第三生徒会ルート 第八話
第三生徒会ルート
第八話
~北郷一刀「・・・まるで、それは・・・・」
それは一つの契機だった。
第三の領内を僕たちが巡回して、浪人学生や第二の生徒を保護したという噂が広まったのか、なだれるように要救助者が殺到した。
我先にではなく、仲間と連れだって救助を求めてきたのが何だかうれしかった。
「隊長。彼女らの話では、孤立して動けなくなっている生徒がかなり居るとのことです。」
凪の報告にうなずいた僕は、夕食の席で提案をした。
総務・親衛隊合同のローラー作戦の実施を。
「すでに、衣食に困りつつも浪人にもなれない学生が第三領内に相当数いる状態です。どこの所属でもかまいませんが、彼女たちの生死ばかりか、南洋後者全体の問題にもなりかねません。」
自治を持っているという建前はあるけれど、それもこれも大事故や死亡事故がないからこそ得られている権利といえる。
この自治を失いかねないほどの問題が目の前にあっては、所属がどうのと言ってられるはずもない。
「・・・わかりました。」
桃香さんは、一度箸でつかんだメンチカツをおろして立ち上がる。
「第三生徒会予算で実施することを許可します。」
「・・・連合保健室もバックアップすることを約束しよう」
祭先生の言葉を聞いて、周囲がうなずく。
「では、明朝一番に作戦を開始します。」
にっこりほほえむ桃香さんだったが、この時点でまさかの結果については思い至っていなかった。
そう、誰もが此処まで酷いものとはわかっていなかったのだ。
~葛城朱里「・・・事は南洋校舎存続に関わります。」
親衛隊や総務部隊総動員で行われた救援プロジェクトの結果は散々でした。
結果が「出なくて」、ではなくて結果が「出すぎて」。
島外退避勧告者4名。
長期入院必要者12名。
緊急入院必要者22名。
外傷等での歩行困難者6名。
その他保護必要者30名。
といった内訳でした。
全部そのままに報告すれば、南国校舎が閉鎖されるというレベルの問題です。
事態を重くみた祭先生は、急遽第二生徒会本部へ真偽を確かめに向かいましたが、その後の連絡がないまま三日が過ぎました。
「少なくとも、もう時間をかけられません」
桃香会長は正面に座るカリン会長と共に決断を下そうとしています。
本来ありえない事故や天災などの際に発動される強権を実施しようとしていたのです。
「方法は二種類よ。自分たちで事を納めるか、ギブアップか、ね」
事態収集に自分たちの力だけで対応できるかどうかは不安ですが、『ギブアップ』だけはありえません。
南国校舎全ての自治権を手放し、全南国校舎生徒を本土に帰投させるという最悪の判断「ギブアップ」は、私たちにはできません。
「もう、カリン会長。実質一つじゃないですか」
「・・・、もちろんそうよ。」
私たちもその意志は固い。
なにを目的にして南国校舎に来ているかは、それこそ人それぞれだけど、誰にも譲れない目的がなければ、わざわざこんな所までこないのだから。
「じゃぁ、発動するわよ」
「はい、発動しましょう」
『連合生徒会憲章に基づき・・・・』
「第一生徒会会長曹巍カリンが、」
「第三生徒会会長劉燭桃香とともに・・・」
『緊急災害救助適合事項を発動します。』
各書記が現在の時間及び場所を記載した書類を作成する。
写しをその場で作り、お互いに交換した。
双方の生徒会長は書面を確認してサインをする。
