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《22》日記 Ⅲ

 五ノ月(ジュ・リーア)◯日


 なんと、朝食にバターミルクを必ず一杯は飲まないといけないという規則ができた。正確には規則にはなってないけど、先生たちが目を光らせているから、実質規則を強制させられているみたいなもの。教育省?の人たちが視察にきた時に、生徒たちの健康が心配だって苦言を呈したらしい。

 スィン・アル・アサド学院の校風は生徒の自主性を重んじる感じだから、食事なんかも好きなのをメニューから選べたりする。それが教育省のお偉さんたちには、好き嫌いを助長するって考えているらしい。

 だから五ノ月から朝食には高タンパクで健康的な飲み物、バターミルクを飲まなきゃいけないことになった。これが私は大嫌い!濃厚でクリーミーなとてもいい飲み物だって先生たちは言うけど、私はこの独特な臭いが嫌い。


 そもそも私は羊のミルクはちょっと苦手だったんだよ。氷菓に加工されてたらそうでもないんだけど、そのまま飲むのはちょっと苦手。それを毎日飲まされるなんて、苦行だよ。たまに飲むくらいなら別にいいけど、毎日飲まされるなんてうんざりしちゃう。まだ数日だけど、もう無理。






 五ノ月(ジュ・リーア)×日


 ミラもベガも帝国っ子だからバターミルクは平気らしい。…と思ったけど、こうも毎日強制的に飲まされ続けてベガはちょっと飽きてきたらしい。「自ら好んで飲むなら美味しいけど、他人から強制されて飲むと不味い」ってベガは言ってた。

 とりあえず、バターミルクのアレンジレシピを色々試行錯誤しながら飲んでいこうと思う。





 五ノ月(ジュ・リーア)◁日


 今日はやっとベガのペットのエステルちゃんと会うことができた!教員用の寮の近くでこっそり会ったからバナフサジュ教授の部屋にも入ってないし大丈夫!結局ミラも外なら…ってことで付いてきた。エステルちゃんは警戒心が強くてベガ以外に全然懐かなかったけど、見れるだけで嬉しい!可愛い!!

 ミラもペット自慢したい欲に火がついたのか、部屋に帰った時に実家で飼ってるっていう猫の写真を見せてくれた。鼻ぺちゃでずんぐりした長毛の猫ちゃんだった。帝国の固有種なんだって。

 





 五ノ月(ジュ・リーア)□日


 最近の悩みはバターミルク!ストレスの八割がバターミルク由来だよ。サフランやカルダモンで香辛料の風味をつけてみた。喉の奥にピリッとスパイスの味がするけど、鼻に抜ける香辛料の香りは一瞬でやっぱりバターミルクの生臭い感じは消えなかった。

 薔薇水や柑橘系の果汁で誤魔化してみたけど、やっぱり基はバターミルクなんだからバターミルク自体が消失することはなかった。学院生活の数少ない楽しみの食事がちょっと憂鬱になりつつある…。





 五ノ月(ジュ・リーア)⚪︎日


 ベガも私もバターミルクにはもううんざり!ミラは健康にいいし、教育省が言ってるなら正しいって言ってバターミルクを飲み続けてる。属領人排斥の学生運動じゃなくて、強制バターミルクの撤廃運動が起こらないかな?もしそうなら私は喜んで参加するのに。





 五ノ月(ジュ・リーア)◇日


 今日は嬉しいことがあった。朝食の席で、バターミルクを飲むのが嫌だって話をこそこそベガと話していたら、それを聞いたリゲルが先生が見ていないうちにこっそり代わりに飲んでくれるって言うの。ラッキー!!リゲル優しい!!ありがとう!!

