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第3話 ナイスバディな看護婦さん

「俺も命が狙われるようになったかー。有名人も楽じゃないぜ」


病院とは思えない豪華な病室のベッドの上に寝そべったまま、和彦はしたり顔で頷いた。

寿々菜と山崎はそんな和彦を見て涙ぐまんばかりだ。


「和彦さ~ん・・・無事でよかったです・・・」

「俺があんくらいで死ぬ訳ないだろ。そーいや寿々菜も倒れたんだったな。大丈夫か?」

「はい!私は毒に当たった訳じゃありませんので、元気です!」

「んじゃ、なんで倒れたんだ?」

「そ、それは・・・」


寿々菜がおどおどしていると、病室の扉が開き、

先ほど和彦の病状を説明してくれた医者が入ってきた。

ナイスバディな看護婦も一緒である。

寿々菜と山崎の「和彦に近寄る危険女察知レーダー」が素早く反応した。


「岩城さん、お目覚めですね。少し身体を見せて下さい」


医者は手早く和彦の目や口の中を診て、聴診器で腹と背もチェックし、

微笑んで頷いた。


「大丈夫そうですね。でも2,3日は入院して頂くことになります」

「えー?俺、仕事があるんだけど。なあ、山崎?」

「はい。でも和彦さんのお身体が第一ですので」

「そうですよ」


医者も請合う。


「まだ検査も残っていますから、医者としてもまだ退院を認められません。

あ、申し遅れました。私は岩城さんを担当させて頂きます、医者の坂井さかいと申します。

こちらは看護婦の森下です」

「森下です。よろしくお願いします」


森下が大きな瞳を好奇心でキラキラさせながら、深くお辞儀をした。

これは本当に危険な女である(寿々菜&山崎視点)。


「後もう一人、高井戸というベテラン看護婦も岩城さんを担当させて頂きますが、

今日明日は学会で県外に行っていますので、明後日、改めてご紹介します」



ベテラン看護婦さん・・・



寿々菜は医者の言葉にホッとした。

ベテランということは、この森下のように若い看護婦ではないだろう。

要注意人物は少ないに越したことはない。


しかし和彦は、自分を担当する看護婦が若かろうがベテランだろうがナイスバディだろうが、

関係ないようである。

山崎を見て顔をしかめた。


「社長になんて言うんだよ?あのガメツイ狸親父は、俺が2日も3日ものんびりしてるのなんて、

絶対に許さねーぞ?」

「そこは私がスケジュールを調整して、なんとかします」

「私も、お手伝いします」


山崎の横で斉藤も力強くそう言う。


「そっか?じゃー、ゆっくりさせてもらうかぁ」


和彦がベッドの中で「うーっん」と背伸びをすると、

寿々菜はすかさず和彦の傍に駆け寄った。


「和彦さん!何か食べたいもの、ありますか!?

果物ですか?お菓子ですか?あ、和彦さん行き着けの来来軒のラーメンですか!?」

「・・・お菓子は当分いい」


さすがの和彦も、若干懲りているようである。



さて、賑やかな病室の声を背中で聞きながら、

武上は1人、病院の外に出るべく廊下を歩いていた。

もちろん、この「事件」を携帯電話で上司の三山に報告するためである。


和彦は気に食わない奴だが、今回は一応被害者だ。

武上としても放っては置けない。


それでも「ま、焦らなくていいか」と1階のロビーにある自動販売機でコーヒーなんぞのんびり飲んでいると、

武上の刑事の目が1人の男を捕らえた。


黒いダッフルコートに身を包んだ、どこか陰気な感じの小柄な男だ。

病院の案内図をじっと見ている。


武上は不自然でないようにコーヒーを飲む振りをしながら、

目だけその男の方へ向けた。


確かに陰気臭い男ではあるが、特に怪しいという訳ではない。

ただ武上が気になったのは、その男の視線が案内図の左上の部分・・・

特別病棟の最上階からずっと動かないように見えたからだ。


和彦がいる場所である。



ただの偶然か?

あそこには他の病室もあるし・・・



しかし和彦が運び込まれたばかりのこのタイミング、というのがどうも気になる。


だがどちらにしろ、特別病棟には許可のある者しか入れない。

男はしばらく案内図と睨めっこをしていたが、やがて諦めたのか、

踵を返して病院を出て行った。


武上は男の顔を頭に叩き込んでから、紙コップをゴミ箱へ入れた。





「KAZUが毒入りチョコレートを食べて入院、か。なかなかセンセーショナルだな。

雑誌だと『死のバレンタイン!』とでもタイトルがつきそうだ」

「そうですね。一応生きていますが」


三山と武上がこんな軽口を叩けるのも、和彦が元気だからだろう。

本当に死んでしまえば、それどころではない。


電話越しに三山のため息が聞こえた。


「そう。幸いなことに和彦君は生きている。だからこの事件はうちの課の担当じゃない」

「はい」

「しかるべき部署に回そう。だが、ちょっと難しいかもしれないな」

「え?何がですか?」


武上は携帯を耳に押し当てた。


「確かに和彦君は事務所に送られてきた毒入りチョコレートを食べて倒れたが、

絶対に和彦君宛のチョコレートだとは断言できない。事務所には他の男性タレントもいるんだろう?」

「はい」

「もしかしたら和彦君以外に送ってこられたチョコレートをたまたま和彦君が食べただけかもしれない。

それにまだ毒入りチョコレートが皿の中に何個か混じっているかもしれないが、

包み紙からは出されているから、どこの誰が送ってきた物か特定するのは難しいだろう。

よっぽど特徴のあるチョコレートで、包み紙から出した人が覚えていれば別だが」

「・・・」


そんな事はまずないだろう。

木を隠すには森の中、ではないが、犯人の心理を考えると、

毒入りチョコレートを敢えて目立つようにするとは思えない。


「もっと言うと送った本人も、それが毒入りチョコレートだと知らなかったかもしれない」

「え?」

「誰かがイタズラで、店に並んでいるチョコレートに毒を入れて、

それを買った人が門野プロダクションに送ったとも考えられる」


武上は見えないと分かっていつつ、携帯を持ったまま頷いた。


確かに、人気アイドルを狙った事件のように見えるが、

実はそうではなく、和彦が毒入りチョコレートを食べたのは偶然が重なっただけかもしれない。


「悪質なイタズラに変わりはないがな。今の段階ではまだ和彦君を狙ったとは断言できない」

「それはつまり・・・和彦に警護はつけられない、ってことですか」

「残念ながらそうだ」


政治家などならともかく、警察から見ればいかに人気アイドルといえど和彦は一般人。

狙われているという確証なしに一般人に警護をつけられるほど警察に人手はない。

しかし三山も和彦の身を案じているのか、

「病院の特別病棟ならよほど安全だから、しばらく入院しておく方がいいかもしれないな」

と付け加えた。



和彦の入院は2,3日じゃ終わりそうもないな。



と、嫌な予感にため息をつく武上であった。




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