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はじめましてから始まる新婚生活 ~少子化対策で相性抜群(?)の美少女と同棲することになりました~  作者: 岩柄イズカ


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4話『昨夜はお楽しみでしたね?』


 窓から差し込む朝日に、蒼太はゆっくりと目を覚ました。

 寝ている間にどうやら目隠しが外れてしまったらしい。頭はぼんやりとしていて、なんだか柔らかくて温かいものに顔を埋めている。


(なんだろう……これ……すごく心地いい……)


 目を閉じて、寝ぼけた頭でそんなことを考える。こうやって顔を埋めていると凄く安心する。それにほんのり甘い、いい匂いがする。トクン、トクンと心臓の音が伝わってくる。


(……心臓の音?)


 次の瞬間、蒼太は自分の置かれた状況に気付いた。

 ――眠っているましろの胸に、思いっきり顔を埋めている。


「っ……!?」


 心臓が一気に跳ね上がる。


 境界線を越えてしまったのかと慌てるが、自分がいるのはベッドの端。どう考えても境界線を越えてきたのはましろの方だった。

 しかもなんか、ましろの腕が蒼太の頭に回されていて、まるでぬいぐるみを抱くように蒼太の身体を抱き寄せている。


(や、やばい……やばいよねこれ!?)


 なんでこんなことになってるのかはわからないが、こんな状況を見られたら何を言われるかわからない。

 最悪そのまま通報、仮婚終了なんて可能性も……。


 蒼太はすぐに離れようとした……が、手足を縛ってしまっているので動けない。声をかけようにも猿ぐつわをしてしまっているので不可能だ。

 それでもどうにかましろから離れようと、蒼太は身をよじった。


 だがその振動に反応してか、眠っているましろが寝苦しそうに顔をしかめ――あろうことか蒼太の頭を抱き寄せるようにますますギュッと腕に力を込めてきたのだ。


 初めて感じる女の子の……それも同年代の美少女の柔らかな感触に、蒼太の思考がフリーズする。

 さらにましろは足まで絡めてきた。柔らかな太ももの感触。密着する身体と心地いい体温。蒼太は完全に身動きが取れなくなってしまう。


(な、なんでこうなるの……!?)


 心の中で情けない悲鳴を上げつつ、おそるおそるましろの顔を見上げる。

 幸いましろはまだ眠っている。熟睡してるようでこの状況に気付く気配はない。

 ホッと一安心。だがそれ以上に、ましろの寝顔を見るうちにある感情が蒼太の中に芽生えていた。


(かわいい……)


 眠っているましろは、起きているときのツンツンして不機嫌そうに眉をひそめていた少女とはまるで別人のようだった。

 安らいだ寝顔。ほんのり色づいた頬。かすかに緩んだ口元。


 起きている時の不機嫌そうな顔では気づけなかったが、こうしてみるとけっこう童顔ですごく可愛らしい。なんというか、護ってあげたくなるような小動物系の顔立ちをしている。


 ただ、蒼太も男の子だ。


 こうしてましろのような……それも着ているのは薄いネグリジェなんて無防備な格好の女の子に抱かれていたら、流石にやましい気持ちもわいてきてしまう。

 そんな気持ちに蓋をして、どうにかましろの腕から脱出できないかと考えていたその時だ。不意に耳元で声がした。


『おはようございます、蒼太さん』


「っ……!?」


 そちらを見ると、ニコニコ笑顔を浮かべたアイが浮かんでいた。


「む、むぐ、むぐぐぐ~~っ!(意訳:ち、ちがうんだ! これはその……」


 必死に弁明しようとするが、猿ぐつわ越しでは言葉にならない。

 しかしアイはにこやかに両手をパタパタ振る。


『ご安心ください、事情はすべて把握しております。蒼太さんから故意にましろさんの胸に顔を埋めたのなら問題ですが、今回のケースでは適用されません』


 いきなり有罪判決を下されたりはしないようで、蒼太はホッと息をつく。

 そんな蒼太に対し、アイはニコニコしながらそっと囁いてきた。


『それにしても……寝ているときのましろさん、本当に可愛いですね』


「むぐ……?」


 急に何の話だろうと思いつつも、寝ているましろの可愛さには蒼太も同意するしかない。

 アイは少し声を落とし、続けて蒼太の耳元で囁いてくる。


『いいんですよ? 今回は不可抗力なんですし、ましろさんの柔肌をもっともっと堪能しても……』


「むぐっ!?」


『蒼太さんだって男の子ですもの。そういうの興味、ありますよね? 私のことはお気になさらず、私はAIですので、そういったあれこれを見ても何とも思いませんから♪』


「むぐぐーっ!?」


『あとこれはあくまでも世間話なんですけどね? 仮婚では相性のいい男女が選ばれる分、二人の仲の進展も通常より早い傾向があるんです。なので……仮婚生活を開始してから一週間以内に“そういうこと”をする関係になることも、けっこうあるんですよ?』


「……~~~っ!?」


 アイの言う“そういうこと”を蒼太はつい想像してしまった。

 赤面する蒼太に対し、アイは相変わらずニコニコ笑って耳元で囁いてくる。 


『お二人も、早くそういう関係になれるといいですね♪』

 

 と、そうやって蒼太に悪魔が囁いていたその時だ。


「んぅ……」


 ましろが小さく身じろぎをした。

 まぶたがゆっくり持ち上がり、まだ寝ぼけた瞳が自分の腕の中にいる蒼太を映す。

 次の瞬間――。


「……きゃあああああっ!?」


「むぐぅっ!?」


 ましろの悲鳴が響き渡ると同時、蒼太は思いっきり腹を蹴られベッドから蹴り落とされされた。

 無様に床に転がる蒼太。対してましろは布団で自分の身体を隠し、わなわなしながら涙目で蒼太を指差した。


「あ、あんた人が寝てる間に何してんのよ! ケダモノ! 変態! 最っ低!」


「む、むぐー!(意訳:ち、違う! 僕はやってない!)