 でも私とベガの分合わせて、三杯もバターミルクを飲むなんて気持ち悪くならないのかな…。本人が平気ならそれでいいんだけど。





 六ノ月(マルタ)△日

 

 今月を乗り切れば、長期休暇突入!そして一年生も終了。何だかお休みを前にすると体から力が抜けてきちゃうよ。ミラにはまだ気が早いって言われた。




 

 六ノ月(マルタ)◯日


 進級が掛かった試験があることをすっかり忘れてた!!どうしよう、来年も一年生だったら…。





 六ノ月(マルタ)×日


 今日、勉強のしすぎで三年生の上級生が倒れて医務室に運ばれた。学期末の試験は戦場だって言われてるけど、納得。私は倒れるまで勉強とかできないよ。





 

 六ノ月(マルタ)♢日


 なんとか試験が終わった。試験勉強のせいでなかなか日記が書けなかったけど、ようやく書けるね。結果が出るまで遊び倒そうとしたら、ミラに「よくそんなに元気でいられるわね」って呆れと感心が混ざったように褒められた。ミラは結果が出るまで不安で仕方がないって。

 でももう結果は私たちでは変えられないんだから、遊べばいいじゃん!そうしたら、虚な目をしたベガが賛同してくれた。ミラはベガがおかしくなったって言ってた。たぶん、ベガも勉強に疲れておかしなことになっちゃってると思う。ベガが私と一緒に馬鹿騒ぎに興じるなんて、明日は雪が降るかも!


 就寝時間になっても、私たちはこっそり起きたままで真夜中のお茶会を開催した。前は寝ていた二人が参加してくれて嬉しい。ただクラーはいなくなってしまったけど。今回は寮長にばれないように細心の注意を払った。


 葡萄の蜜と薔薇水を合わせた飲み物がとても美味しかった。ちょっと前までバターミルク漬けの日々だったから、余計に美味しく感じたのかも。





 六ノ月(マルタ)◻︎日


 試験の結果出た!なんとか進級できるみたい。やったー!ただし、物理学は休暇中に学院に残って補講を受ける条件付きで合格を許された。補講なのは残念だけど、元々学院に残るつもりだったし、家に帰らない理由ができて良かったかも。家もミリアムおばさんの家も絶対に嫌だ!





 六ノ月(マルタ)◎日


 ベガもミラもアルタイルもリゲルも、みーんな家に帰っちゃうんだって! ミラは何となく帰るんだろうなってことはわかってたけど、ベガまで!? もう私の頭の中では小型花火で遊ぶ計画まで立ってたのに。

 夏季休暇は一人になりそう。家に帰るよりはマシだけど、つーまーんーなーいー。


 あと、今日の日記を書くときにベガに付き合ってもらいました。他愛ない雑談をしながらってこと。ベガはイスリア語が読めないから目の前で日記を書いても大丈夫だからね。

 そうしたら、六ノ月の読み方を聞かれたので『マルタ』だってことを教えてあげたら、聞いたことがあるって言ってた。人の名前じゃないかって。

 確か、建国に携わった十二人の乙女を祖に持ったり名前を冠している家があるらしいけど、没落とか断絶で今はあまり残っていないらしいってことを思い出した。というか、そもそも十二人も実在したか分からなくて、確実に存在したと言えるのは七人か六人くらいだって話もある。


 改めて、無理やり当てはめた感じがするな〜って思う。




 七ノ月(ディアナ)◇日


 誰もいない最高! 貸し切り最高! 階段の手摺りを滑り降りても、階段を二段飛ばしで駆け上がっても誰にも注意されない。大声で歌っても誰にも迷惑かけてなーい!

 休暇中が外出許可の難易度が緩くなるから毎日出かけられる。やったー!





 七ノ月(ディアナ)×日


 今日は街をぶらぶら歩いてたんだけど、いい場所を見つけた。それは賭博場(カジノ)!なんと飲み物が無料で貰えるんだよ。煌びやかで、音が楽しくて天国みたいな場所。賭博場に行った後は胡麻シムシム亭でお昼を食べた。店主の人がよく来る私の顔を覚えててくれて、羊の尻尾の脂身を食べさせてくれた!一番いい部位のお肉なんだって。

 酸乳と羊の出汁のヨーグルトスープってはじめて食べた。癖のある味だけどなかなか美味しい。

 

 ご飯を食べた後は『猫の目』に寄って、足りなくなった文房具なんかを買い足した。そのあとは、『アブラカダブラ』って言う老舗の薬屋に行って薬用石鹸を買った。ここは輸入品も扱ってる数少ない店。最近、乾燥で肌が痒くなってきてたから。『アブラカダブラ』のお店の隣には『魔女の鍋』っていうお店があって、こっちも薬を扱っているお店だった。

