表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/34

第三生徒会ルート 第三話(改)

第三生徒会ルート


第三話



~曹巍カリン「・・・なにが起きてるの?」


 曹巍カリンは大いに不機嫌であった。


「珪花、これはどう言うことなの?」


 合同中間考査の結果を見て、眉をしかめる曹巍カリン。


「・・・現在、詳細に分析をさせています。」


 恥辱に顔をゆがめた少女は頭を下げた。

 彼女はきわめて有用な作戦を打ち立てていたはずであった。

 現在、この島唯一の男子にして憧憬の対象になりつつある北郷一刀のせいで、第三生徒会へ流れる人員を押さえられないと判断した彼女は、成績不良者を優先的に学区隣接エリアへ移動させたのだった。

 自然、成績不良紗の集まりはミーハーにも男子のいる第三生徒会へ身を寄せ、これにより成績不良者の足切りが出来、さらには順調な成績を収める第三生徒会へ平均成績という重石をつけるのが目的であった。

 事は順調に進み、お人好しばかりの奴らはなにも考えず受け入れを表明し、形だけでも支配地域は拡大した。

 が、第一生徒会にしてみれば、インフラが弱い地域とともに成績不良者を大量に第三生徒会に押しつけることに成功したという結果をつかみ得た。

 試算で第一は平均点は20点ほど上昇し、他の生徒会の追随を許さないはずであった。

 そして、中間試験を終えてみれば、第一生徒会の成績は試算通りの20点上昇を果たしたが、恐ろしいことが他の生徒会で起きた。


 第三生徒会:平均成績80点


 例年の南洋校舎の全学年平均点が40点。第一生徒会でも今回の平均成績71点が過去最高平均のはずであるが、平均成績80点という恐ろしい成績を叩き出したのだ。

 あの、第三生徒会が。

 多くの足かせを抱え、修学平均を揃えるだけで時間を浪費させ、「男にウツツを抜かす」という評判すら準備していたというのに。


「少なくとも、酔いどれ教師が出来る事じゃないわ」


 曹巍カリンの洞察はもっともだ。

 これまでも結果の出せなかった教室改革と言われる授業方法も、言うなればありきたりで、それでいて成績上昇の結果もそれなりにでていた。

 が、今回押しつけた成績不良者は、いわば南洋校舎における敗者であり、拗ねてしまった者たちだった。

 第一生徒会の最低配給に満足し、日々の生活を怠惰に過ごしてきた。

 何のために南洋校舎にきたのかわからないような、そんな敗者。

 彼女たちをどんなに鼓舞しても、どんな餌をぶら下げても成績上昇などあり得ない話のはずなのに。


「・・・なんとしてでも調べなさい。」


 静かに命じる曹巍カリンであったが、彼女自身はおおよその見当はついていた。

 それでも、その効果はこれほど出るはずがなかったので見逃していたが、何からの要素があるのだろう。

 つくづくあの場の対応を間違えたことを思い出すカリンであったが、実のところ表情ほどは不機嫌ではなかった。

 なにしろ、南洋校舎全体のレベルがあがれば、本土からの配給レベルもあがるのだから。

 あとはお人好しの第三生徒会から輸入すればいいだけの話だったから。



~北郷一刀「・・・最近、飲酒に抵抗感がなくなりました」


 乾杯をする僕たち。

 第三生徒会本部の共同食堂に集まった幹部全員で、中間試験終了と成績上昇をお祝いした。

 が、もっとも盛り上がっているのは第三生徒会顧問教員である紫苑先生と桔梗先生だった。

 なにしろ、授業正常化率の指標ともなる試験成績が80%を越えたという事だから。

 本土にも負けない成績だと大喜びで、今回の試験成績によるボーナスがまた喜びを加速させているという。


「第三生徒会における最高成績を祝して、」

『かんぱーい!!』


 本日何度目になるかわからない乾杯だったが、そこに意外な珍入者が現れた。


「・・・・・お邪魔するわよ。」


 第一生徒会 会長 曹巍カリン。

 その自信満々な笑顔は、港で浮かべたそれではなく、彼女自身の素顔に思えた。

 彼女曰く、何度か入り口で声をかけたが誰も出なかったので勝手にひってきたという。

 それについてはこちらが悪い。

 なにしろ、案内役も置かずに宴会をしていたんだから。

