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六人目の騎士侯(5)

 優奈と吾朗を助けようとして、護衛役の自衛官がバイクで特攻した。辺りは業火が渦巻いていた。

「吾朗、あの方の死を無駄にしないために、何としても逃げるのよ」

 吾朗は母に諭されて、公園に向かう方向に走り出した。

 擬似ダークナイトであるDK6は、業火の中で身悶えをしてた。回復にはまだしばらくかかるだろん。奴が戦闘可能状態に再生するまでに、少しでも家への道を急がなくてはならない。

 二人は家路を疾走していた。

「母さんの速度に遅れをとらないなんて、随分と成長したわね」

「僕もそれなりに修行を行っていますから」

 二人は口ではなんでもない事を言っていたが、その走る速度は尋常ではなかった。


 しかし、DK6は彼女達の先回りをして、もう暗くなりそうな道の真ん中に、ひっそりと立っていた。

「あらら、あのお兄さんの時間稼ぎもホンの少しだっただけのようですね。仕方がありません。あなたが私を殺したいのであれば、相手をしてあげましょう」

「や、やっと会えたぞ、団優奈。お前は俺が殺す。誰にも邪魔はさせん!」

 DK6は、そう宣言すると、優奈に両肩のライフルを向けた。毎分三千発をバラまく速射破壊機銃の前で、母子は窮地に至っていた。

 優奈はジリジリと後ずさりながら、脱出の機会を伺っていた。

 と、その時、DK6の肩の機銃が火を吹いた。そして、その弾丸は、全て優奈を狙っいた。

「母さん、危ない!」

 と、そう叫んで、優奈を庇ったのは吾朗であった。

「吾朗。吾朗、大丈夫ですか」

「平気です。この制服は、僕が改造した、防弾・対ショック機能を持っています。これくらいでは、銃弾は貫通しません。まぁ、アザくらいは出来たかも知れませんが」

 吾朗がそう言って、その場に片膝をつくと、その場の雰囲気が変わった……ような気がした。吾朗の母親から凄まじい殺気が放たれているのである。

「うちの吾朗にまで手をかけるとは、許す訳にはまいりません。それ相応の罰を受ける覚悟はあるのでしょうね」

 それに対し、まだ身体のそこここから炎を吹き上げているDK6は、

「殺す、団優奈を殺す」

 と叫ぶと、そのマントを夜空を背景に振るった。

 優奈は、吾朗にセカンドバッグを手渡すと、素手で構えをとった。

「行きますわよ」

 優奈が囁くように声を発すると共に、その姿が、カゲロウのように揺らいで消えた。

 『団式合気術瞬足歩』特殊な足さばきと、相手の死角を利用する事で一瞬のうちに敵の懐に飛び込む、歩行法である。

 再び優奈の現れたのは、DK6の目の前であった。彼女は、足払いでDK6の体勢を崩すと、左足の踵でDK6の即頭部を思い切り蹴り飛ばしていた。その上、蹴りによる回転の力を利用して、再度右足で重ねて頭を蹴り潰したのである。

 蹴り飛ばされた反動で、DK6がコンクリートの電柱に激突した。優奈の蹴りがどのような威力だっただったのか、電柱は粉々に壊れ、今にも倒れそうな状況である。電柱の残骸に身を預けているDK6も、グラグラになった首を項垂れて、微動だにしない。


 吾朗の下に返って来た優奈は、真顔で彼にこう言った。

「吾朗、見えた?」

「え? 見えたって、何?」

「スカートの中」

「ええ〜と。何て答えたらいいのやら」

「母さん、ちょっとエキサイトしちゃって。スカートなのに、あんな派手な蹴り技使ったでしょう。ああ、母さん、恥ずかしい」

「んと、えっとぉ、あのう……ちょっとだけ見えたかな」

 吾朗は母と目を合さないようにして、そう答えた。

「この事は絶対秘密ね。年甲斐もなくあんな派手なパンツ履いてるなんて、きっと、母さん笑いものになるわ」

「わ、分かりました。秘密は守ります」

「それよりも吾朗、今のうちに走って逃げなさい。あいつは未だ活動を止めていません」

「そんなバカな。母さんの必殺の蹴り技を食らって、まだ動けるなんて」

「ダークナイトは、地球外戦闘知性体よ。人間の常識は通じません。あいつが動かないうちに早く!」

「分かりました。僕がいると足手まといになるのですね……」

「吾朗も修練に励んでいるのに悪いけれど、吾朗の技量じゃ、反って戦いの邪魔になるの。ごめんなさいね」

「分かりました。ではに帰って、お祖父さんに知らせます」

 そう言うと吾朗は、道の門を曲がると、走って行った。

「これで、心置きなく、勝負できますわね。ところで、そこの皆さんは、ただ観ているだけなのかしら」

 すると、壁に渦巻状の亜空間ゲートが現れ、ピエール伯爵達をはきだした。

「我輩たちの気配を察知するとは、相当の技量の持ち主。この国は、目を見張るモノが多いのう、卿よ」

「御意にございます、閣下」

「先の男といい、子供を逃したお主といい、自分の生命を投げ出して他の者を護るなど、不思議な行為だ」

「あなた方には種の保存という概念は無いのですか?」

 優奈はいつに無く厳しい口調で問うた。

「種の保存。何の事か全く理解できん。ダークナイトは工場で自動で生産されるのだ。そしてその生涯は、己がどこまで強くなるかを極めるためにあるのだ。我々自身では、子供を残す事が出来ん故のせいかのう……。おっとお待ちかねのショータイムのようじゃのう。ようやく息を吹き返したかやはり、紛い物は紛い物よのう」

 ピエール伯爵の一言で、DK6が再稼働を始めた事が優奈にも分かった」


「殺す、殺す。団優奈、殺す!」


 コンクリートの電柱に埋もれていたDK6が両腕で、ねじ曲がった首を元に戻すと、再び動き出し立ち上がった。

「やはり、あの程度では落ちませんか」

 立ち上がったDK6をみて、ガナード子爵は、

「あの女の攻撃をしのいだのでしょうか。地球産のダークナイトも、なかなかに侮れませぬな、閣下」

 と、進言した。

「そうじゃのう、頭の隅にでも留めておこう」


 その時、天の中心が穴を広げると、巨大な握り拳が降ってきた。それは、優奈とダークナイト達が対峙していた道の真ん中に拳を叩きつけたのである。その瞬間、きらびやかな紋様が書かれた光の魔法陣がその場に広がるとともに、辺りが異様な気配に包まれた。

「む、これは亜空間結界か。我々以外に、これを使えるのは、……まさかBJか」

 ダークナイト達が事態を確認している間、優奈は我知らず、吾朗の気配を追っていた。結界が生成された瞬間に吾朗の気配は消えていた。きっと逃げおおせたのであろう。優奈は安堵した。

 しかし、優奈が安堵した瞬間、僅かなスキが出来てしまった。蘇ったDK6が、無防備な死角から高周波ソードの攻撃を受けようとしたその時、「キン」と美しい調が夜道に響いた。

 そこに立っていたのは、夜の闇よりなお暗い、漆黒の甲冑を纏った騎士であった。

「ようやく現れたのう、BJ。この状況を、どう覆すか? 見ものよのう。ハッハハハハハ」

 結界の中には、ピエール伯爵の笑い声が木霊していた。




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