 競合他社なのかなって思ったけど、『魔女の鍋』は昔ながらの薬草を煎じて作る飲み薬が人気のお店で、茶葉とか蜂蜜、酢、柘榴の花なんかを売ってるどちらかと言うと民間療法のお店だった。低水準の医療にもかかれない人たちのための最後の砦みたいなお店だから『アブラカダブラ』とは客層が被っていないから共存ができるのかも…?


 『魔女の鍋』では薬の他に染料とかも売られていて、結構何でもありみたいなお店だった。『魔女の鍋』の店主は、占い師も兼業しているらしく、私を見た途端に「貴女は肺が弱いでしょう?貴女の肺あたりに黒い靄が見えます。幼い頃から喘息気味だったのでは?」ってずばり言い当てられちゃってびっくりした。

 でも「貴女の金髪は老いるとすかすかになって、貴女はリウマチを患い美しさは見る影もなくなる。うちのお酒を朝晩一杯ずつ飲めば、リウマチも喘息もすっかり治るよ」って言ってきたの。結局、自分のところの商品を売りたいだけなんだってわかって、そうしたらなんて失礼なことを言う人なんだろうって思ってお店を出た。

  

 私が喘息気味なのは確かだけど、まだ患ってもないリウマチのためにお酒なんて!しかも私がしわくちゃのおばあちゃんになったときに髪がすかすかになるかはまだわからないじゃない!適当なこと言ってるに違いない。

 そのナツメヤシと葡萄を蒸留してニガヨモギで風味付けしたお酒は、毎日飲むには高すぎる代物だったし私をカモにする気だったんだ。


 



 七ノ月(ディアナ)☆日


 今日は制服を直しに仕立て屋に行った。少し前に起こった銃乱射のテロ事件のせいでスィン・アル・アサド学院の制服を請け負っていた『月下美人』は帝都から撤退して今は地方の支店を本店としている。だから、『月下美人』から帝都の学生のために業務委託されている仕立て屋『ルーナ』に行った。

 『ルーナ』の方が緊張しなくて済んだけど、もう帝都にあの煌びやかで高級な仕立て屋が無いんだなって思うとちょっと寂しい。絶対に客にはなれないけど…。『ルーナ』は仕立てだけじゃなくて衣類の洗濯と配送も副業として請け負っているらしい。というかほとんどの人は仕立てじゃなくて洗濯を依頼するから、こっちが本業じゃない? 『ルーナ』の利用層は『月下美人』ほどの富裕層じゃないから、自分で布地を買って仕立てる人が圧倒的に多いと思うんだよね。





 七ノ月(ディアナ)◻︎日


 今日は補講。つらい。





 七ノ月(ディアナ)◯日


 私以外にも学院に居残っている人がいるはずだけど、なかなか見かけない。寮の部屋か図書室に篭ってるんだと思う。

 




 八ノ月(ビアンカ)×日


 今日は髪の毛に優しいっていうシャンプーを使ってみた。あと、髪にいいって言われてる食べ物は全部食べた!柑橘類に魚介類に、海藻類。正直、海藻は食べ物とは認めてないけど、薬みたいなものだと思って頑張って食べた。焔華系の物売りのお姉さんが凄くおすすめしてくれたからきっと効果があるんだろうな。


 別にあのインチキな占いをちょっと気にしてるとかじゃないから。





 八ノ月(ビアンカ)◯日


 寮に残ってたアヤに会ったので、髪の毛にいいって言う海藻のことについて話したら「それは迷信だよ」って言われた。騙された!あのお姉さんは出稼ぎで頑張ってるって言ってたのに!