 曹巍カリンに続いて現れたのは、彼女の腹心である夏姉妹、そして見知らぬ少女であった。


「あなたたちの勝利をお祝いにきたわ。」


 そういって曹巍カリンは、数本の日本酒を引っ張りだした。

 おお、と歓声を上げる第三生徒会幹部。とその顧問。と、いつの間にか定住しているゼット団団長こと祭先生。


「っていうか、なんでまだ居るのよ。」


 祭先生を睨みつけるカリン会長だったが、彼女の言葉はもっともで、中間試験前に解放していたはずなのに、なぜかテストの採点を終えたら戻ってきたのだ。


「本人曰く、居心地がいいので居を移すけど所属は第二だそうです。」


 桃香さんは苦笑いだったが、それって正面からスパイしてますって事ですよ?と祭先生が帰ってきた当初は雛里ちゃんが猛抗議していた。

 本来なら横紙破りもいいところなのだが、それはそこ、徳の生徒会を芯とする第三生徒会は受け入れることにしてしまった。

 その流れを聞いた曹巍カリンもいささか毒気を抜かれたようで、大いにため息をついた後、その存在を無視することにしたらしい。


「まぁいいわ。そっちはそっちで勝手にやってもらうとして・・・。」


 パチンと指を鳴らしたカリン会長の両脇から二つのジュラルミンケースが出された。


「ここに2億あります。」


 思わず吹く第三生徒会幹部。


「これを代金として交渉をしにきたわ。」


 彼女の交渉は次の通りだった。


1.成績順位一位の生徒会が決められる補給物資比率について第一生徒会の希望を入れること。

2.補給物資比率に従い第三生徒会が入手できた物資を正規の値段で第一生徒会に売買すること。

3.授業正常化についての恒常的な研究会の発足に協力すること。


 もちろんすべての要求が通るわけではないことは理解していると胸を張るカリン会長。

 現状の生徒会を維持するための補給物資は是が非にも必要で、そのためには形振りをかまっていられないと言うのが彼女の話した内容だった。

 思わず手を握ろうとした桃香さんをとめたのは会計二人組。


「会長、お待ちください。」


 そういって滔々と話し始めた彼女の言葉を、曹巍カリンはお気に入りの楽曲を聞くかのように、笑みを浮かべて聞いていた。 

 つまり、朱里ちゃん曰く、


・すべての要求が通った場合の曹巍カリンが得られる利益は2桁奥に達するので、この場の二億など目じゃないこと。

・横やりが入れられる実績を作れば、第一生徒会の実績として残り、後々の交渉に有利であること。

・研究会への協力、と銘打っているが、第三生徒会からの人員引きはがしが明白な目的であること。


 以上から三つの条件すべてを否定せざる得ない、と語る朱里ちゃん。

 雛里ちゃんもいつもとは違い、滔々と語る。


「私たちがここで折れては、以後の試験におけるモチベーションが維持できません。どんなにがんばっても、横やりが入るという実績では、私たちが納得しても、第三世都会に参加する生徒たちが・・・・」


 そこまで言った雛里ちゃんと朱里ちゃんの口を両手で押さえる僕。


「・・・曹巍カリン会長。実際のところ、どうしても欲しいものって何なんですか?」


 まっすぐに見つめて、視線を逸らさず数秒。

 彼女の視線はそれた。


「・・・授業正常化、よ。」


 やはり、と僕は思った。

 彼女は彼女でこの南洋校舎の現状を憂いで居るに違いなかった。

 数十倍にも及ぶ競争率の果てで得られた権利が、戦争ごっこと陣取り合戦ではつまらなすぎるのだ。

 この南洋校舎は、すべての時間を遊びに費やしても足りないほどの冒険があるが、そのすべての時間を勉強に研究に費やしてもあまりある時間と空間があるのだ。

 正直、あの分校の始まりの人たちが居たら、うらやましさに身を震わせることだろう。

 だから、僕は桃香さんをみた。

 彼女は優しく頷いた。

 そして、僕は懐の一枚のメモリーを引っ張りだした。



~桂 花代「・・・男なんかに・・・」


 情けを掛けられたと恥辱に燃えているのは私だけだった。

 夏姉妹は口々にあの男を称え、カリン様も苦笑いでそれを聞き流していた。

 持ち出した二つのジュラルミンケースはそのまま持ち帰ることとなったのが、良かったのとか、悪かったことかは判断しきれないけど、少なくとも作戦目標の最低限を達成しつつも別の戦いに敗北したのだ。


