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白き聖衣(5)

 麟太郎と吾朗達が団式合気術の奥義の修練を続ける一方で、自衛隊の開発部では優奈が回収したダークナイトの腕と長剣の分析が進められていた。また、ホワイトクロスの戦闘記録の分析により、亜空間結界への対処法の解析も徐々にではあるが行れていた。

 欧州のCERN跡地の暗黒空間のデータも徐々に開示され、各国ではダークナイトの出現パターンの分析と回避方法の検討が急がれていた。



 一方、団家の道場には、弦柳と三人の孫達が集まっていた。

「団式合気術の裏奥義には、三段階のレベルがある。一つ目は、今やっている体電気を使う技じゃ。電気ショックを使って、大勢の敵も一気に殲滅できる。だが、これはダークナイトには、必ずしも効果がある訳では無い」

 弦柳は三人の孫達に、団式合気術の裏奥義の説明をしていた。

「二段回目は、この体電気を体外で収束させる事によって発生する高温のプラズマを使う技だ。プラズマは、一段階目の電気放電よりも遥かに高い破壊力を持っておる。使い方によっては、素手で戦車や戦闘機を破壊することも可能じゃ。そして、最後の三番目の奥義が、プラズマの収束を利用して亜空間断層を作る事で得られる技じゃ。亜空間断層は、先日わしが、ダークナイトの亜空間結界を切り裂いたような事が出来る究極の奥義じゃ。ここまでのレベルに到達できないと、裏奥義を完全に習得できたとは言えん。口で言うのは簡単じゃが、実際に習得するには、かなり厳しい修行を必要とする。お前達に出来るか?」

 弦柳は改めて孫達に訊いた。三人とも、躊躇なく頷いた。

「よし。では、最初の体電気を発生させる修練からじゃ。いつまたダークナイトに襲われるかも知れん。心してかかるのじゃぞ」

 そうして、朝の修練が始まった。


 その日の夕方、団家に──正確には、海堂の家に一人の訪問者が来ていた。

 玄関のチャイムに出たのは、麟太郎の母、海堂秋奈であった。

「やぁ、秋奈ちゃん、久しぶり」

「誰かと思ったら、武史義兄さんじゃないですか」

 彼は、麟太郎の父──海堂俊作の兄、海堂武史であった。武史は、団式合気術の使い手として、陸上自衛隊で隊員訓練の教官をしていた。

「あ、伯父さん、こんにちわ。何かあったんですか?」

 麟太郎である。正月やお盆の時に帰ってきては、小遣いをくれる武史は、麟太郎の頭の上がらない人物の一人でもあった。

「俊作はまだ帰っていないのかい」

 武史は、弟の俊作の事を尋ねた。

「もう、この時間ですから、そろそろ帰ってくると思いますが」

 と、秋奈が答えた。

「そうかい。実はちょっと任務があって、ここに派遣されて来たんだ」

「義兄さん、何の任務なんですか?」

 と、秋奈が訊くと、武史はこう応えた。

「この家に泊まって、君達の護衛をすることだよ。先日は秋奈ちゃんもダークナイトに襲われたそうじゃないか。それで、ちょうど私がいたものだから、特殊任務の辞令が出てね。さっき、義父さんにご挨拶をして来たばかりだよ。それはそうと、襲われた時に、ダークナイトを撃退した上に、貴重なサンプルを回収したそうじゃないか。まぁ、現場の指揮官は、君にきつい事を言われたせいか、ヘコんでたけどね」

「そんなことまで伝わってるんですか? はずかしい。あ、あれは、ほとんど優奈姉さんのお手柄ですから」

「でも、彼は、民間人のはずの君達が、自力でダークナイトを撃退したって事で、始末書を書かされていたよ。この辺の駐屯地でも、君達の事は、生きた伝説として噂になってるよ」

 と、武史は続けた。

「でも、報告書で笑っちゃたのは、夜にダークナイトがやって来て、玄関のチャイムを押したんだって?」

 それに対して、秋奈は少し苛ついた様子で応えた。

「笑い事じゃないですよ。夜遅くにやってきて、何度も「ピンポン、ピンポン」されたんですよ。迷惑な話です」

 これに対して、武史はクスクスと笑いながら、

「でもダークナイトの力があれば、チャイムなんか押さなくても、門とか塀とかぶっ壊して簡単に侵入できるじゃないか。それを、玄関でピンポンなんて、もう大笑いだよ」

「まぁ、確かに塀とか壊されると、そっちの方が迷惑ですけどね。もぅ、何で家だけがこんな面倒な事にならなきゃ何なんでしょう」

「それはね、うちの家族だけがダークナイトに接触しても、五体満足でいるからさ。普通は簡単に殺されちゃうからね。まぁ、それだけ団式合気術の技が凄い事でもあるんだが」

 と、武史は、少し真面目な顔をして言った。

「私の後にも、護衛兼門下生として、隊員が数名来ることになっている。義父さんにも事情を話してあるが、向こうの家でも部屋が足りてないからね。せめて私だけでも、実家に泊まらせてもらおうかと思って」

