第三生徒会ルート 第七話
ちょっと時間が空きましたが、第七話です。
前話で出てきた「南洋ボケ」という単語ですが、これは「南洋校舎」という立地条件から発生する、世間との常識ズレのことを言っているものとご理解ください。
第三生徒会ルート
第七話
~ 「・・・・・・」
目覚めれば、そこは暖かな布団。
真っ白な天井。
・・・・・・・・・・・
目覚めれば、そこは、どこかも解らない空間。
それでも暖かな空気に溢れる空間。
・・・・・・・・・・・
ゆっくり息をするが、それすらも体に負担だとばかりにせき込む自分。
肺すら出ていくかのような咳を吐き出す体に、暖かな手が添えられた。
耳元で誰かの声が聞こえる。
「大丈夫。もう大丈夫だよ」と。
ちがう、ちがう、僕なんていいんだ、僕なんか関係ない。僕よりも、ゆえを・・・・!
「もう一人も大丈夫。今はゆっくり寝てるよ」
もう一人、・・・・・もう一人。
・・・・・・・・・・・・
あそこには僕たちのほかにも何人かいた。
・・・・・・・・・・・・
それなのに、もう、「ひとり」。
・・・・
瞬間、私は意識を手放した。
~北郷一刀「・・・ゆっくりでいいんですよ」
今回保護した生徒は、大半は怪我した浪人学生だったけど、栄養状態が悪くて立ち上がることすらできない生徒がいたことに驚いた。
それも栄養失調の生徒は通常の浪人学生ではなく、第二生徒会所属の生徒のみだった。
体はやせ細り、髪の毛や肌の艶は失い、カタカタと震えている女子ばかりだった。
僕ら親衛隊やねねは、栄養失調状態の学生たちの看護をしていた。
「・・・これが第二生徒会の事実なのです」
僕の隣で同士ねねがベットに眠る少女に手をさしのべる。
額のタオルを取り替えて、汗を拭いてやった。
「第二の幹部と取り巻き以外で生活はできないのです。」
彼女の語る第二生徒会は、すでに生徒会ではなかった。
物資の占有、仕送りの搾取、授業執行放棄等々。
学力自体は本土から引き寄せた成績優秀生徒が支え、それが出来なくなれば追放されるという。
ふつうの生徒は仕送りと引き替えに少量の食料を分け与えられ、それで一月をしのぐとか。
「・・・ばかな! そこまで愚かしいはずあるまい!!」
背後で声を上げる祭先生を見て、ねねは苦笑い。
「祭先生が第二にいらした頃は、ここまでひどくはなかったでしょう。ですが、手綱を引くものがいない今、どうなっているかはご理解できますよね?
」
「・・・・!」
沈痛な思いで押し黙る祭先生。
その姿がすべてを物語っているかのようだった。
~角田 詠「・・・よかった。」
第三生徒会に保護されたと知ったのは、気がついてから三日後だった。
お人好し生徒会と有名な第三だが、その勢力範囲は狭く力も弱い。
第二や第一から強権をふるわれれば屈するしかないだろう。
だから、と僕は体を起こした。
「治療には感謝するわ。・・・・でもこれ以上迷惑はかけられないから・・・。」
ベットを離れようとした僕を押さえたのは、現第三生徒会会長、劉蜀桃香会長だった。
「・・・安心して。これでも今期に入って色々と力を付けてるんだから」
彼女曰く、僕たちが保護されたのも今期の影響力上昇にあわせて広がった支配地域の巡回が行われたからで、僕が知ってる島の支配地域分けとは違っ
ていた。
「君たちのことも、どうにかできるとおもいますよ?」
桃香会長の隣に立つ少年がにっこりとほほえむ。
「第三生徒会 親衛隊隊長 北郷一刀です。」
そういえば、噂で聞いた。男子がこの島にきていると。
「ほとんど一刀君のおかげだけど、結構第一に貸しがあるのだ。だから安心して。」
なんで、その貸しを僕らのために?
