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C.T.Donline

作者: 笛吹 鯨

皆と冒険もいいけれど、おかえりと言ってくれる人がいたら、ほっとするだろうなと思って書きました。

『C.T.D.Online』



それはどこかの国の会社が作ったVRMMO-RPG。

友人に誘われた私はこのゲームがどこのメーカーとか知らない。

ただ、このゲームが昔からすごく人気のゲームだと言うことは知っている。


最近このゲームの変わった使い方が知られている。

それは合コン。

このゲームではキャラコマンド「人型」は顔や体格を変更することができない。

遠くに住んでいてもログインすれば、会えるし、時間も合わせやすい。

なるべくしてなった使い方であろう。


そしてこれは、その合コン目的でC.T.D.Onlineを始め、デスゲームに巻き込まれた私の話。



合コン目的で参加した私こと、松原加奈子は青春真っ盛りの高校2年生。

女子高のため出会いがない事に嘆き、友人である通称、姉御と合コンに参加する事を決意した。

しかし、私はVRMMO-RPG初心者だ。

初期設定が何個もあり、如何したら良いかわからないため姉御と同じにした。

初期の装備は布の服と小金のみ。

合コンに布の服ではダメでしょと姉御に服一式を買ってもらった。

姉御、かっこいいよ大好きだ。

そして向かった戦場(合コン)で男4人女3人がいた。

男が1人少ない。どうやら、遅刻しているらしい。

まぁ、1人いないくらい大丈夫と合コンは始まるが、事件は起きた。


突然頭に響くアラームと外から響くテクノボイス。

外の騒ぎ声に急いで外に出てみれば、沢山の人が外に出て空を見上げていた。

空にはゲームのパッケージに描かれていた女神が現れていた。

女神は私にはまったく理解できないゲームの設定に関する事とクリア条件を話ながら消えて行った。

これも何かのイベントかと友人に訪ねようとしたが、顔面蒼白の友人を見て止めた。


「・・デスゲームなんてフィクションの話でしょ」


友人の震えた声でこれがイベントでない事を理解した。


この後、合コンのメンバーでグループを組むことになった。

私は友人しか知り合いがいないけど、友人は他の女の子を知っていたし、その女の子は男の子を知っていた。

全く知らない人と組むより少しでも知っている人と組む方が安心ということだ。


「加奈子もそれでいいよね」


未だにリアル感がなく、会話に入れない私は頷くしかできなかった。

その後に知ったのだが、この合コンメンバーは私以外がVRMMO-RPG経験者だった。


体格的にありえないだろう大剣を振り回す茶髪KYメガネ女子、通称マッキー。

笑顔がかわいい癒し系なのに一撃必殺攻撃魔法をぶっ放す黒髪長髪清純女子、通称ミー様。

冷やかな眼差しで敵をメッタ切るクールでビューティーなポーニーテール腹出し女侍、通称マコッちゃん。

そしてわが友人、切り傷だって腹から腸が出てたって治してやるよ!最近パーマに凝ってます!茶髪ゆるふわ男前女子、通称姉御。


罠もスリも交渉もお手の物、盗賊バンダナがよく似合う茶髪さわやか腹黒男子、通称、黒沢君。

大きい身体で武器は拳の肉体派だが、状況把握に戦略考え指示出す頼れる男、黒髪短髪男前男子、通称、ボス。

怪我はしないに限るよ?と防御力UP魔法を優しくかける、黒髪猫毛のおっとりメガネ男子、通称、マモル君。

敵を混乱、眠り、誘惑するその美声は本物です、茶髪ちょい天パのムードメーカー、通称、チャロ君。


そして、残るは私、RPG初心者で今の装備は姉御の奢り、足手まとい決定ですよね、通称、加奈子。



そして今、壮大な物語が始まる・・・・。

