「天使に猫耳を」
「任務だよ」って言えば、だいたいのことは通せる──
そんな世界だからこそ、
鈴付き猫耳が正義になってしまう日もあるんです。
兵士たちは、何も言わず、全てを受け入れた。
だって、可愛いんだからしょうがない。
それでは、どうぞご覧ください。
本日の任務装備:ねこみみ。
「──こちら調査小隊。発見対象あり。識別困難だが、SEPIA外套の着用を確認。生存の可能性あり。……真白一尉、至急ご確認願います」
しばしの沈黙ののち、無線が応じた。
『……了解。すぐに向かいます』
装甲型輸送車のハッチが、油圧音と共にゆっくりと開いた。
中から現れたのは、SEPIAの制式制服に身を包んだ一人の少女──真白いろは。
白銀がかった長髪が、焦げた風にわずかに揺れ、
腰にはデータ端末と簡易測定器。
その瞳は、迷いなく正面を射抜いていた。
──神聖なる登場。
いろはが車外に一歩を踏み出した、その瞬間。
小隊長が無言で駆け寄り、
手際よく差し出したのは──
黒地に金の縁取りが入った、鈴付き猫耳カチューシャ。
「一尉、現場は異性質化プラーナ反応あり。……装着をお願いします」
いろは「…………これは……」
小隊長(心の声)
(……このデザイン、夜勤明けに選び抜いたんだ。……似合わないはずがない……!)
「……了解」
シュッ、と前髪を整え──
カチューシャ、装着。
ちりん……と、小さく鈴が鳴る。
(((……終わった)))
兵士A:(この音で心臓やられた)
兵士B:(鈴、反則だろ!?)
兵士C:(もはや“聖鈴”)
兵士D:(音付き猫耳がこんなに……こんなに……)
兵士E:(“にゃん”て鳴いてなくても、もう鳴いてる)
兵士F(女兵士):(ありがとう、供給)
いろは(内心)
(……歩くたびに……ちりん……ちりん……って……)
(なんですかこの羞恥兵装は……!?)
──だが、真白いろはは凛として歩く。
「……案内を、お願いします」
「はっ」(はい、死ぬ)
ちりん……ちりん……
その音は、彼女の背に浮かぶ光の残像よりも──
確かに兵士たちの胸に、強く残ったという。
ちりん……ちりん……
──あまりに尊い音の波紋が、焼け焦げた瓦礫の谷間に広がる。
真白いろは一尉は、猫耳カチューシャを装着したまま、いつものように冷静に、凛と歩いていた。
だがその後ろを歩く兵士たちは──戦場どころではなかった。
⸻
【兵士A】
(あの一歩ごとに鳴る鈴の音──俺の脈拍と完全に同期してる……。
心臓のリズム、支配されてるってこれか……
これが“支配型神格兵装”だったら俺、完全に適合してる……)
⸻
【兵士B】
(あの一尉が、自ら鈴付き猫耳を装着して、無言で歩くなんて……
絵面が強すぎて、脳がオーバーヒートする。
……ていうか、こっちは訓練で“音での居場所バレに注意”って習ってきたのに……
鈴鳴らしながら光のオーラ背負って前線歩くとか、もう“バレても勝てる”やつだよ……)
⸻
【兵士C】
(“聖鈴”。いやほんとにもう、あの音、なんか心が洗われる。
不浄な俺たちの魂が、あの一音で浄化されてる気がするんだ……
ごめん、俺、昨日コンビニのスプーン5本持ち帰った──ごめん、もうしません……)
⸻
【兵士D】
(“猫耳を付けた一尉”っていう語句だけで、一週間は戦える……
ちょっと待って、この任務帰ったら日報に「※現場で尊死の危険あり」って記載してもバレない?)
⸻
【兵士E】
(一歩ごとに鳴るたびに、勝手に“にゃん”って脳内再生される……!
誰も言ってないのに……誰も鳴いてないのに……!
これが“脳内拡声術式”──!?)
⸻
【兵士F(女兵士)】
(だめ、これは……この破壊力は女子にも効く……。
一尉、顔赤いのバレてないと思ってるかもしれないけど、
全員、ちゃんとわかってるからね……!
それでも“凛としている姿”が最高なんですけどね!?)
⸻
いろは
(兵士たちが黙っているのに、空気がざわついているのがわかります……
ああ、もう……なんで私、こんな耳と鈴をつけて、真顔で現地調査してるんですか……!)
(でも──これが、任務ならば……)
⸻
小声でひそひそと、しかし全員笑顔が止まらない
⸻
【兵士G】
「……おい、G班にも聞こえたか?あの鈴音。マジで鳴ってたよな?」
【兵士H】
「聞こえただけじゃない、癒やされた。
なんなら俺、数年ぶりに“生きてて良かった”って思ったよ……」
⸻
【兵士I】
(やべぇ、もうちょいで泣くとこだった。
あとでログから静音抽出して、スマホの通知音に設定したい。
“いろは一尉・着信音ver.”……俺、商品化したら絶対買う……)
⸻
【兵士J(記録班)】※カメラ回し中
(任務記録にこの鈴音入りボイス残していいのか……?
上層部にバレたら倫理委員会送りか……いや、それでも……
俺は記録する──たとえ燃やされても!)
⸻
いろは、次の瓦礫の陰を覗き込む。
プラーナの反応、微弱──でも確かに生存反応。
「……ここです。隊員の皆さん、展開を」
「はっ!」
──全員が真面目な声を出すが、顔面は半笑い崩壊寸前。
⸻
【兵士A~F、G~J:全員の共通脳内ボイス】
(……一尉、好き……)
⸻
後日談:作戦報告書(非公式回覧)
──記録名:「猫耳聖鈴出動作戦」
通称:「E.O.M.S.E.(Ear of Mercy: Silent Engagement)」
・士気上昇率:186%
・幸福ホルモン分泌率:234%
・任務完遂率:100%
・全隊員、軽度の後遺症(いろは一尉不足)を訴える
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
今日の任務、
カチューシャ付きでした。
──以上です。ちりん。