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探偵事務所うぐいすの調査記録   作者: 斎藤 セツナ
4/7

case2〜依頼者:宮野文香〜(後編)

次の日、宮野は分厚いノートを数冊もって、町田のところへ訪れた。

「先日、父からレシピノートをもらったんですが、もしかしたら手掛かりになるかと思って持ってきました」

「おお、すごい量ですね。料理研究家みたい……」

すさまじい量のレシピに()(あき)が驚きの声を上げる。しかも、かなりの量であるにもかかわらず、丁寧に写真やイラストが貼ってあり、とても完成度の高いものだった。さらによく見ると、レシピにはナンバーと日付が振ってあり、いつ作ったものなのかわかるようになっていた。宮野はノートのページをめくりながら懐かしそうに微笑んでいる。


しばらく三人でノートをぺらぺらとめくっていたが、それらしいレシピはなかった。

「うーん……ないですねぇ……」

千輝が()()げた。宮野も、ふぅ、と息をつきながらうなずく。町田はというと、手掛かりを探すべく全部のノートに自分で目を通して、観察を続けていた。しばらくして、町田が一冊のノートを手に取った。

「これ、このノートだけ、ページ数が足りない」

数えてみると、紙が六十枚あるノートのはずなのに、五十九枚しかない。つまり、一ページ誰かが切り取ったということになる。さらに町田は最初のページを開いた。

「このレシピの日付は、これらのノートのうち一番古い。1999年6月4日。最初のレシピの番号はNo,002と書いてある。この日付に何か心当たりは?」

「その日は、私の誕生日の翌日です。1999年なら、私の六歳の誕生日の翌日……」

「つまり、このノートの一番最初のページ、No,001のレシピが文香(ふみか)さんの食べた唐揚げのレシピだった可能性が高いということだ」

何か、とても大事なことにたどり着いたような気がした。でも、肝心のレシピは全くわからないままだった。宮野は結婚式の準備のため、帰っていった。

「どうします? なんかもう手詰まり感がすごいですが……」

「いや、これではっきりしたことがある。文香さんのお父さんは、レシピを忘れたわけではなく隠してるということだね。もっと言えば、あのレシピには隠さなければならない何かがある」

「隠さなければいけない何か……ですか」

「そう。今のところはまだ想像でしかないけど、これが当たっていれば、確実にレシピまでたどりつける」

追い詰められてピンチのはずなのに、町田はなぜか自信満々の表情だった。本当にここから解決する手立てがあると言うのか。


次の日、宮野を事務所に呼んだ町田は千輝と宮野を車に乗せてとある場所へ連れて行った。二時間程度かかって着いたその場所は宮野の父の実家のすぐ近くだった。

「着いた」

町田が連れてきたのは一軒のラーメン屋だった。

「ここって……」

そのラーメン屋を見て、宮野はとても驚いた。それは宮野の父の友人が経営しているというラーメン屋だった。中に入ると、店主の北村という男が三人を出迎えてくれた。

「遠いところからようこそいらっしゃいました。物はもうできております。温かいうちにお召し上がりください」

三人は空いている適当なテーブル席に座った。店主が厨房のほうへ行ったかと思うと、ラーメンではなく皿にひと盛の唐揚げを持って戻ってきた。三人は、出された唐揚げにひと先ず箸を伸ばし、各々口に入れた。衣はサクサクとしているが硬すぎず、口の中にじんわりと肉汁が広がって幸せな気持ちになる。

「おいしい……」

千輝は思わずつぶやいた。そして、宮野はしばらく静かに食べていたが、突然目を輝かせて言った。

「これです。この唐揚げ。間違いない。私が六歳のころに食べたのはこれです。でも、どうしてここに?」

「君のお父さんにこの唐揚げのレシピをもらったんだ」

北村が宮野に語りかける。どういうことなのかと宮野がきょとんとしていると、北村はさらに語りだした。

「実は私がこの店を継いだ二十年前、売り上げが相当落ち込んでて、どうしようもない状況だったんだ。継いだ時点で抱えていた借金は三千八百万、周りにいる人間は相続放棄した方がいいと言ってきた。でも、私にそれはできなかった。どうしてだろうね。愛着というものは時に呪いのように縛ってくる。そんな時、この唐揚げのレシピをくれたのが宮野だった。あの唐揚げは、もとは宮野のおばあちゃんが作ってくれてたものらしくて、『これで立て直せそうだったらやってみてくれ』ってレシピを渡してくれた。その後、見事に売り上げはⅤ字回復して、この唐揚げは店の看板商品の一つになったんだ。しかし、あいつ、気を使ってレシピを封印してたのか……今更だけど、そんな必要はないからね。これを使ってどんどんいろんな人を喜ばせてほしい。」

語り終わると、北村は宮野に一枚の紙を渡した。それはあの時切り取られたノートの切れ端だった。No,001タイトルは「縁結びのから揚げ」だった。


後日、宮野から手紙が届いた。

「サプライズ、成功しました。お父さんは一口食べただけで気づいてくれて、うっすら目に涙を浮かべながら食べてくれました。なんと、父の家族は祖父母夫妻もこのから揚げで結ばれたそうです。『縁結び』とはそういうことだったんですね。私も今度、夫に子のから揚げを作ってあげようと思います。今回は依頼を受けてくださり、ありがとうございました。自分一人では到底真実を知ることはできなかったと思います。本当にお世話になりました」

手紙を読み終えると町田は静かに封筒に戻し、引き出しにしまった。

「本当に解決しちゃいましたね。すごい……」

「文香さんのお父さんが執拗に隠してるのを感じて、から揚げ屋にから揚げのレシピを聞きに行こうとした望月のことを思い出したんだ。もしかしたら、あのレシピもどこかの企業秘密なんじゃないかと思ってね。だから、文香さんに『お父さんの知り合いで、飲食店をやってる人はいないか』と聞いたら、あのラーメン屋が出てきた。あとは電話で店主に確認を取って解決した、というわけだ」

「え? つまり私の功績ということですか? 私、役に立ったの?」

「そうだね。今回は望月がいて助かった」

思わぬところで自分が活躍したと聞いて千輝は素直にうれしかった。

「なんか、探偵って楽しいですね。地味だけどその分、人に寄り添ってる感じがして」

「まあ、まだ望月が関わった依頼は一つだけどね。総括するには早すぎる。まだまだ頑張ってもらうから、頼むよ」

「はい。頑張ります!」

胸を張って、大きな声で千輝は答えた。次はどんな依頼なのだろう、という期待とワクワクを確かに感じながら。


どうも、お久しぶりです。前回の投稿からしばらくお留守にしておりました。斎藤です。第二話、いかがだったでしょうか。事件と言うには、愉快であたたかな、そんなお話に感じていただけたら幸いです。さて、次のお話は...と、あまり先々を語りすぎるのも良くありませんね。ですが、続きを気にしてくださるみなさんに僅かばかりですがヒントを。次のお話が投稿される頃はきっと夏でしょう。夏といえば...です。


貴方は何を思い浮かべましたか?

それでは、また、次のお話でお会いいたしましょう。次回もお楽しみに。

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