その者追放される
はじめての投稿です。
楽しんで頂けたら幸いです。
ありがちな天界の、ありがちな女神が、ありそうもない状況に陥ってた。
「え、いや、ちょっと、落ち着いて、ね、ね、ストップ、あ、いや、ウヒィ!」
女神は後退りしながら思わず変な声を出す。
事の発端は1匹のクモだった。
ここはとある天界の数多の女神の1人が住む場所。
悪趣味な女神はいつも地獄を覗き、亡者の苦しむ様を見て喜んでいた。
「あぁは、なりたくないわね」
「お願いがございます」
突然、後ろから声が聞こえる。
「ん?」
振り返るが誰もいない。
「もう少し下です。」
その言葉に女神が視線を落とすとクモが1匹いた。
「どうしたの?」
「ある人物に私たちクモは助けられました。」
「その男が今地獄に居るのですが天界に連れてきてあげたいんです。」
クモが懇願する。
「えー、無理だと思うよ。」
そう言って追い返したが、次の日もまた来た。
「お願いします。」
どこからか現れたクモが懇願する。
「いやーでもー…」
やはり断ったのだがまた次の日も来た。
「お願いです助けてください」
幾つかの場所から同時に声が聞こえる。
「うぉ!」
「ちょっと、変な声出ちゃったじゃない。おどかないで」
「無理だから諦めなって」
そう言ってまた追い返す。
翌日。
「お願います!」
見渡す限りの全てがクモであった。
「あ、いや無理だし、えっと、いっぺんに近づくのやめようか」
女神周りはクモで地面が埋め尽くされていた。
「お願います!」×100
ジリジリと近づく
「この数は迫力ありすぎるの。ね、ね、落ち着いて」
「お願います!」×100
ジリッジリッ
「お願いします!お願いします!私達にもチャンスをください!お願いします!」
それらは、まるで合唱のように一斉に同じことを言う。
「いや、あのね、ちょっと!待って!まってって!」
ほぼ悲鳴に近い声で女神が大声を出す先には、無数のクモ達が居た。
「お願いします!お願いします!彼を助けて下さい!」
そう言いながら、100を超えるクモ達が、ジリ、ジリ、と近づいてくる。
「分かったから、落ち着いて!1回よ!1回だけだからね!」
内容としては至極単純。
クモ達は1人の男性を地獄から助け出したいという話だった。
どこから聞きつけたのか、1匹のクモが地獄から1人の男を天界に助け出すと言うことがあったと聞いてしまった。
同じことをさせてくれと女神に頼んだのだった。
どうやら、話を聞くと、その男は無類のクモ愛好家で、人は殺してもクモは殺さずという男だったらしい。
ただ、地獄に落ちる人間である。何もしてない訳がない。
「ちょっと、時間ちょうだい。一応どんな人か調べないとならないから」
そう言って女神が何やら作業し出す。
「うーん、未成年を7人ほど殺害してるのね。それで死刑になって地獄行きね」
モニターのような物を見ながらクモ達に聞こえるように言う。
「違うんです。その未成年はみんな殺人者なんです」
クモ達が言うには、殺害した奴らは全員、彼の妹を集団で虐めて追い詰め、殺したグループだった。
未成年という事で何も罰せられず居た者達への復讐だった。
「彼は彼の信念の元、殺人を行い、一切弁明せず死刑になったんです」
ふぅっと女神が溜息をつく
「でもね、殺し方が酷い残虐で情状酌量の余地なしだったのよ」
「先に言っておくわよ、ここではね、罪の重さが彼の重さなの。彼の生きた世界で罪だった事はこちらでも罪として換算するの。罪が重いほど糸は切れやすくなるし、チャンスは1回だけしか与えてあげられないの。その事はわかってね」
クモ達に諭すように言うと、指をさす
「あそこに穴を空けておいたわ、恐らくこれだけの罪だと途中で切れてしまうと思うけど、どうしてもと言うならやって見て良いわよ」
女神的には1回やって諦めさせる方が良いだろうという判断だった。
「ありがとうございます!」
クモ達はそう言うと穴の方へと向かった。
女神も気になってモニターを地獄の彼へと向けてモニタリングする事にした。
すると彼の元にクモの糸が1本スゥーっと降りていく。
モニター越しにクモの声が聞こえる
「私達は生前貴方に助けられたクモです。どうかこの糸を登って天界へと来てください。私たちと暮らしましょう!」
男はその言葉に従い糸を上り始める。
やはり罪の重さに耐えかねて、半分も登らないうちにクモの糸がプツッと切れてしまう。
「ほらね、だから無理だって言ったのよ。これでクモ達も納得してくれるでしょ」
そう呟いて穴の方を見るとまだクモ達が穴に群がっている。
「ん?なにしてるの?もう終わりよ」
そう言いながらクモ達に近づいた時に1つ大きなミスに気づいた。
1回とは言ったが、1匹とは言ってなかった。
そう、最初の1本こそは切れてしまったが、次々とクモが糸を垂らしていったため上手いことそれに掴まり上に登ってるのであった。
あまつさえ耐久力を上げるため何本もの糸を同時に掴んでおり、順調に上へと進んでいる。
「………あっ!」
女神が出せた言葉はコレだけだった
程なくして無事天界へと男はたどり着いた。
『やば!どうしよう!どうしよう!』
女神の心の中はパニック寸前である。
何も思い浮かばないまま男と対峙した。
「あー、えーっと、お名前は?」
すごく分かりやすい時間かせぎを始めた。
「神田タケシ」
「あ、私はね、まだ名前も授かっていない下級神でね、それでね、えっと、色々権限とかなくて、えっと…」
あからさまに言い訳しだした。
「俺がここに居るとまずいのか?」
何かを察したように女神を見つめる。
「あははは、ぶっちゃけちゃうとそんな感じw」
ぶっちゃけすぎである。
「この世界って私は管理のお手伝いみたいなもんで、もっと上級の神様が正式な管理者なのね、だからこういうのバレると、なんて言うか、怒られるって言うか、色々査定されるって言うか」
威厳も何もあったもんじゃない。
「そっちの言い分は分かった、で?どうすれば良いんだ?」
彼はかなり理知的な人間の対応をした。現実世界での行動はともかく。
「えーっと、じ…」
ここまで女神が喋った時に遮るように彼が言った。
「地獄に戻れは無しだぞ?上がって来い言うから上がって来たんだ。それを本当に上がると思ってませんでした。とか言うならその上級神だかに会わせて貰って何もかも話さないと納得いかないからな」
「あーっ、やっ、ええっと、そんな事言う訳無いじゃないですかぁ、あはは、あはは」
明らかに言うつもりであった。
「あ!そうだ!私が最近直接管理する事になった世界があるんですよ。そこ行きましょう!そこで罪を犯さないで寿命を終えたら、問題なく天界行けるし!そうだ、そうしよう」
「そこはね、こっちの世界と違って貴方の様な人が生きやすい世界なの。
その世界でならあなたはもっと貴方らしく生きられるわ!」
その女神の言葉に
「ていの良い追放って事か?」
彼は女神の考えの核心を思いっきりついた。
「………」
そっと女神が目を逸らした。
「………」
彼も無言で、女神を見つめてる
「あ!そうだ!チート付けましょう!チートって分かります?」
「漫画や小説で出てくる、あれか?俺も昔はよく読んだから、知らない訳では無いが…」
彼の表情が訝しむ表情へと変わっていく。
「向こうの世界で無双しちゃってください。ね、ね」
「お前、名も無き下級神って言ったよな?そんな力あるのか?」
女神の背景にドッキーと言う文字が見えた錯覚が起きるくらい、あからさまに動揺する。
「やぁねぇ、下級って言ったって神よ。神!私の管理してる世界でなら干渉くらい出来るわよ」
「例えば?」
女神が急に元気をなくす。
「それはぁ、コレから調べてみないとぉ、私も初めてだしぃ」
「………」
彼が無言で女神を見つめる。
「あ!お供付けましょう!お供!その方がポイン…」
「ポイン?」
女神が慌てて口をつぐんだが、彼は聞き逃さなかった。
「ポイントがあるのか?その世界に行くのに?」
「………」
女神が無言で頷いた。
「下級神なら、そのポイント少ないんじゃ無いのか?」
「………」
女神が無言で頷ずく。
「さてと、上級神だったか?呼んで貰おうか」
男が呆れたようにそう言った。
「待って!待って!頑張るから!色々システムの穴見つけて、ほんといっぱい能力付けるから!」
良い子のみんなは、絶対しちゃダメ!と言うテロップが流れそうな発言である。
「分かった、分かったって、行くから!その世界だか行くから!泣くな!神様がすがり付くな!」
本気で泣きながら腰の辺りにすがり付く女神を彼がなんとか引き剥がそうとする。
「ほんとうに?行ってくれるの?」
もう、神なのか駄々っ子なのか判別がつかない。
「あぁ、その代わり、お供と付けれるだけのチート、絶対しろよ!」
「うん、頑張る」
ちょっと可愛い。
「じゃ!そういう事で、行ってらっしゃーい!」
「え…」
コロッと元気になったかと思うと大きく手を挙げてバイバーイとやってる。
白い穴のようなものが現れたかと思うと、男はそこに吸い込まれていった
「いきなり過ぎるだろぉぉぉぉ」
そんな女神がどんどん遠くなって行き、そこで記憶が途絶えた。
「ん、んんーん」
むせ返るような草木の匂いと久しぶりの空気を感じて、彼は目を覚ました。
「おはよう御座います」
彼が声の方に目を向けると、腰まである金髪に黒メッシュの髪の色をした全裸の女性が座っていた。
身長は少し高めだが全体的にスリムで出るところだけが出てる感じである。
「…女郎蜘蛛か」
「え!凄い!この姿でも分かるの?」
自分の正体が一発で見抜かれた事に驚きと喜びを露わにした。
「まぁな。しかし裸は不味いなぁ。ん?俺も裸じゃねぇか!」
彼は自分の姿を見て驚くと、空の方に向かって、あの女神めぇとつぶやく。
「とりあえず、お前の服だけでもなんとかしないと、女性の姿で全裸は問題だな」
「あ?問題?じゃあこうする」
そう言うと、下はベルボトムの黄色いパンツに、上はへそ出しのスポーツウェアの様なタンクトップに変わった。
「は?どう言う事?」
男は状況について行けていなかった。
「あ、私たち擬態って言う特殊能力貰ってるんで、この姿も擬態で人みたくしてるの」
「なるほど、で、なぜに裸だったんだ?」
「んー、サービス?」
女郎蜘蛛は屈託なく笑顔を見せる。
「そうか、ありがとう。次からは俺がしてくれと言わない限りしなくていいぞ」
「はぁい」
女郎蜘蛛はちょっと不満そうだった。
「あ、そうだ、女神様からお手紙いただいてるんで、読むね」
女郎蜘蛛は一枚の羊皮紙を取り出した。
「お?どんな内容なんだ?」
何も書いてなかった羊皮紙に文字が浮かんでくる。
『拝啓、神田様。
この手紙を読んでいると言う事は既に異世界におられる事かと存じ上げます。
この度は私どもの…』
「長い!要点だけでいいだろう、こう言うのは!」
思わず男が愚痴を漏らす。
『要点だけ申し上げますね。』
「ん?おかしく無いか?俺の言葉に反応したかの様な内容だな」
男は首をかしげる。
『はい、そうです。
早速システムの穴をつきました!
