第十六話(EX) 恋愛より友情を取る僕は、親友のためなら、たとえそれが好きな女の子だったとしても―― ⑥
三度のミーティングを経て、僕達の計画は開始された。
まず事前準備として、信之助とはしばらくのあいだ登下校を別々にすることにする。
生徒会が忙しいことを理由にしたが、これは今までにも何度かあったことなので疑われることはないだろう。
そしてこの状況で、タイミング良く南野さんの恋愛相談をねじ込む。
そういった諸々のスケジュール設定については、全て南野さんに任せるつもりだ。
彼女は観察力に秀でており、ベストなタイミングを導き出すことについては天才的と言ってもいい才能を持っている。
これは僕のストーキング対策を見破ったこともそうだが、言い逃れ出来ない完璧なタイミングを狙ってきたことからも疑う余地はない。
恐らく彼女の中では僕の行動パターンがしっかりとインプットされており、いつどの店で何を買うかまで、秒単位で予測していたのだろう。
実際に彼女の立案した計画は、生徒会で様々な計画に携わっている僕でも舌を巻くレベルだった。
明らかに学生の能力を超えているが、観察力は元々の能力よりも経験に依存しやすいので、単純に天才と一言では片づけられないと思う。
であれば、一体どうすればこのような技術が身につくのだろうか?
…………まあ、気にはなるけど、今は彼女の過去について詮索するつもりはない。
仮に信之助に対し何か良からぬことを考えているのであればその限りではないが、恐らくはその心配もないと思う。
明確な根拠はない。
ただ、彼女からは僕と同族の匂いがするのだ。
こういった匂いを消すことは演技では至難の業となるため、人を信用する基準としてはある程度信頼できるだろう。
……ただ、もし彼女が信之助に相応しくないのであれば、そのときは容赦なく排除するつもりだ。
◇
「……ごめん、佐々木さんの気持ちには応えられない」
「そ、そっかぁ……、ハ、ハハハ……、ま、まあウチも厳しいとは思ってたんだけどね? 恵君って、派手目の子は好みじゃないって聞いてたし。……ただ、その、桧山っちにはお墨付きを貰えたから、ワンちゃんあるかなって――」
「それについては、信之助のことを信頼してもらって良いと思うよ。少なくとも、今回佐々木さんの気持ちに応えられないのは、佐々木さん自身に問題があるワケじゃない。問題があるのは――、僕の方だから」
佐々木さんは、所謂白ギャルに近い派手な見た目をしている。
髪は綺麗な金髪に染められており、肌は美しいと表現して差し支えないくらいの美白を維持していると、恐らくかなり高度な美容技術を施しているのだろう。
しかし、そんな派手な見た目からは想像できないが、佐々木さんは学年でもトップクラスの成績を誇りダンスでも活躍している才女である。
そのうえ、人当たりも良く面倒見も良いので男女問わず人気と、正直非の打ち所がない。
強いて言うなら僕のような内面陰キャには眩しすぎる点がマイナスではあるが、信之助が太鼓判を押したのであればその点も含めたうえで僕と相性が良いと判断したのだろう。
であれば僕に断る理由はほぼないので、本来であればOKするところである。
しかし――、
「それってもしかして、好きな人がいるとか?」
「……まあ、そんなとこだね」
そう、今の僕には、珍しく好きと思える相手がいるのだ。
「……実はそれ、桧山っちだったりする?」
「っ!? い、いやいや、信之助のことは好きだけど、流石に恋愛感情は抱いてないよ!」
「だ、だよね~! いや、ウチもないとは思ったんだけどさ、なんていうか桧山っちって……、メッチャ優しいじゃない? フラれた今言うのは失礼だと思うけど、正直かなり揺れたっていうか……」
どうやら、佐々木さんも恋愛相談を経て信之助に惹かれてしまったようだ。
信之助には度々「罪作りな男だ」と皮肉られるが、今なら「君もね」と言い返しても許されるだろう。
まあ、本人は全く気付いていなので、言っても無駄かもしれないけど……
「信之助は、僕なんかじゃ比べ物にならに程イイ男だよ」
「恵君がそれを言うのはアレかと思うけど、イイ男なのは否定できないね~」
佐々木さんはそう言って笑みを浮かべるが、その笑顔からは苦笑いのニュアンスも感じ取れた。
状況的に見れば凹んでいるのが理由だろうけど、恐らく少しだけ後悔の念もあるような気がする。
それは佐々木さんの言うように失礼な感情と言えなくもないけど、ここまでそれを抑えられているだけでも十分に凄いことだ。
そして、僕から見れば信之助に惹かれるのは不思議なことではないので、むしろ見る目あるなと好感を持てる。
佐々木さんが去ったあと、僕はスマホで南野さんにメッセージを送る。
『上手くいった?』
僕が告白されるタイミングは情報共有していたので、南野さんは既に行動を開始していた。
佐々木さんが同じように誰かと情報共有していればあまり時間の猶予はないため、日を跨がず信之助のスケジュールを埋めに行くべきと判断したからだ。
今は生徒会の物置と化している旧生徒会室を整理しながら時間を潰していると、5分程度で返事が返ってきた。
『上手くいった! 付き合ってくれるって!』
絵文字やスタンプがふんだんに使われたメッセージからは、南野さんの喜びと興奮がわかりやすく伝わってくる。
それは僕にとっても喜ばしいことなので、自然と笑みが浮かんだ。
……でも、ガラス扉に映った僕の笑顔は、先ほどの佐々木さんの笑顔とそっくりだった。