事もなく。

一度皆で冒険するも、全力で足を引っ張った私。

姉御が初心者の加奈子を連れていけないと心配そうに言い、しばらく宿屋で待っていてと言われた。

周りの女子も男子もその方がいいと姉御に同調。


ですよね。命が掛っているのに素人なんか連れていけないですよね。

身の程を弁えますよ、私は。そう、悔しくなんかないんだから。


「べ、別に気にしてないわ。私は私で何とかするから安心して行ってきたら?」


こうして、私は一人最初の街「オリビア」の宿屋に残された。

お金を残してくれたが、万が一と言うこともある。

私は宿屋の女将さんに住み込みで働かせてもらう事にした。


デスゲームが始まったあの日から3ヶ月経った。

空は雲もなく快晴。

たらいに入った水は太陽の光で輝いている。

その近くには泥にまみれた洗濯物が積まれており、宿屋の女将さんがニコニコしながらこっちを見ていた。

皆最近は遠出をしており、あまり帰ってこない。

なんだか寂しい。

でも、同行しても力になれないのならば、私はここで皆を待つ。

私は皆に休んでもらえる様に精一杯努力すると決めたのだ。

止めた手を動かし、洗濯物を洗い始めた。


「加奈子は働き者で助かるわ」


女将がニコニコしながら私に言った。

MMO-RPGをした事が無い私にとってNPCはとても機械には思えなかった。

だって、街を歩いていたら挨拶してくれる。

「精が出るね」なんて笑顔で言ってくれる。

だから、私はここの人を人間だと思うことにした。


鍛冶屋さんは無頓着な人で奥さんの誕生日を忘れていた。プレゼント買ってなくて焦っていたから花屋で買ったかわいい花を提案した。始め嫌そうだったが、ごり押しで買わせた。花言葉はもちろん「愛」。後に奥さんにお礼を言われた。花も嬉しかったが、鍛冶屋さんが奥さんに「いつもありがとよ」と言ったらしい。にやにやしながら鍛冶屋さんを見ると睨まれた。なんだか微笑ましい夫婦だ。


カリスマ美容師の姉さんは図書館の司書さんに恋して、仕事が手に着かないと困っていた。仕事をしていたら司書さんがくるかもねと言ったら張り切って仕事を始めた。司書さんには私から割引券を渡した。司書さんは時間があれば行ってみようと思いますと言った。よし、後は彼ら次第だ。その後、無事お付き合いが決まり、カリスマ美容師のお姉さんの腕は更に上がったという。


おじいちゃん師範は弟子が居なくなったから道場を閉めていた。広場のベンチに座るおじいちゃんは寂しそうだったので、近所の子供を道場に連れて行った。すると子供が孫に見えてきたらしく、道場を開いて竹刀を教えていた。子供を預かってもらえてお母さん方も喜んでいた。おじいちゃん師範の腕前を聞いたら、もちろん最強じゃと言った。おじいちゃんかわいい。


食べ物屋のおじさんはいつも大忙しで、朝から晩まで働いている。「一日くらい休みがあればなぁ」と呟いた姿が不憫だったので、私が店番を申し出た。この世界にはレジが無く、暗算だとわかっていれば絶対言わなかった。客も多い。一日死にそうになりながら働いた私に食べ物屋のおじさんが笑顔で「ありがとう」と言って桃をくれた。仕方ないな、また引き受けよう。


本屋のオーナーは本が大好きな活字中毒者。一人で本屋を営むくせにお客さんが来ても反応しないくらい必死に本を読んでいる。知らずにお使いに来た私は反応がないオーナーにイライラして、目の前の本を奪い、「仕事をきちんとできないなら、止めてしまいなさい!」と叫んだ。オーナーも嫌そうな顔をしたが、私の知った事ではない。その後、何度か通うとオーナーがすぐに反応を示すようになった。曰く、「お前はめんどくさい」とのこと。いつもお世話になっているから持ってきたケーキは持って帰ろう。


