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這い寄る闇(1)

 ダークナイト──異次元の地球人類が産み出した、戦場での戦いのみを目的として自己進化を続ける、戦闘知性体である。彼等にとっては戦闘が全てであり、種の保存という概念がない。また、主である異次元の人類には絶対服従のプログラムがその本能に組み込まれていた。そのため、居住区内への無断侵入や、そこでの戦闘は行えないようになっていた。彼等は戦場でのみ、その力を振るうことが許されているのだ。


 DK6はBJに撃破された。自衛隊の戦術機小隊が到着した時、現場には団母子と、DK6の残骸が残っていただけだった。

「大丈夫ですか!」

 自衛隊の士官が急いで駆け寄ってきた。

「私達は大丈夫です。でも、迎えに来てくれた自衛隊の方が……。私達を逃す盾になって、亡くなられたのです」

 と、優奈は士官にそう応えた。

「そうですか……。彼は漢でした。立派な漢でした。お二人の盾になった事を誇りに思っているでしょう」

 士官は首をうなだれて、こう言っただけだった。

「また、BJに助けられました……」

 優奈は呟くようにそう言った。

 自衛隊の士官は、驚くような顔をすると、

「またBJですか。でも、どうしてあなた方ばかりを護って戦うんでしょうか?」

 と言った。優奈は、

「彼は『通りすがりに気に食わない物を見たから』と言ってました。ですが、私にも理由は分かりません。BJに取って、私達は特別な存在なのでしょうか?」

 と、答えた。自衛官は吾朗の方を見ると、

「君もBJを見たのかい?」

 と訊いた。吾朗は首を横に振ると、

「いえ、僕は結界の端っこで膝を抱えている事しか出来ませした。母さんが襲われているのに。僕は、また何も出来なかった。僕なんかただの足手まといだ……」

 と言った。

「じゃぁ、今回も吾朗くんはBJを見ていないのか」

「はい……」

 自衛官は何か思うところがあったのか、それだけを聞くと、母子から遠ざかった。

 広場の真ん中では、自衛隊がDK6の残骸の回収を行っていた。ナノマシンから開放された実験機は、骸骨のように見えた。ダークナイトの死も、このDK6と同じなのかも知れない。


 それから少し経った頃、麟太郎の伯父である海堂武史の携帯が着信を告げた。

「はい、海堂です」

<第一戦術機小隊の渡辺だ。久しぶりだな、海堂>

「おお、渡辺か。久しぶりだな。そう言えば、この地区の担当になったんだって? また今度呑もうぜ」

<よせよ。お前と呑むと、必ず潰されるからな。ところで、団吾朗くんの事なんだが、海堂はどの位の事を知ってるんだ?>

「吾朗くんの事か? ちょっと腕っ節が立つが、普通の高校生だよ。赤ん坊の頃から知ってるが……何かあったのか?」

 武史の応えに対して、渡辺はこう言った。

<ウルトラマンって覚えてるか。アレって、結局正体は身内だったんだよな>

「何を言ってる? まさか吾朗くんが……」

<今日も優奈さんと吾朗くんが襲われ、BJに助けられた。でも、彼はBJを見ていないという。先日、麟太郎くんと襲われた時もだ。これだけ頻繁に団家に関わる人間がBJに助けられているのに、吾朗くんだけBJに遭っていないんだ。そして、吾朗くんがいない時にBJは現れている。変だと思わないか>

「確かに状況証拠は揃ってるな。だがしかし、彼は本当に普通の男の子だぞ。それがBJとどんな関わりがあるんだ」

<分からん。しかし海堂、済まんが吾朗くんの事をよく見ておいて欲しいんだ。今は情報がなさすぎる。少しでも取っ掛かりが欲しいんだ>

「ふむん。分かった。彼とは一緒に修練をしている身だ。ちょっと探りをいれてみるよ。さて、冗談ではなく、本当に今度一緒に呑もうぜ。お前もストレス溜まるだろう」

<ありがとう。何か分かったらこの携帯の番号に掛けてくれ。直接会いたい時は、交番の横の駐車場に駐屯しているからな>

「分かった。今度、一本差し入れに行くよ」

<ははは、ありがとう。じゃぁな>

「それじゃ」

 こうして二人は会話を終えた。本当に吾朗はBJと関わりがあるのだろうか。


 その頃、ダークナイトの居城では、ピエール伯爵が、部下のガナード子爵と対談を行っていた。

「あのBJと云う無頼のやから、凄まじい力を感じる。爵位こそ持たぬが、侯爵クラスの中でも抜きん出た強さを感じる。もしかすると、公爵クラスに届くやも知れぬ」

「御意にございます、閣下」

「ところが、あの者には、我々のように、無名の騎士侯から積み重ねた進化の痕が読み取れぬのである。まるで最初からあの強さでこの世に生を受けたような……」

「閣下、それはリキュエール卿も同じような事を申しておりましたな」

「そうだったな、卿よ。リキュエール卿は、BJの守護獣によってプラズマの奔流ん中に消えた。潔い死であった。今も我輩のまぶたに焼き付いておる」

「それがしもBJの戦いには疑問を感じておりました。ダークナイトは自らの戦いのみ歓喜を感ずるもの。しかし、あ奴は、誰かを護るところを使命としておるように見受けらます。ダークナイトの基本プログラムの中には有り得ないことでございます」

「卿もそう思うか」

「御意」

「しかし、この次元の人類には、ダークナイトを開発するだけの科学力は無いはず。やはり、我輩達が最初にこの地に降り立った時までさかのぼらねば、真実は見えないのかも知れん」

 二人のダークナイトは、BJの出現とその行動に、ダークナイトらしからぬモノを感じてているようだった。

「そう言えば卿よ、エウロッパのサリエル侯爵閣下に、補給についての打信はしておるのか?」

「は、先日、子爵級以上のダークナイトと騎士侯の補充を打信をしたところでござる」

「そうか。我輩は少し調べ物をしようかと思うとる」

「BJについてでござるか」

「ああ。どうしても、あ奴には気にかかるところがある。小さな石ころでも、これから先の戦況に影響するやも知れぬ。後は任したぞ。ガナード卿よ」

「御意にございます」


 人類側も、ダークナイト側にとっても、BJの存在は、イレギュラーであった。


 BJよ。お前は何処から来て何処へ行くのか……。




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