白き聖衣(4)
優奈と秋奈がダークナイトに襲撃されていたた時、吾朗達は道場で裏奥義の伝授を行っいた。
「団式合気術の極意は、体内電気を自由に操ることにある。これすら、団家の血筋の中でも限られた者しか出来ないことだ。今からわしがお前たちの体に触れてゆく。その時に電気ショックのようなものが身体を駆け巡るだろう。だが、これに耐えらなければ、奥義は伝授できん。皆、心して耐えるのだ。
麟太郎、吾朗、鈴華も、いつになく緊張していた。
弦柳は、まず麟太郎に触れた。
「うっ、ぐうわぁ。すげえ電気ショックだ。祖父ちゃん、こんなので裏奥義が伝授されるのかよう」
珍しく麟太郎が、悲鳴をあげた。
「よし、次は吾朗だ」
弦柳がそう言うと、吾朗の右肩に触れた。全身に電気ショックがはしる。その電撃に吾朗は黙って耐えていた。
「最後は鈴華だ。耐えられそうか?」
鈴華は苦悶に懸命に耐えていた。
「三人とも、大丈夫か」
弦柳の孫達を見つめる目が、いつになく苦悶に歪んでした。
「こんなの平気さぁ。だって、これは初歩の初歩なんだろう。こんな初っ端でへばってられるかい」
残りの二人も、麟太郎と同じ目をしていた。
(まずはここまでは合格か)
「それでは、各自の体内電気を放出できるかやってみろ」
それを聞いた吾朗は、右手を胸元まで持ち上げると、手の平を少し開いて、神経を集中させた。すると吾朗の指の間に電流がほとばしるの見えた。
「うお、ダンゴすげえ。よし俺もやってみよう」
そう言うと麟太郎も、指を広げて見た。小さい火花だが、指の間に電気がスパークした。
「やった、やったって。俺凄くない」
自画自賛をする麟太郎の前で、鈴華は両の腕を広げると、拳と拳のあいだに、強烈なスパークが走って。
「鈴姉ぇ、凄いや」
と麟太郎達が驚愕すると、
「わたしは、この前から、お祖父様と特訓をしてたのよ」
「ええ、それはズルいよ」
「大丈夫よ。二人が危ない目にあったらわたしが助けてあげるから」
鈴華は、ニッコリと微笑むと、麟太郎と吾朗を見た。
「うむ、短い時間でここまでの体電気を発っせられるようになるとは。日頃の精進の賜物だな」
鈴華を見ていた麟太郎と吾朗は、自分たちも負けずと、体内電気の放出量を、賢明に上げろうとしていたが、まだ、線香花火のようだった。
「なんだよ、これ。全然大きくならないじゃないか」
麟太郎が弱音をはくと、弦柳の激が飛んだ。
「だからこそ、団式合気術の裏奥義の伝授には修練の他にも、持って生まれた資質がいるのだ。さっきの電気ショックでも、電気を放出されることすら容易でもない者もいる。麟太郎も吾朗も才能十分じゃ」
麟太郎は汗だくになりながらも、体電気の放出訓練を続けていた。
吾朗の方も、体電気の放出を行なっていた。しかし、その量は麟太郎を超えていた。量の手の平で電撃を放つと、少しずつではあるが、手と手のあいだに、弱いものの電流がほとばしっていた。
「さすがは吾朗だな。初歩の初歩でここまで出来るとは。麟太郎よりも資質に恵まれているやも知れん」
そんな吾朗を見て、麟太郎は負けん気を出したように見えた。
「くっそぉぉぉぉ。ダンゴに負けてばかりいられるか。俺だって強くなって、鈴姉ぇを守るんだ」
そう気合を入れると麟太郎の体電気を、その放出量が増え始めた。
一時間くらい経ったころだろう。弦柳は、修練を止めさせた。
「今日はここまでだ。皆、素晴らしい上達ぶりじゃった。体電気の放出は、思っている以上に体力を消耗する。三人とも帰って食事にしなさい」
そう言う弦柳に対し、麟太郎たちは「ありがとうございます」と言って、その場に座り込んだ。
「思ったよりもスゲェキツイなぁ」
そう言う吾朗に、鈴華は、
「団式合気術の極意はもっともっと深いのよ。今やったみたいな体電気の放出でも、人を殺すことも出来るの。ちゃんと、節度を持って使わなけりゃいけないのよ」
「分かりました、鈴華さん」
「俺だって分かってるよ。しっかし、初歩の初歩でまだこんなんなんて、いつ奥義を習得出来るのやら。先は遠いなぁ」
「麟ちゃん、そう思ってるなら、たくさんご飯を食べて精を付けなきゃ」
「そうだそうだ、飯だよ飯。たくさん食って、体力も付けなきゃ」
「そうね、二人とも今日は頑張ったもんね」
鈴華の言葉を聞いて、ますます修練に励まなくては、と、麟太郎は心に刻み込んだのであった。
次の日の朝早く、道場に人の気配があった。
吾朗は不信に思って、道場の中を除くと、麟太郎が修練をしていたのである。あの、朝寝坊で修練の嫌いな麟太郎がである。
「麟ちゃん、こんな朝から修練かい?」
「おう、ダンゴか。何か今日早く目が覚めたから、昨夜の感覚を忘れないうちに練習しとこうと思ってさ」
「そっか。じゃぁ僕も付き合うよ。5分ほど待っててね」
「5分も待ってられるか。俺は修練を続けているからな」
「はいはい」
と吾朗は更衣室に入ると、寝巻から稽古着に着替えた」
「遅いぞダンゴ」
「ごめん。ごめん。朝は弱いんだ」
と吾朗はお茶を濁した。
「ダンゴ、見てくれよ。ここまで体電気を使えるようになったんだぜ」
麟太郎はそう言うと、昨夜鈴華がしたように、両脇に広げた拳の間に、電撃を発生させて見せた。
「凄いじゃないか! 麟ちゃん。もうそんなとこまで出来るようになるなんて。こりゃ僕もうかうかしてられないな」
吾朗はそう言うと、柔軟体操をして、身体をほぐし始めた。
しばらく、二人で修練をしてると、誰かが道場に入る気配があった。
鈴華である。二人が修練をしているのを見て、冷えた麦茶と、おにぎりを持ってきたのである。
「麟ちゃんも吾朗ちゃんもそろそろ終わりにしたら。ちょっと手抜きで申し訳ないけど、朝ごはんを持ってきたわよ」
「鈴姉ぇ、サンキュウ。て、こんな時間かよ。学校に遅れちゃいそうだ」
「だからこれ食べて、行ってらっしゃい」
「はい、ごちそうになります」
鈴華の心境は、従兄弟の二人が強くなるのも嬉しかったが、またダークナイトの襲撃にあうのでは無いかとの心配で複雑な心境だった。
そう思うと、鈴華は自分が真っ先に習得して、二人を守らなくてはと、思っていた。