これなら、ポイント全然かからないんですよね!』
「こいつ、まぁまぁヤバい奴だな」
男がボソっと呟く。
『えーそんな事ないですよぉ。』
「いいから先に進んでくれ。要点だけで良いんだから!」
『はぁい、まずはステータスオープンって言ってください。
この世界ではステータスやスキル、能力値や魔法が存在します。
冒険者ギルドって所に置いてある魔道具でしか見れないステータスを見れるようにしておきました。』
「ステータスオープン」
目の前にゲームなどでよく見る様な画面が現れる。
基礎ステータス
カンダ レベル0
種族 人族
強さ 5 物理的攻撃力
器用 5 命中率
素早さ 5 回避率、移動速度
知性 5 魔法的攻撃力
耐久力 5 HP基準値
賢さ 5 MP基準値
HP 50
MP 50
成長ランク Z
職業 魔獣使い(ユニークスパイダーテイマー)
スキル テイマー(特)
「うーん、この世界の平均が分からないからなんとも言えないなぁ」
『この世界の一般男性の能力平均は大体10、冒険者と呼ばれる人は15〜20、一流の冒険者で30、人間の限界が40くらいです。
成長ランクは能力値の成長度合いで、A〜Fまでのランクがあって例外的にZだと一切成長しません。
レベルが上がる事で、能力値とスキルが上がります。Zの場合スキルのみ成長します。
職業は魔獣使いになっていますが、天界から送られたクモ以外は扱えません。』
「おいおいおい、待て待て待て、平均の半分しか能力無いじゃないか!しかも成長しないってどういう事?チートでもなんでも無いじゃないかぁ!」
無視して羊皮紙の内容はどんどん進む。
『まずはテイミングしてください。そうする事でテイミングした相手のステータスが見れます』
「こら!人の話を聞け!」
『だって、要点だけ話せって言ったじゃん』
「あーくそ!分かったよ、テイミングってどうするんだ?言えば良いのか?」
テイミングと口にした途端に女郎蜘蛛が光出す。
「うぉ!なんか成功したみたいだな」
光が収まった後に女郎蜘蛛との間に絆の様なものを感じれる様になった。
『では名前を決めてください。』
「女郎蜘蛛だからジョロ子…」
女郎蜘蛛が全力で首を振っている。
「ジョロスケ、ジョロ坊、ジョロえもん…」
「マスタァ〜!」
女郎蜘蛛が怒りを抑えた口調でそういう。
「分かったよ、もう冗談に決まってるじゃんか」
「本当にぃ?」
男の言葉に疑問の視線を投げかける。
「もう当たり前じゃないか」
視線をそむけながら、そう答える。
「女郎ってもっと良い言い方なら花魁だろ?…桔梗ってどうだ?それっぽい感じじゃないか?」
「はい!それでお願いします!」
満面の笑みで女郎蜘蛛はそう答える。
「じゃあ、桔梗ステータスオープン」
基礎ステータス
キキョウ レベル0
種族 蜘蛛族
強さ 50 物理的攻撃力
器用 70 命中率
素早さ 30 回避率、移動速度
知性 50 魔法的攻撃力
耐久力 40 HP基準値
賢さ 50 MP基準値
HP 400
MP 500
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 修繕
「は?ステータス高すぎだろ?」
驚くというより呆れた。
『クモを巨大化させたらそんなもんです。
次に、ステータスの次ページを見てください。次ページと言えば見れます。』
「こいつ…マジで要点以外話さないスタンスだな…クソ、次ページ!」
スキル一覧
キキョウ レベル0
スキルポイント 0
スキル 修繕 レベル1
一般修理 家庭品などの修理が行える
武具修理 装備品の修理が行える
ユニークスキル 擬態
クモの糸
毒牙
『レベルが上がる毎にスキルポイントが入手出来ます。スキルポイントを振ってスキルレベルを上げる事で新たに能力を得ることが出来ます。既存スキルが条件を満たすと派生スキルが現れる事があります。特定条件を満たすと特殊スキルが解放される事があります。
ユニークスキルは私が設定した特別なスキルです。
スキルもユニークスキルも、クモたちは元々の特性を参考に、カンダさんには私が考えたものを与えてます。』
「あー確かに女郎蜘蛛は巣を修繕して使い回す習性あるもんな。それが反映されてるのか」
「俺はどうなってるんだ?ステータスオープン次ページ」
スキル一覧
カンダ レベル0
スキルポイント 0
スキル テイマー(特) レベル1
テイミング(ユニークスパイダー)
スキル伝承
ユニークスキル マップ
スキル獲得
テイミングモンスター
キキョウ ライン強度 0
「なんだこれ?マップ?スキル獲得はなんとなく想像つくな、ライン強度?」
『カンダさんは特別にスキルポイント消費で自由に基礎スキル取れる様にしました。成長ランクを代償にしました。またそれをスキル伝承で他のテイミングしてる子たちに渡す事が出来ます。
カンダさんのスキルも消えないです。
ただし、基礎スキルのみ、伝承先のスキルレベルは1です。
ユニークスキルのマップはマップと言えば、現れます。相当優秀に作ったので色々試して使いこなして下さい。
ライン強度は絆の深さです。増えると恩恵があります。
それと、1ページ目をもう1度見てください。』
「ん?ステータスオープン」
基礎ステータス
カンダ レベル0
強さ 5+5 物理的攻撃力
器用 5+7 命中率
素早さ 5+3 回避率
知性 5+5 魔法的攻撃力
耐久力 5+4 HP基準値
賢さ 5+5 MP基準値
HP 90
MP 100
成長ランク Z
職業 魔獣使い(ユニークスパイダーテイマー)
スキル テイマー(特)
「おぉ!増えてる!」
『テイミングしたらモンスターの10%(端数切り捨て)が能力値に反映されます。どう?頑張ってるでしょ?』
「あーうーん。アイテムボックスとかストレージみたいな能力はないの?」
『無いです』
「何でも入るマジックバックは?」
『売ってますから買ってください』
「お金は?」
『頑張って稼いで』
「装備は?」
『石ころだって立派な武器よ』
「せめて服よこせ」
『この世界では盗賊はモンスターと一緒の扱いです。剥ぎ取っても、殺しても罪になりません。」
「つまり剥ぎ取れと。どこに居るんだよその盗賊は」
『mmks』
「ん?どう言う意味?」
『マップ見ろカス』
「あぁ!クソ!このやり場の無い怒りをどうにかしてくれ!」
『あ、今は加護かけているので大丈夫ですけど、1日経つと切れるんですが、その辺裸だと危ない虫とかいっぱいいますよ。』
「あぁ、もう!マップ!」
ふっと目の前に半透明の何も写ってない画面が現れる。
「何もねぇじゃねぇか!盗賊なんてどこに居るんだよ!」
そう悪態をつくと、ポッとオレンジの光が3個浮かぶ。
「俺たちはどこなんだ?」
黄色い点が2個出てくる。
「人間はこれで全部か?」
盗賊のオレンジ色の点が4個に増える。
「思った以上にこれ優秀だな」
カンダは目を輝かせる。
「しかしここまで歩いて行くのかぁ、大変だなぁ」
そう愚痴ると。
「マスター私に乗ってかない?」
「ん?どういう事?」
カンダが首を傾げる
「擬態を少し解けば、下半身だけ蜘蛛になれるのよ。」
そう言って、キキョウは下半身だけがどんどん大きくなり、蜘蛛の形になって行く
大きさは少し小さめの馬くらいまでなる。
見た目としてはアラクネと呼ばれるモンスターの様にも見える。
「随分でかくなったなぁ」
さすがユニークスキル。質量保存の法則なんて、ここには無かった。
「行き先さえ指示してくれたら、どんどん進むよ」
上半身だけは美女のままでにっこり微笑む。
「よし、じゃあ乗せてもらうか」
カンダが方向を支持して、キキョウが走り出す。
蜘蛛の特性か、足音が全くしない。
草をかき分ける音だけがする。
あっという間に見張りを目視できる距離まで近づく事ができた。
小さな洞窟を寝ぐらにしているらしい、こんな所で誰かが来るとも思ってないのか、見張りに緊張感は全く感じられない。
「キキョウ、あれなんとか出来るか?」
「食べて良いの?」
「え?」
考えてみれば、クモは肉食性である。
しかも、このサイズで有れば食餌の対象も、その分大きなものになって当然である。
さっきは有耶無耶になってしまったがステータスの数値的に、人間とこの蜘蛛で考えた時、彼女はどう考えても捕食者側の生き物である。
「うーん、良いじゃないかな?」
カンダの思考はちょっと他の人間と違っていた。
人道的にとか、犯罪者にも心がある、みたいな考えが一切出来ないタイプの人間だった。
しかし、この世界においては生き残りやすい性格である事も間違いない。
「あ、服は使いたいからその辺うまくやってね」
「はーい」
キキョウは軽いノリで返事をすると、そのまま相手にして向かってサクサク歩き出した。
やはり足音がしない。
そのせいかかなり近づくまで見張りは気づかなかった。
「やっほー」
まの抜けたキキョウの挨拶に顔を向けた瞬間、キキョウのお腹のあたりから、相手の顔に向けてクモの糸が塊の様にまとまって飛び出す。
「…」
一瞬にして顔に張り付いた糸を起点に器用に顔の周りを糸で包んでしまうと、首筋を噛む。
クモ特有の麻痺毒によりあっという間に動かなくなる。
キキョウは、そのまま首筋に噛みついた状態でフルフルフルと手を振る。
その合図を見て、カンダも近づいてくる。
「すげぇな」
体液が抜け、更に消化液の様なもので肉も溶けて、みるみる骨と皮だけになっていく盗賊を見ながら思わず感想を漏らした。
元盗賊だったものから、とりあえず間に合わせの服や靴を剥ぎ取り、使えはしないがナイフもいただいた。
「中に2人居るけど、色々聞きたいし生きたまま捕まえられるか?最悪1人でも良いけど。」
「うん、やってみる」
先程と同じように、全く緊張感の見られない飄々とした感じで、スタスタと洞窟の中に入っていった。
わずか10数分後、戻ってくると。
「もういいよぉ」
と、軽い感じでカンダに笑いかける。
中は狭い洞窟で、手前の空間は荷物や戦利品を置くスペース、その奥に一つ見える通路のような空間の奥が居住スペースになっていた。
広い空間もこの2箇所で、特に抜け道のようなものも無い。
そこに、糸で巻かれた男が2人と、紐で縛られた若い女が1人転がっていた。
「気にいらねぇ、気にいらねぇな」
前世の記憶が残っているカンダは若い女性が複数の人間に痛ぶられている姿を見ると、気持ちが乱れてしまう。
目つきが凶悪なそれに一瞬で変わる。
女の方は気絶しているようだった。
「この子、こっちの2人と戦ってたら気絶しちゃった」
もにすごい軽い感じでキキョウが話す。
この軽い感じの口調が緊張を緩和する。
カンダの目つきもいつものちょっととぼけた感じに戻る。
「いきなり糸出てくる女子が男2人捕まえたら驚くけど、気絶するほどじゃ無いだろうになぁ」
「ちょっと擬態解いて脇から足4本出しちゃったw」
てへぺろってロゴが見えた気がした。
「あー、それは…」
思わずカンダの表情が苦笑いのような表情になる。
もう、だろうねとしか言えない気分だった。
「よし!こいつら尋問しよ」
カンダは気を取り直して糸で縛られている男たち2人に近寄る。
「さてと、色々聞きたいことがあるんだけど、教えて…くれそうに無いね」
男たちは顔を背け、口をつぐんでいる。
「キキョウ!こいつら麻痺させないでいきなり肉溶かして食べれるか?」
「うーん、さっきのでお腹いっぱいだけど後1人くらいなら食べれるかな?」
その言葉に男たちの顔が引き攣る。
「おい!お前!この女に何させる気だ!何しても喋らないからな!」
ここのリーダーらしき方の男が威勢よくカンダに吠える。
「んー喋らないならそれでも良いや、キキョウこっちの威勢のいい方から順番に少しづつ交互に食べて」
「はーい」
そう言って糸のない肩口に牙を突き立てる。
絶叫が交互にこだまする。
キキョウが3度目にリーダーに噛み付いた時にギブアップした。
「割と早かったな。」
冷静な目で男を見つめながらカンダが呟いた。
それにより分かった事は
若い女は近くの街の豪商の娘で、身代金目当てで誘拐してきた。
ここは一時的な仮の寝ぐらで、本拠地は別にある。
今回の行動は3人で行っている。
本隊は100人以上の大盗賊団である。
「少なくないか?キキョウはどう思う?」
「私には人間の常識はわからないけど、こいつらが凄い弱いのは分かるよ」
主語のない発言でも、キキョウの知性の基礎値が高いおかげで、意図を理解して返事をくれる。
「どう考えても誘拐する人数じゃないよなぁ?豪商の娘が偶然人通り少ない場所通って、偶然護衛もいなくて、偶然それを狙ったとかじゃないと3人じゃ成功出来ない。てか、金持ちでも歩いて移動するのかな?馬車とか無いのか?」
