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第11話 病院関係者

来来軒での会合(?)の翌日。


今更何の意味があるのかと思うが、

和彦は一応病院のベッドの上にいた。

但し寝てはおらず、ベッドの上で胡坐をかいている。


「何の御用ですか?」


和彦に呼び出された担当の坂井医師と看護婦の高井戸が不思議そうな顔をした。

そりゃそうだろう。

医者と看護婦が入院患者に病気のこと以外で呼び出されているのだから。


ちなみに和彦と坂井と高井戸の他に病室にいるのは、

寿々菜・武上・山崎というお馴染みのメンバーに加え、今回の事件を担当している和田である。


「また、探偵殿の推理披露会か?」

「そうだ。お約束だからな」


冷やかしにこうも大真面目に答えられると困る。

武上はもう何も言わないでおこうと思ったが、

どうしても一つ気になることがある。


「今回は呼び出した関係者が少ないな。俺達と和田を除いたら坂井さんと高井戸さんだけか?」


しかしその坂井と高井戸は呼び出された理由が分からずきょとんとしている。

どう見ても2人が実は犯人でした・・・というオチではなさそうだ。


「いや。他にも・・・お、来たみたいだな」


病室の扉が開き入ってきたのは、門野プロダクションで働く派遣社員の斉藤と、

その後ろからは・・・


「こんにちは、KAZU。言われた通りつれてきたわよ」

「おー、サンキュー」

「・・・こんにちは」


武上と和田は驚いてチラッと視線を交わした。

斉藤がつれてきたのは、フリーターの黒田だったのだ。

しかし、その後更に驚くべき人物が登場した。



「失礼します」


斉藤と黒田から遅れること5分。

看護婦の森下が入ってきた。

そして森下もまた、男を1人、つれてきている。

しかしこちらは、黒田とは打って変わって爽やかな印象の男だ。


が、その男を見た瞬間、

和彦と坂井と高井戸以外の全員が・・・

つまり、寿々菜と武上と山崎と斉藤と和田と黒田の5人が立ち上がった。


・・・人数が多いとややこしい。

おさらいしておくと、坂井は医者、高井戸は看護婦、斉藤は門野プロの派遣社員、

和田は今回の事件の担当刑事、黒田はアルバイトである。


そこに更に森下と男の2人が加わる。


男は頭をかいた。

だが悪びれているわけではなく、

何故自分がそんなに注目を浴びているのか分かっていないという様子だ。


「どうしたんですか?そんなに驚いて」


驚くに決まってる。

和田が昨日一日探し回っていたのに見つからなかった男が現れたのだから。


「江守!お前、どこにいたんだ!?」


思わずそう叫んだのは当然和田だ。

しかし、どこの誰だか分からない男に呼び捨てで怒鳴られた江守は当然面白くない。

少しムッとした顔になり口を尖らせた。


「KAZUが呼んでるからって美由紀に言われてせっかく来たのに、

なんだよ、この扱いは?」

「美由紀?誰のことだ?」


全員の視線が病室内を動く。

と、「はぁーい」と間の抜けた声で手を上げたのは森下だった。


武上が和彦を睨む。


「和彦!森下さんと江守が繋がってること知ってたんだな!?

なんで言わなかった!?」

「昨日の昼に森下と江守が病院の庭で話してるのをたまたま見かけたんだ。

そん時は、男が江守だって思い出せなかったけどな。

でももし思い出してたとしても武上に連絡はしなかっただろーな」

「どうして!?」

「だって俺、警察が江守を捜してるなんて知ったのは、昨日の夜だもーん」


江守の真似のつもりか、和彦も口を尖らせる。


「俺に黙ってコソコソ捜査なんかするからだ」

「・・・」


それは寿々菜が和彦のことを思って武上にそう頼んだのだが・・・

癪に障るので、武上はそのことは和彦には言わないでおこうと思い、口を噤んだ。


和彦が表情を元に戻す。


「とにかく、昨日の夜来来軒で江守のことを聞いた時、

昼間に森下と一緒にいた男が江守だって思い出した。

だから森下に頼んで、江守をここに連れてきてもらったんだ。

これで全員揃ったな」


森下と江守を加えて11人。

さすがに特別室といえども狭く感じ、椅子も足りない。

和彦以外の人間は思い思いに壁や柱にもたれた。


「これだけいたら、それぞれの事件の犯人は別々でした、って感じですね」


山崎の言葉に和彦が笑う。


「さすがにそれはないな。でも、1人じゃない」

「え?」

「ちょっとおさらいするか。

まず、バレンタインに俺が毒入りチョコレートを食べて病院に運ばれた。

その夜、誰かが俺の部屋に忍び込んだ。

それから3日後にカミソリ入りのファンレターが来て、夜にまた誰かが来た。

で、次の日に・・・つまり昨日、いつの間にか百合の花が飾られていた」

「誰かが忍び込んだ?」


坂井が目を丸くする。


「そんなバカな。ここには許可証がある人間しか入れません」

「それと病院関係者も、な」

「・・・え?」


和彦の言葉に、「病院関係者」である坂井と高井戸と森下が固まる。


「今回の事件は大きく二つに分けられる。俺を傷つけようとしてるか、してないかだ」

「ふむ・・・チョコレート・カミソリと、夜中の訪問者・百合の花、というグループか」


武上が思い出しながら呟く。


「そうだ。チョコレートとカミソリの方はちょっと置いとくとして、

まずは夜中の訪問者と百合の花だ。

この部屋に入れる人間は限られている。

警察や寿々菜、山崎が俺に見られたからって逃げたり、

こっそり百合の花を置いて行くとは考えられない。

ってことは、残されたのは病院関係者だ」


和彦の目が、坂井・高井戸・森下へ順番に向けられていく。

そして最後のところどそれは止まった。


「森下。お前だな?2回も夜中に俺の部屋に忍び込んだり、百合の花を置いていったりしたのは」

「え?ええ?」


森下がキョトンとする。


「ありゃどう見ても、俺のファンの仕業だもんな。

夜中に忍び込んだのは夜這いでもかけにきたんだろ」



夜這い・・・



寿々菜が赤くなるのはともかくとして、

何故赤くなる、武上。


「俺が入院した時から、俺に色目使ってたしな」


自分のことは棚に上げ、和彦がじっと森下の目を見ると・・・


「・・・はい。ごめんなさい」


森下は最初動揺していたが、

突然しゅんとなって俯いた。


ところが。


「私、ずっとKAZUのファンで・・・」

「そりゃ嘘だな」


自分で振っといて、和彦はぬけぬけとそう言い放った。

全員が「へ?」と首を傾げる。


「お前は俺のファンじゃない。興味本位で俺に近づいてただけだ。

俺が百合の花を好きなことを知らずに捨てようとしたし、

第一お前はこそこそ夜中に俺に会いに来たりしない。

俺にちょっかいかけたけりゃ、昼間に堂々と来るだろ」

「で、でも、今私が犯人だって言ったのは自分じゃない!」

「ちょっとカマかけてみただけだ。

お前は今、病院関係者が夜中に俺の部屋に忍び込んだと聞いて、

心当たりがあった。だからかばっただけだろ?」

「・・・」


今まで森下に向けられていた全員の視線が、

坂井と高井戸に移る。


どっちだ?


しかし、誰かがその疑問を口にする前に、

犯人は自ら「自分です」と申し出た。






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