表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋は成就しないと言うけれど ◇私は仕事がしたいのです!番外編◇  作者: 渡 幸美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/25

17.突然の告白

それから10日程経って。

私は今、エトルに呼び出されて、放課後の中庭にいる。


トーマスとは、ほぼ、あれきりだ。学園だとルピナス組で集まっていることが多いので、声を掛けて来づらいのだろう。それに()()以来、四人とも生徒会の仕事を真摯に務めていて(当たり前なのだけれど)、多忙でもあるのだ。正直、助かっている。


さて、そしてなぜ私はエトルに呼ばれたのか。リーゼに言いにくい頼み事でもあるのか。二人の婚約解消は成立したはず。……まさか、エトルまでリーゼとやり直したいとか言うんじゃないでしょうね?


「セレナ。呼び立てておいて、待たせてすまない」

「大丈夫よ。生徒会、忙しそうね?」

「まあね、当然のことだけど。今までがダメ過ぎたろ、俺ら」

「自覚があるのね」

「セレナもキツイな」

苦笑しながらも、何故か嬉しそうなエトル。刹那、泣きそうな顔で微笑み、次の瞬間には真剣な顔になる。


「実は俺、セレナに、聞いて欲しいことがあって」


不思議な緊張感が場を包む。


「……私に?」

「うん」

真っ直ぐに見つめられる。


「……俺、どうやらセレナのことが好きだったらしい」


言葉は耳に入って来たが、心が咀嚼するまでに少し時間を要した。


「……ごめん、少し、意味がわからない」

「だよね」

「だよねって……しかも、らしい、とか……」

「うん、ごめん。自覚したのが、ついこの間でさあ。しかも、リーゼに指摘されてっていう。情けない事に、言われて気付いた。そうだったんだ」

「ちょっと、リーゼにって、何で?」

「……この間、話かけただろ。あの時さ」

ああ、先日の自習時間の時だ。確か、あの直後に二人の婚約解消が正式に決まった。


「え、まさか、私の」

「違う、セレナのせいじゃない。全部俺が悪い。……甘えてしまうし、セレナにも負担をかけてしまうと思うけど、前に進む為に聞いて欲しい」

いつになく真剣な様子のエトルに、つい頷いてしまう。


「……って、カッコつけたけど、どこから……。まあ、最初からか。振り返ると俺、最初からセレナが好きだったんだ」

穏やかに話始めるエトル。私は黙って聞く事にする。


「子ども心に、トーマスか俺が婚約者になれるのかなって思ってた。……俺は、優しくて真っ直ぐなセレナがお嫁さんになってくれたら嬉しいな、って思っていたんだ。なのに、リーゼが光魔法が使えるのが分かって。急に婚約者になって。リーゼをきちんと見る事もせずに、親に勝手に決められた婚約者を認めていなかった。自分だけが被害者だと思っていたんだ。……リーゼだって同じだったのに」

しょうもない奴だよなあ、と、続けて。

「……ずっと一緒にいられたらと、無意識に思っていたセレナがトーマスのものになったのが悔しくて。……最初にトーマスにちょっかいを出したのは俺なんだよ」


エトルは、トーマスの私への少しの劣等感に触れて、下らない競争に巻き込んだと。


「ごめん。きっと俺、二人が揉めたらセレナが俺を見てくれるかなとか、周りに人が増えればすごいと思ってもらえるかなとかを考えてた。……そんなことで、セレナたちに迷惑をかけた……本当にごめん」

頭を下げるエトル。……それにしても、どいつもこいつも、ですわね。


「……謝罪は受け取るわ、エトル。でも、許す許さないに関しては、気持ちが追い付かないの」

「……うん」

「それに……リーゼは、いつから、その」

「ん?……ああ、最初から気づいていたらしいよ」

「最初から?!」

「うん、周りも、ましてや本人も気づいていないことにも気づいていたって」

「……リーゼ……どれだけ傷つけて……」

「開き直る訳じゃないけど、リーゼはセレナにどうこうは無さそうだったよ」

さらっと言われる。そんなの、分からないじゃない。腹立たしいわ。


「貴方がそれを言うの?」

「そうなんだけどね。物凄く割り切られていてさ」

今日のエトルは、ずっと苦笑しているようだ。

「割り切り……」

「そう。結婚するからには信頼関係は築きたいくらいの情はあったけど、エマ嬢に選ばれたから、もう俺はいらないって」

「あ、それは……その、何て言うか……」

「フォローしようとしなくていいよ。セレナのそういう所、優しくて好きだけどさ」

「!」

「……ダメでも最初から、きちんと自分の気持ちに向き合えば良かったんだって叱られたよ。ラインハルト様を見習えと」

「リーゼらしい」

その時のリーゼの顔が想像できる。


「そうか、やっぱり彼女らしいのか」

優しく笑うエトル。そして、私の視線に気づいて続ける。

「本当にダメだよね、俺。リーゼの面白い所、しっかりしてる所、何だかんだでも俺を見ていてくれた所……無くしてから気づいたよ」

「エトル……リーゼには」

「うん、後の祭りかなって言ったら、『そうですね』って」

き、厳しい、けど……。

「……今まで、積み重ねて来たものがないのだから、当然だよ。もう、自由を返してあげないとね」

うん、そう……よね。


「それで、一方的で申し訳ないけど、セレナに懺悔を聞いてもらおうと!最後まで勝手で謝るしか出来ないのだけれど。好きだったよ、セレナ。……好きだったのに、傷つけてごめん」

「……それは、トーマスのこと、よね?」

「……うん。俺が振り回したから」

「謝罪は、先ほど受け取ったわ。……そしてきっかけは何であれ、自分で決めて動いたのはトーマスよ。嫌ならやらなければいい話だもの。エトルのせいだけではないわ」


「……セレナも厳しいなあ」

「当然よ。……でも、エトルの気持ちも、ありがとう」

「曲がった初恋で、すみませんでした」

「何よ、それ」

クスッとしてしまう。


「セレナは……トーマスが好きだったろう?トーマスだって、セレナを」

「……所詮、私たちも政略結婚よ。余り物同士だったでしょう」

「セレナ。……何の慰めにもならないだろうけれど……トーマスは特定の誰かに手を出したりはしていないよ」

「……」

「言い方は悪いが、ゲーム感覚だったよ。どちらがたくさん口説けるか、みたいな。……うん、口に出すと最低だな」

「……出さなくても最低だわ。ゲームって……」

「そうだけどさ、寄って来る奴等も、同じ穴の狢だろ?……って、自分で言ってて虚しくなってきた……」

「まったくもう!!昔から言ってるでしょ、考えてから、行動!」

「うん、肝に命じます」

ニカッと笑ったその顔は、懐かしい幼馴染みの顔で。


「……もう」

「これからも、幼馴染みでいてもらえるかな」

「幼馴染みではなくなる事なんて、ないでしょう?」

「……ありがとう、セレナ」


トーマスにも謝らなきゃなと言い残して、エトルは去って行った。


本当に、人の心は儘ならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