 

 


 八ノ月(ビアンカ)△日


 気づいたら、休暇最終日なんだが?え?え? どうして?私の周りだけ時空とか歪んでた? 時間が溶けるように消えてるんだけど誰か助けて。夏季休暇初日に戻して。そして永遠に夏休みを繰り返し続けたい。


 



 九ノ月(ルイーザ)×日


 新学期初日。少し前まで休みが永遠に続けばいいと思っていたけど、ベガとミラが帰ってきてくれて嬉しい。私も先輩になるのか〜と感慨深く思っていたら、同室になった一年生の子はとんでもない子だった。

 プリジパティ・ファラウラっていう貴族のお嬢様。ミラとは学院に来る前から家同士の付き合いで顔見知りらしい。…ミラの知り合いにこんなことは言いたく無いけど、プリジパティってとっても嫌な人! 恵まれた環境で生まれ育ったが故の自信が無自覚に傲慢。

 私が自己紹介しただけで「そんな家名は聞いたことがない」って鼻で笑うし、「お母様の旧姓は?」って嫌味ったらしく聞いてくる。どうせ、私はプリジパティのお眼鏡に適う家の出身じゃありませんよー。


 とにかく細々とした嫌なところを挙げればきりがない! 初日でこんなに嫌う人が出てくるなんて思っても見なかった。あーあ。これから同室なのかぁ。クラー帰ってきてぇ!



******



 九ノ月(ルイーザ)◯日


 今日から五年生。今学期からミラが副寮長に抜擢!すごい、同室として自慢だよ。ただ、ミラが副寮長になったら私は懲罰房行きになっちゃうのかな? だってミラは私がうっかり規則を破っちゃうとき、「私ならこんな甘い罰では許さない」みたいな顔をしているんだもん。 





 九ノ月(ルイーザ)×日

 

 今日は新入生に勉強を教えてあげた。いやー、まさか私が試験期間前に自習室を利用するとはね! ミラは副寮長になったことに張り切っちゃって結局同室全員が新入生のための教師役と務めることになっちゃったよ。それでわかったことは私は人に教えることは向いてないってこと。何度新入生の子に首を傾げられたことか。自信無くしちゃうよ。

 あと、たとえ教えられたとしても自分の勉強と両立するのは難しいかな。この日記を書くぎりぎりまで帝国史の課題に終われてたよ。「帝国の魔術の歴史」だって。帝国は魔法という大枠の中に錬金術と占星術を含んでいるから、もう大変。魔術の歴史だけで膨大なのに、帝国人は大雑把に括っちゃうから〜!





 九ノ月(ルイーザ)□日


 今日の帝国史は今までのものとちょっと違った。犯罪学? みたいな側面を含んでいたように思う。今日の授業内容は「悪に傾倒した魔術師たち」 昔は魔法を使う人は職業みたいな形だったらしいけど、今は特権階級の象徴になってる。もちろん、魔法を犯罪行為に使用するのは違法だけど昔は法がゆるゆるで抜け道がいっぱいあったらしい。

 今でも、本家の叔父か大叔父? が政府の高官だから「少し魔法の練習をしても、揉み消してくれますのよ」って言ってる某プリ◯パティお嬢様がいたけれどね。どーなってるんだ! がばがばじゃないか!!

 悪に傾倒した人たちの変遷としては違法魔法研究者→革命家(思想犯)→政治犯 テロリストみたいな感じ?革命家とテロリストは紙一重なんだなぁって思ったよ。






 九ノ月(ルイーザ)◻︎日


 光の反射、屈折 を【シャペリエ・スルタン】式から導出 入射角と反射角は【アイシャ・スルターナ】法則を用いて… 臨界角、【シャイフ】の原理より…全反射では…

 回折現象、干渉  あたまがいたくなる 


 目の錯覚   どこで計算間違いを   混乱する 魔力の粒子 仮定して 性質 波のよう 【ベイレルベイ】方程式で速度を求め 環境中の水蒸気 膠質 のようなものと仮定 仮定ばっかり あたまぐちゃぐちゃ 蜃気楼などを考慮 射撃及び砲弾に用いる角度 目算距離 


 空気と異なる性質を持つ相。例) 水

 光が通り抜ける際、ここの境界で屈折する。物性により入射角や屈折率は決まっている。

 同様に境界面を増やし 距離が短かったから、境界面数を増やすとしたら… 重力の影響は?放物運動ではなく等速直線運動?