チラっと羊皮紙を見るが特に反応は無い。
この羊皮紙、なんでも伝えるほど便利では無いようだ。
「そこんところ、どうなの?」
盗賊の2人の方を向いて話かける。
「頼む、殺してくれ!」
「いや、そう言う事聞きたいわけじゃ無いのよ」
カンダの性格はかなりイカれていた。
この状況を見ても特にどうと言う感情は湧かなかった。
「こっちの女の子起こして聞いた方が早いかなぁ?」
結局、女の子を起こして事情を聞くことにした。
かなり怯えていたが、状況がこれ以上悪くならないような状況だったので、割とすんなり事情を話してくれた。
見た感じ20歳前後に見える女性、名前をアニタといい、この洞窟から半日ほどかかるアリエルという街から少し離れた所に住んでいる祖母に会いに行く途中だったらしい。
驚いた事に、盗賊の3人は護衛として正式に冒険者ギルドで雇われた者たちだった。
この洞窟の近くに街道があり、そこで突然3人が本性を現した。
そして空の馬車を街へと戻し、御者に伝言をさせた。
「やっぱ、あり得なくね?」
カンダが思わず呟く
「え?どういう事ですか?」
アニタが首を傾げながら質問する。
「冒険者ギルドの依頼が出て、偶然他の奴が受ける前に冒険者登録してる盗賊が受けて、たまたま自分たちのアジトの前の街道通って、しかも100人もいる大盗賊なのにこんな少人数で行動して、奇跡的に全部成功した?ないないない!」
「えーっと、と言うと?」
アニタは全く要領を得てない。
そんなアニタを完全に無視して、また男たちに詰め寄る。
「コレ、黒幕いるよね?なんて名前?」
「頼む、殺してくれ」
2人の盗賊はまるで呪文でも唱えるかのようにそれしか言わなくなった。
「うーん、これ以上は無理かぁ、キキョウ出来るだけ痛く無いようにしてあげて。情報料代わりに」
男達を始末した後は、金目のもので嵩張らないものとして宝石と数枚の金貨、数十枚の銀貨、数日分の食料と水を回収して、残ったもの(盗賊だったものも含めて)を全て奥の部屋に入れ込んだ。
その後、暗くなるのを待ってから火をかけた。
それほど物があったわけでは無いが思ったより煙が出てしまったが、日が暮れるのを待ったおかげで周囲に気づかれるほどでも無かった。
どうせ、どう繕ってもこの状況は盗賊が全滅したとバレる。
だったら、バレた時に向こうの仲間に、こちらの手の内の最大の武器であるクモの糸の存在を残したくなかった。
幸い糸はよく燃える、人が暮らしていたので火種には困らない。
なら、何もかも燃やして、分からなくする方が良いと判断した。
自分たちはキキョウが木の上に器用に作った大きなハンモック状のクモの巣で一晩過ごす。
翌朝、待っていると案の定この盗賊とグルだったと思われる男が洞窟に現れる。
「え!な…」
男が何か喋ろうとしたが、そんな間も与えず樹上から降りてきたキキョウが首に噛みつき麻痺毒を注入する。
しばらくして男が目を覚ました時には糸でグルグル巻きにされ身動き出来ない状況だった。
「さてっと、質問に答えてもらおうかな御者君」
カンダはアニタからこの男が御者である事を確認していた。
「違うんだ!俺も脅されてただけなんだ!見逃してくれ!頼む!」
御者は何も聞いていないのにあっさり仲間だとバラしてしまう。
「まぁ、聞きな」
カンダは少しだけドスを効かせた声で男を制する。
「考えろ、このまま見逃してもお前を脅した奴に殺されるぞ?俺に協力したら守ってやる。
今回の件も目を瞑ってやる。どうする?ここで死ぬか、見逃しされて殺されるか、協力して生き残るか、好きなの選んで良いぞ」
選択肢があるようで無いのだが、自分で選んだ気にさせるのは大事である。
「ど、どうすればいい?」
カンダの予定通りに話が進む。
「お前はここに来なかった。
たまたま近くの街道まで来たら、歩いている俺たちを見つけた。
心配になってウロウロしていたと言ったら信じた。
お前が仲間なのはバレていない。
理解したか?」
カンダのこの言葉に、御者はコクコクと頷く
「よし!じゃあ街に行こうか!この子のお父さんにも会わないとな!」
こうして、奇妙な四人組は街へと戻ることになった。
彼女達が屋敷に戻って来てからはちょっとしたパニックだった。
誘拐されたはずの娘が2人組の男女に助け出され帰って来たのだから、当事者としては何が何やらわからない。
特に何もしてないうちに事件解決となってしまった。
2人は客人として部屋をあてがわれ、夜にはお祝いのパーティーまで行われる事にまでなった。
「やぁ!ありがとう!いや、ありがとうなんて言葉では感謝しきれないくらいだ!」
アニタの父親であるセルザムはパーティーが始まる前に、豪華な客間に2人を呼んで満面の笑みで迎えた。
客間には秘書と思わしき初老の男性とお付きの給仕らしき女性、それにアニタとセルザムという構成だった。
彼はこの街の2大商会のうち、まっとうな商売を営む方で財を成したブレット商会の会頭である。
ここに来るまでにアニタに聞いた話では、もう一つ大きな商会があり、そっちは色々手広くやっているようである。
「2人きりで話したいことがあるが良いか?」
カンダが声量を抑えた声でセルザムに語りかける。
「ふむ…」
少し考える仕草をすると、セルザムは近くにいた給仕や秘書らしき男を下がらせる。
そして、隣にいてオロオロしていたとアニタに向かって
「少し部屋で休んでいなさい」
と、優しく声をかけると、カンダに向かって頷く。
「キキョウ、扉の外で見張っておいてくれないか」
キキョウは手をヒラヒラと振ると無言で扉の外に出る。
「さてと…」
カンダが話そうとすると
「ウチに内通者がいるという事を伝えたいのかな?」
セルザムが先にこう切り出して来た。
「なんだ、気づいてたのか」
「いや、今回の件でそうとしか思えないと考えただけですな」
カンダの考えと同じ所にセルザムも辿り着いていたようだ。
セルザムは優しい父親の顔から冷徹な商売人の顔に変わっていた。
「あーっと、信じないかもしれないが隠しておける性分でもないから言うが、俺はこの世界の人間じゃないんだ。
だから、この世界のことには疎い、そちらで常識と思える事でも聞くと思うがそこは勘弁してくれ」
カンダはサラッと重要なことを言う。
「そうですか…にわかには信じ難いですが、それを否定するだけのものを私は持ち合わせておりませんのでそのように承ります」
セルザムは少なくても表向きには冷静に対応した。
「よし、じゃあ安心して色々聞ける」
カンダがニコッと笑う。
「お答えできることであれば、なんでも答えますよ」
セルザムもニコッと笑う。
「犯人はわかってるのか?」
「それは、ウチの内通者という意味ですか?それとも、黒幕という事ですか?」
カンダの質問にセルザムはこう質問し返す。
「え!もう両方ともわかっているのか?」
カンダがちょっと驚いた。
「分かっていると言うより、他に居ないと言った所ですな」
セルザムの顔がちょっと苦い顔になる。
「少し、恥ずかしいお話になるのですが…」
こう言ってセルザムは自分の家庭事情を話し始めた。
セルザムには10以上離れた兄が居た。
多少、いやかなり性格の方に難があり、父親である先代時代にブレット商会からお金を持ち出し、当時の仲間とガデエル商会という名の店を作りアコギな商売で勢力を伸ばした。
これにより、父親とセルザムのブレット商会vs兄とその仲間のガデエル商会という図式ができ争う形になった。
しかも、その数年後に父親が不可解な死を迎える。
そのため、劣勢に立たされたが、なんとか持ち堪えた。
さらに兄もその数年後に死んだ。
なにがあったか分からないが、現在ガデエルは同じ名前を名乗る兄の友人のものとなった。
兄には息子が1人おり、子供には罪はないという事で、セルザムが面倒見ているのだが、とかく素行が悪い。
今回の事もガデエルがこの息子をたぶらかして起こしたであろうというのがセルザムの見解だった。
山の盗賊もガデエルが資金提供して飼ってるという信憑性の高い噂もある。
「そこまでわかっているのに、なにもしないのか?」
カンダが疑問を投げかける。
「証拠がございません。
怪しいからだけで罰する事はこの商会の風評にも影響与えてしまいます」
セルザムの顔がさらに苦い顔になる。
「気にいらねぇ、気にいらねぇなぁ!そいつら」
カンダが思わず声をあらげた。
目つきが変わり出す。
カチャっと小さくドアの開く音がしたがどちらも気づかなかった。
「マスター、この人に言ってもしょうがないわよ」
無音で近づいたキキョウがそっとカンダを抱きしめる。
「わ、分かった、分かったから、胸を押し付けるんじゃない!」
一気に場の空気が変わる。
「とりあえず、これで終わりって言うのもなんか嫌だから、もう少しこの件に関わらせてくれないか?」
「それでは冒険者に登録していただけませんか?そうしていただければ、指名依頼で娘の護衛をお願いするようにします。」
この世界では一般的だが、カンダの異世界の人間という言い分を考えた発言だった。
「なるほど!それで行こう!早速冒険者ギルドに行きたいんだけど、誰か道案内お願いできる?」
「それでは、ウチの執事のセバスチャンを連れて行って下さい」
セルザムがそう言うと、呼び鈴を鳴らした。
こうして、3人は冒険者ギルドへと向かった。
「お前、全部聞いてただろ?」
カンダはキキョウにそう小声で話す。
それに対して、キキョウは満面の笑みを返す。
「その方が話が早いから良いけど、俺はかなりムカついた。
ガデエルは無理でも、山の盗賊はぶっ潰してしまいたい。
冒険者ギルドに行ったら、戦力集めるぞ!」
カンダの戦力という言葉にキキョウはピクッと反応したがカンダは気付かなかった。
冒険者ギルドに着くと、そこのスタッフが急にバタバタし出した。
さらに偉そうな人間が執事のセバスチャンを奥へと連れて行く。
「ははーん」
カンダが少し意地の悪い笑みをこぼしながら、カウンターへと向かった。
「冒険者の登録ですか?」
カウンターの女性がニコニコしながらこちらに話しかけてくる。
キキョウほどでは無いが、十分にスタイルが良く、綺麗な人間の女性だった。
「お願いします」
「まずはこちらをご覧ください」
カウンターの女性が誓約書を1枚こちらに渡す。
この時初めて、異世界なのに文字が読めることに気がついた。
「女神グッジョブ」
小さくそう呟くとざっと誓約書に目を通す。
書いてる事は、仲間内の争いはするな。
ギルド外のトラブルは自分でなんとかする事
最初はGランクからで功績により上に上がる。
例外的に貢献度が高い状態で登録する場合、もう少し上のランクから始まる事もある。
ギルドからの指示には可能な限り従う事
この程度だった。
「読み終わって了承できるならサインしてください」
書く方も問題なく書けた。
「質問いいかな?」
「はいどうぞ!」
満面の笑みでカウンターの女性が応える。
「ギルドの冒険者が盗賊で、依頼主誘拐したら、結構問題になる?」
カウンターの女性の笑顔が引きつる。
「そのような事はあり得ませんが、もし!仮に!そんな事があったとしたら問題ですね」
もし!と、仮に!の声がかなり大きかった気がする。
「その冒険者をもし殺しちゃったら、問題になる?」
カンダは更に質問を続ける。
「いえ、問題にはなりませんよ」
「なるほど」
「あ、そんな事はあり得ませんけどね!」
慌てて、カウンターの女性は言葉を付け加える。
「その時って、貢献度どれくらいかな?」
「あー、えーっと、あ!とりあえず登録全部終わらせましょうか?」
明らかにこの話を終わらせたがっている。
「この板の上に手を置いて下さい」
カウンターの横に置いてある何やら複雑な記号のような文様が書いてある金属製のまな板の様なものを指さす。
カンダが手を置くと、空中にステータスが映し出される。
ステータス
カンダ レベル1
強さ 10 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 8 回避率
知性 10 魔法的攻撃力
耐久力 9 HP基準値
賢さ 10 MP基準値
HP 90
MP 100
職業 魔獣使い
スキルポイント 1
スキル テイマー レベル1
テイミング
スキル伝承
テイミングモンスター
キキョウ
「あーテイマーさんですかぁ、頑張ってくださいね」
若干憐れみの感情が声にこもる。
「じゃあ、次はそちらの女性の登録ですね」
そう言って、キキョウの方を向く。