司書さんは仕事ができる素敵メガネ兄さん。司書の制服が良く似合う。そんな司書さんが病気になり、寝込んでしまった。新しく配属された司書はヤル気が無くて軟派でウザイ。これは駄目だと友人たちが置いて行ってくれているお金で高い薬を買った。仲間に心の中で謝りつつも、司書さんはその薬で体調が良くなり、仕事に復帰した。ずっと看病してくれたカリスマ美容師のお姉さんとの仲は深まったらしい。


防具屋のお姉さんはオリジナル装備を作りたくて構想をずっーと練っていた。でも商品は店に出ない。話を聞いたら、良い所まで考えると、次の構想が出てきて、まるで連想ゲームの様に次の構想が出てくるらしい。だから、考えがまとまらない。優柔不断な自分が嫌だと嘆くがそれは違う。私は聞いた限りの構想を紙に書いて渡した。10枚はある。「アイデアマンね」と言ったら、紙を持って感動していた。それから色んな防具が店に並んだ。


ピアノのお姉さんはとっても美人で行動派。小さい頃からピアノをしていて、ピアノの先生になりたくて家を飛び出したらしい。でも、じぃやがずっと訪ねてくるから仕事ができないと困っていた。じぃやという名のナイスミドルの話を聞くと、どうもお姉さんと両親は話し合いの最中ヒートアップして喧嘩になるようだ。私はお姉さんに便箋を渡した。その後、家族との仲は良いようだ。じぃやは今日も嬉しそうに手紙を運んでいる。


私はこの町の人が本当に好きだ。


「ありがとうございます。天気がいい日は特に張り切っちゃいます」


女将さんに向かってにっこり笑った。


皆が帰ってきた時に、私は色んな話を聞いた。

ボスキャラを倒した話。

変わったプレイをする人に出会った話。

ダンジョン攻略に必要なアイテムの話。

沢山話を聞いて、皆が危ない目に遭っているのがよくわかった。

私は皆が返ってくる度に休めるように精一杯頑張ると決めた。


皆がクタクタになって帰ってきた時は安売りバーゲンで買いだめをした回復アイテムやらMPポットやらを使った。


剣がボロボロで困っているマッキーのためにお世話になっている鍛冶屋さんに打ち直して欲しいとお願いした。戻ってきた大剣のデザインが少し派手で引いたが、マッキーが目をキラキラさせていたので良しとしよう。マッキーは意識が変わったのか一生懸命大剣を研いでいる。戦いの相棒は大事にね。


自慢の黒髪長髪が敵に切られて落ち込んでいるミー様に予約がいつも取れないカリスマ美容師の店をコネで予約した。帰ってきたミー様の髪はボブで、かわいいリボンをしていた。お客さんに無料で配っているらしい。ミー様はリボンが気に入っているらしく笑顔になってほっとした。


技のスキルが上がらず、悔しそうに修行するマコッちゃんに気分を変えてもらおうと優しいおじいちゃんが師範の剣道場を勧めた。夜にマコッちゃんがボロボロになって帰ってきて驚いた。でも、その顔は笑顔で溢れていた。それからたびたび剣道場に足を運んでいるらしい。やっぱり気分転換は大事ね。


皆の傷をすべて治す事が出来ず、ふがいない自分を責めてへこむ姉御を叱って励ました。姉御の目に強い決意が見えた気がする。「あんたが友達でよかった」と言われ、「当然でしょ」と返した。姉御はこうでなきゃ。その後、食べ物屋さんで貰った限定の桃を2人で食べた。おいしい食べ物は正義。


敵のアイテムを盗みたいのに盗めなくて不機嫌な黒沢君に本屋のオーナーに取り寄せてもらった『盗みの極意・極み』という本をあげた。気休めだが、無いより良いだろう。黒沢君は本を寝ないで読んだらしい。本が好きなのね。でも、気休めのせいで休めないって本末転倒じゃないの。


