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初恋は成就しないと言うけれど ◇私は仕事がしたいのです!番外編◇  作者: 渡 幸美


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22/25

そしてトーマス

セレナを諦めないと、自分勝手に宣言をしてひと月ほど経った頃に、ローズマリーとエマ嬢のお披露目式があった。


許可が降りないかとも思ったが、式後のお祝いの夜会でのセレナのエスコートの許しが出た。挽回の機会をもらえたようなものだ。ここひと月、セレナも自分も忙しくて、話す機会を作れなかった。二人できちんと話をしたいとも思うが、何より少しでも楽しんでもらいたい。


あの日々から目覚めてみると、改めて、何をしていたんだと思う。やり直せるものならやり直したい人生だが、時は戻るはずもなく。これからまた、行いを積み重ねて行くしかないのだろう。他人の評価も大事だが、前提として、自分自身を律しなければ。


セレナのように。


やっかむのではなく、羨むのではなく。少しでも近付けるように努力をしよう。




そして、お披露目式。

二人の聖女は秀麗だった。ジーク様とハルト様も、愛する者の横に立ち、それぞれに誇らしそうで……幸せそうだ。自分で愚かな事さえやらなければ、今日、同じ気持ちでここに立てていただろうに、俺。……きっと、セレナも。


式は何と、女神様のご降臨を賜るという驚嘆で幕を閉じた。この場に立ち会えて、幸甚だった。


セレナをエスコートする為、エレクト家の座席まで迎えに行くと、俺の贈ったドレスを着たセレナがいた。……麗しく、美しい。着てはくれないかと思っていたので、気分が上を向く。その直後、セドリック様に冷厳な目で釘を刺されて痛かったが……当然の事だ。


セレナは笑顔で付いてきてくれているが、この、微笑みはいわゆる、外用のものだ。……そうだ、何年、セレナの本当の笑顔を見ていないのだろう……。ヤバい、落ち込んできた。いや、自分が悪いのだ。今、しょげている場合ではない。


想定して無くはなかった。が、困った事に会の最中に女性たちに絡まれ、騒ぎになりかけてしまった。ありがたいことに、エトルがフォローしてくれて収まったが。


……エトルには先日、これまでのことを謝られた。セレナへの想いも。何も思わない程に大人になれるわけではないが、立場が逆だったら、と思うと怒れなかった。何より、乗せられたにしても、選んで動いたのは自分だしな。


きっと、心配して見ていてくれたのだろう。悔しいが、格好良くなった幼馴染みの背中を見送る。


そしてセレナに謝ると、今更だと言われる。ぐうの音も出ない。が、視線がこれ以上集まるのも困るので、セレナをバルコニーに誘う。彼女も状況を認識して、素直に付いてきてくれた。


こんな状況でも、俺の心配をしてくれるセレナに、つい甘えそうになるが、すぐに現実に引き戻される。


「……その度に、トーマスは私より他の子の方が好きなように言われて」

「だから、それはない!言ってもいない!!」

「言ってなくとも、誤解を招く言動をしたのは貴方でしょう!!何度も、何度も注意したじゃない……」


セレナが途中で泣き出してしまう。しまう、じゃないだろ、何してんだ俺。セレナは焼きもちを焼かないとか、そんなんじゃない。……ずっと、我慢していてくれたのだ。分かっているつもりで、分かっていなかった。


『はずかしいから、みんなにはナイショよ?セレナは前から、優しいトーマスが大すき。おうちとか、魔法とかじゃなくて、トーマスといっしょがいいの』


恥ずかしがり屋で完璧な婚約者の、何を見ていた。


「セレナ。……俺が悪い。ごめん。ごめん……」


必要ないと言われても、謝ることしかできない。情けない。思わず抱きしめた胸を、そっと押されてしまう。


情けないけど、みっともないけど、セレナが嫌いになれないと言ってくれたことに縋るしかない。


もちろん、仕事をいくらでもしてもいい。協力だってする。セレナがまた俺を好きになってくれて、結婚してもいいと言ってくれるまで、いつまででも待つよ。


もう、自分に負けない。何と言われても、唯一の傍にいる。


「……私が、どうしてもトーマスに気持ちが完全に戻らなかったり、他に好きな人が出来たらどうするの?」


……その問い掛けには、小声でようやく返すことしかできなかったけど。共にいられる努力は、もう惜しまない。


最後は諦めたように、セレナは婚約続行を承諾してくれた。そこには、久しぶりに見た彼女の素の笑顔があった。仕方がないわね、の笑顔だったけれど、昔に戻れたようでとても嬉しかった。


二度とこの笑顔を失いたくはない。


ここから、正念場だ。すべてを、勉強し直そう。


『殿下たちみたいに、ずっとずっとなかよくしようね!』


そして、あの時の約束を守らせてくれ。



  ・

  ・

  ・

  ・

  ・


「花嫁衣装のセレナがすっっっっごく可愛くて、すっっっっごく好きなのは分かるけど、顔、緩すぎ」

と、幼馴染みの王太子妃に突っ込まれ、その義妹の聖女に真顔で頷かれるまで10年かかったが。


その10年を引っ括めて、幸せだ。


俺の優しい女神に、永遠の愛を。


セレナとトーマス編、これで完結いたします!


書く!と決めたものの、元サヤはあまり得意ではなく、難産でした。途中、諦めかけましたが、ブクマを付けて下さった皆様のお陰で、やりきる事ができました。特に、初期からずっと見捨てずに外さずにつけていて下さった方々…感謝しかないです。


もちろん、ブクマはいつでも嬉しいですし、ちらっと読んでいただけるだけでも嬉しいですが!


本当にありがとうございました!!

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