「では、この災害を全て叩き伏せるわ。」
「ええ、この災害から全てを守り通します。」
南洋校舎始まって以来、初めての緊急災害救助適合事項の発動が行われた瞬間でした。
「では、合同会計本部及び主計事務所の開設を行います」
私の声に各生徒会が動き始める。
「第一の予備予算規模は・・・」「第三の補給物資は・・・」「緊急収集できる水源を・・・」
さすがに幹部、話の通りが早く、即座に骨子ができあがる。
「一刀さん、緊急対応体制のために、部隊再編をお願いします」
「わかりました。」
私の言葉を受けて、第一生徒会の面々に向かう一刀さん。
「第三親衛隊が一番規模が大きいので、コアに据えて、指揮者を第一の方々にお願いしようと思います」
「わかった、北郷。我々の総務補助も含めて再編するがいいか?」
「問題ありません。・・・うちの隊員は結構無茶な指示でもいけますんで、よろしくです」
各員、お互いの持ち場の集まりを作り、喧々囂々と打ち合わせを始める。
「朱里ちゃん、あと十分後に会議だよ。」
「わかったよ、雛里ちゃん」
私たちの仲間を守るため、同じ島で暮らす仲間を守るため、私たちは動き始めた。
~桃香「・・・ごほうび」
第二生徒会の領内にはいると攻撃があるので、前衛部隊は盾を標準に装備していた。
時間を優先に攻め込む私たちは、自らの被害を無視して走り抜けた。
矢をかけられるもの、襲いかかってくるもの、様々な妨害を叩き伏せながら私たちは進む。
「第二生徒会所属のみなさん! 我々は第一および第三の連合救援隊です!! 生活や食料を盾にされて従っている方々は、後方の炊き出し部隊に向かってください! 仲間の病気や不調を盾にされている人も後方で支援します!!」
朱里ちゃんの叫びを聞いて、攻撃をやめる生徒が多数いた。しかし、全てがやむわけではない。
「北郷、でるぞ!!」
「りょうかいです!!」
夏姉妹の姉、夏峰春蘭と共に、一刀君がぐんと速度を上げる。
「北郷隊及び前衛部隊、突入!」
密林をかき分けるように走り出す。
「武装解除したみなさんは、わき目もふらず後方へ! 仲間の救出を求める方は、この本隊にきてください!!」
いつもはカミカミの雛里ちゃんも大きな声を上げる。
「親衛隊真桜支隊、御旗はまもるで・・・。」
「隊長がいない今、我らこそが守りの要」
「・・・ちゃんと仕事して、あのご褒美カレーをもらうの」
『・・・・ご褒美カレー』
はいはい、わたしもちょっとトリップしちゃったけど、ちゃんとしましょうね。
「・・・ねえ、桃香。そのご褒美カレーってなによ?」
「ああ、カリンさん。ご褒美カレーって、この前の演習で振る舞われた一刀君特製カレーのことですよ」
瞬間、眉を寄せるカリン会長。
何か懸念があるのかな?
~馬場翠「・・・な、なにが起こってるんだ!?」
それは見たこともないような人々の連携だった。
別々の目標を持っていたかのような人々が、この混乱の集結と南洋校舎救済のために全力を出したのだ。
あるものは知恵を、あるものは勇気を、あるものは武術を駆使して全てを救わんと。
これだけの力の奔流があれば、何だってできる。
これだけの協力があれば何だってできる。
これだけの仲間が入れば、何だってできる。
できる、できる、できるできる!!
「お姉さま、すごいね、これ!!」
「ああ、これが仲間だ!」
駆け抜ける、かけぬける、かけぬける!!
