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初恋は成就しないと言うけれど ◇私は仕事がしたいのです!番外編◇  作者: 渡 幸美


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19/25

19.波乱の?パーティー

「トーマス=エルファイデ侯爵令息、ご婚約者、セレナ=エレクト侯爵令嬢のご入場!」


……毎回思うけれど、夜会のこれって、やらないとダメなのかしら……。視線が痛いのよ。

こっそり溜め息を吐いてしまう。


「セレナ、大丈夫?」

「大丈夫かと聞かれたら、大丈夫ではないわ」

溜め息に気付かれたらしい。つい、嫌味を言ってしまう。本当に嫌な人間になってしまいそう。

「……もう、本当に疲れたの。ここまで引っ張ってしまったけれど、ごめんなさい。やっぱりもう無理だと思う」

「セレナ……。ごめん、でも、俺はどうしてもセレナがいい」

「……勝手だわ……」

「うん、ごめん」

トーマスが泣き笑いのような顔で言い、二人の間に重苦しい空気が流れる。


その時、ファンファーレが鳴った。本日の主役の登場だ。会場にいる全員が前を向き、壇上に向かって頭を下げる。


「皆、頭を上げよ」

陛下の言葉に顔を上げる。

壇上の中心に両陛下、右隣にジーク様とローズ、左隣にハルト様とエマが立っている。


「先の式で発表したように、我が国に二人の聖女が誕生した!またとない僥倖だ!本日は大いに楽しんでくれ!」

陛下のご挨拶に皆が歓声を上げ、音楽が奏でられる。夜会のスタートだ。

今回は陛下たちではなく、主役の二組でのファーストダンス。ジーク様もハルト様も、ローズとエマが愛おしくて仕方ないと表情に滲み出ている。その至福の光景に、皆が酔いしれる。


ローズとエマも輝くような笑顔で、ファーストダンスは終了した。周りからは拍手喝采が起きる。

そして二曲目が始まる。これからは、皆自由にパートナーと踊る。お目出度い席だ、誰も彼もが楽しそうにしている。


「セレナ様!」

ローズとジーク様が私達に声をかけてくれた。

「「ジークフリート殿下、ローズマリー様、本日はおめでとうございます」」

私はカーテシーを、トーマスは礼をする。

「ああ、ありがとう。…二人で出席なんだな」

ジーク様が確認のように言う。

「私が無理を申し上げて、ご一緒していただいております」

「うん。二人とも、私達の大切な幼馴染みだからね。幸せになるように祈っているよ」

「努めます」

「……ありがとうございます」


「セレナ様」

ローズがきゅっと私の手を握り、耳元で囁く。

「私はセレナの味方だから。どうか自分の心に自由にね。今日は側に居られないから、エマと私からの伝言」

「ローズ……」

自分の幸せも、再確認する。一人じゃないって、すごい。


「では、またな。楽しんで」

ジーク様がそう言って、二人は別の所へ挨拶に向かう。

忙しいだろうに、わたしの為に来てくれたのだ。感謝しかない。少しの間、二人の後ろ姿を見つめていた。




「セレナ、少し向こ…」

「トーマス様!」

トーマスが何かを言いかけた時、女性が駆け寄り、彼を呼ぶ。ああ、いつものスーザン様だ。後ろにはコレット様もいるし、他の女性もいる。


「……スーザン嬢。何か?」

「何か、ではありませんわ!いつものようにお迎えに上がったのです」

私に勝ち誇ったような顔をしながら、彼女は話す。周りの女性たちも、クスクスと笑いながら見ている。

「さ、参りましょう」

スーザン様がトーマスに手を伸ばす。


「……行かないよ?」

トーマスがそっと彼女の手を躱して言った。

「えっ?」

スーザン様も周りの女性も、虚を突かれたような顔をする。


「この前、きちんと言ったよね?もう近付かないでくれって」

「で、でもそれは学園だけの話だと……お忙しいから…」

周りの女性達も、それぞれ頷いている。

「一言もそんなことは言っていない。……君達とは友人として親しくしてもらっていたけれど、それ以上を望むようなら、もう関わらないで欲しい。……全員だ」

トーマスが今までになく、厳しい顔で言う。


「な、にを…っ、だって、私を女性らしいって」

「うん、ご自分でもアピールしていたよね?長所だと思うよ」

「わ、たくしっ、朗らかで…っ」

「コレット嬢も、それが長所だよね」

周りの女性も次々と騒ぎ始める。

「……でも私は一度も、君達がセレナより優れていると言った覚えはないよ?」

そしてトーマスのこの一言で、場がシン、と凍り付く。


「勘違いをさせたのなら申し訳ない。そもそも、私が付き合いを広めようと思ったのは、セレナの為だったんだ。人脈作りの為に。自分が愚かで、途中から道を誤ったらしい。……道を正したいと思う。セレナを手離したくないんだ」


「そ、んな、勝手……!」

「はい、そこまで~!せっかくの美人が台無しだよ?スーザン嬢」

エトルが女性達と私達の間に入って来て、笑顔でスーザン様に話しかける。

「!エトル様!」

驚いているが、心なしか嬉しそうにも見える。

「もういいじゃない、トーマスはつまらない奴になったんだよ。こっちにおいで?まだ皆いて、楽しいよ」

「エトル様、でも」

「タイミングを逃すと次はないよ?君たち分かってる?二人は侯爵家だ。ここで済むうちが利口じゃない?」

なおも言い募ろうとするスーザン様に、エトルが言葉を被せる。

「!!……分かりましたわ」

スーザン様が折れると、他の方々も次々と黙る。

「良かった、じゃあ行こう。トーマス、セレナ、またね!」

「あ、ああ。……エトル、すまん」

エトルは女性達を引き連れて去って行った。


「ごめん、セレナ」

「今更……いつものことだわ」

「……本当にすまない。…少し、バルコニーで話をしないか」

この場でトーマスの手は叩けない。近くにいた人達の視線も感じるし、せっかくエトルが鎮めてくれた騒ぎを再現する訳にもいかない。


「わかったわ」


きちんと、話をしましょう。




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