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月夜に光る仮面(5)

 対峙する二人のダークナイトを、天上の月が静かに照らしていた。


 今、麟太郎はBJの守護獣──ギリオンに守られていた。残りの二人も、同じくBJの守護獣に守られているという。恐らくあの巨大な腕達であろう。

 麟太郎は、二人のダークナイトの戦いを凝視していた。BJの戦いはこれまで何度か見ているが、今回のBJは先ほど麟太郎が男爵との戦いでとった構えと同じものである。あの構えから、どんな技が繰り出されるというのだろうか。

 一方のキリア男爵は、両腕を下に下げた自然体である。その指からは鋭いナイフのような爪が長く伸びていた。

「お主も、あの子供と同じ技を使うのであるか? 小生には一度使った技は通用しないのである」

「ならば卿よ、その身で確かめてみるか」

 二人のダークナイトの間を風が吹き抜けたような気がした。

 麟太郎には、BJの姿が一瞬揺らいだように見えた。しかし、それは残像であった。BJは目にも止まらぬ速さで、キリア男爵の懐に入り込むと、下から斬り上げるように斬撃を放った。

「やはり同じ技ではないか。これは右手で押さえつければ、引き込まれる事はないので、ムグ……」

 男爵がBJのナイフを防いだ時、彼の顔をBJの右手が掴んだのである。そのまま男爵の頭を地面に叩きつける。物凄い音がして、キリア男爵の頭がアスファルトの地面にめり込んだ。周辺の地面にも亀裂が入る。

「うっ、グウウウ。なんと言うパワーだ。小生の歪曲空間を切り裂いたことといい、今の技といい、す、すこぶる興味深いのである」

 キリア男爵はそう言うと、ようやく地面から起き上がった。甲冑の兜が無様に歪んでいる。男爵はよろよろと立ち上がったが、再度地面に膝まづいてしまった。

「その子供が言っていなかったか。これは鎧をすり抜けて、直接内部に破壊力を送り込む技だと」

 キリア男爵は、片手で頭を押さえると、苦鳴をあげた。

「いかに貴様でも、電子脳のダメージはすぐには回復しまい。続きをするか?」

 そう訊かれた男爵は、ふらふらと立ち上がると、BJを睨みつけた。

「小生にここまでのダメージを与えたのは、お主が初めてなのである。至極興味深いのである。興味深いのであるが、小生の今の状態では、お主を連れ帰る事は出来ないのである。ここは一旦、引くとしよう。BJ、その名前、心に刻んだぞ」

 キリア男爵は、そう言うとすぐ側に出来た、黒い渦巻状の亜空間ゲートに吸い込まれていった。そして、再度、あの空間がねじ曲がるような不快感を麟太郎は覚えた。


 気が付くと麟太郎は橋の側の地面にうずくまっていた。BJも守護獣もいつしか姿を消していた。気が付くと、すぐ傍らに吾朗と恵が同じようにうずくまっていた。

「ダンゴ、お前達無事だったのか」

「か、かろうじてね。大きな左手さんが守ってくれたよ。恵ちゃんは大丈夫?」

 吾朗は恵に体調を訊いた。

「うん、ちょっと未だ気持ち悪いけど……。皆助かったんだね」

 気が付くと、時刻はまだ4時半頃である。夕日というには未だ高い太陽が、地面を照らしていた。

「ダークナイトってのは、夜しか行動できないのじゃないのか。昼日中に襲って来るなんて、聞いてないぞ」

 麟太郎はむせながらそう言った。

「きっと、歪曲空間を作って、夜の時刻の場所と繋いだんだよ。地球上の半分はいつも夜だからね」

 と、吾朗が言ったのに対し、麟太郎は、

「そんな事言ってたら、一日中外に出られないじゃないか。しかも、あいつは男爵だぞ。下っ端じゃないか。あいつらの中には、伯爵とか公爵とか、もっと凄いのがいるんだろう。こんなんで、俺達は勝てるのか?」

 と、地面を叩きながら言った。自分のすぐ側の者も守れない。そんな情けなさが、麟太郎を押し包んでいた。

「くっそう、早く祖父ちゃんに、必殺技を教えてもらわなきゃ」

 麟太郎はそう言うとすっくと立ち上がった。

「凄い体力だね、麟ちゃん。僕なんかまだ動けないのに」

「へっ、それは日頃の修練が、……て、あれれれ」

 と言うと、麟太郎はまたもや地面にひっくり返った。吾朗は麟太郎を起こして座らせると、

「もうちょっと休んでからにしようよ」

 と言った。

「は、はは。そうだな、ダンゴ」

 と、そう言うと、地面にあぐらをかいたのである。


 少し休むと、麟太郎と吾朗は動けるまでに回復した。しかし恵はまだ立つことも出来ないようである。

「恵ちゃん、家まで送るね」

 吾朗がさわやかな笑顔で、恵に言った。

「で、でもダンゴくん。わたしまだ立てないよう」

「そういう時はこうするのさ」

 吾朗はそう言って腰をおとすと、恵に背中を向けた。

「えっ? おんぶ? ええっと、ダンゴくんだってしんどかったのにそんなのさせられなよお」

「ごめんね。本当は姫抱っこがいいんだろうけど、今はそれだけの体力が無いから」

「ええ、姫抱っこって、そんなの恥ずかしいよぉ」

「じゃぁ、おんぶってことで」

 恵はかなり長い間逡巡していたが、意を決したのか、吾朗の背中におぶさった。

「わたしがここでグズグズ言ってたら、また襲われるかも知れないんだよね」

「そうそう。これは不可抗力だよ」

 そうやって、恵を背負って歩く吾朗に麟太郎は声をかけた。

「ダンゴ、しんどかったら俺が代わるぞ」

「それはわたしがヤだ」

 恵である。好きでもない男に身体をくっつけるのは嫌らしい。

「ああ、そうかいそうかい。じゃぁ、家までダンゴに送ってもらえ」

「ええ、分かってるわよ」

 売り言葉に買い言葉である。

(ダークナイト相手に、海堂くんも頑張ってくれたから、お礼を言いたかったのに。またケンカしちゃった。ダンゴくんもこんな女の子やだよなぁ)

 恵は心の中で後悔していた。


 恵を家に送り届けると、二人は道場への家路を急いだ。恵の母親には、貧血による立ちくらみと説明しておいた。

 だが予断は許さない。あの男爵は自分たちに興味を持ってしまった。今後、いつ襲われてもおかしくない。早く裏奥義を伝授してもらわなければ。二人は焦っていた。




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