「抜けるぞ!!」
誰かが叫んだ瞬間、林を抜け、そこにでた。
第二生徒会本部校舎。
別名「赤壁」
朱色に塗られた校舎を背に数人の人間が立っていた。
その中心には、第二生徒会会長
「・・・・孫呉雪蓮」
ぎりりと誰かの歯ぎしりが響く。
「第二生徒会幹部、および会長に告ぐ。このほどの調査で発覚した仕送り横領、不正配分、生徒管理放棄は会長職及び幹部職放棄と見なす!」
叫ぶカリン会長の隣に桃香会長。
「・・・第一及び第三生徒会は、合議の上、第二生徒会執行権の停止及び凍結を決定しました。」
連盟の書類を突き出す二人を前にして、頬をゆがめる孫呉会長。
「あーら、ずいぶんな言いぐさじゃない?」
彼女はいう。
第二の非道は今更の話。
わざわざ今頃何で騒ぎ立てるのか、と。
第一も第三も知っていながら手をこまねいていただろうに、と
「さすがに死者を出されてはたまらんのだよ」
「せやな、しゃれきかんわ」
秋蘭、霧の両名が弓と長刀を構える。
しかしその言葉を聞いた瞬間、孫呉会長は笑う。
「ははははははは、なんというばかばかしさ、何という愚かしさか。死者を出せない? しゃれがきかない? 何をバカなことをいうのかしら?」
爛々と光る瞳をたたえた彼女は、ニヤリと笑う。
「名声を盾に、補給を飴に、目標という幻想で馬車馬のように庶人を騙している偽善者どもめ!!」
狂気の瞳と赤い口からほとばしる熱い熱い言葉は、誰の胸にも届かなかった。
耳には届いていたが、その意味が分からず、誰しも困惑とある種の気味悪さを感じていた。
そう、どうしても理解できないもの、どうしれも交われないもの、そんな存在だと感じてしまったのだ。
「生ぬるい日々などもういらないのだ! 戦いとは名ばかりの呪われた日々などもうゴメンだ!!」
政治的にも民意を競う意味でも、この南洋校舎は戦略的で戦術的で、呪われたなどといえるはずもなかった。
「私たちは帰るのだ、私たちは戻るのだ、あの日々にあの懐かしい大地に、あの・・・・!!」
瞬間、全てが光に飲まれた。
視力が戻る頃には全てが消えていた。
第二生徒会盆部も、幹部も。
そこにはただ、空き地が残るばかりだった。
~雲関愛紗「・・・完全な敗北だ」
一週間にわたる徹底調査でも、第二生徒会本部と幹部の行方は判明しなかった。
敷地はごっそりと削れた後、別の土石で補完されたように入れ替わっており、まるまる入れ替わったかのような印象を受けるとの報告もある。
第二生徒会所属学生の大半は保護できたが、幹部以外の学生の中でも行方がしれない学生も多い。
「それは幹部の身内ですね」
音宮ねねは、私と共に書類処理をしながらいう。
彼女は以前、第二の成績維持人員として招かれていたため、一部の内情には詳しい。
だが、彼女の心の傷に関わる部分なので触れられないでいた。
「幹部と幹部の身内以外、成績維持人員ですらまともな生活は出来ていなかったのです。」
さすがにここまで事態はひどくなかったらしいのだが、音宮が第二に居たころも同様の扱いだったとか。
ただ、幹部がどのように生活していたかは解らないという。
「祭先生の行方もしれないしな」
そう、第二の在り方すら知らなかったという祭先生も行方がしれない。
少なくとも彼女の心の在り方は、こちら側にあったはずなのに。
「我らは団結しました。我らは当初の目標の救済をしました。・・・それなのに・・・・」
音宮は、ねねは呟くようにいう。
この敗北感はなんなんでしょう?
「わからん。ただ、私も感じている」
完全なる敗北だ、と。
~子雲 星「忙しい、それだけが唯一の救いか?」
予期されていた本土からの介入はない連絡か来て、一応の安息を得た。
しかし、残された第二生徒会所属生徒が一気に浪人化しないように仮に生徒会を立てなければならない。
もちろん余剰人員などないからといって避けられるわけではない。
