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這い寄る闇(2)

 自衛隊の第一戦術機小隊は、スクラップとなったDK6の回収作業をしていた。

 DK6の戦術コンピュータや駆動システムは、寄生したナノマシンによって改造されていた。これを分析することで、ダークナイトの戦闘力の解析は一歩進められる可能性がある。


 一方、麟太郎と吾朗は、この日から誰かに監視されているような気配を感じていた。まだ高校生とは言っても、幼い時から団式合気術の修練を積んできた二人である。人の気配や視線を感じ取るまでの技量は、十分備えていた。

「よう、ダンゴ。最近、誰かに見られているような気がしねぇか?」

 麟太郎が吾朗にそう訊いた。

「僕もそう思っていたところだよ。僕達はダークナイトに遭遇した回数が多いからね。自衛隊が囮に使ってるのかも知れないね」

 と、吾朗も溜息をつきながら、そう応えた。

「ただでさえこんな発信器を持たされてるのに、その上、尾行とか監視とかかよ。たまったもんじゃないな」

 と、麟太郎は不平ばかり言っていた。

「なまじ修練で気配なんかを読めるようになってるから、こうゆうの鬱陶しいね。つまりは、僕等にはプライバシーは認めてもらえないって事らしいね」

「せめて、飯の時間とか風呂入ってる時くらいは、自由にしてもらいたいよなぁ」

 それに対しては、吾朗も同じように思っていたのか、

「そうだよねぇ」

 と、相槌を打った。


 一方、ダークナイトの極東前線基地である城では、亜空間ゲートの前で、ピエール伯爵とガナード子爵が待機していた。欧州のサリエル侯爵からの人員の補給を待っていたのだ。

「閣下、サリエル閣下からはどのような方々が派遣されるのでしょうか?」

 ピエール卿にそう訊いたのは、腹心の部下であるガナード子爵であった。

「我輩も詳しくは知らん。だが、BJの事を伝えると、サリエル侯爵閣下は何がしか考えておるように見えた。それなりの人物が派遣されるのに違いない」

 と、ピエール伯爵は語った。

 そのうちに、亜空間ゲートの門に大きな暗黒の渦が巻くと、ゲートを通って複数の影が、歩み出て来た。その内の一人は、ダークナイトとしても計り知れない鬼気を放っていた。その鬼気に、一瞬二人のダークナイトを恐怖が襲った。尋常ではない実力の持ち主がいる。その気は、二人にそう告げていた。

 凄まじい鬼気を放つ者は、亜空間ゲートの門をくぐると、

「お初にお目にかかる。わしはギャスリン侯爵。親友のサリエル卿に依頼されて、極東に参上したのである。ここの責任者のピエール卿は何処に」

 と、言葉を発した。

 そこにようやく平常心を取り戻したピエール伯爵が一歩前に進んで一礼すると、こう応えた。

「わたくしが、ピエールにてございます。こちらに控えますは、助手のガナード子爵にてございます。このような、東の外れの辺境にわざわざお越しいただき光栄至極でござります」

 ピエール伯爵の声は震えていた。こんな辺境に、わざわざ侯爵級のダークナイトが派遣されたのだ。尋常な事ではない。

「おお、お主がピエール卿であるか。こんな辺境に大した戦力も持たされずによく頑張ってきたものよ。その奮闘に、わしは敬意をはらっておる」

 ギャスリン侯爵がそう返事をした。重々しい声であった。その声だけで、爵位の低いダークナイトは、その場に縛り付けられそうな、そんな威厳を持った声だった。

「ギャスリン閣下にお褒めいただき、光栄でございます。ささ、どうか玉座の間にお越し下さい」

「ふむ。わしには、それ程、気を使わんでも宜しい。この城の主は、飽くまでもピエール卿なのであるから。わしは、BJとか言う無頼のやからに対抗するための参謀程度の扱いで結構」

 それを訊いたピエール伯爵達は、驚いた。ダークナイトの実力は爵位に対応している。自分よりも遥かに高い戦闘力を持つ、ギャスリン侯爵が、城の城主ではなく参謀でよいというのは、ダークナイトにとっては常識外れな事だった。

「ギャスリン閣下、それでは、わたくし達の立場がありませぬ。ここはわたくしに免じて玉座にお座り下さい」

「いや。先に亡くなったリキュエール卿は、既にBJを侯爵級と推定していた。彼らの死は、この事を重要視せず、今まで手をこまねいていた我々首脳陣に積がある。ピエール卿、お主には極東前線基地の司令として、今まで通り皆を指揮してもらいたい」

「では、閣下はどうなさいますので」

「わしは、単独でBJを追ってみようと思う」

「閣下、お一人で大丈夫でしょうか。護衛の騎士侯を連れて行った方が……」

 すると、ギャスリン侯爵は、マスクの向こうからカッとピエール卿達を見据えると、凄まじい鬼気を発した。

「お主等、わしを誰だと思うとるか! わしの如き老体では、たった一人の無頼のやからにすら遅れをとると抜かすか!」

 ピエール伯爵とガナード子爵は、一瞬金縛りにあったように感じた。これが侯爵級のダークナイトの実力か! そう思うと、二人の全身に怖気が走った。

「滅相もありません。小心者の戯言とお聴き逃し下さい」

「うむ。よろしい。わしも少し大人気なかった。済まぬ。ところで、かの者達は、極東に新たに配属された者たちじゃ」

 すると、ギャスリン侯爵の後ろから三人のダークナイトが現れた。

「向こうから、ゲール子爵、ウースラ男爵、そして、グリム准男爵じゃ。本当は伯爵級を集めたかったのであるが、次元跳躍用の亜空間ゲートがまだ安定しておらぬのでな。わし等の世界からこちらへ呼べる人員に限りがあるのだ。許されよ」

「いえいえ、滅相もない。三体もの増援、お心遣いに痛み入ります」

「そうか。とにかくBJはわしに任せろ。さすれば、この世界の戦力など、どうと言う事はない。容易く殲滅できよう。そういう訳で、司令官は今まで通りピエール卿に任せる。良いな」

 ギャスリン候は、そうピエール卿達に言った。

「は、ありがたき幸せ。今までBJなどに気を取られて、ろくに作戦を進められなかった失態、晴らせて頂きます」

 と、ピエール卿が応えた。そしてガナード卿も、

「では、ギャスリン閣下と、ゲール卿等のお部屋の用意をいたしますので、今しばらくは、玉座の間にて、お休み下され」

「うむ。よろしく頼む。ゲール卿等よ、お主達は、これからピエール卿の指揮下に入れ。分かったな」

「御意にございます」

 と、ギャスリン侯爵の連れてきたダークナイト達が返事をした。

「時にピエール卿よ、BJのデータをあるだけ見たいのだが、出来るか?」

 ギャスリン侯爵の問に、ピエール卿は、

「はっ、城の情報バンクに登録済みでございます。お部屋の端末からご覧になられます」

 と、応えた。

「そうか。手間をかけるな」

「いえ、滅相もありません。わたくしも作戦の遅れを取り戻す事に全力を尽くしますので、閣下はBJ討伐に専念していただきとうございます」

「うむ、気遣い、感謝する」

 そう言うギャスリン侯爵の目は、道化のマスクの向こうから怪しい光を放っていた。


 遂に、本当の強敵とも言える相手がやって来た。果たしてBJは、ギャスリン侯爵とどう戦うのか? 今、超絶な戦いの火蓋が切られようとしていた。




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