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はじめましてから始まる新婚生活 ~少子化対策で相性抜群(?)の美少女と同棲することになりました~  作者: 岩柄イズカ


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6話『今なんでもって言いました?』


 少し時間が流れ、仮婚生活が始まってから半月後の土曜日の朝。


 ……同じ屋根の下で暮らしてはいるものの、二人の距離はあんまり近づいていなかった。

 なにせ平日は蒼太は学校に行くために朝早いのに対し、引きこもりのましろはいつも昼近くまで寝ている。


 そもそもましろは食事の時以外はほとんど部屋を出てこないので、必然として会話があるのは夕食の前後くらいしかない。


 蒼太としてはもう少し仲良くなりたいと思っているのだが、ましろはどうもこっちから距離を詰めようとすると離れていく猫みたいな気質なようで、結局は近くて遠い距離感で落ち着いてしまっていた。

 

 ただ、今朝は少しだけ様子が違った。


「おはよう。どうしたの? 今日は早いね」


「……別に」


 蒼太がキッチンで朝食の準備をしていると二階から眠そうなましろが下りてきたのだ。

 しかも普段着に着替えている。一日中パジャマでいることが多いましろにしてはこれも珍しいことだった。


『どうやらましろさん、昨日通販で何か注文したようですね』


 パッと現れたアイがそう耳打ちしてくれる。

 何を買ったのか聞いてみたい気持ちもあったけど、ましろが眠たがってる時に話しかけると機嫌が悪くなるのはすでに学習済みだ。

 ウトウトしながら朝食を食べるましろを、蒼太はそのまま見守ることにした。


 それから数時間。時計の針が十時を少し過ぎた頃。


 ピンポーン。


「きたっ!」


 インターフォンと同時にましろが勢いよく立ち上がり、普段のだらけっぷりからは信じられないスピードで玄関へと駆けていった。


 そうして大きな段ボール箱を抱えて戻ってきたましろは、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のようにニッコニコだった。かつてないほどご機嫌である。可愛い。


「何買ったの?」


「んへへ~、最新型のペンタブ~」


 蒼太の質問にもデレデレの笑顔で答えてくれる。

 ましろは嬉しそうにテーブルに箱を置くと、もう待ちきれないとばかりにガムテープを引っぺがしていく。

 そうして出てきたのは黒い大きめのタブレット端末。

 新品特有の光沢があって、ましろはそれを愛おしそうに撫でている。


「新しいの買ったんだ」


「うん! 前のやつ、何年も前にお年玉で買った中古のやつだったからいろいろ限界だったのよね。でも今回、仮婚の協力金が振り込まれたから思い切って新しいの買っちゃった♪」


「僕、そういうのあんまり詳しくないけどやっぱり古いのと最新型だと違うもんなの?」


「そりゃあもちろん! 値段だって三倍ぐらいするんだから変わらなかったら詐欺でしょ」


 それからましろは、いつもよりだいぶ早口で旧型と最新型の違いを語ってくれる。

 ……絵を描いたことがない蒼太には正直話してる内容の半分もわからなかったけど、いつも気怠そうにしているましろが眼をキラキラさせて話している姿を見れただけでも嬉しかった。


「はぁ……自分で稼いだお金で好きなものを買うっていいものね。いろいろ不安だったけど仮婚に参加してよかったぁ……」


『家事とかやってるのは蒼太さんでましろさんはずっと引きこもってますけどね』

「うっさいわね。いい気分なんだから水差さないでよ」


 ちょっぴり頬を膨らませたが、今のご機嫌ましろはそんなことで機嫌を損ねたりしない。ウキウキしながらあらためて箱を抱える。


「さて、それじゃ設定とかしないとね。アイ、あんたも手伝って。AIなんだからそういうの得意でしょ」


『了解しました』


「僕も見てていい?」


「いいけど、別にそんな面白いもんじゃないわよ?」


 そうしてましろの部屋へ。

 ましろは箱から取り出したペンタブをパソコンに接続すると、アイのサポートを受けながらあれやこれやと細かい設定をしていく。

 普段とまったく違うましろの姿は見ているだけでなんだか楽しかった。


 そうしてそのまま数十分。


『設定完了しました。お疲れさまですましろさん』


「ん、ありがと」


『にしてもなんというかましろさん……すっごくキビキビ動いてましたねぇ。このリソースを一割でいいから日常生活に回していただけたら蒼太さんの負担もずいぶん減るんですが……』


