第4話 レナちゃんファンクラブ
前回のあらすじ ギルド名が気に喰わない。
「ど、どうしてだね!?君は我がギルドの募集紙を取っていた。それに不敵な笑みまで浮かべていた。それは少なからず興味があったからだろう?」
立ち去ろうとする俺を引き止めるつもりなのかレナがグイグイ服の裾を引っ張ってくる。
たしかに興味はあった。自分に合ったギルドなんて今更入れるとは思ってなかった。拾ってくれるギルドがあるのなら選り好みする気もなかった。
ギルマスが10歳以下の幼女であろうとも関係ない。
それでも……だ。
譲れない一線は存在する。
「なにが気に喰わない!?わたしに出来る事なら改善しようじゃないか。君の不安の種をわたしに話してみたまえ」
「名前だよ。名前! ギルド名、レナちゃんファンクラブから改め——「無理」」
俺の言葉に食い気味で被せあまつさえ拒否しやがった。
レナが両手でバッテンを作り俺に突きつけてきた。
「……」「本ッ当に無理」
「……」
「……」
互いの沈黙。気まずくもない時間が過ぎていく。あちらは折れる気がないのだろう。そして俺も折れる気はない。
もしも俺がこのギルドに入ってしまったら
『おいおい。あいつが今飛ぶ竜を撃ち落とす勢いの——』
『風格って奴なのかな……感じるぜ』
『レナちゃんファンクラブの新入りジェイク・アンダーフローだぁぁ!!』
あぁぁぁああ!!!恥ずかしい!
「……俺は用事があるからそろそろ行くよ。じゃあね」
「わたしが君に何秒間触れていたかわかるかなぁ?」
「? ……13秒」
「正解——ふぇぇえ? お兄ちゃん行っちゃうの?」
やめろ。急に口調を変えて甘ったるい声を出すな。読者が新キャラ登場かと感違いするだろうが。
レナは目元をゴシゴシ拭いベルトに紐付けされた本を手に取った。
……外装は至ってシンプル。タイトルすら書かれていない。皮は……動物ではない。
そして開かれたページにもなにも書かれていなかったがレナが手をかざすと光と共に文字が浮かび上がってくる。
ッチ! 魔導書か!?
「遅いよ、わたしの見た目が可愛いから油断たねぇ
魂の改変 」
「……なにも……起きない? 今俺になにをした?」
「ええぇぇんんん! お兄ちゃんの嘘つきぃい! レナの下着見せたらギルドに入ってくれるって言ったのにぃぃ!びぇェェェンン!!」
「「「「 !!?? 」」」」
「おいおいおい! とんだロリコン野郎だぜ!」
「イエスロリータ・ノータッチの誓いを守れば何をしてもいいと勘違いした人の皮を纏った外道は拙者が斬る」
レナの大きな泣き声は当然周囲の冒険者の耳にも入った。皆が一様に俺を怪しい目でみている。
ご、誤解、はやく誤解をとかないと!
「おま、お前嘘つくなよ! 俺はレナにパンツ見せろって言っただけだろ!? ……あぁあ!? 俺はんな馬鹿な言葉言って——お前え!俺の身体になにをしたぁ!」
「やべでぇぇ! 言うこと聞くからもうお医者さんごっこはしないでぇぇぇ! びぇぇええん」
「がぁああ! なんだそれは!? お医者さんごっこだって胸をチラッと見ただけじゃねえか! やらしい気持ちなんて欠片程しかねえよ! ぁああ! 俺は何言ってるんだよぉぉ!!」
!? なんだ? 俺はなにを言っている?
このクソガキが寸前で呟いた魔法……たしか【魂の改変】それが原因か?
不味い不味い不味い!とにかく誤解を解くことを優先する。このままだと俺は追放者に加えて変態野郎の烙印を押され町にも居られなくなる
マワシを装着している猶予はない。
というかここで服を脱いだらアウトな気がする。
両手を合わせ大きく広げる。
この所作には武器など隠し持たない。
嘘偽りない自分を周りに知らしめる心の在り方。
この一言だけが真実だ。
「俺は レナの下着なんて見てないし、レナとお医者さんごっこなんてしたことない」
「……なんだよ。冗談かよ」
「二度目はないと知れ。この痴れ者が!」
……俺を汚物を見るような目つきだった冒険者たちが目を逸らした。他愛のない口喧嘩だと信じてくれたようだ。
土俵フィールドは展開してなかったがこれで一安心だ。
「ふえぇえ……あ……え? まさか【魂の改変】をやぶったのかねぇ?なるほどなるほど〜、どうやらわたしは君を勘違いしていたようだよぉ」
今の俺はマワシこそ着けていないが戦闘態勢だ。
二度と馬鹿な魔法は使わせない。
俺の鬼気迫る表情を察したのかレナは両手を上げて後ろを振り向いた。
「もういいよぉ。そこまで入りたくないならわたしも無理強いしたくない。それにねぇ、そろそろタイムアップだよぉ」
レナが斡旋所中央に陣取り高らかに声を上げた。
「只今よりFランクギルド【レナちゃんファンクラブ】による体験加入を開始するよお! まさか遅刻はしてないと思うけど……えっと名前は——ジェイク・アンダーフロー君! この指とーまれっ!」
レナは指一本を天井に掲げて周囲を見渡している。
体験加入の申請をしていたジェイクさんを探しているのだろう。
奇遇な事に俺の名前と一致している。
そして奇遇な事に3日前に手続きを済ませてモブオッサンに頼んで提出してもらった記憶もある。
言動と現実が一致しないことはさっき体験したばかりだ。どこの誰かは知らないジェイクさんにご冥福をお祈りする。
「あれぇ? 遅刻かなぁ? ねぇーアドバイザーさん、ジェイク・アンダーフローってどんな人か覚えてない〜?」
レナが便利屋オッサンに訪ねてオッサンと俺の目があった。オッサンは現役こそ退いたものの長年冒険者として勘は鍛えに鍛え抜かれているはずだ。
聴こえているかいオッサン?
答えなくていい。その表情を見るだけで俺にはわかる。
俺の『レナちゃんファンクラブには入りたくない』という強い念波を受け取れぇ!
オッサンは静かに俺を指さした。
お前のように勘の悪いオッサンは嫌いだよ。