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第2話 狙われた和彦?

「山崎さん!寿々菜さんは!?」

「和彦さんはこちらの病室です」


山崎からの電話で病院に駆けつけた武上と山崎の間で、

チグハグな会話のやり取りが行われる。


ぶっちゃけ、武上は寿々菜の心配しかしておらず、

山崎は和彦の心配しかしてないのである。


それでも山崎は一応付け加えた。


「スゥはこの棟じゃありません。一般病棟です」

「え?じゃあここは?」

「特別病棟です」


武上はグルリと頭を1回転させた。

照明はシャンデリアだし床は大理石だし・・・

確かに「特別」病棟である。


「こういうとこって、汚職をした政治家が警察やマスコミから逃げるために、

『体調不良のため入院』とか嘘言って入るとこじゃないんですか?」

「刑事の武上さんがそれを言うんですか」

「僕の担当は政治家ではなくて殺人犯ですから」

「でも、政治家が殺人をしたら武上さんの担当になりますよね」

「そりゃそうです」


なんとも日本の将来が心配になる会話である。


だが、若手刑事の武上がこうして入院している恋人(一方的に)の元に駆けつけられるのは、

武上の上司の三山刑事と平和な日本のお陰だろう。


「とにかく、和彦さんの顔はみんな知ってますからね。こういうところじゃないと、

すぐに和彦さんが入院していることが広まってしまいます。

そうなると仕事に影響するかもしれないし、ファンが病院に押しかけないとも限りませんから」

「・・・」


和彦の人気は、和彦嫌いの武上としても認めざるを得ないので、

山崎の言っていることが決して有りえない事ではないのは分かる。

それにもしそうなれば結局騒ぎを解消するために出動するのは警察だ。


ここは和彦の「特別(病棟)扱い」にも目を瞑るしかない。


「でも!それなら寿々菜さんもこっちの病棟に移すべきです!

寿々菜さんだって芸能人なんですから!」

「武上さん。芸能プロダクションに所属している人間は、全員芸能人なんです」


またチグハグな会話だが、

山崎が何を言いたいのかは、寿々菜に恋する武上にも分かる。

そしてこれもまた認めざるを得ない。


「そ、それで、2人の病状はどうなんですか!?」

「2人とも検査は済みましたので、今は結果待ちです。

でも和彦さんの意識はまだ戻りません。スゥは・・・あ、来ましたよ」

「え!?」


武上が勢い良く振り向くと、

確かに派遣社員の斉藤幸枝に付き添われた寿々菜が頼りなげに歩いてくるのが見えた。


「寿々菜さん!」

「武上さん?どうして・・・あ、山崎さんが連絡したんですね?」


山崎としては、寿々菜と武上がくっついてくれた方が、和彦を独占できて嬉しいのである。

寿々菜もその魂胆は知っているものの、いつもなら武上に心から、

「お見舞いに来てくださってありがとうございます!」と、

輝かしい笑顔(武上視点)で言うのだが、

今日ばかりは顔を真っ赤にして山崎を睨んだ。


「山崎さん!どうして武上さんを呼んじゃったんですか!」


武上にとってはショック100%な言葉である。


が。


「そんなことより、スゥ。歩いて大丈夫なのか?検査結果は?」

「・・・それは、その・・・」


寿々菜が更に赤くなって俯くと、

斉藤が苦笑いしながらバトンを受け取った。


「山崎さん。スゥは単に食べ過ぎでした。チョコの」

「は?」

「だから入院の必要もありません」

「・・・」


山崎の険悪オーラの中、

武上が必死に取り繕う。


「いやー!ただの食べ過ぎですか!よかったです!

寿々菜さんにもしものことがあったら、どうしようかと気が気じゃなかったんです」

「はい・・・ありがとうございます。すみません」


もう謝るしかない。


しかし過去を振り返らない主義の寿々菜はすぐに復活した。

過去にしてしまうには若干早過ぎる気はするが、そこはスルーしておこう。


「和彦さんは!?山崎さん、和彦さんも倒れたって聞きましたけど、

和彦さんも食べ過ぎですか!?」

「スゥじゃあるまいし」


山崎を左手首を軽く振って腕時計を見た。


「そろそろ検査結果が出るから、医者の話を聞きに行こう」

「はい!」



やれやれ。



武上はちょっと笑って肩をすくめた。



寿々菜さんは、和彦みたいな目立つ奴より、

俺みたいな普通の奴の方が似合うと思うんだけどなあ。



だが、寿々菜はいつも和彦に夢中なのである。

しかしそういう所も含めて、武上は寿々菜を気に入っているのだ。


寿々菜が行くのであれば仕方ない。

武上は、寿々菜・山崎・斉藤の後ろについていった。






「毒!?」


思わぬ危険な単語に、全員が声を上げた。

30台半ばのいかにもデキそうな医者がしたり顔で頷いた。

しかし残念なことに、その後ろの若いナイスバディ(寿々菜視点)の看護婦が、

「生KAZUを診れる!」とばかりに目を輝かせているので、やや雰囲気に欠ける。


だが、それで「毒」という言葉自体が軽くなる訳ではない。


「毒と言っても市販の殺虫剤です。ただ、非常に強い殺虫剤なので、

大量に摂取すれば、人間でも簡単に死に至ります。

岩城さんの胃から検出された殺虫剤は微量でしたので、命に別状はありませんが、

何日かは入院してもらわなくてはなりません」

「・・・」


4人は顔を見合わせた。

和彦が毒で倒れたという驚き、

入院するほど酷いのかという心配、

そしてトップアイドルであるKAZUが仕事を出来ないという損失。

色々な思いが行きかう。


しかし更なる問題が現れた。


「岩城さんは倒れる直前に何か食べましたか?」


医者がカルテを見ながら山崎に訊ねた。


「ファンからのチョコレートを一つ」

「危険ですね。今そちらの手元にあるチョコレートは全て手をつけずに置いておいてください」

「はい」

「それと、これは事故ではなく事件だと思いますので、

警察に通報させて頂きますがよろしいですね?」

「それには及びません。こちらの方は刑事さんですので」


驚く医者を無視して、山崎は武上に目で「穏便に済ませてください!」と訴えた。

武上も山崎のさっきの話を思い出し、軽く頷く。


そして寿々菜は・・・

堪らず部屋を飛び出し、和彦の病室へと駆け込んだ。





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