 必死に弁明しようとする蒼太。一方のアイは相変わらずの様子で二人の間に割って入る。


『落ち着いてください。確かに蒼太さんはましろさんの胸に顔を埋めていましたが、蒼太さんを抱き寄せたのはましろさんの方からですよ?』


「は、はあ!? そんなわけ……」


『ほら、こちらに証拠映像もあります』


 そう言うと、ましろの前に映像が表示される。

 ……映像の中では、誰がどう見ても寝ぼけたましろの方から蒼太を抱き寄せている。


「な、何よこれ。なんでこんなの撮ってるのよ!?」


『お二人の様子はモニターしていますとお伝えしたはずですが……』


「そ、そもそもあんな状況になったら自分で何とかしなさいよ! そのまま人の胸に顔埋めてた時点で有罪よ有罪!」


『蒼太さん、昨晩ましろさんに言われて手足を縛ってたので身動きできなかったんですが……』


「……うぐ」


 流石のましろもこれにはバツが悪そうで、先ほど自分が蹴り落とした蒼太の方をチラリと見て、拗ねたように視線を逸らした。


「仕方ないじゃん……くまくんいなかったんだし……」


「むぐ?(意訳:くまくん?)」


 蒼太がその言葉に反応すると、ましろは「な、何でもない!」と何かを誤魔化すように大きな声を出した。

 だがそこはアイが丁寧に解説してくれる。


『くまくんというのは、ましろさんお気に入りのクマのぬいぐるみです。小さい頃から抱いて寝ていたのですが、そのせいで抱きつき癖ができてしまったようですね。小学校の修学旅行では夜中に隣の布団で寝てた子に抱きついてたという可愛らしいエピソードが報告されています』


「むぐ~(意訳:へ~、ましろも意外と可愛いところあるんだ)」


 微笑ましいエピソードにほっこりしていた蒼太だが、ボフンと顔面に枕を投げつけられた。


「そんな微笑ましそうな顔するんじゃない! あとアイも余計なこと言わないで!」

『いいじゃないですかこういうエピソードなら。可愛くてむしろ好感度アップですよ。ねぇ蒼太さん?』


「む……むぐ(意訳:まあ……うん)」


「い、いやよ! そんなのばらされたら私の威厳ってものが……」


『威厳? ……すいませんましろさん。まさかご自身に威厳があると思ってたなんて……』

「ちょっとそれどういう意味よ!?」


『いや、ましろさんはどう見ても『ツンデレ』とか『ポンコツ可愛い』とかそっち系かなって。ねえ蒼太さん?』


「……むぐ(意訳:……うん)」


 そう頷いた途端、また枕を投げつけられた。



「……っていうか、まだ七時じゃん」


 時計を見たましろがふくれっ面で呟く。


「こんなに早く起こすとか、バカじゃないの。もっと寝かせてよ……」


「いや、でもそろそろ学校に行く準備を――」


 そう言いかけて、ハッと口をつぐんだ。昨日、ましろが「学校なんて行ってない」とこぼしていたのを思い出したのだ。


「……何よ。何か文句あるの?」


「べ、別に文句なんてないよ。人生は人それぞれだし、本当に嫌なら行く必要ないって僕も思うし……」


『とはいえ今の世の中、高校ぐらいは卒業しておいた方がいいというのが実際のところですよねぇ?』


 空気を読まないのか、それとも読んだ上で言っているのか、アイがそんなことを言ってくる。


『よかったら、蒼太さんと一緒に学校に通ってみませんか? 蒼太さんの学校には不登校の子を支援する制度がありまして、仮婚協力者という立場もあるので私が手続きをすればすぐ通えますよ』


「え……」


 思わず蒼太の胸が高鳴る。アイの言葉に、ましろと一緒に学校に通う光景を想像してしまった。

 一緒に学校に通って、席を並べて授業を受けて、学校行事なんかを通してもっと仲良く……。


『どうですか蒼太さん? 蒼太さんも、ましろさんと一緒に学校行きたいですよね?』


「う、うん。ましろさえよければ……」


「やだ」


 ましろはあっさり、二人の意見を一刀両断してしまった。

 そのまま布団に潜り込み、背中を向けてしまう。


「ほっといて。私、学校とかマジで無理だから」


 蒼太とアイは思わず顔を見合わせる。蒼太の方は「無理強いしちゃダメ」という風に小さく首を振って、アイもそれに頷いた。


「……わかった。でも、気が変わったらいつでも言ってね」


 そう言い残し、蒼太は静かに立ち上がって朝の準備に取りかかるのだった。



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