リーダーとして奮起するボスが自分のミスで仲間がやられそうになった事に落ち込んでいた。「もっと敵の情報があれば・・・」と悔しそうなので図書館の司書さんに相談したら司書さんのマル秘辞書を貸して貰えた。ボスに渡すと、すぐにメモを書き出した。仲間のために必死なボスはリーダーの器だと思う。


自分の敏捷性の無さに情けなくなったのかマラソンを始めたマモル君が足を痛めた。「情けないなぁ」と力なく呟くマモル君に防具屋のお姉さんに特注の靴を作ってもらった。羽が付いていて、かわいらしいがマモル君には似合うだろう。足を治したマモル君は靴が馴染むようにマラソンを続けている。


もう少し高い音域を出したいと悩むチャロ君にピアノを勧めた。私は小さい頃ピアノの音に合わせて発声練習して音痴が治ったのよ。困り顔のチャロ君をピアノ教室に連れて行った。その後、チャロ君は真面目な顔でピアノ教室に通った。やはり、ピアノのお姉さんが美人だと男のヤル気は違うわね。



街でプレイヤーを見かけなくなった事に気付いたのはいつからだっただろうか。

それでも、私は日々を過ごしていく。



しばらくして皆が帰ってきた。

いつものように迎えるが、今日はなんだか雰囲気が違う。

なんだが神妙な顔つきで皆が私を見た。

部屋に入ってもらい、皆が椅子に座った途端姉御が口を開いた。


「次の戦いがたぶん最後になると思う。加奈子、もし私たちが戻ってこなかったら、ここのギルドに連絡して。話は通してあるから、保護してくれる」


差し出された紙には連絡先が書かれていた。

頭が真っ白になった。

思わず姉御を凝視するも、姉御の目は本気だった。

そんな私にミー様が言う。

「そんな顔しないで、やられるつもりはないわ。そうでしょ?皆!」


黒沢君がにやりと笑う。

「ああ、当たり前だ。ここまで来て負けるとか、ありえないぜ」


マッキーは拳を作り、相手を殴るように拳を突き出す。

「ぼっこぼっこにしてやるんだから!」


マモル君がいつもみたいにニコニコしながら、右手で杖を掲げる。

「負けるつもりは毛頭ないよ」


マコッちゃんは目を閉じながら、刀の柄を握りしめた。

「やるべきことはやった。後は全力を尽くすだけよ」


ボスは真剣な目で私を見た。

「準備も計画も万全だ。生きて帰るぞ」


チャロ君は皆の返答に頷く。

「うんうん、ほら、皆ヤル気満々でしょ?」


私は姉御の手を握り、皆を見渡す。

誰も負けるなんて思っていない。

強い眼差しだ。

私は茫然と姉御に視線を戻す。

すると姉御が真剣な目で私を見た。


「最終ボスとは他のギルドと提携結んで、一気に攻める予定なの。今からすぐに出発つもり」

「は、早くない!?」

「ごめん本当はもっと早く言う予定だったんだけど、時間が合わなくて」

「そんな事、突然言われたって・・」

「で、私たちは加奈子にある言葉を言って欲しくて帰ってきたの」

「え・・」

「ほら、いつも言ってるじゃない。私たちを見送る時に」

「・・あ」


周りをもう一度見渡すと皆が期待した様にこっちを見ている。

私は何だか恥ずかしくて、言葉が詰まった。

でも、姉御がすがる様に私の手を握った時に気づいた。

怖くない訳がない。

不安だし、緊張もしているはずだ。

でも、そんな中皆帰ってきてくれた。

私はここで皆を待っていただけの役立たずだけど、帰ってきてくれた。

ならば、私の役目は皆を応援して送り出すことだ。

私は息を吸い込んで腕を組んだ。



「ま、負けたら許さないんだからね!」



その後、姉御が私に抱き着き、マッキー、ミー様、マコッちゃんに続き、黒沢君やマモル君、チャロ君までが抱き着いてきて圧死するかと思った。

ボス君は微笑ましくこっちを眺めていた。


