第十一話(EX) 恋愛より友情を取る僕は、親友のためなら、たとえそれが好きな女の子だったとしても―― ①
「緒方君、おはよう♪」
「っ! お、おはよう」
内心焦っているのを表に出さないよう注意しつつ、作り笑顔で挨拶を返す。
信之助の協力もあり最近では大分慣れたとは思うけど、今のように急に後ろから声をかけられたりすると、未だにビクリとしてしまう。
本当に自慢ではないが、僕は他に類を見ないほどの美形――なのだそうだ。
小さい頃から周りにはチヤホヤされていたし、間違いなく過保護に育った自覚はある。
ただそういう場合、普通は自信過剰になったり傲慢な性格に育つらしいのだが、どうやら僕は根っからの臆病者だったらしく、周囲の好意や過干渉が原因で人間が怖くなってしまった。
結果、幼稚園の年長になる頃には立派(?)なコミュ障になってしまったのである。
そんな僕を支え、助けてくれたのが、幼馴染である桧山 信之助だ。
もし信之助がいなければ、僕は今頃間違いなく引きこもりになっていただろう。
だから信之助は僕にとって永遠のヒーローであり、一生大切にしたいと思っている親友だ。
もし僕の性別が女であったのならば、中学生の段階で結婚を前提に交際を申し込んでいた自信がある。
とはいえ、それはあくまでも仮定の話で、僕が男である事実は変えられない。
女子は正直今でも少し怖いけど、性的なことについては普通に興味があるし、ちょん切って性別を変える勇気もない。
それに、恐らくそんなことをされても信之助は喜ばないだろう。
……むしろ、迷惑に思われるハズだ。
信之助には今でも多大な迷惑をかけているというのに、これ以上迷惑をかけるようなことはしたくない。
……それにしても、本当にどうしたものか――と、最近はずっと悩んでいる。
いや、悩み自体はずっと前からあったのだけど、ここ最近は若干手詰まり感があるというか……
信之助には昔から、直接的にも間接的にも迷惑をかけっぱなしだ。
信之助は、コミュ障の僕が孤立しないよう立ちまわってくれたり、女子やいじめっ子から守ってくれたりと、僕のピンチには必ず駆けつけてくれる――本当にヒーローのような存在である。
そしてそのせいもあってか、残念ながら損な役回りになることがとても多い。
僕の面倒を見るのは文字通り凄く面倒だったろうし、邪魔者扱いされて女子に嫌われたり、いじめっ子と喧嘩したりもしていた。
要するに、僕にとってはヒーローでも、周囲からの評判はあまり良くなかったのである。
さらに言えば、僕と一緒にいるせいで何かと比較されることも多かった――と思う。
信之助はそれを僕に悟らせないようにしていたけど、子どもが感情を完全に抑えるのは無理があるし、親や教師、女子から比較されて凹んでいる瞬間を時折見てしまうこともあった。
それがどんなに辛かったか、想像するだけで恐ろしくなってくる。
少なくとも僕なら、間違いなく心が折れていただろう。
……本当に、信之助は強い男だと思う。
◇
生徒会が終わり、速やかに一人で下校する。
生徒会のメンバーは僕が人付き合いを苦手としていることをちゃんと認識してくれているので、一緒に帰ろうと誘われることはない。
その方が気楽に寄り道ができるので、正直助かっている。
一年生の頃はそこを狙われて女子から告白やストーキングをされることもあったけど、信之助のお陰でそれも激減した。
それでも警戒するに越したことはないので、一人で帰るときは人の多い駅で一度降りることにしている。
もしストーキングされていたとしても、これで八割がた撒くことができるからだ。
そしてさらに、今日はトイレで伊達眼鏡とウィッグを着用し、簡単な変装までしている。
普段はここまでしないが、今日は別の目的があるため変装は必須なのだ。
駅を出て、少し離れた場所にあるゲームショップへ向かう。
目的は、今日発売する美少女ゲーム――いわゆるギャルゲーを買うためだ。
僕がギャルゲーに手を出したのは、例のごとく信之助の影響である。
厳密には、僕のコミュ障及び女子が苦手なのを克服するために用意されたツールの一つが、ギャルゲーだったのだ。
狙いは言うまでもなくギャルゲーを通じてコミュニケーション能力の向上や、女子との付き合い方を学ぶという目的だったのだけど、既に広く認知されている通り現実ではほぼほぼ役に立たなかった。
ただ、役にはたたなかったが、結果的に僕はギャルゲーにハマってしまったのである。
何故ならば、二次元の女の子達はみんな優しいし、怖くないし、ストーキングもしてこないからだ。
僕がギャルゲーにハマってしまったのは俺のせいだと信之助は後悔しているようだけど、僕からすればむしろ感謝しかない。
……ただ、人目をはばからず喧伝する勇気はないので、こうしてわざわざ変装までしてコソコソと買いに来ているのであった。
(はぁ~、土日が楽しみだなぁ♪)
無事何も怪しまれずに購入に成功し、ホクホク顔で店を出る。
土日に引きこもって買ったゲームをクリアするのはゲーマーにとっては至上の喜びなので、今から楽しみで仕方な――
「あの、緒方君」
「っっっっっっ!!!!!!!???????」
心臓が飛び出るかと思った。
さっきまでの幸せな気分が、大波に攫われるように引いていく。
恐る恐る振り向くと、そこには僕も良く知るクラスメート――南野 陽子さんが立っていた。