 あのとき、あの男はいった。


「補給物資の件は権限がありませんが、授業健全化については僕の担当なので。」


 そういって一枚のメモリーをカリン様に渡した。


「この学習の仕方は先輩たちから教わったもので、なにも極秘でも秘伝でもありません」


 ゆっくりとカリン様を見つめた男はいう。


「すべての人がこの学習で力を付けられるわけではありませんが、多くの人が力を持つことはいいことだと思います。」


 だから、ただでこれを持っていってください、と。


「私は物乞いにきたのではないわ!」


 怒りで立ち上がるカリン様の方に手をかける男。


「僕も代金を持って先輩から教わったものじゃありません」


 真剣な瞳に見入るカリン様。


「・・・お兄ちゃん。みんな勉強できたら、うちが負けちゃうのだ。」


 ちびっ子の言葉を聞きながらも男は視線を逸らさない。


「みんなが勉強できて、みんなが百点取れたら、もっと楽しいことが勉強できるんだよ? 第三生徒会ばかりじゃなくて、第一生徒会、第二生徒会だって勉強できるようになれば、南洋校舎全体がもっと楽しくなるんだよ? 鈴鈴は楽しみじゃないかな?」


 瞬間、しゅたっと身を起こすちびっ子。


「・・・たのしみなのだ!!」


 苦笑いのカリン様。


「でもね、私も物乞いでこれをもらったって評判は欲しくないのよ」


 そう、第一生徒会が対価なしで施しは受けられない。

 そういったのに、男は思いだしたかのような顔をした。

 ぱっとカリン様から手を離し、第三生徒会全員を振り向く。


「思うんですけど、なんでこの校舎にクラブはないんですかね?」


 は? という顔の周囲。


「クラブって絶対学校生活にプラスになるし、いま本土に頼っている娯楽もクラブで提供すれば、結構おもしろくありません?」


 瞬間痙攣したかのようなカリン様が男を振り返らせた。


「・・・わかったわ。それを条件としましょう」


 この2億を各種クラブ設立のための準備金とすること、そしてインフラ上必要と思われるクラブの設立物資を、第一第三が成績順位トップとなった暁には順次そろえること、などがその場で締結した。

 その場にいた全員が証人となり、クラブ参加者は所属生徒会によらない公人扱いとすることなども簡単に決められてゆく。

 話は大いに盛り上がり、最近では見ないほど楽しそうなカリン様の姿が印象的だった。

 そう、最近でまみれないほどの笑顔だったのだ。

 第一生徒会に就任してしばらくは、カリン様の笑顔と共に影響力を広げる毎日だった。

 夏姉妹や許、遼瀬、悪頼などの役員と共に最大勢力となったあたりでカリン様の笑顔が消えた。

 どんな工作をしても削れない第二生徒会、最弱とうたわれながらもしぶとく生き残る第三生徒会。

 そしていつまでも減らない浪人学生。

 どこかの生徒会に所属しなければテストすら受けられず単位も得られないというのに、彼女らは無為の時間を過ごしていた。

 希望の大地、学生の天地のはずなのに、と内心の歯がみが聞こえてきそうなまでになっていたそのときに現れた、あの男。

 これで一発逆転かと思われたが、第三生徒会二所属してしまった。

 作戦も立て直さなければ、と悔しい思いをしていた私なのに、なぜかカリン様は苦笑い程度だった。

 そして今度の中間試験と交渉。

 私たちがいかに南洋校舎ボケしているかを思い知らされた瞬間だった。

 あの男がいうクラブだが、実際に運営すれば莫大な利益を発生させる。

 電信電話電力は言うに及ばず、交通飲食サービス業なども入れれば、地方都市税収など目じゃないほどのレベルになるだろう。

 むろん本土からのテコ入れもしなければならないが、それでも回収できる資金を思えば忘れることができるほどだ。

 そんなアイデアを、カリン様の目の前で発案し、そして具体案として提示されれば手を握るほかない。

 そう、悔しいし納得もいかないが、あの男の一言に集約される。


「おもしろそうだ」と。


 このクラブ運営には極めてたかい判断力と知識が必要だし、今の南洋校舎では実現不可能だろう。

 が、あの男はにこやかに言う。


「この成績を全生徒の2/3程度がとり続ければ、可能じゃないか」と。


 にこやかな握手。

 カリン様も夏姉妹も、私ですらその熱に浮かされて、その場で握手してしまった。

 宴会終了と共に帰る私たちだったけど、私の熱はいち早く冷め、そして恥辱を感じていた。

 男なんかと握手してしまった、と。



~北郷一刀「みんなきれいに食べてくれて、片づけは毎快楽ですよ?」


 洗い物をしている背後に誰かの気配。

 振り向けばそこには桃香さん。


「・・・じゃま、かな?」


 いいえと首を横に振る。


「・・・あのね、今日はありがとう。」


 疑問の意味を込めて首を傾げる。


「クラブってさ、私も欲しかったんだけど、今の南洋校舎じゃ難しいって、雛里ちゃんや朱里ちゃんに言われてたんだよね。」


 でも、あきらめきれなくて、計画書を書いていた、と?


