 リチャルが述べた直後、盾を構えたリザードマンと漆黒の狼が激突する。リザードマン達が吹き飛ぶ姿を俺も想像したが……耐え切った。


『これは……!』

「俺自身弱いのは、お前も想像がついているはずだ」


 リチャルは語りながら、腕を振る。


「だが俺には、お前を打ち破る策がある」


 オーガがテレスの横から突撃する。相手はそれをどうにか追い払ったが――再びその動きが止まった。またも『影縛り』が発動。


『しまっ――』


 追い打ちをかけるようにコボルト達の一斉攻撃。矢の雨が魔族を包み……先ほど以上の攻撃量だった。


『ぐっ……!』


 テレスは声を上げながら、『影縛り』に抗うように力を振り絞り足を動かす。矢を受けながら地面に爪を突き立てた。おそらく『影の支配者』に攻撃。結果、倒したのか奴の体は動くようになり――直後、矢から発せられる炎や雷撃により姿が見えなくなる。


「警戒を続けろ」


 リチャルが魔物達へ指示を出すように告げる。彼としてはこれで終わって欲しいはずだが……考える間に矢の効果が終わりテレスが姿を現す。見た目はほとんど変わっていないが、取り巻く魔力がずいぶんと少なくなっている。


『やるじゃないか』

「……できればこれで倒れて欲しかったんだが」


 リチャルは吐き捨てるように答えると、リザードマンを前に立たせ防御の構えを取る。

 テレスの口調は変わっていないが、弱っているのは間違いなくあと一押しといったところか。だがリチャルも策を出し続け、そろそろネタも切れるのではないかと思えてくる。


 先に仕掛けたのはリチャルのオーガ。だがテレスはそれを蹴散らし、リザードマンへと仕掛けようと動く。


『確かにその能力は驚異のようだ。けれど、残念だが――』


 テレスが明確な殺意を伴い、告げる。


『僕の命には届かないな』


 突撃。その容赦のない攻撃に対し、リチャルが生み出したリザードマン達は吹き飛ばされた。

 これはリチャルの魔物が弱いのではなく、魔族の力が上回ったということだろう――リチャルの顔にも焦りの色。


 その表情を見た瞬間、俺は演技だと悟った。


「――まだだ」


 宣告と同時、リチャルはさらに腕を振り――さらに地面が隆起する。

 出てきたのは、またもオーガ……だが、他の奴らよりも一回り大きい。


『これが切り札かい?』


 テレスがどこか嘲笑するように告げる。けれどリチャルは怯まず、リザードマンと共にオーガを突撃させる。

 その時、俺は不安を抱いた。リチャルは攻勢をかけて一気に決着をつける構えのようだが――


「……ガルク」


 小声で俺は口を開く。


「おそらくあと少しで決着がつく。俺も動く」

『いいだろう』


 ガルクはこちらの言葉に従い――刹那、気配消しの魔法の制御者がガルクに変わる。俺の気配は消えたまま。よって『デュランダル』の詠唱を開始した。

 オーガ達が仕掛ける。正面から立ち会ってもテレスは対応できる余力はあるはずだったが……テレスは迫るオーガ達に対し、後退した。


 リチャルをそれを見てさらに押し込むべく腕を振る。そうなれば当然、リチャルの周囲に魔物がいなくなる。コボルト達も弓を構え攻撃態勢に入っており、彼を守る魔物はいないと言っていい。


 おそらく、それこそ魔族の狙い。


 魔族の表情が変化する。歪み切ったその顔は、おそらく笑っているのだろう。


『――終わりだね』


 今度は魔族が宣告。同時にその体が横に跳ねた。

 一瞬の動き。オーガやリザードマンでは対応できず、テレスは魔物達の横をすり抜ける。魔力を足に集中させ、一気に突破した。


 リチャルはしくじったと思ったことだろう。そこで――俺は動き出した。

 魔法を発動するのは一瞬。なおかつ俺の魔力が漏れ出ないレベルの威力だが……戦況を傾かせるには十分な威力だろう。


 俺はテレスの側面から仕掛ける。リチャルは防御の構えを見せるが、これまでのように魔物を出現させることはなかった。一回り大きいオーガで最後だったのだろう。


 リチャルは障壁を最大にして――なおかつ苦い表情ではあったが魔族をにらみつけている。魔族に仕掛けたリザードマンやオーガはすぐさま反転して背後から仕掛けようという構えを見せている。


 だが、間に合わない――おそらくリチャルとしては攻撃を受けながらも背後から魔物を仕掛け倒すという気なのだろう。一方の魔族はこの一撃で仕留めるという気概が見え隠れする……そこへ、俺が介入する。


 俺は魔族の背後に回り、『清流一閃』の要領で通過する間に『デュランダル』を発動し斬る――魔力を発さないレベルなので魔法は一瞬。だが、それで十分だった。

 魔法が発動。それと共に魔族を――薙いだ。


『があっ!?』


 突然の攻撃に魔族は大きく呻いた。限界まで威力を落とした俺の『デュランダル』ではさすがに一撃とはいかなかったが、テレスは斬撃を受け動きが止まった。


『な……んだ……!?』


 驚愕するテレス。そこへオーガやリザードマン達が攻撃を開始する。

 槍とオーガの棍棒を背後からまともに受けるテレス。俺の魔法により完全に動きが止まった奴はとうとう、猛攻によって倒れ伏した。


『なぜ……貴様……』


 呻く魔族。だが当のリチャルもわからないのか、戸惑った視線を魔族へ向けている。

 やがて――テレスの体が消滅する。対するリチャルは塵となる魔族の姿に半ば呆然としつつ……魔物達の攻撃命令を解除。戦いは終わった。


「……最後、のは」


 リチャルは呟く。ふむ、今なら出てきてもいいかな?


 俺はガルクから気配隠しの魔法維持を再度受け持つと、それを少しばかり緩めた。結果、最初に気付いたのは魔物達。とはいえ、リチャルが命令していないため動き出さない。


 やがて、リチャルも気付き――声を発した。


「……誰か、いるのか?」

「――ああ」


 声を出す。すると僅かに体をビクリとさせたリチャルは、声がした方向……つまり俺の立ち位置を見て、問う。


「最後、一瞬だが光が見えた……援護してもらったようだが――」


 ここで完全に魔法を解除し姿を現す。すると俺を見たリチャルは、眼を見開いた。


「……あんたは」

「町にいた使い魔を通し、俺のことを見ていたよな? さらに、地底にも同じような使い魔を派遣していたな?」


 先んじて確認。すると彼は一度つばを飲み込み……やがて、声を発した。


「どうやら、そちらも事情があるようだな」

「まあな」

「……助けてくれたのは礼を言おう。だが事情を話して……どこまで信じてもらえるかはわからないな」


 肩をすくめるリチャル。そこで俺は苦笑を浮かべ、


「ま、こうやってあなたと遭遇することができたのには理由があるんだが……その辺りのことも含めて、話し合いといこうじゃないか」


 提案し……俺達は、砦へ入ることとなった。


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