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白き聖衣(6)

 防衛省の開発チームでは、単機では敵わなくとも、数機の連携でダークナイトと互角の闘いが出来る戦術システムの開発を急いでいた。

 亜空間結界を壊るなど、ホワイト・クロスJ型の改良・開発はなおも続行中だった。


「で、この前の戦闘で、『破砕渦動榴弾砲』が、ダークナイトの結界を突破するのに効果があることが証明された訳だね」

 陸上自衛隊の開発室長の、田野倉一佐が確認するように部下に訊いた。

「はい。やはり亜空間には亜空間をもってしか対応出来ないようです。しかし、一発の榴弾を作るのに、膨大なコストと時間がかかります。闇の格闘技の使い手のように、生身で使える方法があれば、助かるのですが」

「バカな事を言うんじゃない。闇の武術の使い手は、現代ではホンの少ししか残っていない。宮内庁からの情報があったればこそ、闇の武術の科学的応用が出来たのであって、その逆をするのは、それこそコスト的に莫大な費用がかかる。その上、まかり間違うと、この国そのものが無くなるかも知れんのだぞ」

「すいません。失言でした」

「うむ。今回は不問としよう」

 田野倉一佐は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「ただ、彼等──闇の武術の使い手達に共通するのは、プラズマを発生させ、亜空間断層を作り出すことです。これが、我々の科学で再現できれば、ダークナイトにとって、有効な手段となることに違いありません」

 田野倉一佐は報告書をめくりながら、部下に話した。

「プラズマの発生までは、可能だったわけだな」

「はい。自由電子レーザーを交差することにより、プラズマ球を発生させられる事は、実験で確認済みです。あとは、これを自在に操ることができればいいのですが。各流派によって使い方が様々で。現在、科学的に応用が可能な方法を検討中です」

 部下の報告を訊いて、田野倉一佐はさらに険悪な顔をした。

「米軍では、そのノウハウは既に開発されたとのリーク情報があった。その辺はどうなっておるか」

「こちらも、表と裏とから、調査中なのですが、重要秘匿事項となっているせいか、中々進んでおりません。恐らく、亜空間通信を利用してダークナイト達と共闘しようとしたものと思われます」

「それが、あのダンマリの理由か」

「恐らくは」

「つまりは、USAは既にダークナイトの亜空間テクノロジーとナノマシンマテリアルを手に入れていると言う事になるな」

「これも想像ですが、紛争地域にダークナイトを送り込んで、紛争の長期化を狙っているものと考えられます」

「そうして、武器は更に売れるようになる……と言う事か。やつらの考えそうな事だな」

「せめて、少しでもJ型機の生産コストが下がれば、広範囲での配備も可能ではあるのですが。現状では、USAから輸入するしか方法がないブラックボックスが多数ありますので、我々でコントール出来ないのが実態です」

「それも、やつらの狙いの一つ、と言うことか」

「恐らくは……」

 部下の報告に、田野倉一佐は、更に顔をしかめた。

「その意味では、先日入手できたダークナイトのサンプルは貴重だ。分析を急がせろ」

「了解であります」

 そう言うと、報告をしに来た士官は敬礼をして部屋を出た。



 その頃、団家では、麟太郎の伯父である海堂武史の歓迎が行われていた。

「こら、俊作、もっと呑め。お前は若いんだろ。人の金で呑めるうちは、呑めるだけ呑むのが、我等の一族だ」

「に、兄さん、ちょっとピッチが早すぎですよ。明日、起きられなくなりますよ」

「俊作は、いつまで経ってもこうだから、出世できんのだ。ほれ、もう一本開けるぞ」

「お義父さんまで」

 麟太郎の父、俊作が帰ってきた頃には、既に弦柳も武史も何本かビールを開けていた。お淑やかに見える鈴華ですら、淡々とビールのグラスを口に運んでいた。

「あら、気付きませんでしたわ。お伯父様、お注ぎしますね」

 と言うと、コップになみなみと酒が注がれるのである。

「おつまみの追加、出来ましたよ。あらあら、俊作さんたら、また絡まれているのね」

 吾朗の母──優奈が、枝豆や刺し身を盛った盆を持ってきたところだ。

「優奈義姉さんからも何とか言ってくださいよ。僕は一族の中でも、そんなに優秀じゃないし、酒豪でも無いんですから」

 それに対して優奈は、

「まぁ、そんな堅いこと言うもんじゃありませんよ。今度は私がお注ぎしますから。ちょっと待ってて下さいね。これを処理してから……はいどうぞ」

 と、自分の分の酒を呑み干すと、俊作に薦めたのである。

「麟太郎、そんなとこで枝豆食ってないで、父ちゃんを助けろ」

「ゴメン、父ちゃん。俺達未だ未成年なんで、助けてやれないや」

「叔父さんも、観念して呑んだらどうです」

 と、麟太郎も吾朗も、あてにならなかった。妻の秋奈でさえ、

「全く家の主人ときたら、軟弱で軟弱で。……あら、鈴華ちゃん、済まないわねえ。こっちもお返しに注がせてもらうわ」

「伯母様、いただきます」

 と、少し赤みがかったくらいで、鈴華とビールを注ぎあっているのである。

 会社では、どちらかというと呑助で接待上手の俊作でさえ、団の一族の中では下戸扱いであった。

「ん? ビールはもう空か? おい、優奈。奥に焼酎があっただろう。済まんが持ってきてくれんか」

 と、弦柳は、長女の優奈に頼んだ。

「分かりました、お父さん」

 と、言って優奈は立ち上がったが、俊作の方は、

「これだけ呑んでおいて、まだ焼酎を呑むんですかぁ。僕は明日も会社があるんですよ。二日酔いで出勤なんて出来ませんよ。そろそろ勘弁して下さい」

 と、周りから弄ばれている始末である。

「しょうがないなぁ、俊作は。あ、お義父さん、どうぞ」

「おお、済まんのう」

 と、武史も弦柳も底無しに呑むのである。

 麟太郎と吾朗も、久し振りに豪華な食事だったので、呑む呑まないに関係なく、テーブルのつまみを食い漁っていた。



 一方、ダークナイトの居城では、ピエール伯爵が、ガナード子爵や騎士侯らと宴の席を設けていた。

 永久機関を内蔵するダークナイトにとって、基本的に飲食は不要である。しかし、彼等を創造した異世界の人類はそうではなかった。そのため、勲功をあげたダークナイトが、宴の席にも出られるように、食事が出来るようになっていた。

「ガナード卿よ。これは何という飲み物だ? 芳しい香りと適度な酸味。更に奥ゆかしい飲み心地がする」

 この問に対して、ガナード子爵は、

「これは『ワイン』という飲み物でございます、閣下。原料のブドウの出来や、その後の製法により、細かく格付けされ、取引の値段にも影響するとの事でございます。この度の物は、欧州のサリエル侯爵様から、騎士侯達と共に賜ったものにございます」

 と、告げた。

「なるほど、サリエル卿からの頂き物であったか。道理で気品高い味わいがするはずである。こちらでも、お返しになるような、何か良き飲み物を探しておかなくてはならぬのう」

「御意にございます」

 と、宴もたけなわであった。


 このように、ダークナイトも飲食が出来ることが、地球人類の知ることとなるのは、まだ先の話であった。




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