では、となると人数に勝る第三幹部を数人、第一から監査人員を何人か出さざるえない状況といえた。
「そういうわけだ、あきらめろ。」
その言葉に、泣きそうな顔で答える北郷一刀。
「でもですよー? 僕ってば、これでも、入学したてで~」
「泣き口上はいらない。お前がやらなければ、[ゆえ」が担ぎ出され、かなりまずい状況になるぞ?」
「うっ、ぐぅ・・・・・」
どのようにマズくなるかだなんて、わざわざ説明することはないだろう。
少なくとも一刀にはすぐに解ったはずだから。
「ひどいなー、そんなことを言われて断れるはずないのに」
「だから言ったんだよ。」
ふふんと笑う私を恨めしそうににらむ北郷一刀。
そう、彼こそ第二生徒会、暫定生徒会長として承認されたのだ。
彼が立つとなれば、第三からも第一からもかなりの人数がストレスなしで集まるだろう。
集まりすぎるので整理せねばならないぐらいのはずだ。
「じゃぁ、お願いしますよ、副長」
「了解だ、会長」
暫定第二生徒会の第一人員、会長北郷一刀。
そして第二人員、子雲 星。
まずは本部棟の選定からだな。
~曹巍カリン「あんにゃろめ、好き勝手に始めやがったわね。」
私はその報告を受けて頭痛を覚えた。
なにしろ第三及び第一の支配、いいえ、影響学区の近くの第二影響学区先端に第二生徒会の本部棟を設立すると言うのだから。
たしかに、今までのような削り合いは無いでしょう。
秘匿はないし、進む方向の共同歩調はとれてるけど、さすがにそこまでガードを上げられると、こちらも対応に困るのだ。
それぞれの生徒会の特色は、現行そのままに続けることは、会議で決定しており、緩やかな変化の中で影響力を行使しようと決めてあったはずなのに。
「・・・くそぉ、あの男、何考えてんのよ・・・。」
私の隣で陰を背負って呟く桂花。
正直に言って私も彼の考えが解らなかった。
少なくとも生徒会本部が最前線にあると、全く利益がでないはずなのだ。
諜報に弱く、人員流出が激しく、攻撃に弱く、進入に弱く・・・・。
・・・弱く?
いや、ちょっとまて。
なぜ強くなければならない?
現時点で第二はもっともクリーンな組織といえる。
探られる秘密も隠すべき恥部もいっさい孫呉が持ち去ったのだから。
ならば、諜報も探索も怖くはない。
それならば、境界線に本部を置けばどうなるかと言えば、簡単な話だ。
離反よりも参入しやすいと言う結果だ。
なにしろ、第一や第三から離反を志し、一歩踏み出せばすぐに第二の本部があり、窓口業務を実施してくれるのだから。
そうかそうか、くっくっくっく・・・・。
「カ、カリン様?」
「ははははははははは!!!」
やってくれるじゃないの、北郷一刀!!
~北郷一刀「・・・さぁ、開店です」
第三、第一との隣接区域の一番はじっこで営業開始した第二生徒会本部。
事務フロアーと趣味フロアーの二面しかない本部だけど、当面は事足りる予定。
「会長! 始めますよ!!」
趣味フロアーから声がかかる。
「わかりました!!」
僕はエプロンをかけ、戦場に向かった。
「さぁ、みなさん。本日より第二生徒会常駐の大食堂の営業です!!」
万雷の拍手が鳴り響く。
大食堂自体の構想は、同士たちと共に暖めていたのだけれども、第二生徒会を預けられた瞬間に実行に移すことを決めた。
ほとんどゼロであった第二生徒会予算はおいておいて、この食堂開設は「クラブ」の一環であることで、例の予算から出資をしてもらっていた。
最初は表情を凍らせていたカリン会長だったけど、最後には苦笑いで了承してくれた。
桃香会長は「私たちも手伝う!」ということで、旧北郷隊である凪たちを貸してくれ、さらにはねねの派遣も決めてくれた。
急ピッチで準備を進める中で行われた期末試験は、全生徒会平均で70点を越える好成績を収め、本校からの高い評価を得ていた。
