第三生徒会ルート 第二話(改)
第三生徒会ルート
第二話
~北郷一刀「おしえて、しゅり・ひなせんせぇー!」朱里・雛里「・・・・(かぁーーー!)//」
南洋校舎の大まかな勢力図を地図にしてみると結構おもしろい。
ほぼ円形の南洋校舎島の真ん中から三分の二を境に第一生徒会が支配しており、残りの面積を第二生徒会の勢力が閉めている。では、第三生徒会はというと、二大勢力が拮抗している隙間に、楔のように食い込んでいた。
位置としては港の反対側、もっとも新入生勧誘が難しい位置といえた。
この位置にいて両方から干渉を受けないと言うのは、それだけ第三生徒会の公権力があるのかというとそうではなく、どちらかと言えば相手にされていないだけだろうと思う。
そんな感想を僕が言うと、鳳さんこと朱里ちゃんは「はい、あたりです」とがっくりしていた。
しかし、現状が急激な転換を迎えている。
なにしろ今年度唯一の男子を第三生徒会がおさえたのだから。
この一事を持って恭順を示す学区が相次ぎ、現在劉蜀さんこと桃香さんがてんてこまいになっている。
恭順する学区が増えるにしたがい、巡回範囲が増えたこともあり、早々に僕らも巡回に参加してほしい旨の要望が桃香さんから入っていた。
そこで、急遽「朱里ちゃん雛里ちゃんの南洋校舎政情教室」が始まったわけだ。
「はじめに一刀さんを襲おうとした祭先生は、第二生徒会に隷属しています。」
教師が生徒に隷属ってどうよ、とおもったけど、この南洋校舎では珍しくないそうで、第三生徒会にも二名ほど隷属、というか顧問が居るそうだ。
「じゃ、祭先生が許可を得たって言っていたのは・・・。」
「はい、間違いなく第二生徒会会長 孫呉 雪蓮さんでしょう。」
なるほど、彼女はうそを言っていなかった、そういうわけだ。
「誠実には、ほど遠い話やな。」
「そうですね、嘘がないだけで騙されている事が露見するまで向こうの思い通りですから」
熱い空気をかき回すように内輪を仰ぎながら、朱里ちゃんはこちらに視線を向けた。
「一刀さんが感じた第一生徒会側の嘘、とはどんなものだったんですか?」
「えーっと、なんやったっけ?」「沙和に聞かないでほしいのぉ」
「・・・公敵の排除自体を正義に見せかけ、さらには甘い餌で思考を狭めて取り込もうとした。しかも甘言を弄しても、最終的には自分で判断したかのような錯覚を覚えるように、だ。」
「・・・なるほど、さすが曹巍さんですね。」
思わずうなる朱里ちゃん。
「でも、それに気づいた凪さんはすごいですよ・・・。」
雛里ちゃんの一言に真っ赤になった凪は首を横に振る。
「ちがう、気づいたのは北郷。」
ほえーっと二人の少女に見つめられて、ちょっと具合が悪い気分になった。
「さすが、入学直後から南洋校舎行きが決まっただけのことはありますねぇ。」
「・・・すごいです、一刀さん」
さすがさすがと煽てらえてはぐあいがわるい。
早々に僕らは出立の準備にかかった。
第三生徒会の旗は緑が主色になる。
学制服の腕章や名札もその色に準拠するのだが、行きなりのことだったので準備ができていない。
仕方なく新入生の名札のままかと思いきや、桃香さんが倉庫から荷物を持ち出した。
それは第三生徒会旗揚げ当時のもので、弓道の胸当てのようなものだった。
「これは第三生徒会の親衛隊用装備だったんですけど、いままで引っ張り出せるほどの人数が集まらなかったんです。」
十字架を意匠したものか、胸当てには「十」一文字が入っていた。
「本日より北郷さんを隊長とした「北郷隊」を組織します。今は四人ですが、増員に入りましたら支隊をみなさんに率いいていただけるようにしたいです」
にっこりほほえむ桃香さんをみて、僕たちは胸を熱くした。たぶん、彼女のこういうところが人を引きつけるのだろう、と。
「じゃ、これから一刀は「隊長」やな」「隊長なの」「・・・・よろしく、隊長」
僕たちは再び手を重ねた。
「よろしくお願いします。」
徳を持って南洋校舎を納めんとする第三生徒会。
その会長は柔らかにほほえむのだった。
~曹巍カリン「・・・・たのしませてくれるじゃな」
曹巍カリンは非常に不機嫌であった。
なにしろ第二生徒会の抜け駆けを先制したにも関わらず、かの少年を押さえることが出来ないどころか、第三生徒会にさらわれてしまったのだから。
あの場で強制的に引き入れることは可能だっただろうが、以後のことを考えればその手段はとれなかった。
