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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

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婚約破棄ですか? そのお話なら、結末まで知っていますわ

作者: アトハ
掲載日:2026/09/25

「貴様との婚約を破棄する!」

「こ、これは―――噂に聞いていた婚約破棄ですわ~!!!」


 私は思わず、両手を打ち合わせた。

 ぱあん、といい音が、静まり返った王立学園の大広間に響き渡る。


 つい先ほどまで、卒業を祝って楽団が華やかな曲を奏でていた。

 それが今は踊っていた方々も足を止めて、給仕までお盆を持ったままこちらを見ている。私の隣にいた令嬢は、口元を隠した扇の陰から目だけを大きく見開いていた。


「……なぜ喜ぶ?」

「だって、本物は初めてですもの!!」


 目の前には、婚約者のオズリック殿下。

 その腕には、平民の特待生であるミーナさん。


 ミーナさんが私を見て、それから殿下を見上げた。

 殿下もミーナさんを見下ろした。


 殿下の腕に身を寄せて、上目遣いに殿下の様子をうかがう女の子。

 その子をかばうように立ち、こちらをにらむ王子様。

 昨日読んだ本の挿絵では、たしか、ここで令嬢が泣き崩れていましたわね。

 


 ──ああ、とても綺麗な挿絵として映えそう!!