「モンスターも登録するのか?」
カンダがそう女性に尋ねる。
「なに言ってるんですか?モンスターじゃなくてこの女性ですよ?」
「なにいってるんだ?彼女が俺のテイミングしてるモンスターだぞ?」
「…え?」
女性の目が丸くなる。
「このキキョウって彼女?」
カンダは無言で頷く。
「ちょっと信じられないんですけど…この板に手置いてもらって良いです?」
女性は先程のステータスを見る板を指さす。
キキョウがヒョイっと無造作に手を置く
ステータス
キキョウ レベル1
種族 蜘蛛族
強さ 測定不能
器用 測定不能
素早さ 30 回避率、移動速度
知性 測定不能
耐久力 40 HP基準値
賢さ 測定不能
HP 400
MP 測定不能
「え?なんですかこのステータス!」
「全然測定出来てないな」
カンダが覗きこみながら感想を漏らす。
「この魔法板は人間がどんなに努力しても超えられないと言われている限界値の40まで測定できるようになっているんです!測定不能ッて事はそれより高いって事ですよ!テイム可能なモンスターで最も怪力のオーガって言うモンスターだって32が今まで確認できてる最高値なんですよ!一体どうやってこんなとんでもないモンスターをテイムしたんですか?」
「え?テイミングって言ったら出来た」
カンダは正直に答えた。
「んなわけあるかぁ!テイミングって難しいんですよ?単純にスキルだけじゃ無く、相手モンスターが主人となる相手に服従する心が大事なんです。普通は戦闘に勝って服従させてテイムするんです!」
「へーそうなんだ。でも、できちゃったしなぁ」
カンダが気の抜けた声でそう言う。
「…分かりました。現実として目の前に事実があるんですから、認めます。これで登録完了です!ランクを決めるので少々お待ちください!」
「盗賊の件よろしくねー」
「ンググ!上司に確認します!」
自分に知識を否定された気分になったカウンターの女性は怒りを隠しきれないまま奥に向かう。
カンダ達はする事も無いので冒険者ギルドのホールを眺めている。
8席ほどのテーブルに4脚づつ椅子が置いてある。
さらに奥の方は簡単な食事と酒や飲み物を出しているようでカウンターがあり、そこにもいくつかテーブルと椅子が備え付けてあった。
人は時間的なものかまばらであった。
「おう!新人か?随分いい女連れてるじゃねぇか!」
2人組のチンピラのような男達が近づいてくる。
小説や漫画で読んだ事があるような展開に思わずカンダの顔がニヤける。
「てめぇ何笑ってるんだ!」
一気に2人の殺気が膨れ上がる。
「おい!辞めろ!」
2人の後ろから力強い声が聞こえた。
2人のチンピラはビクッ身体を硬直させ、何かブツブツ言いながらそそくさを逃げて行った。
「大丈夫か?」
そこには黒に近い青色の毛が生えた狼男のような人物が立っていた。
「へぇ!初めて見た!」
カンダは好奇心が隠しきれず、キラキラした目をしてつぶやいた。
「そうか、そうだな、この街じゃ見る事も少ないな」
男は何か違う意味で納得したようだ。
「お前は俺が嫌じゃ無いのか?」
獣人の男はそう質問する。
「おかしな質問するな?嫌とかあるのか?てか、すげぇなこれだけ全身毛が生えてるのに、筋肉隆々だって分かるじゃねぇか。お前強いんだろ?」
「え、あ、まぁな、1対1で戦ってこの街で負けると思った事は無いな!あ、いやいや、そういうことでは無くて、お前獣人見てなんとも思わないのか?」
強いと言われて、かなり嬉しそうだった。
「カッコいいとは思ったぞ!俺はカンダ!この子はキキョウ!よろしくな!」
そう言って手を出す。
「そうか!珍しいな!俺はウォーレン!犬人族のウォーレンだ!」
手を出された事にかなり驚いた顔をしたが、ニッコリと笑顔になって出された手を握る。
この世界も握手の習慣は一緒だった。
ただ、獣人と握手をする人間は皆無だった。
ウォーレンと話して珍しいの意味が理解できた。
この地域は大陸の中央辺りなのだが、最も人間族が多く、また亜人差別の色濃く残る地域だった。
特に同じ亜人でも獣人はモンスターと同義と考えている人間も多くいざこざも多い。
差別の激しい地域でも特にこの街が属している国は獣人弾圧が強く、この街にいる獣人も例外なく奴隷か奴隷あがりしかいなかった。
ウォーレンも戦闘奴隷として生き抜き、その実力で自由民同等という立場を手に入れた。
この街の監督官は差別軽減特区にこの街をしようと上に働きかけているので、まだ扱いがマシな方ではある。
しかし、一般的な仕事に就ける事もないので、現実的には傭兵か冒険者、最悪の場合犯罪者くらいしか道がないのが実情ということだった。
「人間にとっちゃ、俺らは醜い化け物なんだろうな」
そう自虐的ウォーレンが話を締める。
その言葉を聞いて、キキョウが悲しそうな目をしていた。
「実はな、相棒のキキョウだけど彼女モンスターなんだ」
いきなりの言葉にウォーレンが驚く。
「という事は、お前魔獣使いか?」
「まぁそうなるな」
ウォーレンの問いかけをカンダが軽く受け流す。
「で、聞いてくれ。
彼女は蜘蛛なんだが、蜘蛛ってな、俺らがいた地域では害虫なんだ。
不快害虫って言って、見た目が不快って理由で害虫に指定されているんだ」
カンダが今までに無く辛そうな顔で言葉を吐き出し。
「実際は益虫で、みんなの為になってなっているのに、見た目だけで判断する。
俺はこれが本当に許せないんだ!ウォーレンの話聞いてそれを思い出したんだ」
カンダがウォーレンを見つめながら、真剣に話す。
「ウォーレンさえ良ければ、俺たちと仲間にならないか?もちろん同情なんかじゃない、俺たちは切実に戦力がいるんだ!俺は許せないものをそのまま見過ごす事が出来ないところがある。
だがその思いを貫くには戦力が足りない!戦力になってくれないか!」
カンダがウォーレンに熱い思いをぶちまける。
「あ、や、全然構わないんだけどよ、さっきからこっちのキキョウさん?戦力って言うたびなんかビクッてしてるんだが?」
「え?」
ウォーレンの言葉にギギギギっとキキョウの方に顔を向ける。
それに合わせて、ギギギギっとキキョウが反対側を向く。
「キィキョォオォ!何を隠してる?」
「あー、隠してるって言うかぁ、言い出すタイミングが見つからなかったって言うかぁ」
そう言いながら女神から貰った羊皮紙をそーっと見せる。
『4体の蜘蛛達を集めて頑張ってくださいね』
「キィキョォオォ!」
「あ、違うのよ、これ出てきたのさっき屋敷で扉の前で待ってた時なの!ほら、もう少し2人っきりで居たいかなぁとかね、まだほっといて大丈夫でしょうとか思って!アハハアハハ」
キキョウは全力で言い訳を始めた。
「まぁ良い、ここ終わったら探しにいくぞ!」
呆れながらもちょっと可愛いと思ってしまったカンダこれ以上追及をやめた。
彼は気づいて居なかった
彼女は最初に擬態の話をした時、私たちと言っていた事に。
そしてウォーレンに向かって
「落ち着いたら改めて連絡する!仲間として一緒に行動してくれ!」
そう言って改めて手を差し出す。
「あぁ、俺もこんなに普通に接してくれる人間は初めてだ!よろしく頼む!」
そう言って再び握手して別れた。
そうして更に数時間待たされ、ようやく先程のカウンターの女性が戻ってきた。
「お待たせしました!Eランクの登録証です!」
若干笑顔がこわばってる。
「ありがとう」
カンダは満面の笑みでその登録証を受け取る。
「それと、これは指名依頼の依頼書です!中身は分かってるとの事ですがよろしいですか?」
「ありがとう」
先程とまったく同じ表情で依頼書を受け取る。
「執事の人にちょっと寄るところあるから、別行動って伝言しといて!」
それだけ言うと、あっという間に冒険者ギルドを出て歩き出す。
そしてそのまま、明らかに治安の良くないと思われる場所に踏み込む。
いわゆるスラム街である。
冒険者ギルドで待たされている間何もしていなかった訳ではなくマップで味方を探していた。
最も近くにいると反応があったのが、ここであった。
迷う事なく、スタスタと歩き奥の方の裏路地のような場所に行く。
マップ様さまである。
そこの突き当たりに小さい人影があった。
グレーの短パンに肩掛け紐がついていて吊りズボンになっており、白い長袖のシャツにグレーのベレー帽。
身長は147くらいの小柄でキキョウと20cmくらいの差がある。
「投げ縄蜘蛛だな」
カンダは彼女を見た瞬間、断定する。
「正解!じゃなくて、遅いよー神様はすぐ来るって言ってたのにー!ボク待ちくたびれたよ」
「そうか、すまんな、テイミング」
結構雑にテイミングした。
「えーっと名前はナゲ子…」
投げ縄蜘蛛が無言で頬を膨らまして睨んでる。
「ナゲスケ、ナゲ坊、ナゲえもん…」
「マスターそれ、私の時と同じすぎ」
キキョウが呆れながらツッコむ。
「冗談が通じないなぁ、投げ縄蜘蛛は忍者みたいな動きするしな!千影ってそれっぽくないか?」
「ボクそれすごい気に入った!」
ニコニコな笑顔で投げ縄蜘蛛が返事をする。
「よし、じゃあ千影ステータスオープン!」
チカゲ レベル0
種族 蜘蛛族
強さ 30 物理的攻撃力
器用 40 命中率
素早さ 60 回避率、移動速度
知性 30 魔法的攻撃力
耐久力 40 HP基準値
賢さ 40 MP基準値
HP 400
MP 400
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 投擲
軽業
「次ページ」
スキル一覧
チカゲ レベル0
スキルポイント 0
スキル 投擲 レベル1
武器投擲 武器の投擲に修正が入る
軽業 レベル1
緊急回避 アクロバティックな動きで回避可能
ユニークスキル 擬態
クモの糸
毒牙
フェロモン
操糸
「なるほどな、ステータスの合計が低い代わりにスキルが豊富だな」
カンダはチカゲのステータスを見ながら、感想をもらす。
「元の能力再現って言ってたけど、本当にらしい能力なんだな」
投げ縄蜘蛛は非常に変わった生態を持っている。
網を張らず糸を一本張り、そこに逆さ吊りの状態でぶら下がり、獲物に糸を投げつけて捉える。
名前の由来通り、投げ縄を操るような動作で捕獲する。
更に身体からフェロモンを出して獲物を誘き寄せるという事もする。
それらが反映された能力になっていた。
「おい!お前らここで何やってるんだ!」
チンピラと書かれているかと思うくらいわかりやすいチンピラが3人ほど路地の奥に向かって来た。
派手な美女とスラム街を歩いていたので、こういうチンピラが来る事は半ば予想していた。
カンダはあまりのお約束の展開に笑いそうになるのを堪える。
「こいつらも盗賊と同じ扱いだよな…よし!チカゲ!こいつらでお前の能力見せてくれ!」
ステータス的に弱いと言っても、一流の冒険者を遥かに凌駕する数値である、万が一にもこんなチンピラに負ける事は無いとカンダは判断した。
「はーい!ボク頑張っちゃう!」
明るく返事をしたかと思うと袖の辺りを口にくわえて、ピィッと糸を30cmほど引き出す。
そのまま、ピョンと高さ2mほど、壁に向かってジャンプする。
口にくわえていた糸を壁につけたかと思うと、更に壁を蹴って反対側の壁まで飛び移る。
壁から壁に1本の糸が張られた。
そのまま糸の上を移動して中央辺りでつま先だけを引っ掛けてクルンと逆さ吊りのような格好になる。
まさに、投げ縄蜘蛛の狩りの態勢である。
そこから手を最後尾の男に向けると、その手首の辺りから糸が物凄い勢いで相手に向かっていく。
「グゥッガッ」
避ける間も無く、クルッと首の周りを糸が一周しながら貼り付く。
「ほい!」
チカゲが逆さ腹筋の要領で上半身を起こし、さらにその勢いで軽く糸の上をジャンプしたかと思うと、その糸を持ったまま下に落下して来た。
「ゴォッ」
声にもならない音を口から吐き出しながら、男は最初に貼った横糸に向かって引っ張りあげられる。
人の首は自身の体重を支えられるほど強くない。
まして物凄い勢いで通常じゃ考えられない程細い糸が首に食い込むのである。
上まで吊し上げられまでに首の骨は粉砕していた。
チカゲは地面に着地すると、糸をビィンと鳴らし切り離す。
2m上からドサッと肉塊が落ちてくる。
「お兄ちゃんの好きな時代劇の真似してみた!」
背が低いので自然と上目遣いになるのだが、それが余りにも可愛くて顔がにやけてしまう。
「痛ッ!」
「マスター顔!」
ちょっと膨れた感じでキキョウが脇腹をつねった。
そんな微笑ましい雰囲気とは裏腹に、チンピラ達は恐慌状態だった。
「ヒィィッ!」
思わず逃げようとする。