「頑張る」とか「ジンクスは貰った」とか好き勝手言った後に、皆出発の準備を始めた。今回は扉の外まで皆を見送る。

ボス君がアイテムを使うと皆の周りに淡い光が集まり、一瞬で飛んで行ってしまった。

私は皆の帰りを待つだけだ。いつも通り。

宿屋に戻ろうと歩いていると本屋に光が灯っているのが見えた。

何となく1人が寂しくて、本屋を覗く事にした。


「オーナーいる?」


暗い本屋にランプの明かりがちょっと不気味。

奥を覗くといつものだるそうなオーナーがいた。

オーナーは黒髪でメガネを掛けており、何と言うか根暗っぽい。

今も暗闇にこっそり存在する感じがちょっとホラーだ。

でも、話すと案外口が悪く、口が達者なのだからギャップを感じる。


「何だ、お前か」

「あら、居るんじゃない。返事くらいしなさいよ」

「ふん、こんな時間に外で歩くなんてお前不良だな」

「何よそれ、今仲間を見送った後なの」

「ふうん」

「最後だから、見送ろうと思ってね」

「・・最後」

「そう、最後なの。皆が無事に帰ってきたらいいけど」

「そうか。最後か」

「どうしたの?」

「いや、別に。なぁ、か**、か**・・・・あぁもう!!」

「・・何してるの。怪しいわよ?」

「うっせ・・・・今度ちゃんと逢えたら言うから覚えておけ」

「何だか昔の悪役みたい」

「もう帰れ。店じまいする」


手の平で払う様に振られ、私はオーナーの謎の言葉に疑問を抱きつつ、宿に帰った。布団に入り、横になるも眠れない。


「もし、クリアしたら、この町の人はどうなるのかな」


オーナーともう一度会う事が出来ないかもしれない。女将さんや武器屋の夫婦、食べ物屋のおじさん、カリスマ美容師のお姉さんと司書さん、おじいちゃん師範に防具屋さんにピアノのお姉さんとも。

皆と現実世界に帰りたいと言う気持ちはある。

でも、何だか悲しくなって、その夜なかなか寝付けなかった。


そして次の日の朝。

女将さんにいきなり起こされ、服を着せられ、街に連れて行かれた。

そこには武器屋の夫婦や食べ物屋のおじさん、カリスマ美容師のお姉さんと司書さん、おじいちゃん師範に防具屋さんに本屋のオーナー、ピアノのお姉さんや他にも街の人が皆揃っていた。


「な、な、な!!」

「おう、遅かったな。加奈子!」


本屋のオーナーが私を呼ぶが、私はそれがオーナーとは思えなかった。

いつもジメジメしてだるそうなのに、今は凄く何というか笑顔が眩しい。

何が違う。そう、オールバックで表情がよく見える。


「だ、誰よあんた!!」

「何だ、見てわかるだろ。本屋だよ、本屋。本名は本田一斉」

「ほ、本名って」

「何言ってんだ、この町の人間はほとんどプレイヤーだからな!」

「えええええ」

「お前遅いからもう説明する時間ないや、このゲームは28分前にクリアされた。今から現実世界に戻るぞ」

「ちょ、ちょっと、待ちなさい。全然話に付いていけてないんだけど!」

「また、会った時に説明してやるよ、松原加奈子」

「な、な、何で」


段々街の景色がまるで波の様に白に染まり、その原型が丸い粒になって分解されていく。

それはこちらに向かい、私たちを飲み込んだ。

消えゆく意識の中、私は渾身の力を込めて叫ぶ。




「なによ、それ―――!!!」



私が目を覚ますとそこは病院だった。




そこでC.T.D.Onlineは販売停止となり、回収されている事を知った。

テレビ報道では、私たちがC.T.D.Onlineを始めたあの日の午前11時45分に落雷が発生したそうだ。その異常な電流の影響により、会社の高度情報管理システムに損傷を受け、その影響がC.T.D.Onlineに現れた可能性があるとか。しかし、他にも原因がないか究明に尽力を注ぐそうだ。

