陸 別れと絶望
「っ...」
「あ、あぁあ...ああぁぁぁ.........」
「まじ...かよ...」
俺らの目の前に現れたのはセナ...だけならよかった。
普段あんな大きな足音を鳴らしていたどぉなつが、静かにセナの背後に居たんだ。
セナはそれに全く気付いていなかった。
セナは今...振り返った拍子にどぉなつに頭を食べられた。
正直今すぐに目を離したいが、衝撃と恐怖で視線さえも動かせない。
どぉなつの口の中で頭蓋骨が砕け、肉が潰れる音が聞こえる。
あいつは......血まみれの笑顔。
床には首から下がないセナの体が横たわっている。
気を抜けば今すぐにでも吐きそうだ。
ただ、血の匂いなんかは一切しない。
ここに充満しているのは死体のような臭い匂いではなく、ドーナツのような甘い香りだった。
「......逃げるよ!!」
サキが崩れかけたシュウヤを背負って物置へと走る。
どぉなつは俺たちが逃げることを察したのか食べるのをやめ、俺らの方に目を向けてくる。
「やばい......アツシ行くぞ!!!」
「お、おう...!!」
俺とアツシは急いでキッチンの方へ逃げる。
確かリビングの中にはもう1つ部屋があった。
鍵はかかっていたが今俺の手には何も書かれていない鍵が1つある。
これがその部屋の鍵なら...
後ろからどぉなつの足音が聞こえる。
サキ達は諦めたのか、ターゲットは俺たちのようだ。
上手く巻くしかない。
急いでキッチンへと入り、そのままリビング。
ドアの前に立つと、俺は名前の書いていない鍵を取り出し、急いで開ける。
足音は段々と大きくなっている。
「早く!!!早くしろ!!」
「わかってる!!!手が震えるんだよ...」
俺の目の前で、人が死んだんだ。
それも親友、生易しい死に方じゃない。頭を食べられたんだ。
恐怖で泣き叫びたい。何もできなかった自分の無力さをたたきつけられる。
「やばいぞ......」
足音がもう近い。
キッチンのドアを閉めていなかったから、リビングに向かったとこは見られている。
そろそろリビングに入ってくるかもしれない。
「っ!」
鍵が開いた。奇跡的にここの鍵だったんだ。
俺たちは急いで中に入りドアを閉めた。
それとほぼ同時とも言っていいタイミングでリビングのドアが開いた。
「......」
「...」
息を潜める。
リビングの音を聞くと、中ではガシャガシャと家具をめちゃめちゃにする音が聞こえる。
本気で俺たちを探しているんだろう。しばらくすると音は止み、ぺたぺたと帰っていく音が聞こえる。
ぴちゃっと、地面に血が落ちる音も同時に。
「......くそ...なんでセナが......」
「俺が分かれたのが間違いだったな、」
俺らはただの肝試しのつもりでここに来た。
何もないことなど知っているつもりで、雰囲気を楽しみに来たんだ。
だがそんな中で、セナは死んだ。
抱えていた恐怖が何倍にも膨れ上がった。
捕まれば見たまま、同じことになると。
「......出るしかない。」
「...はぁ、?」
「セナはもう死んでしまった。セナの分も俺らがここを出なきゃ、意味が...」
「.........そうだな。ツバキ、お前の言う通りだ。」
アツシは俺の肩を叩いて言った。
...そういえば、陸の部屋があるって言ってたな、ここを探索し終わったら行くか。
「で、ここは何なんだろうな。」
「さぁ。あまりにも暗い。」
そもそもこの部屋はよく目を凝らしてやっと扉が見える程度に明かりがない。
現段階でここを探索するのは不可能だろう。
恐らくどぉなつも周辺にはいないだろうし、一旦出ることにした。
「こりゃ結構...来るな。」
リビングはぐちゃぐちゃになった家具と、どぉなつが暴れた際に飛んだであろう血でいっぱいだ。
不快な匂いは無い。ここもドーナツの匂いだ。
あくまで憶測だが...どぉなつは、匂いを自分で操れるんだろう。
セナの反応を見る限り、どぉなつが背後に着いてから匂いを感じていた。
そしてこの匂いは、至近距離で嗅ぐほど人の判断を鈍らせる。
セナは好奇心が強い、タイミングが悪すぎた。死体の匂いを誤魔化すためとも考えれる。
「...行くぞ。」
俺たちはセナが食べられた通路に戻った。
見たところ、少し血濡れているが、そこに残っていたのは服だけだ。
「綺麗に食べられたか、」
「ちっ......。あー考えたくもねぇ。」
よく見ると、服にすこしふくらみがある。
中に何か入っているんだろうか?
「これは...名前の無い鍵と、研究データだ。」
セナが持っていた研究データを俺たちは呼んだ。
血で滲んで少し読みずらかったが内容は理解できた。
「どぉなつは人の手で作られた生物だったんだな。」
「なんでこんなの作ったんだ...」
内容について深くは考えないことにし、セナに任せた曲がり角の先へと進むことにした。
そこには2つの扉があった。
「仕事部屋...。ん、鍵かかってんな。」
「じゃあここは無理か?」
「そうだな。となってくると、」
「あぁ、あの部屋だ。」
俺は陸と書いてある部屋へと向かった。
セナから託されたこの鍵を握って。