「・・・・」
言葉に詰まった二人はお互いをみた後、笑顔で答えた。
「人助けには理由はいらないと思うよ?」
「助け合う気持ちに理由はいらないんですよ?」
やっぱり、おひとよし、だ。
~曹巍カリン「あーあー、わかってるわよ、わかってるってば!!」
やっぱり第三ってやっかいだわ。
面会にきた北郷一刀が持ってきた案件は、面倒この上もない事柄ばかりだった。
第二生徒会隣接区域に流失している栄養失調状態の第二生徒会所属生徒、非道ともいえる第二の配給制度、そして最も面倒なのは、「元生徒会長」だ
った。
第一生徒会の元生徒会長は、私たちの手によって追放された。
それは彼女が選んだ幹部によって圧政が引かれたため、生活困窮者が続出したからだ。
私がその事実と生徒代表として解任請求をして、実行者は退学、利用されただけの前生徒会長は追放にとどめた。
少なくとも自分のことを自分で処分できるようにと。
しかし彼女の熱心な信者が彼女自身が自らを処分する事を許さず、その身を隠させた。
そして、この事態、だ。
すでに彼女の配下であった元第一に幹部は全員本土に戻されていたし、政治的な力は完全いなくなっていたはずなのに。
「彼女をしたって第二から逃げ出した生徒が集っていたんですよ」
北郷一刀が持ってきた今回の報告と救援された第二の生徒の調書からも、彼の意見が正しいことがわかる。
なんともやっかいな人間だ。
彼女自身は何もせずとも彼女の周りに人が集まってしまうのだ。
さらに、彼女に関わると、どうしても手を出したくなる。
本当にやっかいだ。
調書から視線をあげると、そこには第三生徒会の象徴ともいえる笑顔を浮かべた少年がいる。
「あー、もー、わかったわよ、わかってるわよ!」
くそー、やっかいな奴らに借りを作ったものよねぇ。
少なくとも二件は呑まなくちゃならないんだもの。
~薫 ゆえ「・・・・へぅ。」
ちょっと前まで、詠ちゃんとみんなと一緒に不思議な校舎で暮らしていました。
洞窟の中にある校舎なのに、いつでも校舎内が乾燥していて、ご飯を貯蔵しても腐りにくい変なところ。
でも、そんなところだから私たちは隠れていることが出来た。
私と詠ちゃんは第一から。
あの子たちは第二から。
彼女たちからきいた第二の実状はそれは恐ろしいもので、圧政と言われた当時の第一よりも酷いものだった。
だから、私はあの子たちを保護したいと思った。
何の力もない私だけど、それでも守りたいと思った。
でもそれは間違いだったのかもしれないとも感じていた。
食料を調達できるわけでもないし、お世話が出来るわけでもない私の下で、彼女たちは徐々に衰えていった。
意識を失ってからどれだけの時間がたったのだろう?
気づいたときには暖かなベットの上だった。
にこやかな女性が甲斐甲斐しく世話をしてくれて、代わる代わる色々な女のヒトが世話をしてくれた。
気がついて翌日には声が出るようになったのできいてみると、なんと第三生徒会に保護されたということを教えられた。
それは不味い、と身を起こしたが、彼女たち曰く
「大丈夫、何とかするから」
私はその笑顔を信じることにした。
さらに数日後、男子に介助されながら、ふらふらと歩く詠ちゃんが私のベットの横に立って説明してくれた。
信じられないことに、今の第三生徒会は、第一生徒会に対して結構無茶な取引を持ちかけることだ出来る程に立場が変わったという。
そのおかげで、私たち自身が第一でも第三でも好きな生徒会に庇護を求められるように手を打ってくれたのだという。
あの曹巍カリンさんに、どんな貸しを作れば無理が利くのだか、想像も出来なかった。
さすがに第二との交流はないので、難民化している第二の生徒を勝手に引き受けるわけにはいかないけれど、彼女たちの仮住居として校舎を解放する
ようにしてくれている。
私が出来なかったこと、私がしたかったことをしてくれる人たちがいる。
私が守りたかった、私が何とかしたかったことをしてくれる人がいる。
嬉しくて嬉しくて。
私は詠ちゃんにほほえんだ。
「・・・第三でいい?」
すると詠ちゃんは支えてくれる男子をちょっとだけみてから、私に視線を戻した。
「ゆえがいいなら、僕はいいよ」