その逡巡の隙をつかれた形となったのは残念だったが、実のところ彼とは縁を感じているので、そのうち道が交わるだろう事を確信している。
しかし、行為自体をじゃまされた第二生徒会からの策謀活動は、いかにも八つ当たりであり、カリンの期限を逆なでするだけの効果を発揮していた。
「まったく。あの男をさらったのは第三だ。なぜ我らを・・・」
夏峰 春蘭の怒りももっともだが、この嫌がらせにも意味と理由があるのだ。
実際、本当にカリンが少年を従えていれば、第二は先の遺恨を忘れ第三の挟撃を提案してくるだろう。
そして第二が少年を得ていれば、間違いなく前線に押し出して巡回させる。
そう、第三が実際に行っているように。
「姉さん。第三を攻撃すると、少年の不興を買う。」
「な、なんと卑怯な」
もちろん、その効果をもとめて港を強襲したわけなのだが、勝ったのは第三、徳深き仁の生徒会であった。
(北風と太陽もかくや、かしら)
思いの外、女慣れしているようだし、ね。
不満げに鼻を鳴らすカリンに控えていた少女が耳元でささやく。
「珪花、確度は?」「・・・9分9輪、間違いありません」
そう、と口元をゆるめたカリン。
~北郷一刀「・・・祭先生、昭和は遠いっすよ」
盗んだバイクで走り回りつつ、校舎のガラスなんかを割る行為を「尾崎る」などと言うやからがいるそうだけど、目の前の行為は結構「尾崎って」いた。
チョッパーハンドルの自転車で猛スピード。
手に持った釘バットでガラスを割ったりなんだったり。
モヒカンのカツラとキャッツアのサングラス姿の祭先生及び部下と思われる少女たち。
「ひぃぁっはーーーーーー!」
奇声を上げて走り回る祭先生に向かって、手元の空き缶を投げると「こかーん」気持ちのいい直撃音発生。
スローモーションのようにゆっくりと倒れた祭先生だったけど、瞬間的に起きあがり、こちらにダッシュ。
「きさま、北郷! 教師に向かってなにをする!!」
「じゃ、その教師がなんで学校で『尾崎って』るんです?」
「・・・・・」
何か考える仕草の祭先生は、急遽「ポン」と手をたたいた。
「な、なにをいう。私は教師でも何でもない。南洋校舎の未来を憂う憂島騎士団、そのなもゼット団じゃぁ!!」
言うに事欠いて、なにを言い出すんだ、この人は。
周囲の空気が凍った。
この校舎は今日付けで第三生徒会に組み込まれたばかりの校舎なので、教師の派遣交渉や維持交渉などの為に朱里ちゃんと雛里ちゃんを護衛しにきたのだが、その最中に祭先生以下少女隊の珍走を目撃したのだ。
誰がどう見ても「祭先生」なのだけれども、自称別人だと言うことで周囲も対処に困っていたという。
自分の受け持ち授業だってあるだろうに、なにをしてるんだ、この人は。
とはいえ目の前の怪人をどうにかするために、真桜・沙和を左右に配置、僕と凪が正面に移動する。
「・・・じゃ、その違いがわかる憂島騎士団の方々が、なんで「この」校舎に?」
「ふむ、物資配給の全てを牛耳り、第二第三生徒会の生活を脅かす第一生徒会への攻撃と抗議をかねた・・・・」
そこまで言った祭先生へ、僕たちは校舎の壁を見せた。 そこには第三生徒会への恭順の証に、曹巍の青から劉蜀の緑に塗りかえられた校章があった。
はじめは目をしかめていた祭先生だったが、サングラスをはずして初めて声を上げた。
「・・・・おお、これは失敬」
まちがいまちがい、とそのまま帰ろうとする彼女をみんなで取り押さえた。
生徒会隷下の教師が人質になると言うこと自体が希ならば、その事情が校舎の破壊という時点で前例なき珍事だった。
第二生徒会は即時に教員返却を求めてきたが、第三生徒会は以下のような回答を送っている。
『当方には教員の人質などおりません。自称 憂島騎士団ゼット団 団長は、自称する限り教員でないとのこと。調書及び録音立ち会い内容をご参照いただきたい』
つまり「ゼット団だって言い張ってるんで、返したくたって返せないんじゃない? そっちこそ何とかしてよ」ということになる。
手詰まりにも近い軟禁生活であったが、本人は至って悠々自適であった。
飲み仲間である教員の忠 紫苑と巌 桔梗が第三生徒会隷下にいたからだ。
毎晩発生する宴会に、料理番に任命された僕こと北郷一刀は毎晩つきあわされている。
「ふむ、しかし。第三の食糧事情も急上昇であるな」
