第二生徒会ルート 第四話
第二生徒会ルート
第四話
~
それは簡単な碑のようだったけど、その雰囲気は違っていた。
碑と言うよりも、もっと誰かのためのものだった。
そう、いわば・・・・
「これ、母の墓なの」
彼女は自嘲気味に言う。
この墓を何年も取り戻せなかったと語る彼女は、いつもの天真爛漫な彼女ではなかった。
とっさに俺は、泣けない彼女が泣いているのだと感じた。
民を導くものが母親のためとはいえ人前では泣けないのだ。
それが「王」というものなのだから。
肩をふるわせる、それだけで終わらせなければならない重責。
そんな重いものを彼女は背負っているのだ。
俺は、そんな彼女の肩に手をかけて・・・・。
「っ! 雪蓮!!!」
俺は全力で彼女を、雪蓮を引き倒した。
~北郷一刀
「・・・・つぅ!!」
腕に激痛を覚えて目を覚ました。
・・・いや、痛いのは腕ばかりじゃなくて全身なんだけど。
特に腕が痛いのは、雪蓮が寝ぼけて握ってるからだろう。
この怪力女め、と思いつつ撫でてやると、ゆっくりと力が抜けた。
この怪力も恐ろしい武も、狂気と暴走、それが雪蓮を蝕んでいるからだという。
思い出したかのような狂気に蝕まれ、その狂気に踊らされて暴走する。
普段は幹部総出で押さえるそうだが、最近はなかったと冥林の話。
なぜかといえば、
「最近は北郷と遊んでたからな。いいストレス発散になってたんだろ?」
というけど、あれ、ほとんど撲殺寸前だったんだぜ。
そんな風にいったのを思い出し、さらに昨夜の雪蓮を思い出した。
狂おしいほどに猛る力、嵐のように吹き荒れる暴力。
狭い部屋で起きたそれは、人一人を肉塊に変えてもおかしくないほどのモノだった。
その恐怖に当てられれば誰もが逃げ出し、身の危険を感じていたはずだった。
が、俺は逃げられなかった。
俺は、そんな嵐を抱き止めたから。
そうしなくちゃいけなかったから。
泣きわめく子供のような雪蓮をそのままにしていられなかったから。
そして今、裸で抱き合う俺たちは、それなりの時間を過ごした後ということで気恥ずかしい時間を過ごしているはずだったんだけど・・・。
「ん~~~~、すっきり~♪」
まるで一月ぶりの快眠をしたかのような雪蓮の台詞にゲッソリ。
なんつうか、もうすこし情緒ってモノをですね。
「ふふふ、だって、これから何度も過ごす朝よ?」
ぶはっ、そりゃ、スゴい話を・・・。
軽く体を伸ばした雪蓮は、にっこりほほえんでウインク。
そこには狂気のきの字も感じさせない明るいモノだった。
「さ、この勢いで、うちのみんなを『こまして』ね♪」
でてきた台詞は狂気だったけど。
~孫呉蓮華
昨夜、姉様の狂気を一刀が納めた。
そして、結ばれた。
それを聞いて私の心は張り裂けんばかりだったのに、そんな心の動きよりも安堵が胸を満たしていた。
私の心を癒し、姉様の狂気を癒す。
北郷一刀、あなたは本当に「一刀」なのね。
私は、胸の内に灯る炎を愛おしく思う。
「あ、蓮華、どうした?」
彼の部屋の前でモジモジとしていた私に声をかける一刀。
ここに来たときのトゲトゲしさはもう無かった。
にこやかな笑みも、ほほえましい雰囲気も「一刀」そのもの。
いいえ、やっと私たちの一刀に「成った」のだから。
「・・・ね、一刀。正直に答えて。」
「ん、なんだ?」
「姉様と、寝た?」
真っ赤になる一刀。
なんて可愛いんだろう。
「あー、そのー、勢いだったかもしれないし、自覚症状ゼロだったかもしれないけど・・・、不真面目じゃなかったし・・・・。」
シドロモドロの一刀に私はほほえんだ。
「次は私だからね?」
「え!?」
「・・・ほんき、だからね?」
「・・・・え・・・・?」
~孫呉小蓮
くっそ~~~!!
いつの間にか姉様たちが一刀を喰ってたぁ~~~!!
ひどいひどいひどい~~~。
そりゃ雪蓮姉様はかなりアプローチしてたから解るけど、蓮華姉さまは一刀とのコミュニケーションは不足してたはずじゃなかったのー!?
「シャオさま、現実はもう少しほろ苦いモノなのですよ?」
にこやかな穏。
・・・って、まさかあんた!?
「・・・・・(にこにこにこ)」
シャオってば、穏にまで先を越されたの!?
フツフツと沸き上がる感情を押し殺して、穏を見る。
幸せそうに自分の下腹部をさすってるしぃ!!
・・・いやいや、まてまて。
この上で言えば、冥林や祭まで行っていることは間違いないだろう。
だがしかし!! この私の最大特徴である「ロリバディー」をもってすれば、一刀も骨抜き。
ブヨブヨ年増なんかには見向きもしないはず!!
「えーっと、そっちの戦力はすでにミンメイちゃんが・・・。」
がーーーーーーーーーーん!!!