「それならそうと言ってくれれば、お部屋の準備とかするのに。義兄さんも他人行儀なんだから」

「秋奈ちゃん、ごめんごめん。急な辞令でね。こっちに知らせる暇が無くって。あっと、それからこれお土産。久しぶりだから、俊作や義父さん達と呑もうと思ってね」

 と、武史が差し出したものは、缶ビールだった。

「それじゃぁ、冷蔵庫で冷やしておきましょう。って、いくつあるんですか? どんだけ呑む気ですか」

「私らが酒豪で底なしなのは知っているだろう。本当はもうちょっと買いたかったんだけどね」

 と、武史は、何でもないように応えた。

「あんまり呑んでると、肝臓をやられますよ。もう若くは無いんですから」

「ははは、もう年寄り扱いかい。折角、独身貴族を楽しんでるんだから、勘弁してよ」

 そう秋奈に応えた武史は、今度は麟太郎の方を向くと、

「麟ちゃんも、久しぶり。大きくなったねぇ。中学の頃はちっちゃかったのに」

 と言いながら、小袋を出して麟太郎に渡した。

「あんまり入ってないけど、お小遣いだよ」

「わぁ、伯父さん、ありがとう。今月、お小遣いピンチだったんですよ」

 と、喜ぶ麟太郎に、武史は、

「麟ちゃんも、吾朗ちゃん達と奥義の修練をやってるんだって? 鈴華ちゃんから訊いたよ」

「そうなんだ。まだ初歩の初歩で、全然なんだけど。俺も強くなって、鈴姉ぇを守りたいんだ。それで、ヨーロッパへ行って、鈴姉ぇやダンゴのお父さん達を助けるんだ」

 それを訊いた武史は、少し厳しい顔をすると、

「済まないな。本当は伯父さん達が、君らを守ってあげないとならないのに。伯父さんも、明日から修練をさせてもらおうと思ってたところだ。一緒に頑張ろうじゃないか」

 麟太郎はそれを訊くと、

「伯父さんも、裏奥義を習得してるんですか?」

 と、尋ねた。

「せいぜい、第二段階までまでだけどね。俊作は、体質が合わなかったのか、第一段階の習得もできなかったけれど」

 それを聞いた秋奈は、

「もう、家の主人ときたら、軟弱すぎるんですよ。幸い、麟太郎には、その素質があるようだけど。ダークナイト騒ぎが無かったら、こんな乱暴で礼儀知らずの子には、伝授させないようにと思ってたんですけどね」

 と、秋奈が言った。

「母ちゃん、そこまで言う事は無いだろう」

 麟太郎が抗議の声をあげると、武史は、

「まぁ、時代が時代だからねぇ。二千年近く、影で皇室を護ってきた私達も、呑気にはしてられなくなったって事だからね。私は、平和な時代が続いて、団式合気術なんてものが消えてしまっても仕方がないかとも思っていたのだけど……。まぁ、兎に角、適当な部屋でいいから貸してくれないかな。取り敢えずの着替えなんかは持ってきたんだけど、後から大物が宅配便で着く事になってるから」

 そこで、秋奈はやっと自分たちが玄関先で話している事に気が付いた。

「ごめんなさい、義兄さん、玄関先で。兎に角上がって下さい。お部屋は、いつものところが開いてますから。すぐ掃除機を掛けますから、荷物は一旦リビングにでも置いといて下さい」

「済まないね秋奈ちゃん」

 武史はそう言うと、手荷物を持って、海堂家に上がった。リビングに消える武史に、秋奈は憂いを帯びた眼差しを送っていた。

 実は、武史は、秋奈の初恋の人だったのである。何の因果か、結局は弟の方の俊作と結婚して麟太郎をもうけたが、その恋心が完全に消えた訳ではなかったからだ。

(ダメダメ。私にはもう俊作さんがいるんだから。それに、こんなおばちゃんになっちゃた私なんかに振り向いてくれるはずもないし)

 と、秋奈は自分に言い聞かせた。



 しかし、ダークナイト出現の意味は根深かった。まさにそれこそが、合衆国の産軍共同体の、意志であったからだ。




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