 そうそう、待ち望んだのはこれですわ。

 私、つい昨日もこのお話をしておりましたの。


 ***


「最近、婚約破棄が流行っているのですって」


 午後のお茶の席でそう言うと、妹のリリーが苺のタルトから顔を上げた。


 庭に面した窓は開け放たれていて、リリーの髪を結んだリボンが、風に揺れていた。

 今日は珍しく、殿下からのお呼び出しもない。妹は朝から料理長にお願いして、私の好きなお菓子を用意してくれていた。


「まあ。お父様がまた頭を抱えてしまうわ」

「実際の縁談ではなくて、物語の中のお話よ。お友達から借りた本、三冊続けて、一ページ目で婚約破棄だったの」

「せっかちな殿方ばかりね」

「最後の一冊なんて、最初の一行が『貴様との婚約を破棄する!』だったわ」


 仮にも婚約者に向かって、『貴様』はないでしょうに。貴様、は。


 本を汚さないよう、私はお皿から少し離れたところに積み上げた。

 表紙の令嬢は、三人とも、それはもう幸せそうに微笑んでいる。


「婚約って、破棄されても悲しくはないの?」

「もっと素敵な殿方と結ばれるから、大丈夫みたい。それにね、お馬鹿な妹が、お姉様の婚約者を欲しがるお話も多いのですって」

「どうして?」

「お姉様のものなら、なんでも欲しいのだそうよ」


 リリーの視線が、私のお皿に落ちた。

 タルトがほしいのかしら。


「……お姉さまばっかり、ずるいですわ!! ……こんな感じ?」

「ドンピシャですわね。……タルト要ります?」

「ありがとう、お姉様」


 切り分けたタルトを受け取って、妹はにっこり笑った。

 そんな妹に、私も笑い返す。


「あなたも、オズリック殿下が欲しくなったりする?」

「要らないわ」

「まあ。少しくらい考えてあげてもいいのに」

「だって殿下、お姉様とお茶を飲んでいても、ご自分のお話ばかりでしょう? わたしはお姉様のお話が聞きたいもの」

「ふふ。では、婚約者を取り合う心配はないわね」

「ええ。わたしが取るなら、お姉様のほうだわ!」


 リリーが楽しそうに笑った。


 ……私もオズリック殿下よりもリリーがほしい、なんて言ったら不敬かしらんね。


 頬を寄せてくる妹の口元に、タルトのかけらがついている。

 拭いてあげると、もっと嬉しそうな顔になった。


「でも……お姉様。殿下に婚約を破棄されたら、嫌ではないの?」

「そうねえ……」


 王太子妃になるためのお勉強は、毎日みっちり三時間。


 そのあとで、殿下の終わっていない課題を手伝うこともある。

 先週なんて、妹と約束していた観劇まで取りやめになってしまった。

 たしかに、これまでのお勉強が無駄になるのは勿体なくはあるけれど──


「その時はその時かしらね」

「お姉様、ちっとも悩まないのね」

「だって、物語は物語ですもの。陛下がお決めになった婚約ですし、そう簡単には――」

「……あの殿下なら、陛下に黙って言い出しそうだわ」

「さすがに、それはないでしょう?」

「だといいのだけれど」


 ──そんな日常の一幕。

 翌日、まさか本物の婚約破棄が見られるなんて、その時の私は夢にも思っていなかった。


 ***


「ホンモノの婚約破棄ですわ~!!!」

「聞こえている! 俺が言ったんだ!」


 殿下が顔を赤くした。

 私は慌てて扇を開く。


(いけませんわね。人前で、はしゃぎすぎてしまいました)


 ミーナさんは、殿下の腕に隠れるようにして立っていた。

 こちらと目が合うと、怯えた顔で肩をすくめる。


 ……私が何かを言うのを待っているようだけれど、困りましたわね。

 まだ、婚約を破棄するというところしか聞いておりませんの。


「失礼しました。それで、理由はなんですの?」

「おまえがミーナに行った数々の嫌がらせだ!」

「まあ、"そっち系"ですのね」

「"そっち系"とはなんだ!」


 殿下が憤慨した。


「教科書を隠し、飲み物をかけ、階段から突き落とそうとしたそうだな!」

「「まあ! それ、読みましたわ」」


 ……あれ?


 なんか近くにいた令嬢と、声がハモってしまった。

 これは読み友だち候補ね。


 殿下が、ぎくりとそちらを見た。


「後半の階段は、女の子が自分で転んでいるんですのよね」

「わたくしが読んだ本では、お友達にドレスを破かせていましたわ」

「ああ、ありましたわね。主人公にやられたことにして、殿下に泣きつくの」


 ミーナさんが、自分のスカートを押さえた。


 ……裾のあたりが、少し破けている。

 こいつ、"やった"わね?


「皆様、お詳しいのね!」

「セシリア様こそ。婚約破棄って聞こえたものですから、つい」


 いつの間にか、私の周りにお友達が集まっていた。

 殿下とミーナさんを囲んでいた方々まで、少しずつ、こちらに移動してくる。


 さっきの令嬢が、私の袖を引いた。


「セシリア様、大丈夫ですの?」

「ええ。驚きましたけれど」

「ああ、よかった。泣いていらしたら、どうしようかと」


 私の顔を確かめると、彼女も扇を開いた。

 その隣のお友達が「このあとは、陛下が現れるのかしら」と小声で言う。「それとも隣国から、素敵な殿方が?」なんて──私も人のことを言えませんが、大概、物語脳ですわね!?


 私もつられて、会場の扉を見てしまった。


「おしゃべりをするな! セシリア、いいからミーナに謝れ!」

「してもいないことで謝るのは嫌ですわ。それより殿下、魅了の魔法にかかっていらっしゃらない?」


 殿下の肩が、ぴくりと跳ねた。


「な、なぜそのようなことを?」

「お話によっては、殿方がすっかり操られていることもありますの。はっきり言ってミーナさんは、とても怪しいですわ。……もしそうでしたら、神官様に診ていただかないと」

「必要ない! ミーナの指輪には、もう魔力が残っていないからな!」


 会場が静かになった。

 私は扇を閉じた。


「……へえ。魅了の指輪を、お持ちなの?」

「た、ただのおまじないです!」


 ミーナさんが、殿下の腕をぎゅっとつかんだ。


「殿下とずっと仲良くいられるようにって、それだけで……」

「そうだ! だが俺は、そんなものがなくともミーナを愛せると言ったんだ!」

「では、もう正気でいらっしゃるのね?」

「もちろんだ!」


 一度は、魅了の魔法にかかってるではありませんの!

