第7話 土俵際とさよなら
10数キロ離れた距離を刹那で詰め寄る。
一角獣とジェイクの取り組みは合意の上だ。
取り組みにおいて距離など関係ない。種族など関係ない。
国境などない。言語を理解できないなどと言った事も些細な事だ。
此処ではない世界で誰もが一度は経験したことがある。
猛犬と相撲をとった経験。
熊と相撲を取った経験。
大王イカと相撲をとった経験。
経験者ならば当然のことだが敢えて説明させてもらおう。
RIKISHIが土俵入りし取り組み相手と肌を合わせた瞬間、互いが互いの力量を察する事ができる。
肌を合わせた瞬間相手の思考が、想いが伝わる経験。
RIKISHIならば誰もが経験している。
そして神聖なる土俵へ上がったとき、
当然のことが起こる。
全ての種族はRIKISHIとなる。
ジェイクに向かって一角獣が頭ごと突っ込んできた。
受け流すなど許されない。
躱すことなど恥ずべき事。
一角獣の全力のBUCIKAMASHIを受けながらジェイクは後退していく。
尚も一角獣の突進は止まらない。勢いこそ落ちたもののズリズリとジェイクを死へと追いやっていく。
ある時を境に一角獣、そしてジェイクの動きが止まった。体勢を後ろめりにされて力が出ないはずのジェイクが動かない。
あと一歩。ジェイクを推し出す為のあと一歩が遠く重く一角獣にのしかかる。
「冥土の土産にこの言葉を持っていけ。
己を知る前にTAWARAを知るべし……合掌捻り!」
ジェイクが一角獣の頭を両手で掴み勢い良く捻じ切った。
首が捻れ肉が捩れ、骨が捻れ空間が捻れ狂う。
後脚から徐々に異空間に吸い込まれていく一角獣。己の死を悟った一角獣は自分を死に追いやった人間を見つめた。
『お前の熱い血潮は伝わった。また何処かで会い見えることがあるだろう……さらばだ』
「一角獣——ごっつぁんです! 」
土俵フィールドにおいては言葉の壁すらも打ち破る。
当たり前の事だ。
「みんなは——息はあるな……」
ジェイクは負傷した全員を背負い一角獣討伐の証拠として捻れた角をマワシヘと差し込んだ。
「ぐっ……う、ここは……」
「気付いたか? そこは俺の背中、動けるなら降りて」
「ジェイク!? ……そっか……そうだよな」
「うん。そうだから。なにも言わなくていいから余力があるなら誰か背負って——無理か」
1番早く気が付いたのはペテロだった。1番大きな怪我を負っていたがリーダーの責任だろうか、それともペテロの頑丈さだろうか?
俺が3人を背負ってペテロが隣を申し訳なさそうに歩いている。お互い無言だ。
「ジェイク……すまない」
なにが? などとは聞かない。俺を追放しといて俺に助けられたんだ。正直どの顔下げて俺を見てるのかわからない。
「……これ、一角獣の角」
こんな施しはなんの慰めにもならない事はわかっている。それでも俺がこの角をもらうのは違う。一角獣の巣を見つけたのは間違いなくペテロ達だ。
一角獣を弱らせた……かはわからないけど傷を負わせていたのも事実だ。
俺は最後に一角獣を倒しただけ。言い方を変えれば漁夫の利。
俺の言わんとしている事を理解してくれたのか黙って角を受け取ってペテロは顔を上げた。
「ジェイク、勝手な事ばかりで本当に情けないんだけどさ、もう一度【黒鋼の羽】に加入してくれないか? みんなには俺がしっかり説明する! なんならリーダーをお前に——」
「そこまで言うなら——ぐえぇぇっ!?」
不意に俺の首が絞められた。細い腕のわりにはしなやかな良い筋肉を持っている。そして背中には柔らかい感触がポヨンポヨン。
「この腐れジェイク! まだ生きてたのね!」
「く あ はな せ」
俺の首を絞めているのはアリティアだった。変態ビキニアーマー……今はローブを羽織らせていたのでただの変態アリティアが力の限り俺の首を締め上げる。
「アリティア! 気が付いたのか!?」
「ペテロ……貴方はジェイクに優しくすぎるのよ!」
アリティアが俺の後頭部に肘を放ち自分だけはシュタッたと降り立った。
俺は受け身を取れたが未だ意識を失っている元メンバーは頭から地面にどしゃり!
「おかしいと思ってたのよ。ペテロが一角獣に苦戦するなんて。でも理由がわかったわ」
はい。これは勘違いされる流れ。
「私たちにはジェイクみたいな歩く税金が必要だってみんなにわからせようとしたんでしょう? わざとパーティを半壊させて無能なジェイクと有能な貴方で一角獣を討伐する。小賢しいジェイクの考えそうなことだわ」
何言ってんだこの変態女は? いくらなんでも歩く税金とか言葉に気を付けろよ。むしろ俺は1番金使わないだろ! 装備だってほぼないし。
ちくわ買っただけでそこまで言われたくないぞ。
「アリティア……聞いてくれて」
ペテロが神妙な顔をしてアリティアの肩に手を置いた。
ペテロの言い方次第で俺はパーティに戻るかどうかを判断させてもらおう。
「大丈夫よペテロ。私わかってるから。貴方が誰にでも……例えこんなゴミを生み出すしか出来ないゴミ山大将にも優しいのわかってるから」
「アリティア!」
「!? ぺ、ペテロ? ど、どうしたの?」
「俺たちはジェイクにしっかり謝って——ジェイク?」
いつの間にか俺はアリティアに対して怒っているペテロを手で制していた。
「よぉ〜くわかったぜ。この変態女。こんなパーティこっちから願い下げだ! バーカ! バーカ!」
「それは光栄ねぇ。ところで貴方こんなところで何してるの? 道に迷ったの? 生きてるだけで迷惑かける存在のくせして。私からの提案なんだけど方向音痴なら海に出たらどう? プカプカ浮いてるだけで誰も貴方の顔を見ることもないなんて皆んなが幸せになれる我ながら良い案だと思うのだけど」
「うっせ! バアァーーカ! ヴァァァアーーカ! 今度会ったらその胸揉みしだいてやる! このバーカ」
「私も会いたくないから早く海に身投げしてくれないかしら? でも貴方の死体を食べた魚を私が食べてるかもと思うと呼吸もままならなくなるから……この場で成仏してくれないかしら? あぁおぞましい。ニフラムニフラム」
「なに殺してんだよ! 生きてるよ! バーカ! このばかたれー!」
ダメだ。口ではアリティアには勝てない。今のところは五分五分の言い合い。人によっては6・4でアリティア優勢という評価を下す奴もいるかもしれない。
こんなのは放っておいて……もう俺を放っといてくれよ!
アリティアの毒入り唾が目に入ったせいだろう。涙腺が緩んできてしゃっくりが止まらない。
簡単に言えば俺は泣かされかけている。
もう無視するしかない。アリティアとの口喧嘩は引き分けで手を打つしかない。
「……ペテロ、さっきの話だけどさ、俺は新しいギルドに入ったんだよ」
「そ、そうだったのか……そうか、そうだよな」
「ああ。俺は頑張るからさ。今度はちゃんと頑張るから」
俺たちの間に言葉は要らない。同じ道を歩んでいたけど互いに別の道を歩む。
その先が交わっていると確信しているから。
「わかった。最後にもう一度言わせてくれ——今まで本当にありがとう。ジェイク」
いや、言葉いらないって言ったよね?
ーーおまけーーレナちゃんファンクラブ掲示板ーー
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著者 ジェイク・アンダーフロー