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第13話 最後の犯人

「え?」


和彦に指を差され、さっきの森下のようにきょとんとしたのは派遣社員の斉藤幸枝だ。

他のメンバーも「また和彦のカマかけかもしれない」と思い、

驚いていいものやら悩む。


しかし和彦は少し厳しい表情のまま追及の手を緩めない。


「チョコレートに毒を盛って俺に食わせたのも、カミソリ入りのファンレターを送ったのもお前だ」

「KAZU・・・どうして私がそんなことするのよ」

「それはお前が俺のファンだからだ。言ったろ?ファンの仕業だって」

「和彦さん!幸さんは違いますよ!」


寿々菜が割って入る。


「幸さんが和彦さんのファンだなんて話、聞いたことありません!

私が和彦さんのことでキャーキャー言ってても、幸さんはいつもニコニコして聞いてるだけです!」

「んなもん、黙ってただけだろ」

「でも・・・どうして幸さんが和彦さんのファンだって思うんですか?」

「勘」

「和彦・・・」


武上が和彦の胸倉を掴む。


「おーまーえーはー。なんでそういい加減なんだ!」

「いい加減じゃねーよ。『ああ、こいつは俺のファンだな』ってのは、

隠してても分かるもんだ」

「・・・」

「それに俺、警察じゃねーし。別に証拠あげなきゃいけない訳じゃないだろ?

俺の話を聞いてコイツが怪しいと思ったら、後は警察が頑張って証拠集めしろよ」

「・・・」


ごもっともなのだが、そんなミステリー潰しなことをされては困る。

しかしもっと困ってるのは、勘で犯人扱いされている斉藤だ。


「KAZU。確かに私はあなたを応援してるけど、ファンじゃない。

仮にファンだとしても、KAZUを傷つけたりしないわ」

「そうですよ、和彦さん!私、和彦さんのファンですけど、

和彦さんを傷つけたいなんて思いません!」

「寿々菜はそうだろうけど、好きだからこそ傷つけたいってファン心理もあるだろ。

小学生の男子が好きな女子をいじめるのと同じだ。

それに寿々菜、斉藤が俺に毒入りチョコレートを食わせたって言ったのはお前だぞ?」

「え・・・?あ、もしかして・・・」

「そう。昨日の違和感だ」


来来軒でピラミッドチャーハンを見た時に寿々菜が感じた違和感。

どうやら和彦はあれで何か閃いたらしい。


「俺、ああやっててんこ盛りにされてる食い物見ると、どうも一番上のやつから食べちゃうんだよな。

だから昨日も頂上に置かれたミニトマトを最初に食べたんだ。

俺自身が一番上だからかなー?」


いちいち自慢を入れないと気がすまないらしい。

面倒臭いので、武上ももう突っ込まない。

それに話の腰を折るのは、和彦の話を楽しみに聞いている和田になんだか悪い気もする。

(おかしな話だが・・・)


「毎年、チョコレートは皿にピラミッドみたいにてんこ盛りにされて事務所に置いてある。

自分でも意識してなかったけど、俺はいつも一番上に盛られてるチョコレートを食べてたみたいだな。

斉藤はそれを知ってたんだ」

「・・・あ」


寿々菜は思い出した。

そう言えば和彦がチョコレートを食べる直前、

皿にチョコレートを盛ったのは斉藤だった。

あの時、一番上にこそっと毒入りチョコレートを置くことは・・・確かにできる。


「で、でも!和彦さんがそれを食べなかったらどうするんですか!?

他の人が食べちゃったら・・・」

「俺が食わなかったら、自分で食うふりして捨てればいい話だろ。

斉藤の目的は俺を殺すことじゃない。傷つけることだ。

失敗しても別にいいんだよ。

俺は何万分の1の確立で毒入りチョコレートに当たった訳じゃない。

1分の1だったんだ」


すると和田が刑事の顔になって「でも岩城さん」と言った。


「それだったら、同じ場所にいた白木さんやバイトの2人もできなくはありません。

もっと言うと、岩城さんと一緒に部屋に入ったマネージャーの山崎さんも可能です」


寿々菜と山崎が「そんなことしない!」と殺人的な目で和田を睨んだ。

しかし和彦は「うんうん」と頷く。


「そうだな。それにもうチョコレートは食っちまったから、証拠もない。

でもカミソリ入りのファンレターはどうだ?

