真白一尉、優雅にすってんころりん
これは『Re:lectio Fati』Episode 1:邂逅の裏側で、
ほんの少しだけ起きた、ちょっとした出来事。
任務中でも、照れた顔は隠しきれない。
――少女も、兵士も、意外と人間らしい。
スピンオフ短編『れれくてぃお・ふぁにぃ』、はじまりです。
「──こちら調査小隊。発見対象あり。識別困難だが、SEPIA外套の着用を確認。生存の可能性あり。……真白一尉、至急ご確認願います」
しばしの沈黙ののち、無線が応じた。
『……了解。すぐに向かいます』
装甲型輸送車のハッチが、油圧音と共にゆっくりと開いた。
中から現れたのは、SEPIAの制式制服に身を包んだ一人の少女──真白いろは。
白銀がかった長髪が、焦げた風にわずかに揺れ、
腰にはデータ端末と簡易測定器。
その瞳は迷いなく、正面を射抜いていた。
いろはが車外に一歩を踏み出した瞬間、
小隊長が無言で駆け寄り、手際よくガスマスクを差し出す。
「一尉、現場は異性質化プラーナ反応あり。装着をお願いします」
「了解」
いろはは静かに受け取り、慣れた手つきで装着する。
カチリ──と、マスクの留め具が精密な音を立てた。
「……現場まで案内を」
「はっ。第三班を護衛に付けます。……こちら、真白一尉が現場へ向かう。全員、警戒を維持」
兵士のひとりが即座に前進し、周囲の配置を再確認。
もうひとりは肩越しにライフルを構え直し、いろはの側へ寄り添う。
「地形、瓦礫が不安定です。足元にご注意を」
「ありがとう。……構わない、行きま──」
──ガッ
「……ふぇッ!?」
軽く足を引っかけた拍子に、いろはの身体がふわりと宙に浮いた。
慌ててバランスを取ろうとするも間に合わず──
ズサッ!
パフッ!
――制服の裾がふんわり舞い、
彼女はそのまま見事にお尻から着地した。
一瞬、時間が止まる。
(((………………)))
(((かわ……っっ!?)))
兵士A:(ま、真白一尉……!?!?)
兵士B:(尊い……ッ!)
兵士C:(いまの……録画モード……っ!)
「……問題ありません。続行します」
いろははすぐに立ち上がり、土埃を払って平然を装った。
──が、マスクの奥では、耳の先までほんのり赤い。
(((いや、むしろ問題ないのが問題……ッ!)))
兵士D:(可愛いは正義だって今、俺、確信した)
兵士E:(本部に黙っていたいこの気持ち)
「……案内を、お願いします」
「はっ」(無理、好き)
焦げた風が再び吹く中、
少女と兵たちは、何事もなかったかのように歩き出した。
──だが彼女の内心では。
(……恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!!)
マスクの内側にこもった微かな吐息が、
曇ったレンズの奥で小さく揺れていた。
――そして、その背後で。
兵士A(30代・小隊長格)
(……真白一尉が転倒、即座に体勢を立て直し……問題なし。任務続行に支障なし。うん。うん、任務に支障は……ない……けど、ないけどさ……)
兵士B(20代・新人)
(やばいやばいやばい。推せる。あの一瞬で、心、持ってかれた。これって恋?いや待て落ち着け俺)
兵士C(ベテラン・寡黙)
(……尊い。以上)
兵士D(情報班・サポート係)
(思わずセーフティ解除しそうになった……危険なのは俺の心だ)
兵士E(陽キャ系)
(マスクの下で照れてるのバレバレじゃん!?可愛すぎかよ!あ〜〜〜録画機能ほしい〜〜〜!!)
兵士F(女性兵士)
(いろは一尉……無自覚天然系だったのか。うっかり推すわこれ……)
兵士G(報告係)
(この出来事をどう報告書に……「段差により一時転倒、本人即時復帰」……ああ、なんか味気ないなあ)
それでも、全員が銃を構え、視線を前に向けている。
──これは任務中だ。
たとえ一尉が可愛かろうと、可愛かろうと……可愛かろうと!
任務に支障は──たぶん、ない。たぶん。
焦げた風に吹かれながら、
小さな動揺を秘めた調査隊一行は、静かに進行していった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回は『Re:lectio Fati』本編とは少し趣を変えたスピンオフ──
その名も 『れれくてぃお・ふぁにぃ』 第一話をお届けしました。
こうした日常のワンシーンを通じて、
キャラクターたちの「裏の顔」や「人間らしさ」を
少しでも愛していただけたなら、嬉しい限りです。
次回以降も、ふんわり・ゆるっと・まじめに(?)
“ふぁにぃ”な日々をお届けできればと思っております。