~北郷一刀
今わたくし北郷一刀は、きわめて重い人生命題について思い悩んでおります。
過日至った人間関係が、電光石火で広がってゆき、今ではすでに広がる先がないほどになりました。
・・・ぶっちゃけ、全員シトネをともにしてしまいました。
なんて流されやすいんでしょう、悲しくなります。
いやね、うれしいよ?
綺麗で美人で可愛くて、人生を十回ぐらいやり直しても出会えないような美人に、全員に、好きだって言われて想いを告げられて、さらにはみんなで独占するとか言われて。
十代の若者にとって夢のハーレム。
・・・のはずなんだけど・・・・。
心は重い、重すぎた。
正直に言えば、常識って奴が重すぎた。
一夫一妻の常識で言えば、狂っている。
さらにこれだけの人数の女性を妻として養うことなんて絶対に無理だ。
それでも、体を重ねてしまう。
だって男の子だもの。
いや、いいわけはよそう。
この時間をむさぼりたかったんだ。
この時間を刻みつけたかったんだ。
この時間を逃がしたくなかったんだ。
俺は、この時間が永遠でないと、なぜか感じていた。
~楽進 凪
私たち浪人学生集団「狼人会」の活動基礎となった、点在する食料が、じつはあの北郷一刀が配置したものだと気づいたのは最近だった。
最近脱走のない一刀の情報を集めているうちに、脱走前にウロウロしていた所というのが、だいたい私たちが確保した保存食料の位置だったことが判明したからだ。
「こりゃ、どういうこっちゃ?」
真桜の疑問も尤もだ。
最初は誰か、主に一刀から私たちへの援護射撃かと思ったけど、私たちが旗揚げする前から誘拐されている一刀にその情報が伝わっているとは思えない。
つまり、一刀はそれなりの目的があって保存食料を隠したが、それを利用できない状態になっている、ということだろう。
「つまり、一刻を争う、っちゅうわけか?」
「かもしれない、と考えてる」
「だったら、すぐにでも!!」
この島に来たばかりの私なら、その意見にうなずいただろう。
だか、いま、この時点で私は頷けない。
あの二大生徒会が逡巡した理由がやっと解ったからだ。
この島はヒドく死者を嫌う。
いや、学校というシステムの中では怪我人すら大問題なのだ。
島の中で生活していると忘れがちだけれども、この島であっても学校施設なのだ。
暴力沙汰がいいわけではない。
怪我や病気がいいわけではない。
死人なんてもってのほかだ。
そう、ここは「学校」なのだから。
私がそう話すと、二人とも呆然としていた。
いや、あのときの生徒会の行いを思い出し、はがみしていた。
私たちも、幾人もの仲間を得てやっと思い至った境地、彼女たちが至っていないわけがないのだから。
でも、もしかすると、この逡巡こそが命取りなのかもしれないとも感じていた私だった。
~曹巍カリン
浪人学生による互助組織との連携はうまく行っていた。
あれほど苛烈に私たちを拒絶した三人は、私たちの接触を受けて会談の場を設け、その方向性について了解してくれた。
なにがそこまで彼女たちを変えたかと言えば、やはり人の上に立つという経験が彼女たちを成長させたといえる。
会談の席で、彼女らの代表である「楽進 凪」は私たちに頭を下げた。
港での一件は自分たちの考えが足りなかった、と。
さすがに物分かりが良すぎる展開だ、とは思ったけれど、彼女は瞳を光らせた。
北郷一刀が行っていた第二生徒会脱出の日々とその妨害による暴行、さらにその陰で行われていた保存食料の散逸。
よくもまぁ周到に逃亡したものだと感心するほどの回数を彼は逃亡している。
さらには、周辺学生に分かりやすい形で保存食を散逸させることにより、生徒の地力をあげて反乱を起こさせようとモクロんでいたらしいのだ。
ただ、第二の生徒のやる気のなさが反乱までの動機にいたらず、今に至っていると楽進は語る。
「じゃぁ、今は?」
挟撃作戦や反抗勢力の台頭が認められない今、彼は諦めかけているだろう、と楽進はかたる。
なんて悲しいことだろう。
少なくとも、彼の行いが解る人間がそばにいて、彼が行おうとしていた作戦が見通せる人がいるのに、歯車が全くかみ合っていないため、こんなにも時間が浪費されている。
そのせいで、彼が疲弊し潰れかけているというのならば、それは私たちの怠慢だろう。
「いいえ、私たちも間違っていました。」
彼女曰く、生活の向上など目指さず、身軽な状態で第二生徒会を攻めていれば、よかったのだ、と。
今この段階で、すでに多くの柵ができてしまっている。
これをすべて断ち切って動くことはもうできないと彼女は理解してしまっている。
まさに絆に縛られて。
会談は腹を割った時点で決まった。
彼女らの本拠を中継にして、第二生徒会に攻めあがることを決心したのだ。
大方針は決定し、これからを決め始めるのだ。
まってなさい、北郷一刀。あなたの蒔いた種は必ず花にしてみせるわよ。
お待たせしました、第四話です。
一刀はガンガン流されてますが、周りは加速してます。
流されているわけも、加速されているわけもありますが、それでも現実なんてものは真実の欠片しか見えないものです。
一から十まで説明してくれる説明オバさんは、どの世界にでもいるわけではないというわけですね~。
とはいえ、風あたりがその辺に使いやすいのは事実ですがw