 わからない 回転原理 重力と飛距離 気象現象が及ぼす影響とその原理 湿度 帝国には関係ない?

 




 

 九ノ月(ルイーザ)△日


 昨日、半分寝ながらも数学の予習をノートに書いてたはずなのに、授業でいざノートを開いたら白紙だった! じゃあ私が珍しく勉強したのは夢だったのー!? って思ったら間違って日記帳に書いてるじゃん! …本当にノートに書けてたとしても、あれじゃ全然わからないね。

 眠い時に勉強するのはあまり定着しないことを学習しました。





 九ノ月(ルイーザ)◇日


 今日はミラとベガとお出かけ!……の予定だったのだけれど、ミラが副寮長としての会議? か何かに出席しなくちゃいけないらしくて、お出かけは延期。


 ベガが今日は図書館で過ごそうって誘ってきたけど、一日中図書館にいるなんてそれ何て拷問?私にとっては苦行だよ。だから、ずっと眠っていた小型花火で遊ぼうって言ったけど、ベガは花火って言葉にトラウマを思い出しちゃったみたい。私が浅慮だった。結局、身近な人が犠牲にならなかったが故に新聞の中での出来事として何処か遠くの出来事のように思える私と、死が目の前まで迫ったがぎりぎりで生還できた出来事であると捉えているベガとでは心の傷は違うのに。


 とにかく、玩具の小型花火はプリジパティにあげた。「要らない」って言われた。それだけじゃなくて危険物を持ち込んでるってことでミラに密告された! ミラにめちゃくちゃ怒られたよ。

 




 

 九ノ月(ルイーザ)◁日


 今日はミラが家の伝手?で手に入れてくれた劇? のチケットを貰ったのでみんなで見に行った。プリジパティも一緒。流石に同じ部屋だから一人だけ誘わないってのもアレだったんだろうね。


 帝都の娯楽はカシオペヤ歌劇団が撤退しちゃってから激減した。今日見に行った劇は歌劇団の常設劇場跡地で開催されたもの。簡素な野外劇場……劇場って言ってもいいの? ってくらいに見窄らしい、板で台を作っただけ! みたいな感じだった。舞台に立つのも、オリオン・ボーイズ? だか何だか知らない垢抜けない男の子たちの音楽集団だったり、近所のおじさんの喉自慢大会だったり、いろんな人が立ち替わり舞台に上がってた。まぁ、暇つぶしにはなったかな。


 一番見応えがあったのはひらひらした薄い布を纏った女の人たちの踊りかな。華やかだったし。次点で近くの学校の子供達が開催した劇。素人だろって期待してなかったけど演劇専攻? らしくなかなか面白かった。一番面白くなかったのはスィン・アル・アサド学院の有志生徒たちで行った、討論大会だね。一番、つまらなかった。環境問題とか色々高尚な議題を真面目に話し合ってたけど、あれを催しとしてやる必要ないよね。

 プリジパティは一生懸命に同じスィン・アル・アサドの生徒を擁護してたけど、プリジパティがいいところを一つ捻り出そうと頑張っている間に私は悪いところ十個は言えたよ。


 きっと今日の催しのチケットもバルセィーム家の帝都復興支援とか文化・芸術支援の一環なんだろうな。


 




 十ノ月(オクタヴィア)☆日


 あの人に会った。いや、再会したって言った方がいいのかな。私は今日初めて名前を知ったし、あの人は私のこと覚えてなかったけど。私を駅で助けてくれた人が、ベガが図書館で会ってた人だった。レサト・マルタさん。

 私はずっと、覚えてたけどレサトさんは覚えてないみたいだから「あの時はありがとうございました」なんて言えなかった。私にとっては大きな出来事だったのに、レサトさんにとっては覚えてもいないくらい小さな出来事だったのかも。


 数年前の出来事だから、覚えてないのも仕方がないのかな?私があの時より変わりすぎて気づかなかったのかな?もう少し、それとなく確認してみた方がいいかな。でも、本当に一切覚えていないのなら凄くへこむ自信がある。

 


 



