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ボールペンで世界を救い始めました

 僕にはお姉ちゃんがいた。

 特に派手な印象はない。地味で大人しい高校生だ。

 時々部屋に籠もっては、自作の小説を書いていた。

 たまにそれを読ませてもらったりもした。


 ある時、突然お姉ちゃんが姿を消した。

 家出をするような人ではない。

 成績優秀で、浮いた話もない姉だ。

 急にいなくなるなんておかしい。


 お姉ちゃんがいなくなった日、お姉ちゃんの部屋の机にはノートが置いてあった。

 それはお姉ちゃんが書いていた小説だった。

 僕が読んだときはまだまだ話の途中だったけど、完成したのか。


 それから一週間、学校のテストがあったので読むチャンスが無かった。

 しかしこれで時間が出来た。ゆっくり姉の小説を読もう。

 そう思って自分の部屋で姉のノートを開いた。

 書き始めたのはもう去年のことだったかな。

 最初の方なんて全然忘れちゃってた。

 でも、僕はテスト勉強の疲れが残っていたのだろうか。

 気が付いたら、ノートを広げたまま眠ってしまっていた……。



 ~~~~~~~~~~~~~


 目が覚めると、森の中だった。

 まるで意味が分からない。どうしてこんな場所に?

 服は制服のままだった。そして、手にはノートが握られている。

 何でこれも?


 いや、待て。この森には少し見覚えがある。

 確かお姉ちゃんの小説は、主人公が森に放り出されるところから始まったはずだ。

 もしかしたら……。




「何てこったい……」


 思わず呟かずにはいられない。

 間違いない。ここは姉の作った小説の世界だ。

 草花の種類が一致している。

 そして、小説の結末はこうなっている。

 『魔王を倒す事が出来ず、人類は滅亡の一途を辿った。』と。


 お姉ちゃんは途中の展開はダークにする趣味があったが、結末はハッピーエンドにしたがるはずだ。何かがおかしい。

 それと同時に、ある仮説が浮かび上がった。

 お姉ちゃんは、もしかしてこの世界に閉じ込められたんじゃないか?

 ともかく、捜索をしよう。



「あちゃー……こりゃ飲めそうもないな」


 小説の中の主人公はその後、池の水で喉の渇きを潤す。

 しかし、いざ見てみると池の水はとても濁っていて飲めたものではない。

 どうしたものか……。


「あ、そうだ。ここは小説の世界なら……」


 胸ポケットに刺さっていたボールペンを取り出す。

 そして、ちょっとだけ書き足してしまおう。

 『池の水はとても澄んでいて、飲む事も出来そうだ。』っと……。


 すると、目の前の池はみるみるうちに綺麗になった。

 何て便利なんだ。ボールペンを持ってきて正解だったな。



 えーっと次の話は、村へとたどり着く所か。

 僕は丸一日かけて村にたどり着くが、魔物に襲われていた。

 あと一歩のところで間に合わず、村人を助ける事が出来なかったというシーンか。

 いや、僕には秘密兵器があるじゃないか。

 『どこからともなく自転車が現れた。』……よし、これで大丈夫。


 ……何も起こらない。

 おかしいと思いノートを見てみると、たった今書いた文字が薄れている。

 油性ペンなのに、おかしい。

 そう考える間に、その文字は消えてしまった。


 いや、もしかしたらこの世界に適さないものは不可能なのかもしれない。

 物理的にありえない事もそうなのか?

 試しにお姉ちゃんと会えると書いてみても、最後のページを魔王は敗北するに書きかえても薄れて消えてしまった。

 物事の順序を立てろということかな。

 そもそも冷静に考えて、ガタガタな森の地面で自転車は使えないか。


 確か、この森には再び入る事がある。

 そして、そこでは一つの出会いがある。

 この森では少し前にビッグウルフが魔王軍の狩りによってほとんど死に絶えてしまう。

 しかし、その中でも一匹だけ生き残ったものがいる。

 後にそのビッグウルフとパートナーとなり、魔王軍と一緒に戦うというストーリーになる。

 もしかしたら……。

 物は試しだ。書いてみよう。


 『僕の目の前にビッグウルフの生き残りが現れる。』


「おぉ……ほんとうに……」


 僕の目の前に、一匹の大きな狼が現れた。

 体長は三メートルに近い。

 体中にある傷は、まだカサブタになったばかりだ。

 僕は臆せず、続きを書く。


 『その生き残りは、僕の意図を理解し、心強い協力者になってくれる。』


 ビッグウルフはゆっくりと僕の近くへと寄ってきた。

 恐怖心は不思議となかった。

 これから長らくパートナーになるのだと。


 彼はそのまま腰を落とした。乗れという事だろう。

 ノートを見てみる。

 未来が村に間に合い、モンスターの襲撃に備える事ができた。というものに書き換わっている。

 この世界の未来を変える事ができる。

 僕はその事実を知る事だけで十分だった。


 まずは村を救う。

 そして、いつか必ずお姉ちゃんを見つけ出す。

 このノートとペンを使って。


 ビッグウルフの背中に乗る。

 いや、ビッグウルフでは失礼だろう。確かこの子の名前は……。


「しばらく頼むよ。『ガロ』」


 ガロは嬉しそうに雄叫びを上げた。

 ガロの背中にしっかり捕まり、風を切って森を進む。

 未来を切り開くために。

一話風に書きましたが、企画に便乗しただけなので続きは書きません。

宜しければ連載作品や他の短編もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] まったくもって素晴らしい! おおーっと思わず唸る様な素晴らしい出来でした かわらずにいてほしいです
2013/05/21 20:03 退会済み
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