久しぶりに私たちは笑った。
心の底から笑った。
~北郷一刀「・・・女子って強いなぁ」
角田詠さんと薫ゆえさんが第三生徒会に参加した。
ゆえさんは主計へ、詠さんは今までなかった役職に就いた。
第三生徒会所属 主計連絡班
部活設立のための資本確保や資材確保のための連絡を一手に引き受ける役職として、第一から設立を打診されていたのだ。
第一の内部事情にも詳しい詠さんは、すごく適役で、そのことをカリン会長に言うと・・・・。
「本当に油断ならないわね、あんたたちって」
とすごく感心してくれた。
・・・桃香さんは誉めてくれたといっているので、誉められたことにする。
最初は嫌がった詠さんだったけど、ゆえさんが説得して就任してもらった。
そんなわけで、本日は第一と第三の幹部が集まっての、合同就任祝賀会を開催することになった。
第三からの主計連絡班人員は詠さんだけど、第一からも主計連絡班人員が来ることになってて、それが彼女だった。
「兄様、お久しぶりです。」
彼女、悪来ルルさんは、にこやかな笑みで第三の幹部と顔合わせをしている。
「おお、そなたが悪来殿ですか。」「ああ、あなたが音宮さんですね!!」
おお、と盛り上がる二人は、この島で数少ない料理スキルの高い少女たちのため、盛り上がる相手がいなかったらしく、すごく楽しそうな交流をして
いた。
が、うってかわって第一側の幹部は、盛り上がりに欠けていた。
まぁ確かに、角田さんや薫さんが直接圧政を引いていたわけじゃないけど、管理監督責任を問われていた人間が、元の組織との窓口になると言うのだ
から・・・
「・・・よかったな。」「・・・はい」
「・・・薫も無事か?」「・・・はい」
「・・・本当に無事でよかったなぁ・・・。」「うん」
盛り上がりの方向は違ったけど、暖かな空気を感じることは出来た。
良かった良かったと思っているところで、隣にカリン会長登場。
「本当にやられたわ」
「何が、ですか?」
きっと睨む姿は怖いはずなのに、なんとなくかわいく感じる。
「わかってるわよ、偶然で善意だってことは」
でも、彼女の、曹巍カリンの計画が悉く覆っていると感じているという。
初め、カリン会長は、第三との合同主計設立を悪来ルルと僕に任せるつもりだったという。
何で僕かな、とは思ったけれど、部活の企画をぶちあげた責任もあるので、そのへんだと納得することにした。
で、その活動を元にして、僕の存在の共有化をねらっていたらしい。
共有化って意味があるのかな、と思ったけれど、彼女の語るに任せようを耳を傾けることにした。
グチで始まった彼女の学園構想は、心打たれるものだった。そしてそれは第三のあり方と矛盾するものではなく、お互いに引き立てあうであろうもの
だった。
僕は確信する。
僕らの計画は成功する、と。
僕らの思いは必ず形になる、と。
~布宮恋「・・・」
ねねは変わった。
前から弾けるほど元気で可愛い娘だったけど、第三にきてからは更に元気になり、よく笑うようになった。
「恋さま、恋さま。これもおいしいですよ?」
ただ、変わらず私の世話を焼こうとするのが嬉しいやら恥ずかしいやら。
「ねね。あなたも楽しむ」
「もちろん楽しんでおりますぞ。」
にこやかな笑みのねねの顔が、更に輝く。
「・・・一刀殿!」
一人の少女を伴って現れたのは第三生徒会幹部のひとり北郷一刀。
役職は親衛隊隊長となっているけど、実際は桃香会長直属の何でも屋だった。
私もねねも彼に救われ、そして元第一の角田・薫両名も救われたといえる。
「同士ねね。紹介しましょう、彼女こそ・・・」
「悪来ルルです。」
「・・・おお、あなたが!」
きゃっきゃと共通の話題に盛り上がるねねと少女。
いつもは背伸びしているねねも、共通の話題と近い年齢のおかげか、少し幼く感じた。
少しその場にいた北郷一刀だったが、第一生徒会会長に連れ出され、愚痴を聞かされていた。
グチの内容に細かく相づちを打ったり、内容を修正したり、相手の話を受け入れたりと多彩な会話で、少々機嫌の悪そうだった曹巍カリン会長も、次
第ににこやかになる。
そう、あの少年、北郷一刀に関わると、こんなふうに笑顔が生まれる。