「う、うっさい。あんたいつも一言多いのよ」


 ましろはぷうっと頬を膨らませるとチラリと蒼太の方を見た。


「? ましろ、どうかしたの?」


「……別に」


 ましろはしばし、何か言いたげに口をもごもごさせていたが結局ぷいっとまたパソコンの方を向いてしまった。

 けれどやっぱり何か言いたいのか口をもごもご。しばらくして、諦めたように小さくため息をつく。


「…………ねえ蒼太。なんか描いてほしいキャラとかある?」


「へ? 描いてほしいキャラ?」


「ん。……まあ、あれよ。新しいペンタブの慣らしとかしないといけないから。なんか好きなキャラ言ってみて」


 思いがけないましろの言葉に、アイの眼がキラリと輝く。


『おおっ! つまり普段家事をしてくれてる蒼太さんへのささやかなお礼というわけですね! いいですよ~、やっぱりそういうの大切ですよね』


「ち、違うわよ! ただなんとなく描いてあげよっかなって気分になっただけで……そ、それでどうなのよ? リクエストあるの!? ないの!?」


「え、えっと、それじゃあ……」


 部屋をキョロキョロ見回し、本棚にあった一冊のライトノベルに目を止める。


「このキャラとか、描ける?」


「……ふん。いいわよ。それじゃ適当に、ささっと描いちゃうから」


 そう言って、ましろはペンを走らせる。

 下書きもろくにせず、それでいて迷いもなく線を引いていく。傍目から見ても集中しているのがわかる。


(すごい……)


 普段のぐうたらなましろとはまるで別人。ましろが手を動かすたび、キャラクターがみるみるうちに描き上げられていく。絵がまったく描けない蒼太からするとまるで魔法みたいで、ついその光景に見入っていた。


「できた」


 ましろはあっさりそう言うと印刷ボタンを押す。

 そうしてプリンターから吐き出された一枚を手に取ると小さく頷き。それを突き出すように蒼太に差し出した。


「はい、書いてあげたわよ」


「わ、すご……」


 思わず声が漏れてしまった。できたてほやほやで、まだほのかに温かい紙に描かれたイラスト。

 ほんの十分ほどで描いたはずなのに細かいところまで精緻に描かれていて、これが公式イラストだと言われればあっさり信じてしまっただろう。


「こ、これ、ましろが描いたんだよね?」


「当たり前でしょ? というかさっき目の前でみてたじゃない」


「それはそうなんだけどなんていうか……ましろってホントに凄かったんだなって」


「ふふん。まあね」


 ましろは得意げに胸を張る。でも照れているのか、頬がうっすら赤く染まっていた。


『コンテストで賞ももらってますし、実際ましろさんって絵に関してだけは本当にプロ級なんですよね』


「そ、そうよ。本当ならお金取るところなんだから」


 自慢げに言いつつも、ましろは少しだけ視線を泳がせる。

 そして少し間を置いてから、ぽつりとつぶやいた。


「ねぇ、蒼太。ひとつ提案なんだけど」


「提案?」


「家事、あんたが全部やってくれてるでしょ。掃除も料理も洗濯も」


「う、うんまあ、そうだね。でもそれはその……ましろの裸を見ちゃった代償だし……」


「あ、あんたも大概一言多いわね! 忘れてきてたんだから蒸し返さないでよ!」


 がおーっと怒って、でも少し恥ずかしそうにコホンと咳払い。


「ま、まあ確かにそうではあるんだけど! 流石にちょっと居心地悪いのよ。男子に家事全部やらせて私はずっと好きなことしてるとか、これじゃ私がどうしようもないダメ人間みたいじゃない」


