表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

第二生徒会ルート 第六話

第二生徒会ルート


第六話


~劉蜀桃香


 赤壁とも言われる第二生徒会本部が見えます。

 この校舎を包囲したのは第一生徒会、第三生徒会、そして楽進さんがまとめた「狼人会」。

 私たちにとって、浪人学生を救うためにはそれ相応の予算が必要だという常識があったけど、その常識を根底から覆した凄い人でした。

 生徒会の生活物資に頼らず、独自努力で生活を支えるバイタリティーもそうですが、基本的に予算によらない生徒生活という方向性は私たちに衝撃を与えました。

 その彼女たちにその方向性を与えたのが「北郷一人救出」でした。


 はじめにそれを彼女が言い出したのは、あの新入生入島の港のことでした。


 今年唯一の男子生徒の出迎えに着た私たちが聞いた「第二生徒会による誘拐」という話は衝撃的でしたが、逆に「その手があったか」と思わせるものでした。

 なにしろ、入島したら自由に判断させるという理事判断だったので、入島する前に抑えてしまおうという第二生徒会の手法は「上手い」と思わせるものでした。

 その所為で私たちの反応が鈍かったんですが、それを不満に思った彼女は、入島まもなくして浪人学生となることを決めました。


 正直に言って、私は彼女が、彼女たちが直ぐにどちらかの生徒会に助けを求めてやってくると思っていました。

 第一にいけば、それなりに揶揄されるでしょうが迎えられるでしょうし、うちに来てくれれば其れなりに戦力になるだろうから、早めにギブアップして欲しいとすら思っていたんです。

 

 しかし彼女たちは大いに予想を裏切りました。

 生活環境を構築し、相互互助を成し遂げ、そして本来目的にも届こうとしているのです。

 

 負けた、という思い出一杯になりました。

 今まで自分はなにをしてきたんだろう、とすら思いました。

 先代から続く「徳」の生徒会を支えるためと言いつつ、私はルーチンワークに身をとおじていなかっただろうか?


 この身はすでに生徒会長。

 その立場から動こうとしないではなにも変えられないんだと身にしみました。

 だから動こうと思います。

 まずは「北郷一刀」君の救出。

 それから。




~孫呉雪蓮


 壮観、ってところかしら。

 我が本部校舎から望む先には、数百名もの生徒会構成員が校舎を取り囲んでいる。

 腕に覚えがあるという見た目だけをみると、思わず本気を出して、あの小娘たちの肝を冷やさせたくなるけど、体の中心で暖かな者を感じて収まる。


「冥琳、そろそろタイムアップみたいね。」

「ああ、本当に本当の時間切れだな。」


 ニヤリと笑う私たちだったけど、悲壮感とか絶望感とかそう言うものは一切ない。

 すでに奇跡は起きているし、その奇跡で得られたものは十分だった。

 対価を支払い、そして得るものは得た。

 予定外の、予想以上の幸せまで胸のうちに秘められたのだ、これ以上求めるものなどあろうものか。


「姉様、御蔵船の発光が始まっています・・・。」


 蓮華の表情にはすでに悲嘆はない。

 もう得るべきものを得たと表情は語っていた。


「蓮華、未練は?」

「・・・あります。ですが、その想いと共に生きてゆきます」


 強くなったものだと私は感心する。

 加えるならば、私も強くなった。

 内なる狂気に踊らされることはもうないだろう。

 あの懐かしき大地に戻っても、忘れえぬ思い出があれば生きてゆけることを私たちは知っていた。


「みなさま、そろそろお時間です。」

「ありがとう、明命。」


 さぁ、そろそろ私たちは帰りましょう。

 あの懐かしい大地へ、江東の空の下へ。



~北郷一刀


 寒気が全身に襲い飛び起きた。

 何か悪いことが起きる、それを知っている。

 腕の中には誰もいない。

 こんな事など最近なかった。

 まるで、誰もいなくなったかのような寒気に部屋を飛び出ると、そこにはシャオが立っていた。

 にこやかな笑みで、寂しそうな笑みで。


「・・・一刀も気づいていたんでしょ? もう時間がないって。」


 なにを言ってるんだ?

 時間なんかいくらでもあるだろ?

 もっと一緒にいよう、そうだ、それが良いよな?


