第3話 新しいギルド
俺が近場で1番大きな町、ナーギスに到着してはや1週間が過ぎようとしていた。
「よぉ! ここはナーギスの町だ!」
「はいはい。そのセリフは10回目です。いつもお疲れ様です」
「わからない事があれば俺が教えてやるぜ」
「町の半分ぐらい見てまわったからもう大丈夫」
今日も町の出入り口に立っている厳ついおっちゃんと話して、そろそろ本格的に行動開始だ。
俺が追放された日、運良く強盗を撃退して謝礼こそ貰えたものの晩飯をご馳走になる事もなく一晩厄介になる事もなくそそくさと山小屋を後にした。
ご馳走は持てるだけ持って行ったけど、
そしてこの町で食っちゃ寝してたら初老の男に貰った金がそろそろ尽きようとしていた。
ぶっちゃけ金貨1枚なんてケチケチせずにドドンと10枚ぐらい欲しかった。
借金のこともあるし……俺は返さないけど。
というか返そうにもホームであるミギハルの町に戻れる手段が無い。
前のパーティはAランクギルドだった。ランクが上になれば船や馬車などの交通手段の減額、及び免除。他にも手…これはギルドマスターしだいだがスキルの融通など様々な特典が付いてくる。
簡単に言ってしまえばランクの高いギルドに入らない理由がない。それだけだ。
この大陸には船を使って来たので戻りも船、或いは遠泳の二択が俺にある訳だが、実質選択肢などない。
一般人の入船は金がかかり過ぎるし遠泳なんて人魚ぐらいしか無理だ。
「ここは冒険者ギルドだ! なにか困り事かい?」
「……」
大きな建物に入った途端声をかけられる。
少し物語が横道に逸れるが冒険者が憧れる職種はなにかご存知だろうか?
興味がない人は最後の10行ぐらい読めば問題ない。
というかこの物語は基本最初と最後の数行だけ読めばある程度の流れは把握できる。はず。
……話しを戻そう。まず冒険者になった事のない素人は勇者に憧れる。魔王を倒す使命を授けられスキルも専用のカッコいいものばかり揃えられている。
稲妻を剣に付与できたり
対象の魔力を焼き切る技、
パーティ全員の傷を癒す治癒魔法。
なによりその功績が後世にまで語り継がれその物語に憧れた少年少女がまた新たな勇者の卵になる。
誰が作ったか知らないけど完璧なシステムだ。
欠点は憧れた程度ではならないところだ。
次いでタンクなどが挙げられる。魔物の注意を引きつけ攻撃を一身に受けるドM歓喜な職業だが古の英雄ヤン・キ物語は誰もが知っている。そのせいもあって人気は高い。
それに勇者と違って誰でもなれる。
基本パーティに同じ役職は2人も要らない。全員タンクなど論外だ。
とまぁ自分が望んだ職業になれるかはさておいて冒険者になった後になりたい役職……それは
「そんな所でボーッとしてどうした? お前ここは初めてか? 俺が説明してやろうか?」
「オッサンは多くの人と会ってて覚えてないだろうけど、ほら、3日前に——」
俺に気さくに話しかけてくれているオッサン。彼こそ現役冒険者が憧れる職業第一位に輝く通称【モブキャラ】だ!
現役時代に功績を残しつつ膝に矢を受けるなどの理由で現役を退いた冒険者が町や依頼に関して無料でアドバイスしてくれる初心者には大変ありがたい存在だ。
何故憧れるかと言うと、彼らは国や町からの助成金で生活出来ている。つまりいつ死ぬかもわからない冒険者から足を洗い尚且つ安定した職業に就くことに成功した人だ。
俺も密かにミギハルの町で狙っていた職業でもある。
でもそれも無理だ。追放された俺をアドバイザーとして町におくのは信用に関わるから領主は絶対に許可しない。
「ギルドメンバー募集の張り紙は……まだあるな」
新人は大抵ギルド同士の奪い合いが基本だ。
最低限の衣食住は保証しなくてはならないが小さな納屋でも与えておけば後は放置で金が入る。
新人冒険者は金のなる木だ。無論依頼を失敗したり死んでしまったらランクが下がるおそれがあるので高ランクギルドは安易にメンバーを募集したりしない。
そして俺は追放者だ。
こんなスネに傷を持った奴は間違いなく門前払い。だから俺が探すのは低ランクギルド
その中でも俺は一枚の募集紙に目をつけていた。
〜新メンバー募集中!世間の理不尽に耐えるそこの君!
わたしと気さくな仲間と一緒に世界を逆転させてやろうじゃないかねo(`ω´ )oヤルキ
未経験者歓迎。追放者、任意脱退者も待ってるよ。
アットホームが売りのギルドだよ٩( 'ω' )وタノシイヨ
体験加入を雨月15日に実地(^O^)アンゼンダナァ
我こそは思う者はギルマスである レナ・ファルシオンまでご一報をε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘イソガナキャ〜
追放者まで許容するとは……俺好みのギルドだぜ。
変な落書き以外はだけど。
「レナちゃんファンクラブに興味があるのかねぇ?」
「?」
俺が張り紙を見ていると後ろから声をかけられた。しかし後ろには誰もいない。
これは幽霊だな。もしくは聞き間違い。
「きみきみぃー。もっと下を見たまえよぉ〜」
おっとりとした喋りが声に下を向くと140センチにも満たない小さな女の子が俺の裾を掴んでいた。
俺と目が合うと少女はニッコリと微笑んだ。
「そうそう。時に人は下を向くことも大事なんだなぁ。それで君はレナちゃんファンクラブに興味があるのかねぇ?」
「いや興味ない。俺が興味あるのはこのギルドで——」
少女はマントを止めている真紅のブローチを爪先立ちしながら俺に見せつけてきた。
それがなにかわからんけど凄いのだろう。
「わたしがそのギルドマスターのレナ・ファルシオンだよぉ。三度目になるが聞いておこう。君はレナちゃんファンクラブに入りたいのかねぇ?」
「入りたくないです。失礼しました」
「ほぇええ!?」
脊髄反射で答えてやった。