増援された物資、食堂の開設、不平等配給の撤廃、仕送りの正常化。
やるべき事はたくさんあるし、できることはいっぱいある。
でも、いっぺんにはできない。
だから、一つづつ、一つづつ。
~桂花代「・・・驚異と言うより恐怖ね」
第二生徒会消失から一月が経った。
即時に開設された臨時第二生徒会は、すさまじい勢いで巻き返しを行い、わずか二週で安定を取り戻した。
それもこれも第二の幹部が一斉に消えたおかげで、一般学生に直接利益がでる形に運営ができたことに起因するだろう。
不平等配給自体をなくすために本部を島の中央部に置き、配給効率の上昇と食糧供給効率の増加のために「大型食堂」を開設した。
この食堂は一定の支払いをすれば、どの生徒会所属でも利用でき、さらには第二生徒会所属の人間ならばより安価に、さらには最低配給レベルなら無料で利用することができた。
大食堂開設以降、島内の現金が一気に第二へ流れたのは言うまでもない。
さらに、浪人や難民であった学生の大半を受け入れることににより、生徒人員バランスは大きく平等に戻りつつあった。
実際、感心どころか恐怖すら感じるまとまりだったが、さらなる恐怖は期末試験だった。
わずか一週間ほどの集中授業によって、第二生徒会の平均成績を75点にまで引き上げたのだ。
入島以来一度も試験を受けたことがないような生徒が居る中で、これは驚異と言うよりも恐怖といえた。
しかしながら、これで前学生の平均レベルを上昇させるという目標に達してしまった。
達成させられてしまった。
すべては此処から転がり出すことを自覚してしまった。
~北郷一刀「最近、飲酒に抵抗感がありません。これって南洋ぼけでしょうか?」全員「そーでーす!」
月光浴、を第三生徒会本部の屋根でしていた。
書類の突き合わせや打ち合わせのためにきたのだけど、会計のすりあわせに時間がかかっているそうなので、ボクはちょっと一休み。
「あ、さぼりみーつけた。」
「あ、さぼり見つかりました」
現れたのは第三生徒会会長、桃香さん。
片手に一升瓶と二つのコップ。
無言で酌み交わし一杯。
「・・・大変でしょ?」
「・・・ええ。」
何がと問うまでもない。
「・・・やっぱり、負けですよね」
「・・・うん」
何に、と問うまでもない。
再び酌み交わす。
「実はですね、ボクはあの光が立つまで、孫呉会長の顔を見たこと無かったんですよ。」
「・・・もしかして、あのときが初めて?」
「ええ。」
そう、血を吐くような台詞の中、孫呉会長が、孫呉雪連会長が言葉を切った瞬間、あの驚きを隠せないと言う表情を浮かべたあの瞬間が、初めて彼女の顔を見たときだった。
「彼女は何を驚いたんでしょうね?」
「・・・わからない」
そういいながら、桃香会長は僕に体を預ける。
ふわりと汗と甘い体臭が香る。
「できれば、できれば彼女たちとも今の南国校舎を分かちあいたかったんだけどね。」
「・・・僕らが遅かったのかなぁ・・・」
「・・・私たち『は』遅かった、かな?」
再び酌み交わす。
「・・・後悔してる?」
「・・・失敗したとは思ってますけど、後悔はしてません。というか、後悔はするなって毎日副長から言われてます」
むんず、と手の甲をつねられた。
「女の子を侍らせてて、別の女の子の話はないんじゃないかなー?」
「あははははは。」
コップをおいて、そして彼女の手を包む。
「・・・・」
隣あっていたけれど、今は見つめあっている。
「・・・・」
ゆっくりと目を閉じる桃香さん。
僕も目を閉じようとして・・・・・・。
~桃香「・・・・いい雰囲気きだったのにぃーーーー!!!」
いっこうに訪れない至福の時間を不審に思って片目をあけると、一刀君が苦笑いで手を振っていた。
ゆっくり首を振ると、視線の先に黒山の人だかり。
第三生徒会幹部、第二生徒会幹部、それどころか、この場にいるはずのない第一生徒会幹部まで!!