そこをチカゲが駆け抜けてピタッと止まる。
一瞬、周りの空気がバフッと揺らいだ気がした。
その瞬間男達が足を止める。
思考も止まっているようだ。
「逃がさないもんねぇ」
明るい言葉でニコニコしながら今度は両手から糸を飛ばす。
チンピラ2人の首に巻きついた瞬間チカゲがグンッとその糸を引いた。
細くて硬い糸は刃のようなものである、見事に皮膚と血管が切れ2人は血を流しながらそこの場に倒れる。
「あちゃー、これはバレるんじゃないか?大丈夫かな?」
カンダがこの光景を見て最初に言った言葉だった。
「よし、少しでも証拠無くすために、2人でこいつら全部食え!」
「うわぁ、食べ切れるかなぁ」
チカゲがちょっとゲンナリしてる。
「私もそこまでお腹減ってないんだけどなぁ」
キキョウも乗り気ではない。
「いいから食え!無理して食え!」
カンダの号令で渋々2人はお食餌タイムとなった。
「しかし、あのフェロモン強力だなぁ」
今の戦闘を振り返りながらカンダが感想をのべる。
「でも、あれ効くやつと効かないやつと効いてもすぐさめるやつがいると思うよ」
自身のユニークスキルのせいか、ある程度どういうスキルか把握出来るようだ。
「それでも人間に効くのは実証済みだからな!戦力として申し分無い!」
カンダのこの言葉に、チカゲはニコーっと愛らしく笑う。
手には先程の男の腕を持ったままだが。
とても小さく丸められた、チンピラだったものを服などと一緒に下水道に捨てる。
とりあえず、雑ではあるが証拠隠蔽をして帰る事にする。
おそらく問題にならないだろうが、万が一を考えた行動である。
それなりに時間がかかってしまった為にかなり暗くなってしまった。
幸い蜘蛛達は夜でも問題なく行動でき、カンダもテイム状態のおかげで彼女達とお互いに位置を把握できるので、特にトラブルもなくセルザムの家に到着する。
カンダはその後2人きりでセルザムと色々話をして、夜遅くに就寝についた。
一応、人間の形をしているので、蜘蛛達にも寝室があてがわれた。
翌朝、執事が冒険者ギルドへと向かって行った。
ウォーレンを呼んできてもらう為である。
セルザム邸では、アニタが改めて祖母に行く準備がされていた。
前回の事もあるので遠回りするルートを取ることになった。
御者も前回と同じである。
「よお!」
カンダが御者に気軽に声をかける。
ビクッと御者の身体が反応する。
「あ、あの、私は一体どうすれば良いのですか?」
オドオドとカンダに質問する。
怯えているのか、口調も前より丁寧である。
「今まで通りだ!この事を報告して、前より護衛も増えてるから、人を集めて万全の体制で襲え、ついでにそのお前が伝える人物にもしっかり結果を見に来いと伝えるだけで良い」
御者の肩を組み声が外に漏れない程度の小声でそう伝える。
「え?それだと、向こうの計画が成功してしまうんじゃ?」
「お前は向こうに俺たちの戦力をなんて伝える?」
カンダが御者の質問に質問で返す。
「新たに腕利きの獣人を加えて、道中で知り合いを護衛として加えるって聞いてますのでそのまま伝えるつもりです」
「何人くらい来ると思う?」
「分かりませんが、前は3人で簡単に倒されているので、10‥いや20とかですかね?」
御者がカンダの質問に答える。
「その程度じゃ、俺たちに傷一つつけられないよ」
カンダがニヤッと笑う。
「でな、襲撃ならココがいいと思うんだ」
そう言いながらカンダは地面に絵図面を書いて場所を指定する。
街道の右側は雑木林になっていて人が潜みやすく、反対側は林が囲むような状態で程よく広い草原、奥は鬱蒼と茂った森になっている。
人を追い込むにはちょうど良く、かなりの人でも支障がないほどの広さも確保できる。
多人数で襲うにはうってつけの場所である。
「えええ!これ盗賊が成功してしまいませんか?」
素人目に見ても襲うには絶好の場所であった。
「成功してもお前は問題ないだろ?」
「ええ、まぁ」
カンダに言われて、バツが悪そうに返事をする。
「じゃあ、気にするな、盗賊が成功したら向こうに着けばいい、俺たちが成功したら俺が保証してやる」
御者の手に、手間賃と言って金貨を1枚握らせてカンダは屋敷へ戻って行った。
この世界では大雑把だが、金貨が1万円、銀貨が1000円、銅貨が100円、小銅貨が10円、くらいである。一応銭貨という1円に相当する貨幣と10万相当の大金貨、100万相当の白金貨もあるが、一般的な生活では使われる事はほとんどない。
御者は思いがけない収入にホクホクしながら、何処かへと出かけて行った。
出立の日が来た。
盗賊の準備も考慮して、翌々日を出発日としていた。
馬車に乗るのは、カンダ、キキョウ、ウォーレン、アニタの4人である。
アニタは、おめかししており大きな帽子をかぶっていた。
道中問題なく移動していた。
「あいつら手際悪いなぁ…」
カンダはブツブツと呟きながら、マップを見ながら、御者の馬のスピードを指示していた。
「お兄ちゃん、ココ何日かずーっと、空中見ながらブツブツ言ってるよね」
アニタがそうカンダに話しかける。
「しゃべるな、バレる」
カンダが素っ気なく返事をする。
「バレるなら最初からバレてるよぅ!身長全然違うんだもん!」
取ろうとした帽子をキキョウにギュムッと上から押されながら、アニタに変装していたチカゲがそう文句を言う。
「お前らの擬態でなんとか出来れば良かったんだけどなぁ」
擬態は特定の個人に変装できるほど都合良くは出来てなかった。
今の人間形態以外の人間にはなれないし、他の動物にもなれない。
人間形態と蜘蛛形態、及びその途中の状態にしかなれないスキルだった。
「女神ももう少し頑張れよなぁ」
カンダの文句は止まらない。
「マスター、落ちつきましょ」
キキョウがカンダにニコッと笑いかける。
「ふぅ、そうだな、焦っても仕方ないもんな」
そう言いながらカンダはまた空中を眺める。
マップを見ているのだが、他の者には見えないので、空中を眺めているようにしか見えない。
目的の場所に着いた。
予想通り馬車の前に盗賊が立ちはだかる。
「おい!この草原の奥まで全力で走らせろ!」
カンダが御者に指示を出す。
「へい!」
御者が返事と共に草原の奥に向かって馬を走らせる。
どうやら、盗賊もその予定だったようだ周辺からぞろぞろと出てくるが、慌てた様子はない。
林の奥の方からは出てくる気配は無いが鬱蒼と茂った森である、そんな簡単に逃げれるような場所じゃ無い。
奥までたどり着くとカンダが飛び出して、大声で叫ぶ。
「軍曹!いるんだろ!迎えにきたぞ!すぐに来い!」
あらん限りの声で叫ぶと、ザッと草が揺れる音がした。
目の前にはキキョウよりやや大きめだが、スタイルはキキョウよりスマートな女性が立って敬礼をしていた。
グレーがかった軍人の着るような服装で、髪も銀色で肩口くらいまでの長さだった。
「やはり軍曹だったな!」
「お待ちしておりました閣下!」
カンダの言葉にやや強めの口調で答える。
「よし、早速テイミング!名前はぁ…軍曹で良いか?」
「フグッ、閣下が、ウゥ、そうとおっしゃ、グスッ、るならぁ、ヒック、それでもぉ…」
「あぁ、もう泣くな!冗談だから、お前の名前はちゃんと考えてる!光でどうだ?早そうだろ?」
「はい!ありがとうございます!」
軍曹こと、足高蜘蛛は涙を拭いながら、笑顔で返事をする。
「光ステータスオープン」
ヒカリ レベル0
種族 蜘蛛族
強さ 50 物理的攻撃力
器用 30 命中率
素早さ 110 回避率、移動速度
知性 30 魔法的攻撃力
耐久力 60 HP基準値
賢さ 20 MP基準値
HP 600
MP 200
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 俊足
「次ページ」
スキル一覧
キキョウ レベル0
スキルポイント 0
スキル 俊足 レベル1
加速 移動速度が大幅に強化される
ユニークスキル 擬態
麻痺牙
超感覚
「想像してたのとだいたい同じだな」
足高蜘蛛は前世では軍曹の愛称で知られる蜘蛛である。
この蜘蛛、ゴキブリを捕らえる事が出来る。
とてつもなく早いのである。
また、ゴキブリが気付く前に先に見つけ出す高性能な感覚機関の持ち主でもある。
それでいて、性格は怖がりで、シャイな面もあり、見た目以外は本当に愛らしい蜘蛛である。
見た目以外は…。
擬態で人間の美女になれている事は、本人が1番幸せな部分かもしれない。
「よし!お前らは昨日の打ち合わせ通り!ヒカリは右側の奴らを相手してくれ!1人も逃すなよ!」
カンダの号令に
「はぁい」
「ボク頑張るね!」
「ハッ!」
と三者三様の返事で応対する。
「じゃあ行くぞ!狩りの時間だ!」
この言葉を合図に3人は一斉に動き出す。
中央をチカゲが走り、フェロモンを撒き散らして行動を制限する、左右の影響のほとんどない奴らはキキョウとヒカリが始末する。
相手の最後尾まで突っ切ったチカゲは今度は左右に走り回りながら次々糸を相手の首に絡ませる。
「…」
言葉を発することもなく血を噴き出している。
もちろんフェロモンも忘れない。
ただ、開けた野外のため思ったよりは効果が出ていないようだ
右側を任されたヒカリは非常に単純な攻撃方法だった。
体当たりである。
とはいえ、人間の最高峰が100m9秒として、ヒカリはその3倍、スキルの効果を使っているため更に数倍の速さである。
高速道路の自動車より速い速度で人間大の塊が体当たりするのだから、たまったものではない。
運良く死ななかったとしても、まともに動ける状態では無い。
「ギャッ」
断末魔の悲鳴が聞こえる。
無力化すると言う点で最も効果的な動きである。
左側のキキョウがこの中では比較的普通に戦っている。
相手の武器を奪い持ち前の器用さで操って戦っているのだ。
「死ねぇ!」
背後からキキョウを襲う。
両脇から出てきた4本の足がカウンターで相手にめり込む。
あくまでも比較的である。
「ヒャー凄いなぁ!俺の出番ないんじゃ無いか?」
ウォーレンが3人の戦いを眺めながら感想をのべる。
「無ければ無いでそれに越した事は…おっと来たよ」
まだ中にアニタが居ると思ってる盗賊が3人の猛攻を避けてカンダ達にたどり着いた。
「任せろ!」
ウォーレンはその一言が言い終わると同時に斬り伏せていた。
間違いなく一流の剣士である。
獣人というだけで、PTが組めず、大きな仕事をこなしていなかったのでEランク止まりだが実力は明らかにそれ以上だった。
今回はカンダの護衛としてココに居る。
「これ何人いるんだ?」
ウォーレンがカンダに尋ねる。
「42人だな」
当たり前のようにカンダが答える。
「アジトには後80人くらい残ってるな、3分の1も戦力出すかね普通」
カンダは呆れたようにそう話す。
「お前のスキルちょっと規格外だな」
ウォーレンが感心しながらそう言った。
御者と話したあの日から、御者、御者が連絡した相手、そいつが郊外に行った先にいる奴、全部マップを使って監視していたのである。
なので、盗賊のアジト、アジトの人数、今回襲撃の人数。
それらは全て把握できている。
残念だったのが、ガデエルとの繋がりが確認出来なかった事だ。
今回は盗賊退治のみと割り切って行動する事にしていた。
「しかし、この数のテイミングだと凄い事になるな」
「どういう意味だ?」
ウォーレンの言葉の意味が全く理解できなかったため、カンダは聞き返した。
「な、お前自分は魔獣使いなのに知らないのか?」
「俺異世界人だから、こっちの常識知らないんだよな」
世間話のようにサラッと言う。
「異世界人?なんだそりゃ?あーでも確かに獣人の差別なさ過ぎだし、規格外のスキル持ってるし、普通あんなにテイミング出来ないしな、むしろ何処か知らない世界の人間って言われた方がしっくりくるわ」
ウォーレンが妙に納得したところで、魔獣使いのメリット、デメリットを説明してくれた。
魔獣使いのメリット
経験値が魔獣と使役者全員に同じだけ入る。
均等に分けるのではなく、全員同じだけ入るのである。
本来なら、経験値は倒した分だけがその人に入る。
なのでウォーレンはこの今倒した1人分の経験値である。
しかし、カンダは使役しているモンスターが倒した経験値も全て入る。
更に使役されている彼女達にもカンダと同じだけ入る。
なのでレベルの上がりが異常に早いのである。
魔獣使いのデメリット
そもそも、強い魔獣は簡単に使役されない。
大抵は数匹で弱いモンスター1匹倒せる程度のものしか使役出来ない。
しかも、使役する数が増えるごとにテイミングの難易度が跳ね上がるのである。
