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六人目の騎士侯(6)

 漆黒の鎧を身に纏い、彼は立っていた。団優奈をつけ狙うDK6の高周波ソードは、優奈を傷付ける前に、黒いジャックナイフに根本から切り落とされていた。

 天頂には輝く満月。亜空間結界を夜の世界に繋いだのはBJであった。


「お前も俺の邪魔をするのか!」

 DK6の怨嗟の呻きが夜空に響き渡った。


 その頃、自衛隊の装甲トラックの中では、隊員が右往左往していた。

「シグナルナンバー、3と5をロスト。北第2ブロックに亜空間結界生成を確認。推定硬度は、……推定硬度は、え、S++以上」

「何ぃ。CERN跡地の黒体空間の硬度に匹敵する。我々の対亜空間装備では太刀打ち出来ないぞ」

「本部に支援を要請しますか?」

「無駄だ。整備班、戦術機の装備を対ダークナイト用に換装。いつでもフルドライブ可能にしろ」

「了解。20分だけ時間を下さい」

「15分だ。15分で仕上げて見せろろ、曹長」

「隊長、無理を通すのは相変わらずですな。了解! ……野郎ども、10分で仕上げるぞ! パイロットは、さっさと押し込んどけ」

 整備班長の激が走った。それを聞いた部隊長は、口の端っこでニヤリと笑っていた。

「緊急出動。本部にDK6出現を打電」

「ラージャー」

 こうして自衛隊の第一戦術機小隊は緊急臨戦態勢に入った。


 一方、亜空間結界の中では、DK6とBJが対峙していた。

「また会ったのう、黒き騎士よ。今夜は何を見せてくれるのかのぅ」

 ピエール伯爵は、取り敢えず高みの見物を決め込んだようだった。

「お前達はどちらの味方だ?」

 珍しくBJが問を発した。

「別に我輩達はどちらの味方でもない。今宵は見物人よ。気にするな、黒き騎士よ」

「そうか。なら俺の好きにするぞ」

 BJが応えた。闇より黒き甲冑が発した言葉は、闇へと消えていった。

「俺の邪魔をする者は誰だろうと許さん! 退け」

 DK6の言葉に、BJの姿が一瞬揺らいで消えたように見えた。

(これは瞬足歩? いや、違う。超次元流の「空歩行」か?)

 団優奈は、BJの動きを見て、かつての夫の姿を重ね見たような気がしていた。その判断が終わるより早く、DK6の眼前にBJが現れたかと思うと、黒い刃の突きが放たれた。

 だがどうだろう、その刃はDK6の胸前に現れた亜空間ゲートに吸い込まれたように見えた。一瞬後になって、黒き刃はBJの背に現れた亜空間ゲートから現れると、突きを放った本人を襲った。しかし、刃は黒き騎士のマントを切り裂いただけで、一瞬にして手元に引き戻されていた。

「小賢しい術を使うな」

 これも闇が声を発したようだった。

「俺の前に立ち塞がるものは、全て打ち砕いてきた。お前も消え失せろ!」

 DK6の高周波ソードが再びBJに襲いかかる。その刃をも黒きジャックナイフは切り落とすと、BJは中に飛んだそれを掴んで、DK6に投擲したのである。

 再びDK6の前に現れた亜空間ゲートに、刃は消えた。

「お前の攻撃は単調だ。同じ事よ」

 先ほどと同じように、亜空間ゲートの出口が形成された。が、飛び出した刃が貫いたのは、DK6の背中だった。

「ウッ、グフォ。何故だ。何故出口が俺の背後に……」

「たかが騎士侯のお前に出来ることが、俺に出来ぬと思ったか?」

「ふむ、確かにその通りであるな。我らが一度見た技に再度捕らわれるはずも無い、……か」

 ピエール伯爵が、得心したように呟いた。

「ギリオン、ジャミング・ハウンド」

 BJの守護獣である黒き猛犬が現れると、その咆哮がDK6を襲った。

「こ、これは。か、身体が崩れる」

 それはナノマシンマテリアルのマイクロプログラムを狂わす音波であった。基本的にはポーンに装備されているメーザー砲と同じだが、その出力が桁違いに違っていた。DK6の身体は、人型を維持できずに、アメーバのように不定形な形にその姿を崩していた。

「ギリオン、フリージング・トルネード」

 BJの命令に、黒き猛犬は絶対零度の寒波を吐き出した。DK6の形態が無定形なまま凍結される。

「ヘルズ・ライト、大圧殺」

 今度は巨大な右拳がDK6の頭上遥かに出現すると、恐ろしいスピードで降下してきた。その拳の威力は如何程であったのか、DK6の装甲ナノマシンマテリアルは、細かくひび割れ、乗っ取ったホワイト・クロスの実験機から飛び散ると、その場に散らばった。そして、氷が溶けると、ナノマシンは、そのまま塵に戻っていった。最後に残ったのは、骸骨のような戦術機の内部骨格だけだった。

 優奈はその一部始終を、呆けたように見守ることしか出来なかった。そんな呆気ない終わり方であった。


「さて、前座は終わった。次はお前達か?」

 月明かりの中に、闇のような声が響いた。

「我輩達は、見物人よ。だが、最後にこれだけは返してもらうぞ」

 ピエール伯爵の言葉が終わるや否や、元はDK6の内部にあった永久機関が亜空間ゲートから現れた手に握られて、引き抜かれていった。亜空間ゲートを利用して永久機関を引き出したのは、ガナード子爵であった。

「お主も言っていたであろう。たかが騎士侯不勢に出来ることが我輩達に出来ぬと思ったか? では、さらばだBJ。また会う夜を楽しみにしておるぞ。ハッハハハハ」

 後に残ったのは骸骨のようなDK6の残骸と、ピエール伯爵の笑い声だけだった。


「あなたがBJですね。でも、何故……何故私達を助けてくれるのですか?」

 優奈が発した問に、

「通りすがりに、不愉快なモノを見たからだ。ただそれだけの事よ」

 とだけ答えると、BJは再び闇の中に帰って行った。まるで、闇が産み出したモノがその胎内に我が子を引き戻すように。


 BJが姿を消すと同時に、浅い夕暮れが戻ってきた。亜空間結界が解除されたのである。優奈は我知らず、吾朗の気配を探していた。見つけた。先ほど吾朗を見失ったのと同じ位置に吾朗の気配があった。そして、それが自分に向かって近付いて来るのも。

「母さん、大丈夫でしたか?」

「私は大丈夫。BJっていう、黒い騎士が助けてくれたから。ところで吾朗、何故お父さん達がいないの?」

 優奈は息子に問うた。

「いえ、結界に閉じ込められて、外に出られなかったんです」

 この返事に優奈は戸惑った。たとえ結界の中であろうとも、自分が吾朗の気配を見失うはずが無い。では、どうしてさっきまでいなかった吾朗がここにいるのか?

 優奈は、我が息子ながら、吾朗に何か恐ろしい物を見たような気がした。そして、父──弦柳が以前言っていたことを思い返していた。


『吾朗には何か異形のモノの気配を感じる』




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