 十ノ月(オクタヴィア)×日


 やっと筆を持つことを許された。私の身に起こった出来事を書き記さなくてはならないような焦燥感に襲われてここ数日はまともに眠れなかった。もちろんそれ以外の不安もあったけれど。

 私は事故を引き起こした。そのせいでベガやミラを危険に晒してしまった。危険に晒した…じゃない。実際に怪我をさせた。もう取り返しのつかない、大怪我を。ベガの…ベガの腕がなかった。きっと衝撃で吹き飛んじゃったんだ。


 私よりベガの方がずっと重症だったはずなのにベガは医務室に運ばれて、私は国立病院に搬送された。いや、絶対に逆だよね。私の他にもミラが入院していたことを知ったのは病院に来てから十一日目。ミラは一週間で退院していたらしい。


 私が何処も怪我してないし、悪いところもないのに検査、検査、検査で病院内を盥廻しにされてる間にスィン・アル・アサド学院は休校になったらしい。敷地は研究機関以外閉鎖されてるって。それを知らせてくれたのは見舞いに来てくれたプリジパティだった。


 プリジパティが私の見舞いに来るほどにはまだ嫌われてないんだってことが驚いた。彼女にとって私って(ある意味)苦手な先輩だと思っていたから。でも、私が入院して…死にかけてるって噂が流れて(勿論、嘘!)プリジパティもちょっと今までの態度を後悔したらしい。病院の 寝台(ベッド)で元気な私を見て、呆れていたけれど。


 プリジパティはただの見舞いじゃなくて、私の寮の部屋に残っていた荷物を纏めて持ってきてくれた。服や教科書なんかをね。その中にこの日記帳もあったからやっと書けます。休校機関の勉強面の対策として、通信教育の方向になったらしい。出された課題を学院宛てに郵送すればそこから各教科の担当教師の住所に転送されるらしい。……この方法が主流になれば学校行かなくていいじゃん!って思ったけど、これは休校期間中の対策で実技が出来ない。…休校の期間はまだ明言されてない。いつまで続くんだろ。


 退院しているならミラが真っ先に…いや、そもそも同じ病院に入院していたんだからすぐにでもミラが私の病室を訪ねると思っていたけど、プリジパティの話ではミラはすぐに実家の方へ帰ってしまったらしい。プリジパティも今は帝都の家に居るけど、私に荷物を渡せたら本邸? の方へ帰るらしい。


 私もここを退院したら、家に帰らなきゃならない。






 十ノ月(オクタヴィア)◯日


 医術師おいしゃさんに私はいつ頃、退院できるか聞いたらもう明日にでも退院できるって。やった!……というか、当たり前だよ!そもそも私は全然入院が必要ないもん。万が一ってこともあるから検査入院で一晩くらいならまだわかるけど、超健康優良児が二週間近く入院はもう異常だよ!これで何処も悪くないのに苦いお薬を飲む日々が終わります。





 十ノ月(オクタヴィア)◻︎日


 退院するための準備を、退院日の朝にやるってなかなかハード!昨日のうちに荷物をまとめなかった私が悪いんだけども。あと、私の荷物の中にミラのものが混じってた。返しに行かなきゃなのかな、『帝国・帝国麾下の貴族家魔術紋一覧』を。でも、ミラの家の住所知らないし…。有名なお貴族様なら調べれば分かるかな。また学院が再開した時にでも返せばいいかな。流石にこのままずっと休校って訳じゃないだろうし。




 今、気づいた。この本はミラが持ってたものと違う!ミラが持ってたのは改定版?新版?って言われるものでこれは旧版だった。情報が古くて今はもうお取り潰しされた家も含まれているのがこっち。


 たぶん、ミラは記憶違いをしていたんだと思う。ミラが探していた私のものとよく似た魔術紋は旧版には記載があった。どちらに記載されていたのかミラはわからなくなってしまったんだろう。旧版にだけ存在するということはもう断絶したお家のものなのかも。


 偶然にしては似過ぎているから、ちょっとの間だけ『帝国・帝国麾下の貴族家魔術紋一覧(旧)』を借りたままにしておこうと思う。パーパにこの事について聞いてみなきゃ。

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