『割とその通りだと思いますが……というかそれなら普通に当番制とかにすればいいのでは?』


「それはやだ。面倒だし、こいつの方が家事得意なんだからこいつに任せる方が合理的じゃない」


『……そういう所ですからねましろさん?』


「と、とにかく! 家事は今まで通りあんたにやってもらうわ!」


 そう言うと、流石にバツが悪いのかましろは視線をそらす。何故か頬が少し赤い。


「代わりに……あんたがリクエストした絵、その……“なんでも”描いてあげる」


「へ? なんでも?」


「そ、そうよ。“なんでも”。本来ならお金取るところなのを、家事してもらう代わりにただで描いてあげようってんだから、悪くない条件でしょ?」


『ふむふむなるほど、それはいい提案ですね』


 ましろの提案にアイも同意する。


『仕事や家事など、役割の不均衡は夫婦間トラブルの原因の上位に入ります。形だけでもバランスを整えることはとても大切です!』


「ほら、アイもそう言ってるでしょ」


「いや、僕は別に……」


『蒼太さん、ここでの『別にいいよ』という回答はだいたい後で揉めるパターンです』


「う……。そ、それじゃおねがいしようかな……」


「ん。それで、どんな絵を描いてほしい?」


「どんな絵か……うーん」


 蒼太がどんな絵を描いてもらおうか考えていると、アイがそっと耳元に近づいた。


『もちろん、エッチな絵もありですからね?』

「ぶっ!?」


 蒼太は盛大に吹き出した。そんな蒼太にアイはニマニマしている。


『だって先ほど、ましろさんは“なんでも”描いてくれると言ってたじゃありませんか。ねえ、ましろさん?』


 そんなことを言えばまたましろに怒られるに決まってる――そう思いながらましろの方を見る……と、ましろはほんのり頬を染めながら、髪をくるくる指に巻き付けていた。

 視線は床に向いたまま、唇がもごもご動く。


「…………まあ、そのつもりで言ったけど……」


「え」


「か、勘違いしないでね! 私がそういうの描きたいとかじゃなくて! その……やっぱり男子ってそういうの好きだろうし……。あんたへのお礼のために描くんだから、せっかくなんだから喜んでほしいし……」



 まったく予想外の返答に、蒼太は目を白黒させながら手を振った。


「い、いやいやいや、そんな無理しなくていいって!? 女の子がそういうの描くのって抵抗あるだろうし!」


『あ、その辺はまったく心配ありませんよ? なにせましろさん、某イラスト投稿サイトの成人向けランキング上位の常連ですから!』


「へ?」


「ア、アイィィィィィィィィィィィィ!? あ、あんた……あんた言っていいことと悪いことがあるでしょっ!?」


『はわっ!? すみません情報開示レベルを間違えました!?』


「間違えたで済むかぁぁぁ!!」


 ましろが怒鳴りながらアイに掴みかかろうとするが、ホログラムのアイは当然すり抜けるだけだ。

 軽く涙目なましろが蒼太を睨む。ビシイッと指を突きつける。


「な、なによその目は! 女子がそういうの描いてちゃ悪いわけ!?」


「い、いや僕は別に……」


「別にそういうのが好きなわけじゃないから! あくまでも『いいね』いっぱいもらうためだから! というか! 一週間かけて描いたガチ絵より数時間で描いたエッチな絵の方がいいねいっぱいもらった時の絵師の気持ち考えたことあるの!?」


「そ、そんなこと言われても……」


『まあまあましろさん。最近は女性絵師でも成人向けを描いてる方はいっぱいいますから』


「う~……」


 ましろはクッションを抱きしめ、真っ赤になった顔を隠す。


「……そんな顔で見ないでよ、バカぁ」


 そうやって恥ずかしがるましろは可愛くて、そしてそんなましろがエッチな絵を描いていたと知ってしまったのはかなり衝撃的で。

 蒼太は、いろんな意味で胸をドキドキさせてしまうのだった。




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