伝説の魔獣使いだと8匹の竜を従えたなんてあるが、そんなのは御伽噺の世界の話で、現実では2匹使役できれば優秀、3匹使役出来れば一流とされている。
結果、魔獣使いは魔獣の使役以外にも戦う手段が必要なので、器用貧乏になりやすく専門職に勝てない。
魔獣使いは不遇職というのが一般常識である。
「化け物みたいな強さの魔獣を3体使役してる場合はメリットしかないけどな!」
そう言ってウォーレンが笑った。
「さてと、もう掃討戦みたいだから、俺も仕事しますかぁ」
「お、頼むよ」
ウォーレンの背中に声をかけてたカンダに、ウォーレンは振り向かずヒラヒラと手を振って森の中に消えていった。
結果は圧勝だった。
向こうは人間を相手にするつもりだったのだから、仕方がない。
実際、予想の倍の人数居たのだから、通常であれば過剰戦力だったはずだ。
現実はカンダ達の経験値とキキョウ達の晩御飯にしかならなかったのだが
「せっかくだから好みの武器選んでくれ、いつまでも素手ってわけにはいかないだろうし」
盗賊だけあって、統一感もなく各々が自前で武器を揃えたという感じだった。
一言で言えば雑多な武器がある。
「私はこれかなぁ、もう少し長い方がいいんだけど」
キキョウは槍を選んだ。
投げる事を考慮された短めの槍でチカゲの身長程度の長さである。
ついでに槍を背中に固定する装備も貰う。
「ボクはこの辺いっぱい貰うね」
チカゲは特に細身で長めのスローイングダガーを6本ほど選んで操糸スキルを使って腰に巻きつける。
「自分はこれにします」
ヒカリは剣鉈と呼ばれるタイプの小剣を2本選んだ。
通常の小剣より分厚く、衝撃に耐えやすいタイプだ。
農作業や林業、狩猟などでも使われる、武器としては洗練とは程遠い得物である。
しかし、ヒカリのスピードに耐えられるものとしては優秀である。
それを入れる鞘と鞘を固定するバンドも確保する。
「よーし、武器決まったなぁ、これからその得物のスキル渡すからな」
「ステータスオープン!」
ステータス
カンダ レベル6
強さ 5+13 物理的攻撃力
器用. 5+14 命中率
素早さ 5+20 回避率
知性 5+11 魔法的攻撃力
耐久力 5+14 HP基準値
賢さ 5+10 MP基準値
HP 190
MP 150
成長ランク Z
職業 魔獣使い(ユニークスパイダーテイマー)
スキル テイマー(特)
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スキル一覧
カンダ レベル6
スキルポイント 6
スキル テイマー(特) レベル1
テイミング(ユニークスパイダー)
スキル伝承
ユニークスキル マップ
スキル獲得
テイミングモンスター
キキョウ ライン強度 4
チカゲ ライン強度 4
ヒカリ ライン強度 4
「う〜ん、思ったよりレベル上がって無いなぁ、雑魚じゃ経験値も少ないって事なんだろうな」
カンダはステータス画面を見ながら、1人でブツブツ文句を言い、1人で納得している。
「まぁ良いや、そんなにスキル取るのにポイントかからないでしょ」
「スキル獲得!って叫べばなんか出てくるかな?」
予想通りスキル獲得の言葉に反応してスキル一覧が出てくる。
その量に関しては完全に予想外だったが
「うわコレは悩むなぁ、とりあえず必要なものだけにしておこう」
そう言いながら、スキルを獲得していく。
スキル一覧
カンダ レベル6
スキルポイント 2
スキル テイマー(特) レベル2
テイミング(ユニークスパイダー)
スキル伝承
意思伝達
小剣 レベル1
剣技・連続斬り
槍 レベル1
槍技・連続刺し
短剣(投) レベル1
剣技・連続投げ
ユニークスキル マップ
スキル獲得
テイミングモンスター
キキョウ ライン強度 4
チカゲ ライン強度 4
ヒカリ ライン強度 4
「獲得は一覧の通りのポイントで、レベル上げるのに今のレベルと同じポイントが必要って感じだな」
一通り捜査を終えて、独り言を言いながら納得している。
「よーし、お前らちょっとこっち来い」
そう言って、3人を呼ぶ。
「スキル伝承!小剣、槍、短剣」
カンダこの言葉で3人に何かが入っていった。
「よーし、全員スキル上げるぞー」
「キキョウステータスオープン」
基礎ステータス
キキョウ レベル6
種族 蜘蛛族
強さ. 51 物理的攻撃力
器用. 71 命中率
素早さ 31 回避率、移動速度
知性. 51 魔法的攻撃力
耐久力 41 HP基準値
賢さ. 51 MP基準値
HP 410
MP 510
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 修繕
「うっそ、数値上がってる!コレが成長ランクってやつの力かぁ」
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スキル一覧
キキョウ レベル6
スキルポイント 0
スキル 修繕 レベル3
一般修理 家庭品などの修理が行える
武具修理 装備品の修理が行える
家屋修理 建物などの修理が行える
一般修理2 家庭品などの修理がより行える
槍 レベル3
槍技・連続刺し
槍技・受け流し
槍技・旋風槍
ユニークスキル 擬態
クモの糸
毒牙
「ユニークスキルは弄れないんだな」
カンダがステータス画面を眺めながら色々確認しているようだ。
「チカゲステータスオープン」
チカゲ レベル6
種族 蜘蛛族
強さ 31 物理的攻撃力
器用 41 命中率
素早さ 61 回避率、移動速度
知性 31 魔法的攻撃力
耐久力 41 HP基準値
賢さ. 41 MP基準値
HP 410
MP 410
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 投擲
軽業
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スキル一覧
チカゲ レベル6
スキルポイント 0
スキル 投擲 レベル3
武器投擲 武器の投擲に修正が入る
物品投擲 武器以外の物の投擲に修正が入る
精度上昇 命中率が上がる
軽業 レベル3
緊急回避 アクロバティックな動きで回避に修正が入る
撹乱 アクロバティックな動きで相手の回避率を下げる
跳躍 跳躍の距離、精度に修正が入る
短剣(投) レベル1
剣技・連続投げ
ユニークスキル 擬態
クモの糸
毒牙
フェロモン
操糸
「ヒカリステータスオープン」
ヒカリ レベル5
種族 蜘蛛族
強さ. 51 物理的攻撃力
器用 31 命中率
素早さ 111 回避率、移動速度
知性 31 魔法的攻撃力
耐久力. 61 HP基準値
賢さ 21 MP基準値
HP 610
MP 210
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 俊足
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スキル一覧
ヒカリ レベル5
スキルポイント 1
スキル 俊足 レベル3
加速 移動速度が大幅に強化される
瞬間回避 高速で移動し回避に修正が入る
韋駄天 加速時のスピードを長時間維持出来る
小剣 レベル2
剣技・連続斬り
剣技・受け流し
ユニークスキル 擬態
麻痺牙
超感覚
「よし!コレで全員強化終了!」
カンダが全員の能力を強化し終わった頃にウォーレンが森から1人の人間を引き摺りながら近寄ってきた。
「いやぁ流石だな!ちゃんと言った通りの場所に居たわ」
ウォーレンがそう言いながら引き摺って来たのは、若いのか中年なのか分からない風貌で身なりだけは良い小太りの男だった。
「おーい、こいつで間違い無いか?」
カンダは動かなくなった盗賊達から、小銭や装飾品を回収するのに夢中になっている御者に声をかけた。
「あーそうです。その方がセルザム様の甥にあたるケルヒム様です」
御者はチラッと目をやるとそれだけ言ってまた回収を始めた。
回収した物は全部やると言われた為、少しでも多く回収しようとしていた。
「貴様ら、よくもこんな目に合わせたな!この代償は高くつくぞ!あの街に居られなくしてやる!」
引き摺られながらも言うことは強気であった。
「それは、お前が生きて帰れたらの話だろ?」
カンダの目が冷たく、鋭くなっていく。
「待て、殺すのか?お前の依頼主の身内だぞ!俺の息のかかった所だって無数にある!」
ようやく自分の状況が理解できて来たようだ。
「自分だけ安全な場所にいられると思うなよ」
カンダの表情がさらに険しくなってくる。
「殺される覚悟のない奴が人の命奪いにくるなよ」
「ヒィィ、頼む殺さないでくれ!なんでもする!金でも女でもなんでもいくらでも用意する!」
「キキョウ!」
カンダの一言に無言でキキョウが槍を突き立てる。
「ガッ!アブォ…ころ…さ…」
ただの肉塊に変わった。
「よし!持ち帰れない物は全部森の中に投げ込んで見えなくしてしまうぞー」
カンダの号令で全員が動き出す。
「あ、その斧だけ持っていくから馬車に乗せといて」
盗賊が持っていた武器で1番大きく、1番重い武器を選んで馬車に乗せた。
「さぁ!敵のアジトに出発だ!」
あらかた片付け終わった所でカンダが意気揚々と号令をかける。
「はいっ?」
「はぁっ?」
「あれ?今からなの?」
「ボク疲れたよ」
「閣下の御命令であるならば!」
各自思い思いの反応をする。
「話と違うじゃねぇか?」
ウォーレンが詰め寄る。
「予定より多く殲滅出来たし予想よりこっちが強かったからな!お前とか余剰戦力だったろ?」
カンダの言葉にウォーレンも納得する。
「まぁ、確かになぁ」
「途中でもう1人拾うしな!いけるだろ後80人ちょっとくらい」
カンダのゴリ押しにウォーレンも
「まぁPTリーダーはお前だしな」
という事で、アジトに向かうこととなった。
道すがら経験値の事をウォーレンに聞いてみることにした。
「人間は効率悪いな」
ウォーレンが言うには。
はっきりと細かい数字でわかっているわけでは無いが、ざっくりと同じレベルを3人倒すと1レベル上がる。
ひとつ下だと更に3人必要になる。
3レベルが4レベルになるには、1レベルで9人、2レベルで6人、3レベルで3人という感じで、0レベルはどんなに倒しても人数に換算しない。
人は一般人はほとんど0レベルなので、そういう人間ばかり殺している盗賊もせいぜい1か2しかレベルがない。
その点、モンスターは1番弱いとされるコボルドやスケルトンでも2レベルあり、実際の強さより数レベル高い事が多い。
そのため成長させるならモンスターを倒す方が効率が良い。
「なぜなんだろうな?モンスターは魔石を持っているから、そのせいかもな」
というのが、ウォーレンの見解だった。
そうこう話しているうちに、アジトから少し逸れた場所に着く。
そろそろ時間は夕方に差し掛かる頃だった。
「おーい!いるんだろ?どこだー?あ!いたいた迎えにきたぞ、タランチュラ」
カンダはそう言って、木の根元で寝ているタランチュラを起こす。
「土蜘蛛系だと思っていたら、お前だったか、名前は帷な」
「え?」
「え?」
「え?」
後ろから付いてきていた3人のクモ達が一斉に声を出す。
「いつものくだりやらないんですか?」
キキョウが全員の想いを口に出す。
「時間無いからな」
カンダのこの応えに
「自分の時も時間なかったように思いますが?」
ヒカリが疑問を投げかける。
「いや、だって、この子タラ子とか言ったらそれで納得しそうだもの」
この会話の間も座ったままポケ〜ッと眺めているタランチュラを見て
「いや、まぁ、確かに」
とヒカリも渋々納得した。
「テイミング、帷ステータスオープン」
トバリ レベル0
種族 蜘蛛族
強さ. 140 物理的攻撃力
器用 20 命中率
素早さ 20 回避率、移動速度
知性. 20 魔法的攻撃力
耐久力 80 HP基準値
賢さ. 10 MP基準値
HP 800
MP 100
成長ランク B
職業 ユニークスパイダー
スキル 怪力
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スキル一覧
トバリ レベル0
スキルポイント 0
スキル 剛力 レベル1
怪力 強さに関する行為に修正が入る
ユニークスキル 擬態
毒牙
毛針射出
「予想通りの怪力バカだった」
タランチュラとは大型のクモの総称のような物で、さまざまな種類の蜘蛛がタランチュラと呼ばれている。
その中でも性格が大人しく、あまり動かず、ペットとしても人気なのが大土蜘蛛の系統のタランチュラである。
