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漆黒の騎士(2)

 麟太郎たちが、やっとのこさで就寝に入ったころ、リキュエール子爵は自分の執務室で、豪奢な椅子に座っていた。人間を虫けら並みに扱い、容赦なく殺傷するダークナイトにも、怒りや悲しみ、愛のような感情もある。また、身体能力的には、強力な再生力を持っており、些細な傷などはすぐに治ってしまう。さすがに大きな怪我であれば、医局の特別医療室に入院しなくてはならないときもあるが、子爵の場合は、たかが左腕一本である。ダークナイトの身体再生能力をもってすれば、かすり傷も同然のはずだった。しかし、左腕の再生が始まらない。それは子爵の左腕を粉々にした男、『BJ』と守護獣がそれほどの能力を持っていることを示している。

 さらに、『BJ』と切り会わせた時、子爵はその場から一旦退いた。普段の子爵であれば、彼の剛剣でもってそのまま押し切っていただろう。しかし、それはできなかった。何故……それは、子爵の剛剣が奴のジャックナイフによって傷をつけられていたからである。あと一振りでもしたら、真っ二つに折れていただろう。子爵の称号を持つ自分が、そんな恥ずかしい真似を出来るわけがなかった。しかもあそこには、人間の子供もいたのだ。

 リキュエール子爵はBJとの戦いを思い出す度に、憤怒は身体中を巡り、強烈な痛みを伴うはずの左手は何も感じず、子爵の怒りを増幅するだけだった。

『ドン』

 と強烈な音が回り中に響いた。子爵のあるはずのない左手がが、テーブルを叩いたのである。それぼどBJに対する怒りは大きかった。

 ドンと再び音がなった刹那、リキュエール子爵の執務室へ入って来たのは、深紅の甲冑のダークナイトであった。ダークナイトとしては、少し小柄な男ではあったものの、その殺気たるや凄まじいものであった。

「ノックも無しで、お部屋に入りました無礼をお許しください」

「ハインド男爵か。そんな慇懃な態度はもうするなと言っておいたはずじゃぞ」

「申し訳ありません。リキュエール様に剣技の教えを受けていた頃からの癖ですので。なかなかに、直りませんで」

「そんなこともあったか……。ハインド、お前も我に着いてこなければ、今ごろは伯爵の爵位を授かっていたろうに。不憫をかけるな」

 リキュエール子爵は、さも済まなさそうにこう言った。

「リキュエール様、そんなことはありませぬ。リキュエール様に拾っていただいていなければ、私は路傍の石と成り果てていたでしょう。……それにしても、BJと言う男。リキュエール様にこのような手傷を負わせるとは。何と憎い男よ。リキュエール様、私にご命令を。BJを倒せと命じて下され。そして、あやつの左手をリキュエール様にご進呈いたす権利を私にお与え下され」

 リキュエール子爵の表情はマスクで隠され定かではなかったが、その目は、怒りに燃えていた。

「ハインドよ! 我のような老いぼれではあのような小童一人倒せぬとぬかすか!」

 リキュエール子爵の恫喝にハインド男爵は、一瞬怯んでしまった。

「リキュエール様、小心者の戯言と思し召しを。それよりも、早く治療室に。リキュエール様の負った傷は決して浅くはありませぬ」

 リキュエール子爵は、立ち上がると、ハインド男爵に一瞥を与えた。

「お主、我の治療の間に、BJを倒すつもりであろう」

「リキュエール様に嘘は通じませぬな。お考えの通り、私もBJと言う男と戦いとうございます。子爵級のダークナイトをここまで追い詰めるその技量を、我が身でもって味わいとうございます」

「我もそうだが、お主も相当好き者じゃな。よろしい、ハインド男爵よ。このリキュエール子爵が命じる。BJを探し出し、その左手と生首を我に献上せよ。期限はそうよのう……この我の腕が治るまでとしよう。出来るか?」

 ハインド男爵もマスクを着けていたが、その表情はきっと歓喜に充ち溢れたものであったろう。

「ご下命、確かに承り申した。必ずやBJの首を左手を、献上しましょうぞ」

「それから、ジャービールをお主に任せよう。あやつも、BJの守護獣に煮え湯を呑まされておる故。今しばらくは、我の代わりと思うとけ」

「ははっ、有り難き幸せ。必ずやご吉報をお伝えします」

「うむ、期待しておるぞ」

 そう言うとリキュエール子爵は、席を立ち、治療室へ向かったのだった。

 残されたハインド男爵は、歓喜にうち震えていた。

「は、はは、はははははは。これで戦える、あのBJと。何と言う歓喜。何と言う喜び。リキュエール様。よくぞ、このような栄光を私に与えてくれ申した。BJよ、私の全ての秘技でもって、屍にしてやろうぞ。このハインド男爵が」

 執務室には、笑い声で満たされていた。

 だが、ハインド男爵よ。如何にしてBJを誘い出す。その秘策は、もう既にハインド男爵の脳髄に出来上がっていた。



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