しかし、世間からはハッカーやコンピューターによる脳の悪影響のうわさも流れ、事態が落ち着くには時間が掛るだろう。


無事病院を退院した私は姉御と連絡を取り、あの合コンメンバーで再度集まる事になった。退院して4日目の今日がその日。

少し遅れたが、指定のファミレスに着いた。

店員さんが私に話掛けようとすると奥から声が聞こえた。


「加奈子。こっちこっち!」


慌ててそちらに行くと、そこには合コンメンバーと本田一斉がいた。

驚いて凝視すると本田一斉がにやりと笑った。


「よぅ加奈子。元気にしていたか?」

「な、なんで、あんたがいるのよ!」


姉御が驚く私を椅子に座らせ、本田一斉に言った。


「そう、加奈子にも教えてあげなきゃだめよ。本田君」

「オッケー。俺は本田一斉。あの日の合コンに参加するはずの5人目だよ」

「えぇええええええ!!!!」


彼の話をまとめると、彼は皆より少し遅れてC.T.D.Onlineにログインした。そして合コンの場所に向かう途中であの女神を見たらしい。すると、彼自身に制約が刻まれ、彼はあの本屋に閉じ込められていたという。


「話す内容の制限と行動の制限がやばかった。だんだん緩くなっていったんだけど、始めは本当にガチガチでさ」

「私が話掛けたのに無視した時は?」

「あれはたぶんイベントだ。俺は返事がしたくて仕方なかった。」

「こいつ『盗みの極意』の最後のページに攻略必須のダンジョンの地図を書きまくってたんだぜ、知ってた?加奈子ちゃん」

「そうだ!!早く何とかして欲しくてな!」

「その後、本屋見に行ったら、こいつがキノコ生えそうなくらいジメジメしてんの、笑える」

「黒沢、お前マジでぶっ殺」

「でも、何で本屋のオーナーになっていたの?」

「たぶん、俺がショップを持っていたからだと思うんだよね」

「ショップ?」

「俺、冒険メインじゃなくて経営メインで遊んでいたからさ」


C.T.D.Onlineでは様々な職種で遊べる自由度の高いゲームだ。彼はそこで個人のアイテム屋を営んでいたらしい。よって彼の職業は経営者になっていた。


「何で本屋に飛ばされたのよ」

「それは俺が聞きたい話なんだよ。俺、本読むの嫌いじゃないけど、あの時間は本当につらかった。強制なんだもん。毎日が鬱でだるくて仕方なかったわ。黒沢は気付いたくせに遊びに来ねぇし。あの時の俺の癒しはケーキ持ってお使いに来る加奈子だけだったんだよ。俺のために土産物持ってきてくれてさ」

「べ、別に、ただお世話になってるから持って行っただけよ」

「黒沢にはそういう優しさがなかった」


文句を言う本田一斉の頭を黒沢君が小突く。


「ばーか。こっちは命掛っていると思ってスゲー必死だったんだからな!」


そう、結局あのゲームはやられてしまっても現実世界に意識が戻ってきていた。だから今回の事件での被害者は報告されていない。奇跡だとテレビで誰か言っていた。

「悪かったって」と本田一斉が黒沢君に呟くとボスが皆にメニュー表を渡した。


「今回皆無事に帰還出来て、本当に良かった。つきましては、もう一度合コンを再開したいと思うのだが、どうだい諸君?」










「「「「賛成――――――――!!」」」」











皆がメニューを広げて騒いでいると、本田一斉がこっそり私に耳打ちした。


(そうそう、俺、加奈子が好きだから、付き合って)

(!!!ば、バカじゃないの!)