寿々菜の筆跡を真似てたけど、筆跡鑑定すりゃ、斉藤が書いたかどうかは分かるだろ?武上」

「ああ。斉藤さん、一応ご協力いただけますか?」


事務所にいる斉藤なら確かに寿々菜の筆跡を真似ることはできる。

斉藤は青くなった。


「・・・そのファンレターが私の出した物だとしても、

チョコレートの方まで私がしたこととは限らないじゃない。

他の誰かの仕業かもしれないじゃない!和田さんだって、そう言って・・・」

「じゃあ、チョコレートの犯人は斉藤じゃないってことにしよう」


突然和彦が掌を返す。


「え?」

「俺を入院させるくらい傷つけたのはお前じゃない。他の誰かだ。

お前以上に俺を傷つけたいと思ってる、俺のファンだ。

そいつはよっぽど俺のことを好きなんだな」


和彦がそう言ったとたん、

斉藤の表情が厳しくなった。

それは般若の如く・・・とまではいかないものの、

いつもの可愛らしいえくぼの笑顔の欠片もない。


「違うわ!あれをやったのは私よ!」


斉藤の言葉に全員が息を飲む。

だが、斉藤は「しまった」という様子もなく一気にしゃべりたてた。


「私以上のKAZUファンなんて、世界中どこを探してもいないわ!

KAZUの傍にいたくて、KAZUファンだってことを隠してまで門野プロに入ったのよ!?」

「そんくらいで『私が一番』だなんて言えないだろ」


和彦が鼻で笑うと、斉藤が更にヒートアップする。


「そんなことないわ!だって私はKAZUを殺せるもの。

KAZUが死んでこれから誰の目にも晒されず私だけの物になるなら、

私は喜んでKAZUを殺すわ!こんなファン、他にはいない、」

「それは違います!!!」


突然、寿々菜が大声で斉藤を遮った。

誰もが・・・和彦も、驚いて寿々菜を見ると、

寿々菜は涙ぐみながら唇をかみ締めていた。


「和彦さんのファンはたくさんいます。誰が一番なんてことはありません。

みんな和彦さんを大好きなんです」

「私は他の子たちとは違うわ。

他の子たちなんて、ファンクラブに入って騒いでるだけじゃない。

私は違う。ファンクラブなんて馬鹿みたいな物には入らない。

私はその他大勢じゃないのよ。私はKAZUにとって『特別』なんだから」

「幸さん・・・」

「KAZUを傷つけてまで自分の物にしようと思えるのは私だけ。私は他の子たちとは違うのよ。

そうよ、私は・・・」

「和彦さんを傷つけても、和彦さんを好きな証拠になりません。

本当に和彦さんを好きなら、和彦さんの幸せを願うべきです。

幸さんだって本当は分かってるんでしょう?

こんなことしても、幸さんは和彦さんの『特別』にはなれません。

幸さんは、和彦さんを傷つけたただの犯罪者です」

「うるさいわ!」


斉藤が憎しみを込めて寿々菜を睨む。

だが寿々菜はそれに負けじと涙を堪えて踏ん張った。


と、和彦がベッドから下りて寿々菜に近寄り、

その頭を手でポンっと叩いた、というか手を置いた。


「斉藤。寿々菜も俺に近づきたくて門野プロに入ったんだ。しかも芸能人としてな。

何度社長に『雇わない』って蹴られてもめげずに、ついに社長を口説き落とした。

寿々菜のやり方も正しいとは言い切れないかもしれないけど、

少なくとも寿々菜は俺の邪魔になるようなことは絶対にしない。お前と違ってな」


しかし斉藤は「ふん」と言って嘲笑った。


「芸能人って言ったって、全然芽が出てないじゃない。

流行らないアイドルなんて、誰だってなれるわ。どこかの芸能プロに所属すればいいだけじゃない」


ムッとしたのは寿々菜ではない。

和彦と武上と、そして・・・



「なら、君も芸能人になってみなさい。売れない芸能人の苦労が分かるだろう。

但し、うちでは絶対に雇わないがね」



山崎はそう言うと、「バカバカしい事件だ」と首を振りながら病室を出て行った。





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