「そうねー、愛謝ちゃんとか桃香ちゃんとか出来る感じなのになー」
「仕方あるまい。我らとて、身をとして戦う身。そちらに力は注ぎにくい」
一升瓶をお互いに次ぎあう蟒蛇たちの宴の肴は、一応みんなで持ち寄っているのだが、足りなくなると絡まれるので、ちょこちょこ足さざる得ない。
「・・・でも、一刀ちゃんみたいなかわいい料理番がいると安心よねー」
「ふむ、徳の第三と言われていたが、愛の第三でもいいかもしれんな、愛エプ第三生徒会。」
「これだけは第二にはないのぉ。」
コップじゃ足りなくなったのか、一升瓶ごと乾杯して、一気のみ。
どうしよう、この酔っぱらいども。
チンジャオロースを中華鍋で作りながら、思わず苦笑い。
「げ、まじで祭先生が捕まってる。」
「ほんとだー、誰が捕まえたの?」
長身茶髪ポニテの少女がイヤそうに顔をしかめた。
隣の少女、ちょうど長身茶髪ポニテを一回り小さくしたような少女はドチラかというと面白がってるのだろう。
「あら、翠ちゃんタンポポちゃん、おかえり~」
「よぉ、翠、たんぽぽ。研修はどうだった?」
「・・・改めて言うが、私は教師ではなく、ゼット団の団長じゃ」
三者三様の言葉に二人は呆然。
そこで僕に気づいたようだ。
「・・・お、あんたが北郷かい?」
「はい。新入りの北郷一刀です。」
ぴっと礼をすると、妙に照れたような顔で彼女は笑う。
「お、おお、・・・礼儀正しいな。あたしは馬場 翠だ。・・・でも、生徒会に入ったなら会長と副長以外は同格だ。よろしく頼むぜ。」
差し出す右手をお互いにつないだところで、隣の少女が笑う。
「いししししし、お姉さま照れてる?照れてる?」
「て、てれてねーーー!!」
ぶんと言うほどの勢いで手を切った翠さんの横で、もう一人の少女が右手を差し出す。
「あたしは馬場 蒲公英。よろしくね」
きゅっと握手の後、背後をのぞき込んだ。
「・・・ところで北郷君。」
「なんでしょう、タンポポさん」
「もしかして、君って料理が出来たりするの?」
その言葉に馬場姉、翠さんが目を大きく見開く。
「一応ふつうに出来ますよ?」
息をのむ姉妹。
「・・・本当か!?」
うなずく僕に「うわーい」と喜ぶ馬場姉妹。
「ね、ねね、シチュー出来る? 白い奴」「いや、ハヤシだろうハヤシ!」「お姉さま、しちゅー!」「はやしはやし!」
大声で言い合う二人に、配膳手伝いをしていた真桜が苦笑い。
「隊長、大人気やねぇ。」
「・・・とりあえず、カップめんやレトルトよりは美味しく作るよ。」
深夜にも関わらず、匂いにつられた獣たちがゾロゾロと集まった。
第三生徒会長 劉蜀 桃香
第三性都会副長 雲関 愛謝
第三生徒会書記 子雲 星
第三生徒会総務 飛張 鈴
第三生徒会総務 馬場 翠
第三生徒会総務 馬場 蒲公英
第三生徒会会計 葛城 朱里
第三生徒会会計 鳳 雛里(おおとり ひなり
第三生徒会親衛隊 北郷 一刀
第三生徒会親衛隊 楽進 凪
第三生徒会親衛隊 李 真桜
第三生徒会親衛隊 干田 沙和
第三生徒会顧問 忠 紫苑
第三生徒会顧問 巌 桔梗
これが第三生徒会幹部の総勢だった。
加えて、現在捕虜状態のゼット団 団長こと祭先生がホワイトシチューとハヤシライスを楽しんでいた。
「さすがにルーから全部作れるとは思わなかった」
とニコニコ顔のたんぽぽの隣で翠が感動と喜びを味わっていた。
「すごいなー、こういうのってルーが手に入らなくても出来るんだー」
ときわめて現代っ子な意見を言う桃香さんだったが、おおよそ他の人も同じ意見らしい。
つうか、少しは家事が出来るはずの凪も感心してる。
真桜・沙和は言うに及ばず、ダメダメ教師連中も感心しているのがイヤすぎる。
ともあれ、喜んでくれるのはすごくうれしいのでお変わりに対応しているうちに寸胴がカラになった。
「うっわー、この人数がいると早いなー」
「せやなー。でも美味しいのが一番の原因やで?」
「うんうん、実に美味だ。北郷、毎日ありがとう」
「・・・愛紗、もしかして毎日こんなうまいもの食ってるのか?」
「ああ、実に快適な食生活で、体重計が怖いぐらいだぞ?」
ずるいずるいと馬場姉妹。
「鈴鈴はふとったのだ!」
「私は胸が増えたな」
「まじか!」「うわぁあやかりてー!」
大騒ぎと言うよりも、仲の良い姉妹のじゃれあいのようなそんな雰囲気に、思わずにやけてしまう。
「隊長~、なにかおもしろいの~?」