おまけ


松原加奈子 →黒髪肩までストレートのツンデレ女子

本田一斉  →黒髪オールバックの口悪メガネ男子


歌い文句

ツンツンしているけどデレも多い、気の利く家庭的な黒髪ストレートのツンデレ女子、通称、加奈子。

ああ言えばこう言う口の回る三枚舌、悪知恵なら誰にも負けない黒髪オールバックの口悪メガネ男子、通称、一斉君。


加奈子は皆にとって愛すべきアイドル。

にっこり笑って迎えてくれる存在は癒し。

困っていたら真剣に考えてくれるし、何とかしてくれる。

加奈子といると街の皆の反応が少し違うのにも気づいている。

何と言うか、街のアイドル。


街の住人とはいつか「被害の会」みたいな集まりで出会います。

昔から人気があったゲームで全年齢向けである事と休日である事が重なり、老若男女が参加していました。



女将さん

肝っ玉母さん。ゲームは娘がくれた。戦闘では気持ち悪くなったため、今の立ち位置に着いた。加奈子がお気に入りで息子が居たら嫁にしたい程。


武器屋

本当に夫婦。ゲーマー夫婦。実際の旦那さんはあんな無頓着ではない。仕様でしたが、言葉は心からの気持ち。嫁も分かっている。この夫婦はゲームでもリアルでも和む夫婦。


食べ物屋

現実でも実は八百屋さんをしている。現実では、まったり過ごしていたのに、ゲームで大繁盛して大変。いつもゲームしないのに今回気分がのって始めちゃった。最近のゲームは若い子と話せて中々面白いと思っている。


カリスマ美容師

リアルでも美容師のお姉さん。でも、ゲーム内では魔法屋をしていた。本田君と同じパターンの人。現実でもゲームでも美容師している自分が不思議。でも司書さんとの出会いはマジ奇跡。神様ありがとう。彼女のイベントは果たして正規だったか謎。


司書さん

公務員。学生の頃からこのゲームをやっている。ゲーム内では農業していたのに何故か司書になっていた。イベントで病気になった時に薬をくれた加奈子に感謝している。本当につらかったらしい。美容師さんにはぐいぐい押されてびっくりしたが、結構うれしいと思っている。


おじいちゃん師範

本当に道場の師範。今は息子に道場を継がせて、暇だったのでゲームで遊んでいたファンキーじいちゃん。そこで出会ったマコッちゃんにセンスを感じ、是非弟子にしたいと思っている。最近子供に教えるのに熱心。


防具屋

現実では商社で仕事をしているおっちょこちょいなお姉さん。ゲームでも防具屋をしていた。加奈子の助言が現実でも役立っており、アイデアはメモする習慣が付いた。彼女のイベントは果たして正規だったのか謎その②。


ピアノのお姉さん

本当にピアノの先生をしている。ゲームでは自分の作曲した曲を広めていた。現実でも実はお金持ちで家族との仲もゲームと同じ。爺やが本当に現実の爺やと重なり、困っていた。最近家族にメールをするようになった。


カップリングは以下の通り

黒沢君×マッキー

ボス×ミー様

マモル君×マコッちゃん

チャロ君×姉御


正式な名前

黒沢君   →黒沢 秀樹 (くろさわ ひでき)

マッキー  →市原 真紀 (いちはら まき)

ボス    →京極 豊  (きょうごく ゆたか)

ミー様   →角田 美幸 (かくだ みゆき)

まもる君  →円城寺 守 (えんじょうじ まもる)

マコッちゃん→篠原 真  (しのはら まこと)

チャロ君  →稲葉 茶太郎 (いなば ちゃたろう)

姉御    →前田 絵里 (まえだ えり)


C.T.D.Online→点と点をつなぐ(Connecting The Dots)

売り文句は人と人をつなげるゲーム


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