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第三話 罪深き親友

 


 南野さんと付き合い始めて、早一週間が経った。

 当初の見積もりでは大体一週間くらいで解消されると思っていた関係は、幸か不幸か未だに終わる気配がない。

 理由は単純に(めぐむ)について語り尽くせていないことと、南野さんから具体的な告白の日程を聞けていないからだ。


 前者については、単純に俺の見積もりが悪かったことが原因だ。

 一週間は七日あるが、土日全てをデートに費やすことは時間的にも金銭的にも厳しいということを考慮していなかった。

 年中ベタベタしているバカップルならあり得るのかもしれないが、付き合いたての男女がいきなりプライベートな時間を全て恋人との時間に充てるなんてことは普通あり得ない。

 しかも、南野さんの想い人はあくまでも恵だ。

 それを踏まえると、俺としてはどうしても遠慮が出てしまう。


 ただ、やはり問題なのは後者の方だろう。

 そこをハッキリしてくれれば、俺としても綿密な計画を立てやすいのだが……



「桧山君、おはよう♪」


「おはよう、南野さん」



 俺と南野さんは地元が同じなので、付き合い始めてからは待ち合わせをして一緒に登校している。

 と言っても流石に最寄り駅までで、長くても10分にも満たない時間だ。

 そんな僅かな時間でも満たされた気分になれるのだから、俺は安い男なのかもしれない。



「……今日で、一週間経ったね」


「……そうだね」


「「…………」」



 まさか南野さんからこの話題を振って来るとは思わなかったが、その意図は一体何なのだろうか。

 そろそろ終わりにしたい? それとも、ただの確認か?



「初めてだからかもしれないけど、その、付き合うのって、……楽しいね?」


「そ、そうだね。俺も初めてだからかもしれないけど、毎日が楽しいよ」


「え!? ちょ、ちょっと待って!? 桧山君、今まで誰とも付き合ったことなかったの!?」


「えっ? い、いや、そうだけど、そんなに意外かな?」


「意外だよ! だって――」


「だって?」



 南野さんが言葉を詰まらせたので思わず確認してしまったが、冷静に考えるとネガティブな内容である可能性もあることに気付いてしまった。

 もしかして、恵のおこぼれに与ってるとでも思われてたのか……?



「……えっと、ほら、桧山君て優しいしカッコイイし、モテるから?」


「あ~……、いや、うん、その、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」



 なんとか笑顔で返答できたが、中々にダメージが大きい。

 南野さんは明らかに目を逸らしていたし、俺を気遣って言葉を選んだのは間違いないだろう。


 優しいしカッコイイしモテる――それはそのまんま恵に対する評価だ。

 恐らく返答に困った結果、とりあえずそれを口にしたのだろうな……

 南野さんの想い人は恵なのだからそれも仕方ないのだけど、正直今のはかなり効いた。

 この関係、やっぱつれぇわ……





 ◇





「おはよう、信之助(しんのすけ)。今日はなんか調子悪そうだね?」


「おはよう恵。……そう見えるか?」


「うん。先週は凄く調子良さそうだったから、今日はどうしたのかなって」



 まあ先週は舞い上がっていたし、心身ともに満たされた状態だったからな……



「いや、ちょっとな……。それより、恵こそ今日は早いじゃないか」



 あまり追及されても困るので、早々に話題を切り替えさせてもらう。



「今日はたまたま書類の量が少なかったんだよ。でも、普段通りに落ち着くのはもう少しかかるかな」


「そうか」



 俺と恵は普段一緒に登校しているが、今月に入った辺りから生徒会が忙しくなったらしく、早めに家を出る関係でしばらくの間は別々に登校することになっている。

 一応俺が時間を合わせることも提案したのだが、やんわりと断られてしまった。

 それでも俺が合わせると言えば恵は断らなかっただろうが、そうすると逆に気負わせることとなり、結果的に精神的な負担となってしまうため退かざるを得なかったのである。

 恵の性格は長い付き合いでしっかり把握しているため、考え過ぎということも恐らくないだろう。


 ただ、少々複雑な気分ではあるが、幸いそのお陰で南野さんと短時間ながら一緒に登校できている面もあるので、不満があるワケではない。

 いや、むしろ感謝している。

 少なくとも今朝までは「この幸せな時間がずっと続けばいいのに」と思っていたくらいだ。


 まあ、生徒会が忙しいと言っても所詮は学生の仕事なので、あくまでも一時的なものだろう。

 平常に戻れば、元通り恵と登校する生活に戻ることになる。


 現生徒会長は恵が「絶対に会長は嫌だ!」と拒否した結果当選したと言っても過言ではないので、実務については副会長の恵にかなり頼っているらしい。

 そう聞くとそんな会長で大丈夫か? と感じるが、人見知りの恵としては表の仕事を会長が担当してくれているため、気持ち的には大分楽なのだそうだ。

 本人も進んで仕事を請け負っているようなので、その点は俺としても少し安心している。



「緒方君おはよ~!」


「あ、うん、おはよう」



 クラスで一番明るい女子(あくまでも俺の評価だが)である千葉さんが、いつも通り元気良く恵に挨拶をする。

 彼女は以前恵に告白してフラれているのだが、それを全く感じさせない明るさは本当に凄いと思う。

 俺のメンタルでは絶対に真似できないので、皮肉ではなく本当に尊敬している。



「ひ、桧山君も、おはよ」


「……おはよう、千葉さん」



 しかし、そんな千葉さんも告白に全面協力した俺に対しては、フラれた手前気マズさを感じているのか妙なぎこちなさを感じる。

 俺も千葉さんなら絶対大丈夫だと太鼓判を押したので、正直申し訳ない気持ちでいっぱいだ……


 いや、でも一番の問題はやはり恵だろう。

 俺だってまさか、こんな良い子がフラれるだなんて思っていなかった。

 恵の感触も悪くなかったハズなのに、一体何故そんなことになったのか――、今でも謎である。


 それからも何度かそんなやり取りがあったが、何人かは千葉さんと同じように俺がこの子なら大丈夫だろうと自信を持って送り出した女子だった。

 なんか、みんなメンタル強すぎない?

 やっぱり男子より女子の方が精神的に大人なんだろうな……





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― 新着の感想 ―
[一言] >この関係、やっぱつれぇわ…… 言えたじゃねぇか( ˘ω˘ )
[一言] >そんな会長で大丈夫か? 一番いい会長をを頼む
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