 っていう突っ込み待ちかしら。


 会場の空気は、とっても冷ややかだ。


 隣ではミーナさんが、頭を抱えている。

 どの物語にも負けないぐらい、この王子はアホ王子だったらしい。


 周りの令嬢たちも「正気ですって」「ご自分でおっしゃいましたわね」と顔を見合わせていた。

 殿下だけが、その様子を満足そうに見渡している。ミーナさんが必死にヤメロと上着を引っ張っても、まるで気づかない。


「これ、もしかして、転生ヒロインのお話かしら?」


 今度は、二人一緒にびくりとした。


「前世の記憶があって、ご自分が物語の主人公だと信じている女の子ですわ。殿方を攻略するだとか、決められた筋書きだとか、変わったことをおっしゃるの」

「……ミーナ?」

「ち、違います! 運命のお話です! 殿下とは、前世から結ばれる運命で!」

「そうそう。私を追い出すと幸せになれると、なぜか信じていらっしゃるのですわよね」

「ど、どうしてそれを知ってるの?」


 ミーナさんの声が、ひっくり返った。


 殿下の上着をつかんでいた手が離れ、今度は私を指さす。

 さっきまでの怯えてた猫っかぶりな女の子は、どこかに行ってしまったようだ。


「お友達から本を借りましたの」


 勉強になりますわね、読書って。

 妃教育の先生にも、今度お勧めしてみようかしら。


「わ、わたしがヒロインなのに……」

「まあ。では、私はなんですの?」

「悪役令嬢……」


 ハッと、ミーナさんが口を押さえた。


 大丈夫、この場にいる人たちは、だいたい知っていますわ。

 悪役令嬢。言葉にすると、とても良い響きですわね。


「あとは……隣国のスパイというお話もありますわね」


 がちゃん。

 殿下の肘が、近くのテーブルのグラスにぶつかった。


「ス、スパイだと!?」

「……殿下?」

「ミーナの叔父上は、隣国で商売をしているだけだ! それだけでスパイ容疑など──」


 殿下は、倒れたグラスにも目をくれず早口になった。


 ──まだ、何も聞いておりませんのに。

 ミーナさんがアカンと言うように首を横に振っているのに、殿下はお構いなしだ。


「隣国で商売を?」

「ああ。俺とミーナの仲を応援してくださっている! 王宮の暮らしについて手紙で質問されるのも、姪の将来を心配しているからで――」

「殿下、もうしゃべらないで!」


 ミーナさんが、両手で殿下の口をふさいだ。


 その指には、紫色の指輪がはまっている。

 近くにいた神殿のご令嬢が、顔を寄せて小さく言った。


「セシリア様。あれ、確かに魅了の魔道具ですわ」

「まあ。では、やっぱり殿下は?」

「いえ、今はかかってませんわ。あの指輪、もう魔力が切れていますもの」


 ミーナさんが、口をふさいだまま殿下を見た。

 殿下は、その手を外して力強くうなずいた。


「心配するな。たとえ魅了の指輪で一度は操られていたとしても、誰から何を言われようとも、俺は自分の意思で君を選んだんだ!」


 正気に戻って、なおミーナさんを選んだ一途さは褒めてあげるべきかしら?