片づけを手伝ってくれている沙和の質問に、実家を思い出した。
いや、どちらかというと中学まで通っていた山間分校のことを。
あそこは現代教育現場とは信じられないほど、子供が純真でまっすぐで正直だった。
そして、教育も独特で、いろいろな学校から見学にきたような分校だった。
「・・・北郷、それは、あの、分校か?」
桔梗先生は僕の恩師の話をしてくれたので、そのことをうなずくと、大いに喜んでくれた。
「・・・そうなの、そうなのね。うんうん」
そんな風に頷く紫苑先生。
団長はよくわかっていないようだった。
生徒会メンバーもよく理解していない様子。
「・・・なんだ、おまえ等も世間ずれしておらんな」
と苦笑いの桔梗先生だったがそれ以上なにも語ろうとしなかったので、その話はそこまでになったけど、翌日から新たな任務が言い渡された。
~北郷一刀「らちられました」
「北郷、君には我々とともに補習教室廻りをしてもらう。」
ええーと不満満載の北郷隊の面々。
しかし桔梗先生は一切シャットアウトという事で僕を拉致した。
ちょっと強引すぎるなぁ、と思ったけど、それなりに何か事情があるものと考えてみた。
まず、この南洋校舎にきてから教科書を手に入れてないし、授業も受けていない。
なのに補習がある?
理解できません、と正直に言うと、桔梗先生は大笑い。
「まぁ、おまえのいた分校で、学級崩壊が起きていると考えればよいのだ。」
「それって、単に遊んでるだけですよ?」
「正にな。そんなわけで、各生徒会は授業正常化を最優先課題にしておるのだ」
なるほど、なるほど。
逆に言えば授業正常化が出来ていないと何か弊害が?
「ふむ、授業は正常化しておらんが、試験は通常の学校並にあってな。その際の成績が配給に直結しておる。もちろん校外からの円仕送りも大きな力だが、配給自体が少なければそれを転売する人間も減り、購入が出来なくなるのだ。」
うわ、それって島全体の危機じゃないですか。
「そうだ。だから授業効率を上げられる人員は、千金にも値する」
なるほど、だから祭先生のまえでは話さなかった、と?「そのとおりじゃ。」
なんとなく、僕が連れてこられた意味が分かった。
「つまり、分校の自習を導入したい、ということですね?」
然り然りと大喜びの桔梗先生と共に飛び込んだ教室には、だらりとした雰囲気が漂っていた。
こんな空気はみんな嫌いなはずだ。
さてさて、胸に秘め足る「分校魂」を伝えちゃいましょう。
僕が通っていた某県の山間分校は異常なレベルで有名だった。
小中学年合同の分校なのに教師は常駐で1人、臨時で三人という異常なところのくせに、県内有数どころや県外の有名校にも入学できると言うぐらいの学力を誇っている。
その理由はなんと「自習」による学習にあるのだ。
初代ともいえる世代が確立した常識外の自習方法のおかげで、僕らも異常な状態で自習できている。
で、この自習方法ではマニュアルにも手順書にも書いていない秘伝がある。というか、書面にできない秘密があるのだ。
それは、「感染」といわれる状態だ。
始まりは初代の一人だったという。
彼の周りで勉強すると、効率がいい、という状態だったそうだ。
それに気づいた仲間が徐々に加わり、最後には分校全員で自習を始めたという。
で、新入生はそれに感染し、卒業生は感染したまま外にでる。
そうなると、分校の奴らと一緒に勉強すると・・・という状態になるのだ。
加えて自習マニュアルを効率化したせいで、分校では教師による授業よりも先鋭化した授業が生徒間で行われるようになってしまった。
これが分校の自習の正体だ。
が、この感染、非常に問題ともいえる負の側面がある。
感染の大本の初代の一人に性質が似てしまう、というものだ。
曰く、朴念仁。曰く、鈍感。曰く、女の敵。
外聞だけならまだしも、自信の性質でも精力の減退や淡泊化なども進行するという恐ろしさ。
指摘されるまで僕も気づかなかったけど、何とも恐ろしい話だと思う。
とはいえ、分校で教わった数々の教えは、公私ともに役立つことなので、しっかり伝達をしようと心に決める。
そう、「好きという気持ちに嘘をつかない」だ。
さぁ、分校の魂をみんなに振舞っちゃいましょう。
本作の北郷くんは腕っ節は駄目駄目ですが、学習するということだけは「チート」です。ということで、そのへんはスルーの方向性でお願いします。(改行不良・改行挿入を修正しました)