玖 新境地
「あ、あんた誰だ...」
俺の目の前にいるそいつは少し複雑な顔で俺を見る。
何も言わない。
「なんか言えよ!!」
「...これは失礼。君、どうやってここまで?」
「どうやってって...。鍵開けて来たけど?」
「なるほど...なかなかやるね。」
また表情を変えて、背を向ける。
「待てよ!あんた誰だって聞いてんだ!」
「ん?あぁそうか。私はアラキだ。君は?」
「俺はツバキだけど...」
「ツバキくんか、いいだろう。君に少し話したいことがある。」
そのアラキと名乗る人物は、奥へ進み扉を開けると俺を手招きする。
少し怪しんだが、特に悪いところは感じないので、ついて行くことにした。
そこは少し暗いが、明かりは灯っていた。
「で、君にはいろいろと話したいことが...」
「こっちこそ聞きたい事あるんだけど。」
「じゃあそれから聞くとしようか。」
アラキは飲み込みが早く、俺が話したいと言ったらそれを聞くような姿勢を取ってくれた。
俺はアラキに気になることを話す。
「なんでこんなとこにいるんだよ。」
「私はここに住んでいるからね。当然のことだ。」
「住んでる!?...どぉなつから逃げながらか?」
「うん、そうだよ。」
何事もないかのように答えるアラキ。
普通にここで生活とか無理な話だろ...
「なんで出ようとしないんだ?」
「私にはここに居るべき『理由』があるからね。」
「理由...?なんだよそれ。」
「それはまた今度、さて今度は私の番だ。」
俺の質問を遮り、今度はアラキが俺に質問してくる。
「君はどうやってここに?」
「友達と肝試しのつもりでここに来たらこんな目に...」
「そうか、じゃあ次。」
そう言うと、アラキはもう1つ奥の部屋へと進む。
少し経って戻ってくると、手には小さな何かが居た。
「これは......?」
「ちびどぉなつだよ。」
「はっ!?」
それを聞いてから俺は急いで部屋を出ようとするが、一向にそのちびどぉなつは襲ってこない。
確かに襲ってくるなら先にアラキから襲うか...
「ちびどぉなつって、どぉなつの複製体の...?」
「おや、よく知ってるね。そうだよ。でもちびどぉなつは人に敵対しないんだ。」
「そうなのか...」
「しかも喋れるよ。」
アラキは手からちびどぉなつを降ろした。
するとそのちびどぉなつはてちてちと歩き、俺の肩の上に乗る。
「チビ......ドナツ...ボク......」
「おぉ...かわいいなこいつ。」
「すぐに懐くなんて珍しい。気に入られたんだね。」
少しニコッとアラキが微笑むと、ちびどぉなつはピョンっと飛び、アラキの手に戻る。
「オナカ......スイタ...アラキ......」
どうやらちびどぉなつはお腹を空かせたみたいだ。
どぉなつは人間を食べるけど、ちびどぉなつは何を食べるんだ...?
「あぁー...。もうストックが無かったな。ねぇツバキくん、少しお願いがあるんだけど。」
「え?なんだよ。」
「1階のキッチンの冷蔵庫にちゅろすが入ってるんだ。それを取ってきてくれないかい?」
「ちゅろす......えちびどぉなつってちゅろす食うの?」
「うん、食べるよ。」
意外...かわいらしいもん食べるんだな。
敵対意識もないみたいだし、数少ない味方ってことでいいのか...?
とりあえず取りに行くか。
「じゃあ行ってくるわ。」
「うん、ここで待ってるよ。」
「ガンバ...ッテ......」
2人に見送られながら1階に戻ることにした。
出来れば遭遇したくない...
階段を上り、そのまま部屋から出ようとしたが、
「っ!?」
扉の外でドカンと大きな音がした。
これは...いるな。
少し息を殺して待っていると、扉の開く音が鳴り、安心して外へ出る。
「ふぅ...あぶねぇな。」
俺はそのままキッチンへと向かい、冷蔵庫を開ける。
中には皿に置かれたちゅろすが入っていた。
「これだな...」
ちゅろすを手に取り、俺は下へと戻る。
地下へと着くと、そこにどぉなつは居ず、アラキのところまで戻ることができた。
アラキが待っていると言った部屋へと向かう。
「おい、持ってきたぞ。」
「早かったね、思っていたより。」
アラキは俺の手にあるちゅろすを受け取り、ちびどぉなつの前に置く。
ちびどぉなつはそれを見ると、目を輝かせ、食べる。
むしゃむしゃしてる......かわいい...
食べ終わるとそれはそれは満足そうな顔でその場に横たわった。
「ありがとう、助かったよ。」
「そうかい、じゃあ俺は探索に戻るぞ。」
「あぁ、気を付けて。私はいつでもここに居るから。」
そのまま部屋を出ようとすると、突然ちびどぉなつが俺の肩へ飛んできた。
「うわぁ!なんだよびっくりした...」
「ふむ......どうやら一緒に行きたいようだね。」
「ボク......ツバキト...イッテミタイ......」
「うん、いいよ。たまには外の経験も大事だからね。」
「おい俺の意見は...」
「まあ悪いことにはならないさ。ちびどぉなつを頼んだよ。」
えぇ......結構勝手だな。
アラキは部屋の奥へと戻る。俺はそのまま進む。
さて...残りの2つの扉のどっちに行こうかね...
「というかちびどぉなつって、なげぇよな。」
「ナガイ...?ナマエ...?」
「うん、名付けてやるよ。うーん...じゃあナツな、名前。」
「ボク......ナツ...!!!」
「よし!じゃあ心機一転行くか!」
「イクカ!」