仕事をしていても、巡回をしていても、食事を作っていても。
「おや、布宮さん。誰かさんをご執心かな?」
ふらりと現れた子雲 星に一度視線を合わせ、再び視線を戻す。
「・・・興味深い」
「確かに、興味深い少年ですな」
にこやかは笑みを浮かべているであろう星は、私の肩を抱く。
「競争率は高いようですな?」
「・・・競争いつなんて関係ない。私は私の思いに正直であろうと思うだけ。」
「・・・ほほぉ、それはすばらしい見解ですな」
「そうだよね、うん。私も正直になろーっと」
「・・・そうですね。私も素直さを大切にしましょう」
「お兄ちゃんには、素直に当たるのが一番なのだ」
「んー、あたしは一番じゃなくていいから、構ってくれると嬉しいかなー」
「・・・あたしは、あたしの前でだけまっすぐに見ててくれれば・・・・」
気づけば第三の幹部が固まって、カリン会長と北郷一刀を見ていた。
さらには、二人をはさんで第一の幹部が二人を見ている。
何を会話しているか解らないけど、ちっこい会計がいきり立っているので不穏な風があるかもしれない。
いつの間にか、こんな人間関係に関わっている。
それだけで嬉しく思う私だった。
視界の端で、ねねとルルが楽しそうに会話している。
それを見たままに、私は頬をゆるめた。
「布宮さん、たのしんでる?」
先ほどまで曹巍カリンお相手をしていた北郷一刀が私の隣に現れた。
「・・・恋でいい」
「えっと、恋さん?」
「・・・恋でいい」
彼には恋と呼んでほしかった。
私のそんな思いに答えるように、彼はほほえむ。
「じゃ、恋。楽しんでる?」
「・・・うん」
私は今まで感じたことのない幸福感を感じていた。
人がいる、仲間がいる、友達がいる。
会話が出来る、思いがつながる、見据える先を語り合える。
そんな幸福を今まで味わったことがなかったから。
ねねをみて、そして私は感じていることを語った。
ねねが楽しそうなこと、笑顔でいっぱいなこと、そして毎日笑顔のねねを見ていると私も嬉しいこと。
彼も語った。
毎日が楽しいこと、大変なことが一杯だけど嬉しいことも一杯なこと、毎日知り合う人たちが大好きなこと。
でも、と顔をゆがませる。
「・・・難民?」「ええ」
第一と第三にとって、今一番の問題は第二生徒会所属の生徒が難民化している事だった。
親衛隊が中心になって行われた浪人学生救済巡回で解ったことだけれども、身動きもできないほど衰弱している生徒がいたし、怪我で動けない生徒が
いた。
私自身も浪人学生だったので解るけど、浪人学生は何より健康でなければ生きてゆけない。
病気になっても怪我をしても誰も助けてくれないからだ。
不潔でも身だしなみがダメでも食料を分けてもらえなくなる。
第三が復興してからは差別はなくなったけど、以前は少しでも相手が気に入らないと配給が滞っていた。
そう感じていた。
もちろん、実際の理由は別で、第三の気分次第で配給されていたわけではなく、懐具合で配給されていたことは、所属してから解ったことだった。
ともあれ、当時、唯一助けてくれる第三も、すべてを助けることが出来ない。
だから自分のことを守れるように健康でなければならなかったのだ。
しかし、このほどの巡回で判明した事実として、負傷者や栄養不足者の数は異常だった。
まるで紛争地帯の難民のような姿に、みんな心を痛めていた。
そして現場に一番立ち会った彼、北郷一刀も。
「・・・一刀、私たちは何をすればいい?」
「解りません。でもこのままにもしません。」
親衛隊長なんて立場にいても、身に余る決意かもしれない。でも、私はそれを支えようと感じた。
その思いは密やかで、それでいて暖かかった。
~
今までの南洋校舎のあり方からみれば急速に変わり行く情勢。
人々が集まり意識し、そして高めあう動きは、まるで天を焦がす炎上の様。
熱く熱く、高く高く。
しかしそれは急激ではあったが遅かったのかもしれない。
それが始まる前に芽吹いていたことがあったから。
それが十分な力となる前に、事は始まっていたのだから。
少々執筆のペースが落ちていますが、当初予定の週二話は維持したいと思っていますのでよろしくお願いします。