 私の婚約者でなければ、だけどもね。


 ──ダイナミック・自白に、ミーナさんが天井を仰いだ。


***


「それで、このあとはどうなるのかしら」


 隣の令嬢が、興味津々といった顔で言った。

 私も、気になっておりましたの。


「私が読んだ本では、殿下は廃嫡されていましたわね」

「わたくしの本でもそうでしたわ」

「国外追放パターンが好きですわ」

「お相手は修道院でした」


 殿下の顔から、すうっと赤みが引いた。


「待て」

「北の山奥にあるところですわよね」

「ええ。朝は鐘と一緒に起きて、畑を耕して」

「待てと言っている! 俺は王太子だぞ!」


 私たちは、そろって殿下を見た。


「「「ですから、まず廃嫡されるのですわ!」」」

「貴様ら、不敬だぞ!!」


 誰も聞く耳を持たなかった。

 隣のミーナさんが、殿下の袖を引く。


「そ、そんな。殿下、廃嫡って王様になれなくなるってこと!?」

「そんなことにはならない」

「でも、そうなったら、お城には……」

「ならないと言っているだろう!」


 殿下の声に、ミーナさんがびくっとした。


「修道院なら、まだ優しいほうですわよね」


 青いドレスの令嬢が、扇をぱたぱたさせた。


「最近読んだお話では、お二人とも処刑でしたもの」

「わたくしも読みました。隣国と通じていたんでしたわね」

「あら。では、同じお話かしら。最後は、広場で公開処刑に――」

「「公開処刑!?」」


 殿下の声が裏返った。

 ミーナさんも、ぎょっとした様子で目を見開く。


「ええ。見せしめですって」

「続編では処刑場が観光名所になっていましたわ」

「あら、なら違うお話でした。わたくしのほうでは、跡地が幽霊たちの溜まり場に」

「やたらとえぐいんですわよね、処刑シーン。生きたまま皮をはいで、一晩かけて助けてくれ助けてくれ~~~って声を無視して真っ赤な肉塊が……」


 殿下の顔は、真っ白を通り越して真っ青になっていた。


 青いドレスの令嬢は、隣のお友達と本を貸し合う約束をしている。

 殿下は何か言いたそうに、二人の間に手を差し出しかけた。けれど「処刑される前の台詞が、とても長くて~」なんて言葉を聞いて、引っ込めてしまった。


「で、でたらめだ! 王子がそんな簡単に処刑されるはずがない!」

「最初は皆様、そうおっしゃいますのよね」

「『父上が黙っていないぞ』って」

「そのお父様が命令なさるんですのよね」


 殿下が、開きかけた口を閉じた。


「あのっ、わたし、平民なんですけど!」


 ミーナさんが片手を上げた。


「王族とか、政治とか、そういうのは、よく分からなくて……!」

「ええ。ですから修道院のお話も多いのだと思いますわ」

「じゃあ、わたしはそっちで――」


「ただ、スパイだった方は残念ながら──」


 神殿のご令嬢が、途中で口をつぐんだ。

 ミーナさんが、身を乗り出す。


「スパイだった方は? スパイはどうなってしまうの??」

「……わたくし、昨夜はそこで読むのをやめましたの。眠れなくなりそうで」

「スパイだった方はどうなってしまいますの~~~!?」


 そんなに気にしたら、まるでスパイだと自白するようですのに。


「お、おい。セシリア」

「はい」

「俺たちは、まだ学生だ。間違えることだってあるよな」


 我が元・婚約者の王子が、なんか縋り付くようにそんなことを言ってきた。

 これは今さら縋り付いてももう遅いするべきかしら。


 私が答える前に、お友達の令嬢が好き勝手なことを言う。


「ですから──学び直しましょう。鉱山の強制労働で!」

「よかったですわね、殿下。そちらの物語なら生きていらっしゃるそうです」

「何もよくない! ……というか、現実を物語と同列に扱うな!!!」


 ごもっともですが、最初に物語のようなアホな行為(婚約破棄)を仕掛けてきたのは殿下なんですよねえ。



 殿下はミーナさんと一緒に、一歩下がった。

 さっきまで、あんなに大きなお声だったのに、今は蚊の鳴くような声だ。


「セシリア。あの、婚約破棄の件だが」

「はい、婚約破棄は承りましたわ!!」

「いったん、なしに――」

「殿下、取り返しのつかないことってありますの」


「お姉様~~!!!」