「ほんとうにもう、一刀は世話が焼けるなぁ。」


 そう言いながら シャオは一歩前にでた。

 それなのに距離が縮まらない。

 俺も一歩前にでたのに、全く距離が縮まらない。


「もうね、この世界につなぎ止めるための楔がだめになっちゃったんだ。」


 一瞬姿のぶれるシャオ。


「私たちをこの世界につなぎ止めていた楔、わかってるんだよね?」


 悲しそうな笑み。

 そんな笑みなど見たくなかった。


 瞬間的に浮かぶ記憶。

 見たことも聞いたこともなかった記憶が浮かび出す。




 洞窟の中にあった校舎。

 洞窟内にあったのに湿気の影響をまるで受けない校舎。




 第二生徒会校舎下の大空洞の船たち。

 そしてその中にあった氷柱と人物。




 閃光と共に消え去る第二生徒会。

 行方不明の幹部たち・・・・。




「一刀に会いたくて、私たちの一刀に会いたくて、何度も何度もこの世界にやってきて、やっと一刀に出会えた。知り合えた。・・・・抱きしめてもらえたの・・・・。」


 ぼろぼろと涙を流すシャオを、俺は抱きしめることすらできない。


 そう、あの氷柱の人物の存在が、すでに「俺」になってしまったから。 

 記憶も存在もすべて、俺が奪ってしまったから。

 彼が彼であるすべてを俺が奪ってしまったから、彼が彼でなくなってしまったから。


「ごめん、ごめんな、シャオ」

「謝らないで、一刀。私は、私たちは、ふたたび私たちの一刀に出会えたことを、再び抱きしめてもらえた奇跡を感謝してるんだから」


 涙でおぼれそうなシャオが、無理矢理笑顔を浮かべる。


「いまね、外で雪蓮姉さまが時間稼ぎしてるわ。」


 俺はいつの間にかながしていた涙を拭う。


「だから、お別れをしてあげて。」


 俺はうなずいて走り始める。


「・・・バイバイ、大好きな旦那様」




~楽進 凪


 あからさまな時間稼ぎだった。

 こちらからの声明文や生徒会凍結などの約定を読み上げているのに、合いの手を入れたり茶々を入れる様は、滑稽以上に異常だった。

 まさに一分一秒を稼ごうとしているかのように思える。

 そんな最中、第二生徒会本部の入り口が開く。

 そこに立つのは、我らの飯スト、北郷一刀。


『*******!!!!』


 良くわからない、それでいて言葉のつながりを叫ばれた孫呉雪蓮は、顔をゆがめた。


「・・・黙ってなさい、一刀! もう時間切れなのよ!!」


「そうやって逃げる気か、孫策伯符!!!」


 目をむく私たち。

 一刀はなにを言っているのか、と。


「・・・逃げるだなんて、人聞きの悪い。帰るだけじゃない。」

「帰る場所なんかどこにもないくせに、強がってんじゃねー!!」

「・・・あるわよ、帰る場所ぐらいあるわよ!! 江東が建業が、私たちの土地が民がいるわよ!!」


 必死に言葉をつなげる孫呉雪蓮を、一刀は抱きしめた。


「いくな、いくなよ!! やっと会えたんじゃないか!!」


 瞬間、体をふるわせた孫呉雪蓮だったが、にこやかな笑みで一刀にキスをした。


「・・・ふふふ、最後にデッカい幸せもらっちゃった。」


 とんっと一刀を突き放した孫呉雪蓮は、すちゃっと敬礼をしてこちらをみた。


「じゃ、バイバイ」






 音もなく光がすべてを飲み込んだ。








 閃光と共に彼女たちは消えた。

 校舎もなにもかも。

 第二生徒会幹部は誰一人残らず消えていた。

 校舎も、施設も、なにもかも。


 そこに残ったのは、第一生徒会幹部、第三生徒会幹部、そして狼人会。

 ・・・・加えて、滂沱の涙と共に崩れ落ちた北郷一刀。


 彼には誰も声をかけられなかった。

 もちろん私たちにも。










~北郷一刀



 あの事件から二月が過ぎた。

 誘拐事件の被害者から、第二消失の事件当事者へと格上げされた俺は、連日の尋問を受けさせられた。

 はじめは黙っていようかと思ったけど、話したところで信じてもらえるとは思えなかったので、堂々と話すことにした。


 事の始まりは、今の時間から未来に当たる俺、北郷一刀から始まる。


 ある事情で三国志の時代に飛ばされた俺、というところで盛大につっこみが入ったけど無視。

 様々な事情で、猿術の客将をしていた孫家に拾われる。

