第十二話(EX) 恋愛より友情を取る僕は、親友のためなら、たとえそれが好きな女の子だったとしても―― ②
すいません、私事で立て込んでいて更新が遅れました……
一体何故こんなところに?
……と言いたいところだが、こんな場所で僕の名前を呼んでくるということは、十中八九尾行されたのだと思われる。
いくら尾行対策をしているとはいえ、探偵などのプロを欺けるほど完璧な対策ではないし、素人でも注意深く監視をすれば見破ること自体はそう難しいことではないからだ。
だから南野さんに声をかけられたこと自体は、そう不思議なこととは言えないだろう。
……ただ、不思議ではないのだけど、正直意外というか、信じられないという気持ちが強い。
少なくとも、僕が南野さんに抱いているイメージとはかけ離れているからだ。
「……よく、僕だってわかったね?」
「それは、ごめんなさい……。その、去年からずっと、話しかけるタイミングを窺ってたから……」
「去年から……」
正確にいつ頃からかはわからないが、もし半年以上監視していたのだとしたら、僕の尾行対策なんて容易く見破れただろう。
しかし、そうだとしたらかなりの執念深さである。
やはり僕の中の南野さんのイメージとはかけ離れているが、女子の強かさについては十分に承知している。
……南野さんもその多分に漏れなかっただけ、ということなのかもしれない。
「つまり、僕だという確信を得られたから話しかけた――ってことかな?」
「……うん」
「そう。……じゃあ、その、場所を変えようか?」
普段の僕だったら間違いなく逃げ出していただろう。
でも、残念ながら逃げの一手は打てない。
今の僕は、色んな意味で弱みを握られている状況だからだ。
さっき南野さんはタイミングを窺っていたと言っていたけど、これを狙っていたのだとしたら本当に計算高い女の子だ。
……ちょっと、いや、結構ショックかもしれない。
◇
場所を近くにあったファーストフード店に移し、僕は南野さんが話し出すのを待つ。
内容は恐らく僕に対する告白の類と思われるが、そこには脅迫めいたニュアンスが含まれることが考えられる。
恐らく僕が学校帰りに美少女ゲームを購入していたことや、変装などの尾行対策手段の情報などをネタに、僕との交渉を進めるつもりなのだろう。
正直、尾行対策がバレたことについては大した被害ではない。
しかし、やはり一般的な男子高校生としては、美少女ゲーム好きという情報が広まるのは避けたいところだ。
昨今はオタク趣味も認められているとはいえ、そんな中でも美少女ゲームというジャンルはどうしてもキモいなどの扱いを受けやすいからだ。
別に女子に軽蔑される分には問題ないのだが、その弱みを狙ってくる男子については大問題と言える。
理由は明白だが、僕を嫌う男子はそれなりにいるので、まず間違いなくイジメや嫌がらせを受けることになるからだ。
恐らく当たり前のように信之助は僕のことを守ってくれるだろうけど、それすらも心が痛くなるので正直キツイ。
「……改めて、ごめんなさい。どうしても話を聞いて欲しかったから、こんな卑怯なタイミングを狙ってしまいました」
「それは、別に構わないよ」
やはり彼女は、僕が逃げ出すことを見越してあのタイミングを狙ったようだ。
店を出たタイミングであれば購入したゲームは隠しようがないし、僕があの場で逃げ出せば店側にあらぬ疑いをかけられる可能性もある。
恐らく僕だという証拠も握っているのだろうから、店にバラされれば年齢的な意味で出禁にされる可能性もあるし、学校やクラスメートにバラされれば悲惨なペナルティを受けることになるだろう。
それを避けるためには、なんとか口止め交渉をするしかないのだ。
……冷静に考えれば考えるほど、完璧なタイミングである。
そう、悪魔的と言ってもいいくらいに……
「緒方君も不安だろうから最初に言っておくけど、私は今日のことを他人に言うつもりはないよ。これは絶対。誓って、言わない」
「……」
僕はこの『絶対』という言葉を信用していない。
そもそもこの世に『絶対』などないと思ってるし、言葉での誓いなんて無意味に等しいと思っている。
特に女子はお喋りが好きな傾向にあるので、女子のネットワークには情報が垂れ流しーーなんてことはザラだ。
「と言っても、信用はできないと思う。でも、私の話を聞けば、少しは信じてくれると思うの」
「……?」
南野さんの、話……?
もしかして、告白じゃないのか?
……いや、恋愛感情のない交際を求めてきた女子は今までにも何人か存在した。
世の中には、恋人のことをアクセサリーとして機能しさえすればいいというタイプの人間が一定数存在する。
それは男女問わず存在するが、着飾るのが好きなのは女子の方が多いので傾向としては女子寄りだと思う。
これもまた南野さんのイメージとはかけ離れているが、今となっては何の参考にもならない。
「え、えっと、それは、どういう……」
もっと威圧感を出して尋ねたかったけど、コミュ障の僕にはこれが限界だった。
「それは……、実は、私……、ず、ずっと前から、桧山君のことが好きなの!」
「…………………えええぇぇぇぇぇぇ!?」
「うぅ……、そんなに驚く……? 私、結構わかりやすかったと思うんだけど……」
「えっと、その、うん……」
正直、完全に想定外ではあった。
ただ、わかりやすかったと言われると、確かに――と思える記憶はそれなりにある気がする。
なんだかんだ南野さんと信之助はよく一緒に喋ってたし、中学時代は二人で勉強をしていたりもした。
信之助も女子の中では気を許している方というか、間違いなく好感を持っていたと思う。
……しかし、不思議と南野さんが信之助を好いていると思ったことはなかった。
一体、何故なのだろうか……
「やっぱり、私のアタックじゃ、全然足りなかったんだ……」
「あ、いや……」
「ううん、大丈夫。私だって、本当はわかってたから。だからこそ、こうして緒方君に声かけたんだもん!」
「っ!?」
南野さんはそう言ってから手を付けていなかったドリンクを一気に飲み干し、コップをテーブルにコンと軽めに叩きつける。
「緒方君、桧山君に告白するまで、私に協力して!」




