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第8話 訪問者

ガタ・・・カラカラ・・・


扉の開く音で和彦は目を覚ました。



あれ?俺、寝てたのか?

今何時だ?



部屋の中は暗く、寝起きの和彦には分からないが、

実は時間はまだ午後8時。

食べては寝ての繰り返しの入院生活を送っていると、

体内時計もおかしくなる。


和彦は時間を確認しようと携帯電話を探して、

ベッドに横になったままサイドボートへ手を伸ばした。

廊下から差し込んでくる光が眩しすぎて、逆に視界がはっきりしない。



・・・廊下からの光?



和彦はガバッと身を起こした。


部屋の扉が50センチほど開いていて、その光の中に誰かが立っているのが見える!

しかしまた逆光でその顔は全く見えない。


「誰だ!?」


和彦が大きな声で叫ぶと、

光の中の人物は身を強張らせ、走って逃げ出した。


扉が自動でスライドして閉まる。


和彦はベッドから飛び降りて追いかけたかったが、

体力が付いてこない。


「くそっ!」


苛立ち紛れにサイドボートに置いてあった雑誌を扉に向かって投げつけたが、

雑誌は扉のだいぶ手前にパサッと落ちただけだった。


扉の向こうの足音が遠ざかって行く。


「・・・またかよ。誰なんだ、一体・・・」


和彦はベッドに自分自身を叩きつけるようにして仰向けになり、

握り締めた拳を額に置いた。






「・・・はい。確かにそれは僕です」


容疑者(?)が余りに簡単に警察の言い分を認めると、

警察も思わず拍子抜けするものである。

嘘でも「違います!それは僕じゃありません」と言ってくれた方が張り合いが出るという物だ。

まあ、助かるには助かるが。


武上に呼ばれて門野プロダクションに飛んできた和田刑事は、

黒田の真意が読み取れず、困って隣の武上を見た。

武上はこの事件の担当ではないが、

被害者の和彦と知り合いだし、怪しい男を見た目撃者ということで同席している。


ちなみに、事務所のこの一室にいるのは、武上・和田・黒田だけである。

さすがに一般人の寿々菜は警察の事情聴取に加わることはできず、

別室で山崎・斉藤と一緒に待機している。

江守はもう帰ってよいということで、先ほど事務所から出て行った。



和彦がいたら、当然の如く事情聴取に参加するだろうな。



そんなことを考えながら、武上は黒田にもう一度確認した。


「では、和・・・KAZUが倒れた日に、あの病院にいたのは間違いなくあなたなんですね?」

「はい」

「何をしてたんですか?」

「KAZUさんのお見舞いですよ」

「・・・」



怪しいな。



武上と和田は小さく頷き合った。

山崎から聞いていた通り、黒田は随分と陰気臭い雰囲気を持った男だ。

口数も少ない。


こんな男が倒れた和彦をすぐに見舞いに行くだろうか?

何か別の目的があったのではないだろうか?


例えば、毒を盛って殺そうとした相手が本当に死んだか確認するために、とか。

黒田なら、そういう理由の方がしっくりと来る。


ところが。


「KAZUさんが倒れたのは僕のせいですから」

「え?」


またもやアッサリと自白・・・した訳ではないようだ。

黒田は本当に申し訳なさそうに目を伏せながら言った。


「バレンタインで大量のチョコレートがKAZUさんに送られてきたのに、

KAZUさん、全然食べようとしなかったんです。僕なんて一つももらえないのに・・・

それで思わず、

『ほとんどはKAZUさん宛なんですから、KAZUさんも少しくらい食べたらどうですか?』

って言ったらKAZUさんがチョコレートを一つ食べて倒れたんです」

「・・・」


和田はともかく武上にとって、今度の沈黙はさっきの沈黙と違う意味を持つ。

思わず黒田に同情してしまったのだ。

バレンタインにチョコレートをもらえなかった者の気持ちは、

バレンタインにチョコレートをもらえなかった者にしか分からない。


「それで責任を感じて病院に見舞いに行ったって訳ですか?」


和田が疑い半分・うんざり半分と言った調子で黒田に尋ねる。


「はい」

「でも特別病棟は許可のある者しか入れないから、諦めた?」

「そうです。分かってて行ったんですけどね。もしかしたら入れるかと思って、」

「ちょっと待ってください」


同情モードから復活した武上が割り込む。


「分かってたって、どういうことですか?」

「だから、特別病棟には許可がないと入れないって、」

「そうじゃなくて、どうして和彦が特別病棟にいるって知ってたんですか?」


黒田は「和彦?ああ、KAZUさんの本名ですか」と1人で頷いた。


「江守君が教えてくれたんですよ」

「江守?」



さっきの、もう一人のバイトが?



「救急車が出た後、僕が自分のせいでKAZUさんが倒れたって落ち込んでたら、

江守君がKAZUさんが搬送された病院名を教えてくれたんです。

『でも、多分特別病棟に入るだろうから、許可がないと見舞いはできないよ』とも」


武上はハッとした。

黒田の言うことは100%信用できる訳ではない。

それにもし本当だとしても、例えば江守が救急隊員の会話を聞いて、

和彦の搬送先や特別病棟のことを知ったとも考えられる。


だが武上は思い出した。

さっき江守がモニター越しに、

「そう言えばKAZUさんの入院、長引きそうなんですか?」と言っていたことを。



どうして江守は和彦が入院したことを・・・

今も入院してることを知ってるんだ?



江守の周りで和彦が入院していると知っているのは、

寿々菜と門野社長、山崎だけだ。

3人とも和彦の入院のことを人にペラペラ話すとは思えないし、

そもそも江守はバレンタインの日以来、今日まで事務所には来ていない。

どこで和彦の情報を手に入れたというのだろう?



武上は部屋を飛び出すと、

急いで山崎のところへ向かった。





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