第6話 イカロスの翼
「中間報告はきいていたよぉ。でもアーモンド卿がよく使う不倫場に住みついた魔物に半壊させられて残ったメンバーで進軍。その後はお察しだ。見てみたまえよぉ。最後の報告なんて残り4名だよお? 『一角獣の巣穴を見つけたから今日中に討伐する』ってさ」
レナはケタケタ笑いながら報告書を見せつけてきた。
俺が長年連れ添ったメンバーが半壊? そんなにもこの大陸の魔物は強いのか?……それとも——それよりも。
「なにがおかしいんだよ?」
「ふええ?」
レナの胸倉を掴み上げる。なにが『ふええ』だ! 可愛いとでも思ってんのか!
「俺の元いたメンバーが死にそうになってるのがそんなに笑える話しなのかよ!」
最後は嫌な別れ方をしたけど……俺は別に【黒鋼の羽】が壊滅して欲しいなんて望んでいない。
楽しい事だって沢山あった。辛い事も無理矢理笑いあった。そんな思い出を目の前のクソガキはなにも知らずに笑っている。それが腹が立つ。
「笑えるに決まってるだろお?」
それでも、胸倉を掴まれ中に浮かされているレナは尚も笑みを崩さない。
「ジェイ君は卑怯者だねぇ、パーティに自分の有用性も全く説かずに素直に追放を受け入れた。その結果【黒鋼の羽】が高く飛べるかいずれ落ちるか、ジェイ君は知ってたじゃないかぁ? わたしだけが笑ってるんじゃない。わたしの瞳を見つめなよぉ。怒りの表情の奥に笑っている君が見えるはずだ」
レナの瞳に俺が映っている。鬼のような形相である。しかし口角が上がっていて白い歯をわずかに覗かせていた。
「俺は……笑ってなんか……ない」
力が抜けていく感覚。魔法ではない。スキルでもない。俺の心が破壊されていく。
「【黒鋼の羽】の功績を見る限り一角獣なんて相手にもならないとわたしは思ってたさあ、でも結果はてんでダメダメ。不思議だったよぉ、でも理由はわかった……君がいないからだ。自分が居なくなった後の事をパーティには助言はしたのかい? してないだろう? しなくて当然だよぉ、馬鹿げた理由で追放された君は無関係なんだからね」
「そうだ……俺は……無関係だ。俺が居なくなった後の事なんて知らない」
「そうだねぇ。彼等は高く飛びたかった。だからジェイ君という重荷を捨てた。君はパーティに夢という名の翼を授けておいてその実態は蝋燭で作られた翼だったなんて笑い話さ。高く心地良く飛んでいた彼等が太陽に焼かれ落ちるのは必然だよねえ?」
レナは何故知っている?俺は追放された事なんて喋ってない。……【黒鋼の羽】の元メンバーって暴露したから察しがついてもおかしくないが、それにしても詳しすぎる。
目の前にいる幼女はもっと深い場所で俺を……いや、
「ひょっとしてレナ、お前……【SUMOU】を知ってるのか?」
「【鬼無双】が所持していたとされるスキルだよねぇ?あやふや過ぎてどれが真実かもわからない。一説では英雄ヤン・キ。彼は鬼無双に手も足も出なかったという説もあるねぇ」
「それは嘘。ヤン・キは無敗だったって話しだ。婆ちゃん家の絵本にも書いてあったし。ペテロの家にあるヤン・キに関する本にも鬼無双なんて名前は出てきてない」
「ひっひっふー! わたしもその説を聞いた時は一笑に伏したよぉ。鬼無双は実在したかも知れないけど、いくらなんでもヤン・キよりも強かったなんて与太話が過ぎているからねぇ」
一応シリアスな会話してる時にラマーズ法の笑い声を出すなよ。
レナは欠伸をしながら静かに後ろを向いた。
「鬼無双なんてお伽話は今はどうでもいいよぉ。現在の話しだ。【黒鋼の羽】彼等にどんな悪意があった? 君は持って生まれた力だけを頼りに変わろうとする努力をしなかった。君は周りを守っているつもりで……周りが成長する機会を、強さを奪ってきただけだ。みんな君ほど強くなんてないのに」
……俺は町の外に出る時は常に土俵フィールドを展開していた。任意の相手と強制的に一対一で戦うSUMOUWAZA
それに慣れたペテロは周囲を警戒しなくなった。
新しく入ったメンバーも最初こそ警戒していたが次第に慣れていった。
俺のせいなのか?
「君が彼等に与えたのは分相応を弁えない屈折した自信だけ、その報酬として君が受けとったのは追放という真っ当な評価だ……でもね、そのおかげなのか君は変わっただろう?」
「俺は……なにも変わってない」
レナが精一杯の背伸びをして片手を俺の胸元へと手を伸ばした。でも胸に触れることはせず俺の頭に触れたいのだと察して腰をおろす。
レナは優しく俺の頭を撫でてくれた。
凄く不恰好ではたから見ても恥ずかしい光景。
「君は外に出る時に服を着ている」
「なにそれ?馬鹿にされてる?」
「違うのかなぁ?君が追放された理由のひとつだろぉ? どんな心境の変化かは知らないけどさぁ、きっかけはきっと友達の想いが通じた……わたしにはわかるんだよぉ」
レナが幼女特有の屈託のない笑みを浮かべた。
この笑みを見るだけで俺はなにかに救われた気がした。
俺は見捨てたのに……そして……
レナの優しい思いを踏み躙るようで申し訳ないのだが、友達の想いなどと言った格好いい理由ではない。
単純に年端かもない少女の隣には《尻丸出しのマワシ姿の男》という図が耐えられなかっただけだ。
通報されるわ! 警備兵さん——俺です!
「レナ……ありがとう。元気が出た」
「ん、このギルドに入る気があるのなら次からはマスターレナちゃんと呼びなよぉ〜」
「……レナ、俺は用事が出来たから先に帰るよ。1人で帰れるか?」
「そっか。わたしの事は気にしなくていいよぉ。これで体験加入は終わりだねぇ……間に合うかはわからないけど一角獣の巣穴の地図を描いて渡そうかねぇ。 ——はいこれ……ってななななんで服を脱いどるんだねぇぇ!? きみはぁああ!?」
両手で顔を覆い隠しながら慌てふためくレナを尻目にマワシを装着し、
足を高く掲げて天を踏む。
ゆっくりと足を大地に沈め地を踏み抜く。
「我がSIKOは天地と1つとなりて我が身もまた一つとなる……土俵フィールド……解放
はっけよい!! 」
土俵フィールドを展開する。RIKISHI に距離という概念などない。取り組みが始まれば相手に触れるまでは瞬きすら出来ぬほどの速度、
故に
ジェイクが一角獣の元に辿り着くまで1秒もかからぬのは当然の事だった。
瞬時に消え去ったジェイクに唖然としながらもレナは小さく微笑んだ。
「行ってきたまえよぉ。君にはまだ帰る場所があって本当に良かったよぉ〜」
レナが魔導書を開くと光が迸り、
レナ・ファルシオンの姿は消え去っていた。
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