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這い寄る闇(3)

 横須賀、在日米軍基地。夜の闇が訪れてから程なく、ここを異常事態が襲った。


「第三区画、火災発生。消火班は直ちに急行せよ」

「第十二地区で爆発確認。特定戦闘知性体を確認。戦術機部隊は、スクランブル」

「第八区画上空にも戦闘知性体反応。ヘリ部隊は急行せよ」


 在日米軍は、突然の奇襲に戸惑っていた。襲ってきたのは、ピエール伯爵指揮下のダークナイト達であった。

「ククク。脆い。脆いのう。これがこの世界の最強の軍隊の力か? もっと本気を見せろ。我輩達を楽しませてくれ」

 ピエール卿の目には狂気が宿っていた。戦場での戦い──これこそがダークナイトの生き甲斐、ダークナイトの本性なのだ。

 奇襲を受けた、在日米軍は、徐々にではあるが、体制を立て直し始めた。

「第二装甲車中隊、第七区画でダークナイトと接触。戦闘に入る」

 最初に米軍の戦闘部隊と接触したのは、カナード卿であった。

「やっと来たか。待ちわびておったぞ。出よ、スネイグル」

 ガナード子爵の声に応えて表れたのは、巨大なコブラのような守護獣であった。その体長はゆうに二十メートルを超えていた。その凶暴な眼差しは、主人の命さえあれば、全ての動く物をとらえ、殲滅する意思が感じられた。

「な、何なんだ、あの化物は」

 米軍は明らかに動揺していた。日常の訓練では、こんな化物達と戦うことは想定されていなかったからだ。

「かかって来ないのか。では、それがしからゆくぞ。スネイグル、ポイズンストーム」

 巨大な蛇体が鎌首を挙げると、その口から、強力な腐食性ガスが吹き出し、米軍の装甲車部隊を襲った。装甲車は、守護獣の攻撃を受けると、腐っていくように腐食していった。それは、随行していた海兵隊も同じであった。

「頼りないのう」

 ガナード卿はそうつぶやくと、守護獣の頭に乗って、更に基地の奥へと侵攻を始めた。


 その頃、駐屯地の司令部は、現場以上に混乱を極めていた。

「どうしてダークナイトがステイツの基地を襲ってくるのだ。ありえない」

 基地のナンバー2──ジョンソン大佐は、司令官のバルド准将に詰問していた。

 USAの軍産複合体のトップが、ダークナイトと密約を結んでいることは、米軍でもごく一部の幹部しか知らない事であった。その情報を知る、数少ない人物の一人である大佐には、日本とはいえ、米軍基地にダークナイトが奇襲をかけてくる事が、理解できなかったのである。

「時にはパフォーマンスも必要なのだよ、大佐」

「パフォーマンス? そんな下らない事で、ステイツの兵士が何人も死ぬのですよ。全く理解できない。クレイジーだ」

「そう、クレイジーだ。それ程、ダークナイトの戦闘力は大きい。今までダークナイトの脅威を彼岸の火事と見ていた議会を言い含めるには、彼等がステイツの現状の武力では対抗できない事を、知らしめる必要があるのだよ」

 准将の言葉に、大佐は引くことをしなかった。

「それが、大切な我が同胞を死に至らしめる事になってもですか!」

「昔、我々は、原爆の放射線被曝の実態を知るために、多数の兵士を原爆実験場に送り込んだ。これも同じだ。君も知っているだろう、大佐。ステイツの総合的利益のためには、多少の兵士の死も必要事項なのだよ。むしろ、その方が国民の心を揺さぶり、議会を動かす事になるのだよ」

「そんな、バカな。こんな事を黙って見ている訳にはいかない」

 大佐は、蒼い顔をして踵を返すと、ドアに向かった。大佐の手がドアノブにかかった時、銃声が響いた。

「じゅ、准将。あ、あなたには、ステイツの軍人としての誇りは、な、無いの……で、す、か」

 ジョンソン大佐は、バルド准将を振り返ると、ようやくそれだけを絞り出して、床に倒れると動かなくなった。准将の右手の拳銃からは、まだ紫煙が上がっていた。

「大事なのは、今後の対ダークナイト政策、及びその後に訪れる彼等との共闘において、我々ステイツがイニシアチブを握ることなのだよ。兵士はただの駒に過ぎん」

 准将は、哀れみを含んだ顔で、ジョンソン大佐の遺体を眺めていた。


 一方、基地上空では、二体の騎士侯が、米軍の戦闘ヘリ三機と対峙していた。だが、それも束の間、信じられないスピードで、一機のヘリに接近した騎士侯の長剣で、ヘリのローターは切り飛ばされた。空に留まる力を失ったヘリが、地上に落ちると、大爆発を起こした。