 フランチェスカ本校の制服を着ていたので、白く輝く衣を纏いし天の御使いとして看板にされ、戦闘を共にしていった。

 しばらくの戦闘を続ける中で、猿術を打ち破り、とうとう宿願であった「建業」を取り戻した孫策は、俺を伴い祖先の、母親の墓を詣でたときに事件は起きる。

 曹操軍から先行した部隊が、孫建を暗殺しようとしたのだ。

 その際、俺が彼女をかばったために暗殺は失敗したが、俺自身はほとんど死んでしまった。

 殆どというのが難しいところで、たまたま近くにいたカダという医師により、どうにか命だけは取り留めたが、目を覚まさない状態になってしまったという。

 立て続けに起きる戦乱を乗り越えて、どうにか三国同盟に漕ぎ着けた彼女たち「呉」だったが、しばらくして歴史からその名を突如失う。


「・・・つまり、それが、孫呉雪蓮たち、だというの?」


 曹巍カリン会長の言葉に俺はうなずく。


 いかなる秘術かはわからない。

 ただ、半死半生の状態の俺を天の国に返せれば生き返るのではないかという思いつきがはじめだったらしい。

 様々な検討を行って、そして第一回目の帰還が行われたとき、到着したのは何と江戸時代の「南洋校舎島」だったそうだ。


 第二回目、第三回目と繰り返す内にどうにか時代背景や歴史背景を把握した彼女たちは、十回目で今の時代へ焦点を合わせることができるようになった。

 そして第二生徒会という組織に潜り込み、行政しつつも情報を集め、そして、北郷一刀本人の存在を確認した。


 何度も何度も同じ時代同じ時間を繰り返し、半死半生の俺の記憶を流し込むことによって、俺に時間の流れを教え、同じ事が起きないようにと慈しんでくれたのだ。


 そして、今、彼女たちはすべての記憶を俺に渡しきったと判断し、あの、三国志の時代に戻ったのだ。


 あの懐かしき建業へ、江東の空の下に。




 何度も何度も同じ話を聞かれ、調書とは別に当時の衣装や食生活、様々な話を聞かれた上で判断された内容は、


「総ての者に罪なし」


 だった。


 うれしい反面、総てを無かったことにされてしまったかのようで寂しい。




 とか何とか感傷的になることはできなかった。


 なにしろ俺は唯一残った第二生徒会幹部として登録されてしまっており、第二生徒会の運営その他を押しつけられたからだ。

 一応、凪たちも協力してくれるということなので、彼女が立ち上げた組織「狼人会」を第二生徒会組織として再編させてもらったんだけど、それでも忙しい。

 いままで雪蓮たちが行ってきた「かわいい子供は突き放し」政策の反動か、第二生徒会所属の生徒が事あるごとに「相談」と称してまとわりついてくるのだ。


 いやいいんですよ、ええ。


 相談結構です、いいことですよ?

 それでもねぇ、ご飯が多いの少ないのとか、寝床が綺麗だ汚いだとか。

 ねぇねぇ、それて自分で毅然する範囲でしょ?

 と声を荒立てないようにいってみると、


「・・・自分でやっていいんですか?」


 と逆に聞かれた。

 だから、


「整理整頓掃除は自己達成目標。装飾は許可制」


 と打ち出したところ、みるみる生活環境が改善されていった。


「一刀、第二の生徒って、一番第二に居ちゃいけないタイプばかり残ってるみたいなんだ。」

「・・・従順なお座敷犬タイプ?」

「・・・いい表現だな。」


 はぁー、と二人で大きなため息。


「まぁ、何にせよ、目的やら目標なんつうものは決まってるんだし、がんばるしかねーでしょ」

「そうだな、やるしかないだろ」




 見上げる空は、蒼天とも言える雲一つない空。

 たとえこの空が地球上の総てにつながっていても、彼女たちの空にはつながっていない。

 いいや、記憶をたぐり寄せろ。

 気力を失うな。

 想いを忘れるな。

 自分を愛してくれた彼女たちを思えばいくらでも頑張れる。


 前に進め、前に進め。

 必ずたどり着くと信じて。

第二生徒会ルートのメイン事件、これにて決着です。


事件背景もそれっぽく語っちゃいましたので、それなりにご理解いただいたかと。


本当は解説ちゃんの「風」にでもやってもらおうかと思ったんですが、想いの深さは一刀が一番かと思いました。


後はエピローグ・・・ですが、ちょっと弄ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