壱 物語の始まり
床はタイル張りされており、壁も白く汚れも見えない。
人がいないと言うにはあまりにも清掃が届きすぎている。
俺が4人を後ろに歩いた先には廊下があり、すぐ曲がり角だ。
ここを曲がると、誰か人がいるかもしれない。
もしいたら謝って何とか許してもらおう。
そう思った俺は少し覚悟を決め、そこを曲がる。
するとあったのは、1つの扉だ。
「...ドアか。」
恐らくこの中で物音が鳴ったのだろう。
時計の音も聞こえず、ただ床を歩く小さな音だけが耳に残る。
こんな不気味な館でそれだけを聞いていると、足音でさえ大きく聞こえる。
心臓の音さえも段々と大きくなりそうな中、部屋の前に着く。
ドアの横には小さな看板があり、【キッチン】と書かれている。
ふぅー、っと一息つき、俺はドアを開けた。
開けるとそこは、書いてある通りキッチンだった。
入ってすぐ左手にはもう1つドアがあり、その横には【リビング】と書いてある看板。
「はぁ...おっそろしいな、」
神経を研ぎ澄まし、部屋を見回す。
するとシンクの奥に何かある。
「これは、ナイフか。」
多分だが、元々の置き場所が不安定で、時間が経ってそのせいで勝手に落ちたのだろう。
余計な心配だった。
だが、人がいるのはほぼ事実。見つからないうちにさっさと帰ってしまいたい。
「......自衛自衛っと。」
俺はそのナイフを念のため、持っていくことにした。
念のためだよ?もしなんか家主が襲ってくることでもあったらいけないですから。
「さて、こっちの部屋も気になるけどまあ、行くか。」
このままリビングに行って、そこで遭遇しても都合が悪いのでさっさと戻ることにした。
何だかんだ1人は心細いので早く再開したい。
ドアを開け、先ほどの曲がり角まで向かう。そして俺は角を曲がった。
「...」
玄関前の空間はだいぶ広く、この廊下からは見通すことができる。
つまり俺は曲がり角を曲がればみんなの様子を確認できるということだ。
だが、確認できない。
「お前ら...どこ行ったんだよ...」
静寂。
時計台のカチカチという小さな音だけが響く。
そんな中俺は1人で呟いた。
仲間たちとはぐれたという事実に直面しながら。
「帰った...?」
いやまさか、みんなが俺を置いて帰るなんてことはない。
今の俺の視界に入っているのは、
ここから見て左手側に玄関、真正面に廊下、その先に扉。
そして右手側にさらに廊下だ。
「探す...か?」
もう1度玄関を開けようとしたが、開かない。
つまり、何かあってみんなははぐれたわけだ。
「どこから行くべきなんだ、これ。」
とりあえず俺は真正面の奥にある扉へと向かうことにした。
歩いていると思うが、やっぱり、不気味だ。
奥の廊下を進む途中、もう1つ部屋があったが、一旦スルー。
着いた扉の横には、【物置】と書かれていた。
「失礼しまーす...?」
人がいたら驚かせちゃうだろうから挨拶しながらドアを開ける。
ここは言うほど広くなかったので適当に見て回る。すると、
ガサッ
「っ?誰かいる...?」
恐る恐る音の鳴った方向へと近づく。
そこにあるのは段ボール1つ。よく見るとその段ボールの下には足が見える。
俺はその段ボールを上から思い切り奪い取った。
「うわぁぁぁ!!!!ごめんなさい食べないでぇぇぇ!!!」
「うわっ!!って、なんだシュウヤか...」
中に入っていたのはシュウヤだった。
俺はシュウヤにみんなのことを聞く。
「なぁ、みんなどうしたんだよ?」
「み、見てないのか、?あの変な生き物。」
変な生き物...?お化けとかじゃないのか?
幽霊とかお化けとか、そこら辺ならまだ納得もいくが...
「なんだよそれ。」
「茶色くて丸かった...でも手足が生えてて、まるで『ドーナツ』みたいだった......」
「はぁ?」
「見た目が可愛かったからわからないけど、セナが近づいたんだよ。そしたら急に顔が変わって、セナを追いかけ始めて、それで俺らはバラバラに......」
何を言ってるのかはよくわからないが、焦りようから見て俺の事をはめようとしてるドッキリ的なものでもないだろう。
とりあえず信じて、追いかけられたというセナを探しに行くことにした。
「ほら立てよ、行こうぜ。」
「ご、ごめん...腰が抜けてしばらく立てそうにないんだ、ここに来たのもやっとの思いで...」
まあ、言ってることがほんとうならトラウマにもなりえる事象だ。
腰が抜けても仕方ないだろう。
「ここにはあいつもしばらく来なそうだし、しばらくはここにいるよ...」
「そうか...わかった。気をつけろよ。」
「あ、ま、待って。これ...」
シュウヤは俺を呼び止め、1本の鍵を差し出す。
鍵のタグには、【脱衣所】の文字。
「この物置に入った時に拾ったんだけど、動けない俺よりかはツバキが持ってた方がいいと思うんだ...」
「そうか、ありがとう。またみんな見つけたら戻ってくるよ。」
「あぁ...。はぁ、俺がみんなを誘ったばかりに...」
小さくつぶやくシュウヤを後ろに、俺は物置を出る。
脱衣所、か...どこにあるんだろうか。
俺は物置を出てすぐ横にあった扉の看板を読む。
「そういやここにもあったな、うーんと......『ブレーカー室』...開いてないし、ここじゃないか。」
俺は少し館の中を散策することにした。
物置を出て、玄関前の広間のまだ行っていない廊下を進むことにした。
玄関から見て正面の廊下だ。
進むと、T字型になっており、正面に3つほどの部屋。左手に階段、右手には曲がり角があった。
正面の部屋を確認していくことにした。
「左の部屋は...『花』...?違うか。鍵も締まってる。真ん中は...お、『脱衣所』。入るか。」
俺は脱衣所の鍵を開け、中に入る。
鍵が外にあるくらいだし、誰かがいることもないだろう。
中に入ると、特に何の違和感もない脱衣所だった。奥には恐らく風呂場がある。
ただ一つ、少し甘ったるいような、いい香りがした。




