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初恋は成就しないと言うけれど ◇私は仕事がしたいのです!番外編◇  作者: 渡 幸美


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20.本音とこれから

トーマスと二人で、バルコニーへ出る。ちょっとした休憩所のようになっていて、ちょっとしたソファーも置いてある。


「セレナ、座る?」

「ええ、そうするわ」


トーマスは私をエスコートして座らせ、一人分くらい空けての隣に自分も座った。


「セレナ、改めて、すまない。今までも、先ほども…」

「…謝罪はもういいわ」

「だが」

「それよりも、公衆の面前であのような物言いをして。彼女達を傷つけたのではないの?貴方にも批判が起こるのではない?」

「本当の事なのだから仕方ないさ。……それに今までは、彼女達の方がセレナにやっていた事だろう?俺が言うことでもないけど、彼女達にも反省してもらわないと」

「確かに、貴方が言うことではないわね」

「すみません……」

本当に、元凶が何を言ってるの、とは思うけれど。


「でも……ありがとう」

そして私も人としてまだまだだな、とも思うけれど。

庇ってもらえた事に、少し喜んでしまった自分がいる。

トーマスは驚いた顔をした後に、ばつの悪そうな、何とも言えない顔をした。

「お礼なんて言わないでくれ。そもそも俺が悪いし、……今までは何もしなかったんだから」


「まあ、それもそうね」

「セレナ……」

トーマスは自分で言っておいて、困った顔をする。


そして一拍置いて、息を吸って私に向き直った。

「セレナ。やっぱり何度考えても、俺には君しかいない。……やってしまったことが消せない事も分かっている。けれど、どうか」

「さっきも言ったけど、私、本当に疲れてしまったの」

「……うん」

ちょっと卑怯かもしれないけれど、トーマスの声にわざと被せる。だって数年、本当に辛かった。

「トーマスも見たでしょ?学園でよく絡まれて。すごく煩わしかったのよ?」

「……うん」


「その度に、トーマスは私より他の子の方が好きなように言われて」

「だから、それはない!言ってもいない!!」

「言ってなくとも、誤解を招く言動をしたのは貴方でしょう!!何度も、何度も注意したじゃない……」

悔しくて、涙が出てしまう。やだ、だから話をしたくなかったのに。


「セレナ。……俺が悪い。ごめん。ごめん……」

トーマスに抱き寄せられる。困ったことに嫌ではない。けれど、心の一部が拒絶する。私は両手でそっとトーマスの胸を押して離れる。


「トーマスのこと、悔しいけれど嫌いになれていないわ。でも、一度踏ん切りを着けたの。心から受け入れられないの」

「セレナ。それでも解消したくない!」

「何て勝手なの!」

「分かってる!分かってるよ!!我が儘でひどい奴だ、俺は!」

「……開き直らないでよ……」


「それに、最初に私を助けてくれたのは、貴方じゃなくてエマだわ。私はもう、結婚とかよりも、真剣に仕事がしたいの」

「すればいいよ、俺も今までを取り返す意味でも頑張る。必ず宰相を継ぐ。ルピナスシリーズが上手く回るように尽力もする。結婚は、セレナがしたくなったらで構わない」

「……そんなこと言って、他に好きな人とかできたらどうするの」

「俺はないよ。反省しかないけど、8年間ずっとセレナを好きな気持ちを拗らせていたんだから。これからも変わらない」

「そんなの、分からないじゃない……」

「だから、婚約者として隣で見ていて?他の女性(ひと)と話すなと言うなら、話もしない」

「それは、物理的に無理でしょう……。周りに迷惑よ……」

「あ、そっか。じゃあ、必要以上に会話しない」

「……ほどほどで……」


……って!!


「本当に解消する気はないのね?!」

「ない!」

何を胸を張って言ってるのよ……。別の意味で、こんな人だったかしら。


「トーマス、何だか別人みたい」

「そう?…ああ、でも、ハルト様を見習おうと思ったからかな。まあ、ハルト様は格好良かったけどさ、俺は、みっともなくてもすがってでも、セレナに伝えようと」

「ようと、じゃないわよ……」

力が抜けていく感じかするわ……。


「はーーーっ!」

誰も見ていないのをいいことに、思い切り深呼吸をする。頭も心もスッキリする。


「もう、分かったわ。婚約続行でいいわよ」

「本当に?ありがとう、セレナ!」

トーマスが破顔して言う。


「さっきの条件、全部飲むってことよね?」

「飲む、飲みます!」

「……私が、どうしてもトーマスに気持ちが完全に戻らなかったり、他に好きな人が出来たらどうするの?」

「ーーーっ!!」

トーマスがひゅっと息を飲み、若干顔色を悪くして俯く。

「前者は何とか頑張るとして……後者のようなことがあれば……その時は解消、するよ……」

かなりの小声だ。


「でも、結婚してもらえるように、頑張るから!」

「辛くなったら、トーマスからも解消を申し出て構わないわよ?」

「何で今、それを言うのさ!」

「え、平等かしらと思って」

「セレナ……」


ぐずぐず、ぐずぐず悩んで来たけれど。


前に進むための現状維持になったかなと思う。中身は変わっているけれど。


先はどうなるか分からないが、やるべきことはたくさんある。その先でまた、二人の道が重なる時が来たら、またその時に考えよう。


私らしく。


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