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月夜に光る仮面(3)

 キリア男爵との邂逅以来、鈴華も修練に参加するようになった。ダークナイトへの危機感からからだろう。

 しかし、ダークナイトの亜空間テクノロジーに対抗するには、亜空間断層を自在に操る団式合気術の裏奥義を修めないとならない。そのためには厳しい修練とそれ以上に、天賦の才能が必要なのだ。



 麟太郎は、吾朗と石川恵と一緒に、家路についていた。

「何で、いっつもいっつも海堂くんが一緒なのよ。わたしは、ダンゴくんと二人で帰りたいのに」

 恵が不満を言った。それに対して、麟太郎は不貞腐れたように、言い返した。

「しようが無いだろう。そもそも、俺の家とダンゴの家は一緒の敷地に建ってんだよ。帰り道が一緒になるのは仕方が無いだろう」

「だったら、時間をずらすとかすればいいじゃない。図書室とか体育館とか、学校でいくらでも暇潰せるでしょう」

「やだよ。俺は強くなるために、早く帰って修練をするんだ。ダンゴも同じだ。実践組手を数こなさなきゃ、ちっとも強くならないからな」

 恵は吾朗と二人っきりになれないどころか、むしろ麟太郎の方とばかり喋っているのが我慢ならなかった。どっちが好きなのか誤解されそうである。

「ねぇ、ダンゴくんも何とか言ってやってよ」

 恵の提案に、吾朗は困り果てていた。

「僕も麟ちゃんとの組手をしたいから、一緒に帰ることになるんんだけどさ。ごめんね、恵ちゃん」

「じゃぁ、わたしも練習の見学する」

「えっ。道場まで来るの。帰りが遅くなると危ないよ」

「だったら、泊めてもらう」

 恵は、最初は友達からの筈が、今では押しかけ女房のようだ。

「泊まるなんて、ダメだよ。僕等が怒られちゃうよ。恵ちゃんのご両親だって心配するだろうし」

 吾朗が諭そうとすると、恵は目を潤ませて訴えかけた。

「ダンゴくん、わたしの事、嫌い?」

「いや、嫌いという訳じゃ無いけど……」

「じゃぁ、わたしの事、好き?」

「そこまで深い関係じゃ無いだろうが。な、ダンゴ」

 麟太郎がちゃちゃを入れてきた。

「海堂くんは黙ってて。っていうか、ウザイの。先に帰っちゃえば良いのに」

「何だよその言い草は。俺が悪いのかよ」

「悪い。わたしとダンゴくんの仲を割こうとする、悪の手先だ」

「何だよ。俺だって、お前をダークナイトから助けたんだぞ。生命の恩人に何て言い草だよ」

「そんなの知らないモン。さっさと行こうよ、ダンゴくん」

 恵は吾朗の腕を掴むと、強引に引っ張って行こうとした。

「ああっと、恵ちゃん。早いよ」

「これくらいの早足で歩いた方が鍛錬になるのよ」

 いつの間にか恵の論理は破綻していた。吾朗はしょうがないなぁという顔をして、後ろに顔を向けると、

「ゴメン、麟ちゃん。ちょっと離れて着いて来て」

 と、渋々頼んだ。

「ああ、そうかい。俺はお邪魔虫かい。わーったよ。後からコソコソ着いてってやるから」

 と明らかに不貞腐れた様子で返事をしたのだった。

「あーあ、もう麟ちゃんも。恵ちゃん、さっきのは言い過ぎだよ」

「ごめんなさい。でも、わたしダンゴくんと二人っきりで歩きたかったんだもん」

「それは、分かるけどさぁ」

 と、吾朗は恵をたしなめるのだが、結局は毎日がこんな調子だ。

(別に恵ちゃんが嫌いな訳では無いんだがなぁ)

 吾朗の最近の悩みはこれだった。いつの時代もどの世代でも、人間関係と云うものは思うようにはいかないものだ。


 夜には未だ早かったが、今日は雲が厚く太陽を隠して、薄暗かった。

 吾朗は、歩いているうちに妙な事に気がついた。もう恵との帰り道が別れる地点に着いてもいい筈なのに、一向に到着しないのだ。

(おかしい。ここはさっき通り過ぎた場所じゃないのか?)

 吾朗は後ろにいる筈の麟太郎を振り返った。

(いない。どうして)

 恵も吾朗の様子を見て、異変に気づき始めたらしい。

「ダンゴくん、ちょっとおかしくない? この場所、さっき通り過ぎた所じゃないかなぁ」

「ああ、僕もそう思っていたところだよ。それに、後ろから着いて来ている筈の麟ちゃんもいない。この道はおかしい」

 吾朗は先日鈴華が遭遇した、歪曲空間の事を思い出していた。

「もう少し先まで行ってみよう。本当なら、もう橋が見えてきてもいい筈だ」

「うん。分かった」

 恵は今度は恐ろしさから、吾朗の腕をしっかと掴んでいた。これではいざという時に咄嗟の行動が出来ないが、それは仕方がない。吾朗達はゆっくりと慎重に足を進めた。

 しばらく歩くと、前に学生服の少年がいるのに気がついた。二人は人影にゆっくりと近づいて行った。すると、目の前の人物が急に振り返ったのである。

「麟ちゃん。何でこんな所にいるんだい?」

 そう、前にいた人影は、後ろを歩いていた筈の麟太郎だった。

「あれ? 何でダンゴ達が後ろにいるんだ?」

「ええっ? な、何で海堂くんが前にいるの?」

 三人とも不思議がっていた。

「やられたな。歪曲空間に閉じ込められたらしい。ここを出るには、術者を倒すか、お祖父さんのような団式合気術の裏奥義を使うしか無い」

「えっ、何だって、ダンゴ。て事は、俺達、閉じ込められたって事か」

「そのようだね。出来るだけ離れずに、固まっていた方が良い」

 吾朗の提案に、麟太郎が頷いた。恵は不安そうに吾朗の顔を見上げていた。


 しばらくすると、前方の壁面に黒い渦巻状の空間が発生した。亜空間ゲートに違いない。そこから出てきたのは、以前チラッとだけ見たことのある、緑色のダークナイトだった。そいつは、麟太郎達三人を見やると、ふと考え込むような仕草をした。