「うん・・・・って、もしかしてあれみたのぉ!?」


 だって、僕の胸当てには言ってましたし。


「・・・ぅっわ、どこになくしたかと思ってたら、あの倉には行ってたんだ・・・・ぅわぁ・・・・・・」


 僕はあの計画込みで親衛隊かと思ってましたよ。


「そんなワケないよ! どんな無茶振りよぉ・・・」


 顔を真っ赤にした桃香さん。


「・・・もう、さっきから私の心を読まれてるって焦ってたんだからね!」


 ぷいっと横を向く桃香さん。

 思わず「かわいい」と口に出してしまった。


「・・・・もう、からかわないの。」


 顔を真っ赤にした彼女がこっちをにらんだ。

 しばらくのにらめっこの後、彼女はぷっと吹いて息をもらす。


「はぁ・・・・。でもさ、」


 できると思う? と彼女は問う。

 僕は胸に光を当てるように答えた。

 気持ちは心を輝かす、思いは必ず形になる。

 だから、笑顔とともに言う。


「できますよ。苦しいし楽じゃやいですけど、楽しいですから!!」



~馬場蒲公英「・・・途中まではいい雰囲気だったのになー」


 なーんだ、ラブシーンじゃないんだ。

 蒲公英がため息をついて帰ろうとしたが、身動きがとれなくなっていた。

 そこには「全員」が聞き耳を立てていたから。

 みんなぼそぼそと文句を言っている。


愛謝「・・・桃華をなかすなよ、泣かせば殺すぞ・・・」

鈴鈴「にゃんにゃんするのかな、にゃんにゃんするのかな・・・」

星「・・・むむむ、一押し、一押しだ一刀」

翠「・・・ふ、ふわぁ、あぁぁぁぁ」

朱里「あわわわわわわわ」

雛里「ほわわわわわわわ」

真桜「・・・いまや、いてまえ、いてまったれ」

沙和「・・・あーん、桃色空かんなのー」

凪「・・・隊長、私は信じてます」

紫苑「・・・とうとう、とうとうなのねぇ・・・。」

桔梗「・・・そうじゃ、そこじゃ、一歩前に出ろ」


 全員で桃色空間ってどんな生徒会だよ、と苦笑いだが一人少ないことに気づいた。

 あれ、団長ってどこにいるの?

 こういう娯楽が一番好きそうなのに・・・?



~北郷一刀「・・・」


 うれしそうにほほえんだ桃香さん。

 洗い物から手を切って、僕は彼女に向き合う。


「さて、明日も早いし、これからもがんばりましょうか?」


 そうだね、と彼女も笑う。


「・・・なんじゃ、ラブシーンは終わりか?」


 はっと気づけば真横に祭先生。


「そのなんだ、もっとな、ぶちゅっといったらどうじゃ? 淡泊ではいかんぞ淡泊では。」


 思わず真っ赤になる僕と桃香さん。

 どうしたものかと思っているところで、食堂の扉が開く。

 ドドドと「全員」が現れて祭先生をひきづっていった。


「な、なにをする、皆の衆とてみたかろう」「こう言うのは隠れてみてる方がおもしろいの!」「なるほど、私もいいかな?」「どぞどぞ」


 などと会話して、透き間の空いた食堂の扉からのぞくみんな。


「じゃ、続きをお楽しみくださーい」


 実に明るい蒲公英の台詞の後、大激怒した桃香さんが大暴れした。

 実のところ、怒らせると怖い人なんだと感心した。


キャラクターは持ってきていますが、世界観が違うので非情な判断が少ない「南洋校舎」です。

殺し殺されることを必要としていない所為でしょうか、判断や評価が甘い部分がありますし、理想に対する想いが「綺麗」過ぎる面もあります。

とはいえ、理想に燃える世代が絶対権力で世の中をよくしようと動いたらどうなるか、そんな妄想も混入されています。

 続きが気になっていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