この種類はバードイーターと呼ばれる事もあり、その名の通り小型の鳥やネズミなら食べてしまうほど大食いである。
身体も大きく力も強い。
そして、目潰しとして身体の体毛を相手に射出するという特技を持っている。
毒に関しては実際はそれほど強い毒は持っていないが、ない訳ではない。
人間に擬態した彼女もキキョウよりも大きく肉厚である。
黒の革ズボンに黒の革ジャン、黒の長髪といった見た目になっている。
「ご主人様ぁお腹減った」
トバリの最初の言葉はこれである。
まぁ、こっちに来てから3日間ほど放置していたわけだから仕方がないのだが。
「今から行くとこで、食餌させてやるからもう少し我慢してくれ」
カンダの言葉にコクコクと頷くトバリ
「武器はこれを使ってくれ」
馬車まで戻ってから、トバリに斧を渡す。
一般的にグレートアックスと呼ばれるものである。
その中でもかなり大きい方で、コレを持っていた人間も扱えてたとは思えない物であった。
「んーちょっと軽くて扱いづらいなぁ」
両手で扱うグレートアックスを片手で持ち上げての感想だった。
「…そうなるとは、なんとなく予想はしてたけど…その武器をこれから扱っていってくれよ、スキル渡すから」
そう言って
「スキル継承!斧」
トバリに斧スキルを継承させる。
そして全員で馬車に乗り、アジトの近くまで移動した後、打ち合わせ通り御者だけ別行動をする。
御者が全速力でアジトの入り口に向かう。
「開けてくれー!やられたー!全滅だー!」
アジトの扉が開く。
「おい!どういう事だ40人からいたんだぞ!」
組頭らしき男が慌てて男を引き入れながら大声で話している。
「向こうも色々用意してたんでさぁ!体制整えてこっちにも来るかもしれませんぜ!」
御者は事実しか言っていない。
ただ、最も重要な事を言ってないだけである。
「流石に無傷で終わった訳じゃないんだろ?体制整えるにしても今日の今日はないだろうが…念の為篝火と見張りは置いておけ!」
事実のみで構成されている話のせいで、嘘を看破するスキルも通用しない。
そのためすっかり信じ込んでしまった。
いや、事実なのだから、信じる方が当たり前なのであるが。
「お頭に伝えてくる!お前は中に入って休んでいろ!」
こうして御者は中に入っていく。
ここで、盗賊は勘違いをいくつかする。
1つ目は人数である。
40人に対抗するのには、それに近い人数を揃えたはずである。
コレを盗賊側の情報網を潜り抜けて極秘裡に集めたのもなかなかのものだが、更にここに攻めるならば、もっと多い人数を動員しなければならない。
流石にそれを全く情報網にかからずに集めるのは無理がある。
まだ集めきれていないに違いない。
2つ目は時間である。
40人と戦って無傷なわけがない。
怪我や死者などの戦闘後の損害や疲労、補充を含めた人を集める準備期間、どんなに早くても1週間、遅ければ1か月後じゃないと動く事ができない。
最後に方向である。
このアジトは古い砦跡を改修して作ってある。
攻め込める場所は正面しかなく、中に侵入するのも不可能だ。
彼らを攻める事は出来ない。
過去の経験に基づいた至極真っ当な判断である。
これから戦いが始まる事への興奮が部下達にも伝わったのか、あちこちで酒盛りを始まっていた。
そう、早くても数日後遅ければ数ヶ月後、血と殺戮の祭りが起こるのだ。
これはその前夜祭のようなものである。
と、彼らは思っていた。
そして夜は更けていく。
6人の人影が砦の後ろ側に現れる。
断崖絶壁を下から見上げている様にしか見えない壁が彼らに立ち塞がっている。
「おいおい、コレを登るのか?命懸けっていうより、8割がた死ぬぞ」
ウォーレンが壁をペチペチ叩きながらそう感想を述べる。
「まぁ、見てな」
カンダがそう言いながら手で合図すると、ヒカリ、チカゲ、トバリの3人が壁に手を付き、一斉に上に登り始めた。
見た目は人間でも全員蜘蛛なのだから、地面とさして変わらない速さで登れる。
ウォーレンが呆れて口がポカンと開いてしまう。
「お前が本気になったら城の1つや2つすぐに落とせるな」
「でも、この世界には魔法があるんだろ?」
ウォーレンの言葉にカンダが応える。
「魔法ってのは、魔物が使うから魔法って言うんだよ」
「え!そうなのか?」
カンダの想像してたのと全然違う答えが返ってきた。
「人間も使えるには使えるが、肉体強化とか、剣に力を乗せるとか、そういうものだぞ」
「相手に火の玉飛ばしたり出来ないのか?」
カンダがなおも食い下がる。
「儀式魔法ってので出来ない事ないが、何日も準備して、何人も集まって、やっと人1人退治出来るかってもんだぞ」
「割に合わないな」
カンダの感想に
「だろ」
と、ウォーレンが応える。
こんな話をしているうちに3人は1番上までたどり着き、下ではキキョウが網を用意していた。
その網にキキョウ、カンダ、ウォーレンの順に乗る。
「これ、大丈夫なんだろうな?」
ウォーレンが心配そうにカンダに尋ねる。
「さぁ?俺も初めてだし」
カンダが無責任に応える。
「ひど〜い、私が作ったんだから大丈夫に決まってるでしょ?」
キキョウが明るく話に割って入る。
上からチカゲのものらしき糸が降りてくる。
それが網の四つ端を上手いこと絡めとり、ハンモックというより、獣などを捕らえる罠の中の様な状態になる。
そして四つ端を頭上あたりでキュッと纏めると、トバリが全力で上に引っ張り上げる
「ウ、グムムムッ」
ウォーレンが声が漏れそうになるのを必死で堪える。
勢いでヒューッと一気に壁を越えたかと思うと、反対側に落ちていった。
完全に自然落下である。
あと1mで地面に激突というタイミングでグンッとトバリが糸を引っ張り、強引に落下を止める。
下に行くはずのエネルギーがそのまま壁に向かうため激突するが、あらかじめ下に降りていたヒカリが網を掴み、それでも止めきれずに壁にぶつかるのをキキョウが身体を張って2人を守る。
「次からは、もう少しそっと下ろすようにしてくれねぇか」
フラフラしながらウォーレンがカンダに提案する。
「いや、もう次から侵入するのに付いてくるの辞めようと思う」
ウォーレン以上にフラフラしながらカンダが応える。
「私もちょっと痛かったぁ」
キキョウもぼやく。
ともあれ、全員気づかれずになんとか侵入に成功した。
そのまま、御者の居る馬車まで移動する。
「おい、おい!」
カンダが寝ている御者を起こす。
「あ、旦那ぁお待ちしてましたぜ」
御者もすっかり仲間気分である。
「首尾はどうだ?」
「それがぁ…」
御者はカンダの質問にバツが悪そうにそっと薬の入った紙包みを見せる。
「ちょ、おま、眠り薬全部残ってるじゃねぇか!」
「いやぁ、入れるチャンスが全然見つからなかくて…」
テヘヘへッと御者が頭をカキカキ言い訳する。
「あ、でも、みんな酒カッ食らって寝てるんで大丈夫ですぜ!」
「…そか、まぁ良いや、お前はここで待機しててくれ」
カンダは頭を抱えながら御者にそう言う。
「しょうがねぇ、予定より大変になったが、そのまま行くぞ」
他のメンバーに向けてそう言う。
全員が無言で頷くとサササッと動き出す。
砦の中は入り口からすぐの所に30人程度寝泊まりできる兵舎が4つある。
下っ端はみんなここで寝泊まりしている事は御者に確認済みだ。
そして、入り口の隣接して見張り小屋と櫓が左右にある。
この見張り小屋にチカゲとヒカリが向かう。
小屋を開けた瞬間にチカゲがフェロモンを放ち動きの止まった相手をヒカリがトドメを指す。
そこが片付いたら、ヒカリはそのまま櫓を音もなく登り見張りの死角に潜み、チカゲは次の小屋を目指す。
チカゲが小屋から出て来て櫓を登り始めたのを確認して、ヒカリは一気に櫓の見張りを屠る。
それに気づいた反対側の見張りが何か行動を起こす前にチカゲがフェロモンで動きを止めてそのまま、糸で締め上げて殺す。
流れるように、そこから降りてきてそのまま、手前の兵舎へと入って行く。
そこまで確認した時点で、トバリとウォーレンが後ろ側の兵舎へと入って行く。
4つの兵舎を各1人づつ担当する事になる。
「さ、俺たちも行くか」
その光景を見ていたカンダがキキョウにそう言って、2人で砦の中へと入って行く。
ウォーレンの兵舎は5人ほどしか居なかった。
非武装のゴロつき数人を倒すのにさして労力も要らないかった。
「いやー楽な仕事で申し訳なくなるな」
そう嘯きながら、入り口の方に向かう。
逃げるとしたら、そこしか無いので1人も逃さないように待ち伏せするためだ。
トバリが入った兵舎が他より少し多めの人数だった。
「お邪魔しますぅ」
呑気な声で入っていった大柄の女は、いきなり入り口近くで地面で雑魚寝していた盗賊の顔を踏む。
グシャッと壺か何かが砕けるような音がして、盗賊の顔が砕ける。
「なんだこいつ!どこから来やがった!おい武器だ!なんでもいいからその辺のもので武装しろ!」
慌てて盗賊たちが動き出す。
その盗賊達に向かって、今踏み潰したものを掴んで放り投げる。
この怪力で投げるのだから、ただそれだけ殺傷力のある凶器になる。
そして、また近くに居る男の方に近づいた。
今度は左手を男の前に出したかと思うと、いきなり黒い何かが飛んできた。
毛針である。
サイズがサイズだけに、針というよりは釘と言ったサイズのが飛んできた。
こんなのが顔面に当たるのだから目潰しどころの騒ぎじゃ無い。
意識が持っていかれる。
そのまま左手が近づいて来たかと思うと、首を掴み、ゴキンッとへし折った。
ここでまた投げ…斧が邪魔になったので先に斧を投げる。
逃げ場が無くそれほど広くも無い兵舎で、無造作とはいえとんでもないスピードで向かってくる斧を全員が避けられる訳がない。
更にかつての仲間だったものも飛んでくる。
逃げようと横に回り込むと、毛針が射出され掴まれるとそのまま投げられる。
首の骨が砕けるか、壁か人にぶつかって全身砕けるかの2択である。
4人の中で最もスピードが遅く、最も不器用なトバリだが、それでも人間基準で言えばここの盗賊の倍程度の速さと命中率を持っている。
凶器にされるか、凶器に殺されるか、そのどちらかしか選択肢が無かった。
「あぁ、もうダメ、これ以上は無理ぃ」
そんなトバリが急に弱音を吐く。
30人以上いた盗賊達が既に1桁の人数になった頃だった。
盗賊達が逃げるチャンスがあるかと思った時だった。
「いただきまぁす」
いきなり床に転がっていた盗賊を掴み上げると口に咥えた。
不幸なことに彼はまだ生きていた。
死んだふりでやりそごそうとしていたのだが…。
「ギャァァッ!辞めてくれ!やめ…て…く……」
タランチュラは人を殺せるほど毒は強くない。
人と同じサイズじゃ無かったらの話だが。
この光景を見た盗賊達は戦う気力を失っていた。
「頼む許してくれ!なんでもする!あんたの奴隷になれって言うならなる!だから頼むからぁ」
これがその男の最後の言葉だった。
自身の骨が砕ける音を聞きながら逝った。
ヒカリの向かった兵舎は入り口に近いせいもあるのか武器などを手元に置いている人間も少なく無かった。
だが、入って来た侵入者が何者なのかを確認するまでに5人死んだ。
武器を取るまでに更に5人。
戦闘態勢に入った頃にはもう5人。
ぶつかるように向かっていき、そのまま首や胸などの急所を指す。
シンプルな行動だがその速さが驚異過ぎて何をされているのか理解が出来ない。
かろうじて避けたと思うと首筋を切られている。
瞬きをすると目の前から居なくなるのだ。
「う、うわぁぁ!」
恐慌状態になった男が武器を振り回して近づけないようにする。
そんな事で近づけないようであればこの惨状は無かったのであるがそこまでは考えられなくなっている。
「お前で最後だ」
背中から心臓をひと突きされた男が最後に聞いた言葉だった。
チカゲは兵舎に入ると、少しだけ擬態を解いた。
キキョウが良くやる、脇から足だけを生やす形態になる。
そして腰に巻きつけてあったスローイングダガーを6本同時に投げつける。
巻きつけてあった糸は全てスローイングダガーに結ばれていた。
そして操糸スキルを利用して相手の目を突き刺す。
正確には目ではなく、その先の脳に到達させている。
細身で長いのばかり選んでいたのは、このためである。
後は室内でフェロモンを撒き散らしながら、これを繰り返すだけである。
あっという間に肉塊だけになった。
放たれたダガーを回収すると、鼻歌混じりで兵舎を出て行く。
3人は各兵舎から出ると最初の打ち合わせ通り、トバリはウォーレンと合流、残り2人は砦の中の残党狩りをしに行く。