「だ、ダンゴくん。あれってダークナイトだよね。わたし達、捕まって殺されるのかなぁ」

 恵が心配そうに吾朗の顔を見上げた。

「大丈夫だよ。僕達が必ず恵ちゃんの事を守るよ」

 吾朗にも何の確信は無かったが、恵を心配させまいと、こう明るく答えた。そして麟太郎の方を見ると、彼も力強くうなずいた。

「あいつ、この前、鈴姉ぇを襲ったやつだよな。そんなヤツに負けるか」

 三人がそうして恵を庇うようにかたまっていると、緑の甲冑――キリア男爵は、何か困ったように話しかけてきた。

「ふむ、小生はキリア男爵である。何か手違いがあったようだが、子供達よ、身に覚えは無いか?」

「そんなの、有る訳無いだろう。こっちこそ訊きたいよ。何で俺らが、こんな目にあってんだよ」

 麟太郎は当然とも言える反論を返した。

「ふむ、そうか。……この辺りに、不信な亜空間振動波をキャッチしたので、小生の術で封印したのだが、……勘違いか?」

「勘違いなんかで、俺達を閉じ込めたのか? 迷惑だから、開放してくれよ」

 麟太郎が、また怒鳴った。しごく真っ当な言い分である。しかし、キリア男爵は納得しなかったようである。

「ふむ。小生は、気になる事は徹底的に調べないと気が済まないのである。子供達よ、もうしばらく小生と付き合っては貰えないだろうか」

 男爵は提案をしているように見えるが、元々人類とは異質の知性体であるダークナイトが何を基準に判断しているかなど理解できる筈がない。それが出来たら、今までの殺人殺傷事件自体が発生しなかったであろう。ダークナイトにとっては人間など、ハンティングの獲物か、実験用の小動物くらいの認識しか無いのである。

 それを解っているのか、吾朗は押し黙ったまま、両手の拳を握り締めていた。

 一方の麟太郎は、その動物的な直感で、眼前のキリア男爵を危険な者と認識していた。だが、攻撃をする隙が全くない。ここにかたまって動かずにいるのが、最も安全な方法だと感じていた。それは吾朗も同じであった。

 一番まずいのは、恵を人質にとられる事である。恵だけは無事に帰さないとならないと、と二人は思っていた。

「では、小生の探求に協力してもらうとしよう」

 キリア男爵は、そう言うと、自らが纏ったマントを大きく翻した。三人は何か身体をねじ曲げられたような、嫌な浮遊感を感じた。吐き気を伴う不快感が全身を覆う。時空がねじ曲げれている。重力の方向が異常になり、三人の感覚を不快にくすぐった。

「何これ。……うぷっ、気持ち悪い」

「恵ちゃん大丈夫!」

 吾朗は自身も不快感に苛めれながら、恵を気遣って正気を維持していた。恵を地面に座らせると、後ろに庇うように膝まづいた。その前に、更に二人を庇うように麟太郎が立ち塞がった。

「ふむ、ではそろそろ始めるか」

 男爵がそう言うと、彼方から突風が吹き荒び、三人を襲った。

「うわっ、何だ」

 麟太郎が思わず両腕を交差して、受け身の姿勢をとった。だがそれも、ダークナイトの亜空間テクノロジーには無駄だったようだ。

 三人は、風によって吹き飛ばされると、バラバラになってしまった。


 気が付くと、麟太郎は、一人、地面に倒れていた。顔を上げると、少し離れたところから、緑の甲冑がこちらを観察していた。

 吹き飛ばされてから、どのくらいの時間が経過したのだろうか? 空は暗く晴れ渡り、月が煌々と辺りを照らしていた。

「くっ、しまった。貴様、ダンゴ達をどうした? 俺達に何をする気だ!」

 麟太郎は、眼前のダークナイトに気丈にも言い放った。

「何を言う、子供よ。残りはちゃんと別空間にそれぞれ隔離してある。さて、始めようではないか。これも実験だ」

 何の実験なのか不気味であるが、その意味を知ることを麟太郎には出来なかった。

「解剖でもする気か? そう簡単には思い通りにはならないぜ」

 麟太郎は不敵に薄笑いを浮かべると、立ち上がって男爵と対峙した。

「ククククク。頼もしいな、子供よ。では実験に入るとしよう」

 男爵はそう言うと、腰の剣を抜き、麟太郎の目の前に放おったのである。これで、戦えと言う事なのだろうか。

「けっ、上等だ。やったるぜ」

 麟太郎は無謀にも剣を拾い上げると、それを構えたのである。

 一方のキリア男爵は、素手。男爵は麟太郎に剣を振るわせてどうしようというのだろうか? 見上げると、半月に近い月が、男爵の道化の面を明るく照らし出していた。




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