 残り二機の戦闘ヘリは、機銃とミサイルによる攻撃を行ったが、二体のダークナイトの機動性には及ばなかった。人間の反射速度を、ダークナイトが圧倒的に上回っていたからである。

 あっという間に、残り二機の機体も、火だるまに包まれて地上に落下していった。

 二体の騎士侯が、その様子をマントをはためかせながら見ていると、突然、その場に猛烈な鬼気が覆った。その凄まじさは、騎士侯達を縛り付け、その場から動けなくなるほどであった。

「弱い者虐めをして、そんなに楽しいか」

 二体の騎士侯は、その呟くような声が、何故かはっきりと聞こえた。

 彼等がようやく振り向いた時、そこには月光を背景に、吸い込まれるような黒い闇が、人型をとっていた。

「B……J……」

 騎士侯は、ようようとそう呟く事しか出来なかった。

 彼方から飛翔してきた黒い騎士の手に握られたジャックナイフが、二体の騎士侯の首を跳ね飛ばすのに、時間はかからなかった。騎士侯達は血とオイルの入り混じった、赤黒い体液をまき散らしながら、基地の一角に有る格納庫に落ちていった。

 黒き騎士が、次の目標へと飛び去ろうとしたその時、BJの背中があり得ない怖気を感じた。本能的に振り向いた彼の左手は、燃えるように光り輝く矢が握られていた。

「ほう、わしの放った矢を素手で受け止められたのは、これが二度目じゃ。お主がBJじゃな」

 それに対し、BJはこう応えた。

「その殺気。直前まで俺の感覚に捕われなかった陰業の術。只者ではないな。伯爵、いや、侯爵クラスのダークナイトか」

 問い掛けられた、ダークナイトは左手の弓を背に納めると、

「お初にお目にかかる。わしは、ギャスリン侯爵という。今日から、BJ──貴様の相手を専任で任された。これから、お主と何度会えるかが気がかりだが、取り敢えずの自己紹介だ。よろしくな」

 と、言い放った。

「侯爵級のダークナイトが、司令官では無く、俺専属とは、……俺も高く評価されたものだな」

 BJが返答した。これほどBJが饒舌になるとは、驚くべき事である。

「お主は、イレギュラーなのじゃよ。わしも、お主の事を城で色々と検索しておったのじゃが、どうにも腑に落ちん事ばかりなのじゃよ、若きダークナイトよ。通常、我らは騎士侯として生を受ける。そして、幾千幾万の戦闘経験を経て、個体進化を繰り返し、戦闘力を上げていく。その結果が、わし等の名乗る爵位じゃ。このわしも、かれこれ四千五百歳を越える年寄りじゃ。じゃが、お主から感じられるのは、老獪の如き執念や猛質ではなく、今青春を生きる若さなのじゃよ。これが不思議でなくてなんとする」

「そんな事は、お前に関係ない」

 BJが不遜にも、そう応えた。

「これこれ、若きダークナイトよ。お主は年寄りを尊敬すると云う、ごく普通の礼儀も知らんのか? とにかく、わし等にとっては、お主の存在自体が異常なのだ。三体もの守護獣を従え、侯爵級の力を振るうお主は、一体誰に作られた? そして、何故この世界の人間に味方する? 今のわしにはそれが理解できん。まぁ、そんな事は気にかけずにこの場でお主を屠ってもいいのじゃがな。じゃが、それでは、第二、第三のお主のようなやからが現れるやも知れぬ。こう見えても、わしは怖がりでな。将来に遺恨を残す事は、極力避けたいのじゃよ」

「それで、俺の情報を取りたいと言う事か」

「平たく言うとそういう事じゃな。そうさな、……まずは、お主の実力テストをしてみようではないか」

 そう言うと、ギャスリン侯爵は、両の腰から大剣を抜くと、柄の部分を密着し、双剣の刃と為した。一方、BJは、愛刀である巨大なジャックナイフを右手に持って構えた。


 尋常ではない戦いが始まろうとしていた。果たして、BJはギャスリン侯爵を退ける事が出来るのか?




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