「あーそこに1人居るわ」
カンダがドアに向かって指を指す。
「はぁい」
マップを見ながら指示しているカンダの言葉に合わせてキキョウがドアを開けて入って行く。
短い断末魔の声とが聞こえると、キキョウが戻ってくる。
ボスが最短距離で向かって居るが、その途中に居る者達は掃討して歩いている。
最初の頃は護衛と思われる人間が向かって来ていたが、7、8人返り討ちにあった辺りから、隠れているものばかりになった。
それをマップで見ながら索敵して歩いてるのだが、かなり狭い範囲でマップを開いているので索敵から逃れている可能性もある。
しかし後から砦に入ってくるのは、超感覚を持つヒカリである。
万が一逃がさない為にフェロモンを持つチカゲもついて来ている。
それでもまだ、逃れたとしても、唯一の出入り口には歴戦の剣士のウォーレンと怪力のトバリが待ち構えて居る。
誰一人生き残らせるつもりは無かった。
「追いついちゃったよお兄ちゃん」
チカゲが後ろから声をかける。
「早かったな」
カンダはマップを見つめたまま声だけ返す。
「だって、全然いないんだもん、ね!」
そう言ってチカゲはヒカリに振り返る。
「隈なく探しましたが、敵影は見当たりませんでした!」
見えてはいないが、敬礼してるんだろうなとカンダは思いながら
「ヒカリが居ないって言うなら居ないだろうね、このまま一緒に親玉まで行くよ」
「うん!」
カンダの言葉にチカゲが嬉しそうに返事をする。
その後も何人か倒して、親玉のいる場所までやって来た。
キキョウが無造作にドアを開ける。
中には護衛と思わしき男2人と親玉であろう人物は居た。
流石に戦闘態勢に入っている。
「チカゲ、フェロモ…」
カンダが言い終わる前に右の男はチカゲのダガーで目を貫かれ、左の男はヒカリに心臓を一突きにされ、正面の男にはキキョウの投げた槍が刺さっていた。
「あれ?終わった…みたいだね」
あまりの事に拍子抜けしてしまう。
だが、正面の男はまだ生きていた。
「お…ま…えも…みち…ず…れ」
正面の男がつけていたペンダントに何か念の込めながら、その男は息絶えた。
そのペンダントから黒い霧のようなものが出てくる。
そしてその霧はその場にいた3人の身体に吸い込まれる。
ズズッ、ズズッ死体だったものが動き出す。
「うわぁ、嫌な予感しかしねぇ」
カンダがいつでも逃げる態勢を取りながら、3人に迎撃の指示を出す。
「お兄ちゃん!僕の武器じゃ全然止まってくれないよ!」
チカゲはダガーでの攻撃を諦め、糸で縛りつけようとしているが、思ってたより力があるようで、悪戦苦闘している。
「閣下、自分の武器も不利なようです!」
ヒカリも苦戦しながらも首を切り落とし、動きを止めたようだ。
「マスターこいつらしつこい!」
キキョウも武器での攻撃は諦め、地面に叩きつけた後に脇から出した脚も使って力任せに殴っている。
「まぁ、でも、なんとか…ん!」
ペンダントから黒い霧は出続けていた。
そしてその霧は部屋の外にも流れていっている。
自然と4人は目を合わせる。
「まずいよね?」
キキョウが最初に言う。
「自分もそう思います」
ヒカリも続く。
「ボク逃げたいなぁ」
チカゲが意見を述べる。
「にっげろぉ!」
カンダが全力で走り出す。
「閣下!先に行って他の者に伝えます」
そう言ってヒカリが駆け抜ける。
「いや、意思伝達スキル有るから、有る程度はトバリ分かってるよ!」
そう叫んだ時にはもうヒカリは見えなくなっていた。
「お兄ちゃん、ボクも先に行くね。退路確保?ってやつやってくる!」
チカゲが一気にスピードを上げる。
「あ、おい!おい!」
カンダの話も聞かずにチカゲも見えなくなった。
「マスター」
キキョウが声かける
カンダがビクッとする。
「大丈夫よ、私は隣に居てあげるから」
「そうか、良かったぁ、心細くて」
カンダが本音を洩らす
「あの子達も私が残るって分かっているから行ったのよ」
キキョウはニコニコ笑いながらそう伝える。
霧の進行が思っているより早い。
いや、だんだん早くなっているという表現が正しい。
死体に吸い込まれればその分拡散されないが吸い込みしたいが無ければどんどん先に流れていく。
カンダも全力で走っているが既に霧に追い抜かされてしまった。
幸い動く屍と化した者達はまだ近づいて来てない。
「マスター!」
キキョウがカンダをむんずと捕まえ、後ろに引きながら、自分と反対側のドアから飛び出して来た死体を力任せにぶん殴る。
「まずい!とにかくこの砦から出る事が最優先だ!」
カンダが必死に走ろうとする。
「マスターごめんね」
そう言うと、キキョウがカンダを小脇に抱えた。
「舌噛まないようにね」
それだけ言うと、全速力で走り出す。
キキョウは4人の中では早い方では無いが、それでも一般人の倍は軽く超える。
筋力も大の大人4人分を超えるだけあるのだ。
カンダを抱えて走る事は造作もない。
抱えられてる人がひどい事になるだけが若干問題なだけである。
その為キキョウも遠慮していたが、もうそう言ってる場合じゃないと判断した。
ゴンッと言う何かが何処かにぶつかった音がした。
キキョウの
「あっ」
と言う声だけを残し砦から駆け抜けた。
既に建物の出入り口まで戻って来ていたヒカリとチカゲがドアを閉める。
「いってぇぇぇ」
カンダが心の底から声を絞り出す。
「マスターごめん、ドジっちゃった」
てへぺろ案件である。
「頼むよ、もう少し大事に扱って」
カンダが頭をさすりながら、キキョウにそう言う。
「閣下!馬車を用意しております早くおのりになってください!」
「お!助かる!サンキュー」
ヒカリの言葉にそう応えて、馬車に乗り込む。
全員乗ると御者が馬車を砦の出入り口へと向かって走らす。
「…お前ら、走った方が早くないか?」
ヒカリとチカゲを見ながらカンダがそう言うと
「ボク疲れちゃったの」
とチカゲが上目遣いにカンダに言う
「まぁそうか、それもそうだな」
カンダも笑顔で納得する。
考えてみれば、ヒカリとチカゲは見張り台の奴らも始末している。
疲れるのもしょうがないかと考えていた。
「あ!兵舎の死体溢れて来るんじゃないか?」
カンダがハッと思い出した。
「ドアも窓も全部糸で閉じ込めたよ」
チカゲが得意げにそう言う。
「チカゲ!お前やるなぁ!」
カンダの言葉に更にチカゲがドヤ顔する。
カンダが考えてた以上に仕事をしていた。
そのまま砦の出入口までたどり着くと機械仕掛けで動くはずの巨大な扉が半分はしまっていた。
こんな芸当が出来るのはトバリくらいのものである。
「ご主人さまぁ」
トバリがニコニコしながら手を振っている。
どうも1人だけ事態の緊急性を理解してない節がある。
馬車が駆け抜けると、トバリがゴゴゴゴッと扉を閉め始める。
馬車を止めて、扉がしまったのを確認していると、ウォーレンが話しかけて来た。
「状況は聞いたぞ!大変な目にあったな」
「それより、あれどうする?なんとかなるのか?」
魔法が大したことないと聞いていただけに完全に面を食らってしまった。
「あぁ、話に聞くとダークエルフに伝わる呪術の一種だと思うぞ」
「待て、呪術?聞いてないぞ!お前魔法は大した事ないような事言ってたろ!」
「ん?魔法は魔法、呪術は呪術だろ?」
カンダがずっこける。
「え?そう言うもんなの?」
「エルフは精霊術、ダークエルフは呪術、ドワーフは加工術、魔物は魔術、これを人間が使う時は便宜上、精霊魔法、呪術魔法、鍛治魔法、魔法って言うが、全然別のものだぞ」
「言えよぉ、知らんよぉ」
カンダががっくりの絵文字のようになって、抗議する。
「このまま放っておく訳にもいかねぇなぁ…燃やすか」
カンダが悩みながら、ボソッと呟く。
「ここで見張ってるから、ありったけの燃料と着火剤買ってこい!」
ヒカリと御者に向かってそう指示をする。
「はっ!了解です!」
そう言ったか言わないかのうちにヒカリが街に向かって走り出す。
「ほらお前も全力で街に戻って買ってこい!」
カンダが御者にはっぱをかける。
「よーし今のうちに、キキョウ!チカゲ!工作のお時間だ!トバリは環境破壊の時間だ!」
全員に号令をかけて何やら準備をする。
準備ができるまで2日ほど経った。
その間、重なり合って上から出ようとする死体を蹴り落とし
着火剤に買ってきた油を撒き散らして滑り落とす。
その補充にまた時間がかかるなど、ドタバタしてしまった。
「よーし!準備できた!トバリ!開けろぉ!」
「はぁ〜い」
カンダの号令で砦の扉が半分だけ開かれる。
観音開きと言われる形の扉で外側に半分開いた形だ。
そして、そこにはキキョウが扉の上から下までに設置した巨大なクモの巣が開かれる形になる。
粘着力を無くして、投網のように開く様にしてあった。
そこに無数の死体が押し寄せる。
「チカゲ!」
「任せて!」
この言葉に反応してチカゲが網の隙間に次々糸を投げ込む。
操糸スキルを駆使して糸を網にくくりつけ死体を固定していく。
「ヒカリ!トバリ!」
「ん〜、よいしょお」
トバリが伐採した木を砦の壁の上に居るヒカリに向かって投げつける。
期待していなかったが、予想以上にノーコンだ。
それを持ち前の素早さで壁の上を移動しながらなんとかつかむ。
その木には釣り道具の様に先端にチカゲの糸がついている。
ただ、その先は釣り針ではなく、キキョウの粘着性の網だ。
それをヒカリが操作して死体の上に網が掛かる様に下ろす。
ついでに木をそのまま投げつけて死体の粉砕も試みる。
「なかなか順調じゃねぇか?」
ウォーレンが興奮気味にそう言う。
「どうだ?キキョウ?」
カンダが余裕そうに質問する。
「あーん、ちょっと厳しいかも、行ってくるね!」
カンダの横で状況を見ていたキキョウが走り出す。
「トバリちゃん!そっち!ヒカリちゃん!そこ!」
キキョウが叫ぶと、2人が言われた場所に全速力で向かう。
あまりの数に網の一部が壊れ出したのだ。
ブチブチブチッと扉と網の接合部分が剥がれ出す。
ガシッと間一髪でトバリが掴み力任せに引き戻す。
上の部分でも剥がれるところが出てきたが、そちらはヒカリが掴む。
「チカゲちゃんお願い!」
チカゲがキキョウより先に辿り着き応急措置を行うと、そのままヒカリのところまで網を足場に飛び跳ねて行く。
キキョウが少し遅れながらもトバリのところまでやってきて巧みに修繕していく。
「よーし!ちょっとヤバかったけど予定通り行くぞぉ!」
カンダがそれを見て大声で叫ぶ。
キキョウがヒカリのところまで登り上の綻びも直す。
その間にトバリがヒカリに木を2本投げつける。
1本をキキョウに渡すとヒカリが反対側に走る。
トバリが上に登ってきてキキョウから木を受け取る。
そこに糸を貼りつけたかと思うとヒカリとトバリの間を移動しながら瞬く間に網を完成させる。
「せぇの!」
その網を持ったままヒカリとトバリが飛び降りる。
少し遅れてチカゲとキキョウが飛び降りる。
巨大なクモの巣状の網が死体の集団の後ろ側に被さり、チカゲがどんどん固定していき、キキョウは両橋の隙間をどんどん無くしていく。
「よーしありったけの油ぶっかけろ!そこの木炭や薪も上からどんどん入れこんじまえ!」
カンダが意気揚々と声をかける
「りょーかーい」
「わかったよー」
「ハッ!」
「はぁ〜い」
4人の返事が聞こえてくる。
上から油と砕いた木炭や薪があるだけ投入される。
そして、最後に松明が投げ込まれる。
ゴォッと言う音と共になんとも言えない臭いを放ちながら死体達が燃えていった。
その間もキキョウとチカゲが外側の網を補強している。
糸は火に弱いので念には念を入れてだ。
「あいつら倒したら経験値にならないのか?」
カンダの質問に
「無理だな、あれはモンスターでも人でもなく、操り人形だ」
と、残念な答えが返って来た。
「いやーお疲れ様でした」
セルザムが明るく出迎えてくれる。
ヒカリを伝令に出して、かなり細かく状況を伝えたので大体のことは既に把握している。
「これからどうなさるおつもりですか?」
「折角だから、あのアジトを拠点に使おうと思ってる」
カンダが明るく応える。
「ではこの街で冒険者となられると考えてよろしいですか?」
「うん、そのつもり」
「それではこれからも私達と良い関係をしていただきたい」
「もちろんそのつもり!」
カンダがが更に明るく返事をすると、ニッコリと笑う。
ガデエル商会の事など、まだ解決してない事もあるが、とりあえずは一件落着である。
彼等の未来は明るい(予定)
つづく
なんとか書き切りました。
少しでも、彼等のこれからに興味持っていただける事を願ってます。