「あら? そのままいかないの?」
すました顔のカリン会長。
「おねーちゃん、次は鈴鈴なのだ!!」
「ふむ、副長としての優先権を・・・」
「まて、そもそも、お前たちだけで独占するなどもってのほかだぞ」
「そーだそーだ、兄ちゃんはみんなものもだー!」
「・・・・(こくこく)」
続くみんなの声を聞いて、ぷっと吹き出す一刀君。
「もう、笑うなんて・・・・・」
振り向いた拍子に、唇が触れる。
「・・・!!」
軽いキスに驚いて離れた私を追いかけるように、キス。
浅いキス、触れあうようなキスだけでよかったのに・・・・。
~子雲 星「・・・ほぉ、やったな。」
崩れ落ちた桃香会長を優しく寝かせた一刀は、にこやかな笑みを浮かべて手を挙げた。
沸き上がる歓声、響く口笛。
「よっ色男!」「おんなったらし!」「くそほすと!」
ほとんど罵声だけれども、実際には祝福していた。
笑顔で罵声を受けていた一刀は、にっこりほほえんで口を開く。
「・・・で、次は誰です?」
真っ白になる私たちだったが、より動物的な年少組が走った。
「鈴鈴、鈴鈴なのだ!」「ずるい、鈴鈴ちゃん。私たちも」「そうだね、そうだね!!」
つっぱしる年少組が速攻で撃沈すると、ゴクリとつばを飲み込むゆな音が響く。
少女たちは、まるで光に集まる羽虫がごとくに皆吸い寄せられていった。もちろん私も。
甘美にして濃厚な感覚を味わった後、私たち全員が「朝チュン」だとは情けない話だ。
~北郷一刀「なんでみんな顔が赤いんでしょう?」
久しぶりに第三の食堂で朝食を作った。
第一から第三までの幹部がいるから、すごい人数なんだけど、なぜかみんな無言。
濡れるような瞳だったり、唇に指を当ててたり。
「お兄ちゃん、おはようなのだ!」
ぴょいっと飛び上がって僕の頬をついばむ鈴鈴。
負けずにキイ・ルルコンビも飛び上がってきた。
え、え、何事?
そう思っていたところで、朱里・雛里コンビが手招き。
何かささやくようなポーズなので、しゃがんでみると、左右から同時にキス。
・・・・う、うわぁ、まさか!!
過去の黒歴史の中で最大級の事件を思い出す。
「も、もしかして、僕、まずいことしました?」
しらーっとした空気が漂う。
うわー、まずいまずい、まずすぎるぅー!!
南洋校舎にきてから何度も飲酒しても出てこなかったから安心してたのに、やっぱりでたー!
「あー、その、会長?どういうことだ?」
星さんですら顔を赤らめてる、だめだー。
~雲関愛紗「・・・なんとはた迷惑な」
真っ赤になった一刀の話では、どうやら昨夜の御乱行は泥酔状態のために発生したらしい。
彼の故郷でも同じようなことをやったので、故郷では飲酒禁止を言い渡されているとか。
そういえば最初に「飲酒は禁止されてますので・・・」とか言っていたが、この南洋校舎では子供でも飲むのだからと無理に進めたような気がする。
というか、絡んでのませた、星が。
「えー! じゃぁおぼえてないのぉ!?」
「いえ、その、桃香さんとのことは、その・・・」
「え、うん、その、覚えててくれてるよね?」
「・・・・・はい」
何だろう、この腹立たしさは。
みれば周囲全員が同じような表情をしている気がする。
どうしようもない胸の中の嵐に耐えきれないとばかりに、カリン会長が立ち上がった。
つかつかと一刀に近づいたかと思いきや、ぐいと両手で顔を固定して、唇を奪う。
浅く、深く深く深く浅く深く深く深く・・・・。
永遠にも思える時間の終わりに、ゆっくりと唇をはなすと、唾液の糸が紡がれた。
「・・・さてこれで覚えてないとかふざけたことは言わせないわよ?」
我にかえった私たちは、昨夜の仕返しとばかりに一刀にとびかかった。
くそー、あんな衝撃的な初体験をなかったことにされてたまるものか。
私たちにさんざんキスされた後、桔梗先生と紫苑先生にお持ち帰りされた一刀がどうなったかは、本人しか知らないだろう。
私たちのために、男を上げてかえってほしいものだ。
さて、第八話です。
事件の全容すらつかめないままに事件が終わってしまいました。
ある意味ハッピーエンドですが、謎が謎のまま消化されていません。
ですが、このルートでの事件解明は不可能。行き止まりです。
第三と愉快な仲間達は、以降も楽しくやっていきますが一部の敗北感は拭いがたい事実でしょう。
そんなわけで、いくばくかの蛇足と拠点を挟んで、第一生徒会ルートが開始されます。
今しばらくお待ちください