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初恋は成就しないと言うけれど ◇私は仕事がしたいのです!番外編◇  作者: 渡 幸美


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18/25

18.聖女様のお披露目式

「セレナ。ちょっといい?」

今は寮の自室。エマがノックをしてきた。

「いいわよ。今、開けるわね」

「ありがとう。さっそくだけど、今度の週末お休みの時、エレクト領にお邪魔できる?」

「ええ、多分大丈夫。と、言うより、エマの頼みなら、皆何とかするわ」

「嬉しい!けど、無茶は通さないでね~?」

「ふふ。ええ。……お米、進展があったの?」

「そうなの!ボートー家とマーシル家が、それぞれ違う品種の苗を見つけてくれて」

「それは楽しみね!土壌研究、頑張りましょう!」

「うん!よろしくね!」

お邪魔しました~!と、エマは自室に帰って行った。


ルピナスシリーズは順調に進んでいる。エマとの土壌研究は、難しいけど、楽しい。博学なエマによると、お米は美容品にも使えるらしく、食べるのも楽しみだけれど、そちらの研究も進めたい所だ。


卒業後の(まだ二年弱あるが)進む道も見えているし、やりがいもあって有り難くて、順調なんだけど。


ふぅ。と息を吐いてしまう。


「もうすぐ、ローズとエマのお披露目式……。その後のパーティーは……婚約解消していないから、トーマスと出席よね……」

正直、気が重い。二人の晴れの日だ。もちろん盛大にお祝いしたい気持ちが大きい。けど、憂鬱だ。


しかも、今回はドレスまで贈られてきた。……いいのに。

着ないでいくべきかどうかも悩み中。でもそれだと、明らかに拒絶しすぎ?…いえいえ、解消しようと思っているのだから、いいのよね!……でも、がっかりするかしら……。って、だから、いいのよ!がっかりさせて!


「思考が疲れるわ。止めましょう」


まだ少し時間がある。後回しにしてしまおう。



ーーーなどとやっているうちに、あっという間にお披露目式当日。


ローズとエマのお揃いのドレスはとても可憐で、隣にいらっしゃる殿下たちも幸せそうで。この世の幸福をぎゅっと詰め込んだような光景だった。二人のお披露目魔法も鮮麗で、宵月と天日が融け合って混じりあって、初めて見る美しさだ。国中を包んだそれは、治癒の奇跡の力も含まれており、観衆が驚喜に沸いた。


しかも最後に女神様のご光臨まで賜った。二人とジーク様が拝謁されたと聞いていたので、疑心を持っていた訳ではないが、やはり直接にお言葉を聞くと更に信心が増す。

グリーク王国は、暫く安泰だろう。


夢のようなお披露目式は、こうして幕を閉じた。



そして、余韻に浸る間もなく……いえ、私以外は浸っていますわね。引き続き、御祝いのパーティーだ。

貴族は全員参加で、王城で開かれる。


……結局私は、トーマスから贈られたドレスを着ています……。腹が立つ程に私に似合うようにデザインされていて、母と侍女に強く勧められて、折れた。トーマスと私の色味はどのみち似ているのだから構わないじゃないと。確かにそうなんだけれど。


……喜ばすのが、何だか癪なのよね。とか考えてしまう。……そもそも、喜ぶかも分からないけど。ああ、心が荒んで来ている。魔力の質が変わってしまったらどうしましょう。


「セレナ!迎えに来た。一緒に会場に行こう」

トーマスが私の観覧席まで迎えに来て、私に声をかけ、家族に深くお辞儀をする。お披露目式は家ごとに席が設けられていたので、皆揃っている。


「エレクト侯爵。セレナ嬢のエスコートの許可を下さり、ありがとうございます」

「まあ、まだ一応婚約者だからな」

「……はい」

トーマスはまだお辞儀したままだ。

「さあ、もう頭をおあげなさいな。素敵なドレスをありがとう、トーマス君。どう?セレナ」

母がたおやかに言い、トーマスは顔を上げて私を見て、幸せそうに目を細める。

「……とてもお似合いです。清流の女神のようだ」

……そんな事を言えるようになったのね。余計な事を考えてしまう。

「その女神に不敬を働いたのはどいつだ?」

兄が不快感を隠さずに言う。

「……私です。申し開きもございません」

「セドリック」

「承知しております。父上の許可したこと、私に否やはございません。…ございませんが、釈然としないのも私の本当の気持ちです」

「お兄様……」

優しいけど、今まで少し距離を感じていたお兄様。この一件以来、兄心を隠さずに出してくれて、こそばゆいけど、嬉しい。


「セドリック様の心配もごもっともです。信頼を裏切ったのは私です。勝手を申し上げておりますが、信頼を取り戻せるよう、努力致しますので」

「……私に決定権はないからね。セレナが嫌がらずに許すなら頑張るといいよ。……それに、またセレナを傷つけたら、さすがに許せないよ?兄として。それは覚えておいてね?」

「はい!」

何だかお父様よりも釘を刺している。お父様は苦笑いだ。


そして私は、どうしたいのだろう。


「セレナ。トーマス君。そろそろ会場に向かった方がいいわ」

母が少し硬直した時間を緩めて声をかける。

「……ありがとうございます。セレナ、行ける?」

「……はい」

キッパリと拒絶もできずに、ここまで来たのも私だ。

今日はローズとエマのお祝いの日。気持ちの整理はついていないけれど、厄介事は避けなくては。

「参りましょう」

私は淑女の笑顔をトーマスに向けた。


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