 その時、大きな扉が勢いよく開いた。


 桃色のドレスの裾をつかんで、妹のリリーが立っている。

 その後ろで知らせに走ってくれたらしい我が家の侍女が、肩で息をしていた。


「リリー。ちょうどよかったわ。ホンモノ、本当に見れたのよ」

「今、聞きました! 殿下が、お姉様との婚約を破棄して、やってもいないことで謝らせようとしているって!」

「ええ。いろいろと当たっていて、びっくりしていたところよ」


 妹は、殿下をにらみつけた。

 私は楽しんでいたのだけど、妹は激おこぷんぷん丸だった。


「リリー嬢、誤解だ。俺はちょうど、セシリアと話し合いを――」

「お姉様が、どれだけあなたのために時間を使ってきたと思ってますの?」


 妹は、手袋の裾をきゅっと引いた。


 いつもは、殿下と二人にしてほしいと言われると、妹は席を外していた。

 今日は一歩も下がらない。それどころか、殿下が後ずさりするぶんだけ、靴音を響かせて近づいていく。


「お茶も! お買い物も! 観劇も!」

「リリー嬢?」

「あなたのせいで、何回、わたしが我慢したと――!」


 ミーナさんが、すっと殿下から離れた。

 私たちも、道を空けた。


「そのうえ、お姉様をいじめましたねええええ!!!」


 妹の右の拳が、殿下の頬にめり込んだ。



 ──まあ。

 殿下って、あんなに飛ぶんですのね。


 ***


 後日、陛下から何度も頭を下げられた。


 婚約は、私の望みどおり白紙になった。

 結び直すかどうかも、私が決めてよいそうだ。


 殿下は、どうにか廃嫡を免れた。

 というのもミーナさんの叔父様に送っていた手紙には、国の秘密がひとつも書かれていなかったのだ。


『俺は剣術大会で三位になった』

『セシリアに手伝わせて、課題をすべて終えた』

『ミーナが、俺を世界一格好いいと言ってくれる』


 その三通を陛下に読み上げられたとき、殿下は「もう殺してくれ」とおっしゃった。

 なぜか呼ばれた令嬢たちが「羞恥攻めですわ~!」などと、盛り上がっていた。


 処刑はなし。鉱山奴隷もなし。

 今回は、若気の至りということで見逃していただけるそうだ。

 ただし、次に私に課題を押しつけたり、同じ騒ぎを起こしたりしたら、その日のうちに王宮から追い出すとのこと。

 陛下が「分かったな」と尋ねると、殿下は腫れた頬を押さえて、何度もうなずいていた。


 転生ヒロイン、ことミーナさんは修道院に入った。

 出発の際、護送の馬車を見て「修道院から皇帝に見初められる話もあるし……」なんて呟いていたので、きっとしぶとく生きていくことだろう。

 なんだかんだで、私はミーナさんのような逞しいご令嬢は好きだ。

 次に会ったら、転生ものの物語を渡してあげようと思う──嫌がらせですの? って怒られそうだけどね。



 それからの殿下は、よく働いた。

 私の手を借りずに勉強をし、夜中まで政務を習っていた。

 時々、わがままを言いかけては、隣にいるリリーの顔を見てビビリ散らかしていた。


「セシリア、今日こそ二人で出かけないか」

「あら。今日はリリーと観劇の約束がありますの」

「では、明日は──」

「明日は、王妃教育です。結局、マルエル様が逃がしてくれなくて──せっかく婚約破棄したのに」

「……まだしてない」

「なら、頑張ってくださいませ。帰りにお菓子を買ってきますわね」


 殿下は、差し出しかけた薔薇の花束を置いて、机に戻った。

 翌日も頑張っていたので、お菓子を二つに増やした。

 その翌日には、お父様が「あれは本当に殿下か」と首をかしげていた。


「お姉様、そろそろ参りましょう」

「ええ。今日は新作の喜劇だったわね」


 妹が私の腕を取る。

 その手袋を見て、書類に伸びた殿下の手が、少しだけ速くなった。


「リリー。殿下を取らない妹でいてくれて、ありがとう」

「要らないもの。最初からわたしが欲しいのは、お姉様だけだもの」


 妹が、私の肩に頬を寄せて、にっこり笑った。

 ――そういえば最近は、お姉ちゃん大好きな妹ものなんてのも流行っていたわね。

【作者からお願い!】

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